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18冊目「リーゼさん飯テロを受ける」

 

 

 テロリズム。

 それは、特定の目的を達成するための組織的暴力の行使。

 あるいは、それを容認する主義のことである。

 主海へのなんらかの訴えをもって行われる、物理的な破壊よりも心理的な影響を狙った暴力行為であり、悲しいかな人が人である以上切り離すことのできない、原始的(プリミティブ)原罪(オリジナルシン)

 その跋扈は、〈エルダー・テイル〉日本サーバー最大の戦闘系ギルド〈D.D.D〉においても、例外ではなかった。

 

「ふはははは、おののくがよいこの絶望的なまでの物量によるテロに!」

「グワーッ!?」

「おいおいおい、なんだよこれ……っ。圧倒的じゃないか、どうしろとっ!?」

「同志ミートスキー。やりすぎではありませんか? 今の発言はやや邪悪でしたね」

「ひどい! ひどすぎます! いたいけな乙女たちの前で……あなたたち、最低のクズだわ!」


 ギルドホールの一角に響くと哄笑と悲鳴。

 そこに顔を出したのは、教導部隊の隊長を務める〈D.D.D〉の隊長、リーゼだった。


「この騒ぎは何事ですの!?」

「り、リーゼさん、ひどいんですよ! レタス次郎のヤツが、……女の子たちの前で最低なことを……」


 駆け寄ってきた暗殺者、お百合がリーゼに訴えた。

 なるほど、言われてみれば響く悲鳴の大半は女性によるものだ。

 レタス次郎がその中で何か騒ぎを起こしているのは間違いなさそうである。

 だが、おかしい。ならば、誰一人としてそこから逃げたりログアウトしたりしていないのはなぜか。

 そもそも、レタス次郎は確かにらいとすたっふたちに続くコミックリリーフだが、人を傷つけるような言動をする類のプレイヤーではなかった記憶がある。

 

「あれはテロです! しかも悪質なっ!」

「そうだわさ! ひどいわさ! 女の敵わさ!」

「リーゼさんからも何か言ってくださいー!」


 だが、そこまで言われてはとりあえず話しを聞かないわけにもいかない。

 集団へと踏み出したリーゼの前に、チャットメッセージが表示された。一定距離内の相手に表示される文字チャット設定がされていたらしい。発言者はレタス次郎。

 そこには、画像データのアドレスがあった。クリックしようとする指が止まる。

 嫌な予感がする。女の敵。乙女の前で。そして、画像データ。

 そこから連想されるものに、リーゼの全身が硬直した。

 嫌な記憶が蘇る。鼓動が早くなる。意識が白くなる。

 下品な男の声。画面ごしに空間を越えて向けられる不快な欲。自分をモノとしてしか見ない目。

 リーゼは震える指でアイテム欄から特定のアイテムを選択し、装備した。それは別に事態を解決する何らかの効果を持つアイテムではない。ただのお守りだ。

 深呼吸を一つ。そして、かつて自分を助けてくれた凛とした女性プレイヤーを思い出す。

 〈盗剣士〉オルテンシア。

 〈D.D.D〉以前に所属していたギルドの参謀にして、自分が目標とするプレイヤーの一人。

 今は自分が守る立場なのだ。彼女のようにならねばならないのだ。それが役目なのだ。

 その役に立たなければ、自分はこの場所に立っている価値がないのだ。

 

「あなた、なんて破廉恥な画像を……っ」

「おおー、うまそうなカレーじゃないかよ」

「そう、破廉恥なカレー……え?」


 リーゼの言葉を止めたのは、聞きなれた声だった。

 教導部隊の副官、ユタ。リーゼにとってはゲーム内外で腐れ縁の青年である。

 

「お嬢。開いて大丈夫だぞ、それ」

「ぁ……ぇ……っと」


 促されるままに、画像リンクをクリックする。

 しばしの時間でロードされたのは、黒く艶のある濃厚なルーが目にまばゆい、カレーライス。

 脇には、かき卵のスープが湯気を立て、そして奥には、生クリームのかけられた林檎。


「ふはははー、リーゼさんもご覧あれ! 本日拙僧、共A堂のフルコースを喰らいにいったでありまするよ! 焼き林檎の断面写真もあるでありますよ!」

「ああーっ!? おいしそう……っ。最低っ! お腹すいてきたじゃないこの発禁レタス野郎!」


 次々と繰り出されるごちそう写真。それに応じるように、黄色い悲鳴があがる。


「……お百合さん。テロって」

「飯テロですよ飯テロ! 許せないと思いません!?」


 飯テロ。飯・テロリズム。

 すなわち、深夜などの「お腹はすくけど食べちゃいけないタイミング」で過去自分が食べてきた(もしくは現在進行形で食べている)ごちそうの写真を公開し、相手の嫉妬と空腹を煽るという悪質な暴力行為(テロリズム)である。

 

「乙女の敵っていうのは……」

乙女(ダイエット)の敵じゃないですか! 私ってば秘蔵のお菓子箱からたけのこの里を取り出さないようにするために目覚めたこの右腕を押さえつけるのに必死ですよ!」

「……ああ、うん。そうですわね」


 どっと力が抜けた声で、リーゼは投げやりに答えた。

 盛大な勘違いに頬が熱くなるのがわかる。なんてひどい勘違いだろうか。考えすぎは自分の悪い癖だ。けれど、特に今回はあまりにも思考が歪みすぎたと思う。

 気まずくなって、装備していた〈宝玉の羽根〉をこそこそと解除する。

 改めてカレーの写真を見ると、電車で1時間くらいのところにある古本屋街のお店のもののようだった。

 たっぷりの生クリームでデコレートされた焼き林檎に、思わず口の中が潤ってくる。

 なるほど、これは(たち)が悪い。リーゼのプレイヤーも年頃の女性だ。

 成長期で食欲は人一倍だし、一方でスタイルへの気配りで節制の必要性も強く感じている。

 ここは一つ、気分転換のためにも、他の女性陣に味方してこのお祭り騒ぎに乗じるのも悪くないだろう。


「確かに、レタス次郎、あなたの行為は世の乙女たち(ダイエッター)への挑戦行為に他なりませんわ!」

「……やっといつもの調子に戻ったかよ」

「なにか?」

「別に? けど、お嬢もダイエットとかしてるのな。…細いのに」

「だからアンタはデリカシーがないの……ですわ。こういうのは見えないとこからついてくの。外から見えるくらいになったらリカバリが大変なんだから。ね、お百合さん、ユズコさん」

「そうよ!」

「そうなのですよー」

「そ、そうなのか……」

「ダイエットなんて諦めちまえでありまするよ! どうすれば太らないかじゃなくて、何を食べて太るかが人間大事だって、拙僧の尊敬する〈食卓の騎士団〉の肉ポックル、エフィさんも言ってたでありますよ!」

「あ、エフィさんで思い出したっ。オレ、この前、〈付与術師〉のとんすとん店主さんの焼肉屋行ってきたぜい!」

「え、あの人本当に店主さんなの?」

「店主マジ店主。ほれ、証拠写真」

「……なにこれ。店主さんがぶら下げてる、腕の長さくらいある巨大な肉(ぶったい)

「ああ、これが巷で噂のドラゴンハラミってヤツだぜい。聞いて驚け16人前!」

「MAJIDE!?」

「どう焼くのこれ……」

「ふふふ、こうするのだ! どーん!」

 

 展開されたのは、三つ並んだ七輪と、それをまたがるように乗せられた巨大肉の写真。

 あまりの想定外な衝撃的光景(ヤキニクリアリティショック)に、一同に動揺が走る。


「もう、外はこんがり中は半生で肉汁じゅわーで味濃くってすげーのなんの。ちなみに、一人で食うと半額で、女性の達成者もいるんだそうだぜい。俺らは10人で食ったけど」

「ううう、おいしそう……っ。こんがり焦げ目、おにく……っ!」

「でもさすがに、一人とかはマジ無理ぽいわあ」

「女子プロレスとか、アスリートとか大食いマニアとかそういう系だろ?」

「ああ、ドラゴンカルビのソロ討伐ですか。それなら、私のことだと思いますが」


 ぴたり。盛り上がった雑談が、静かな口調の声に沈黙へと変わる。

 すなわち、いつの間にか会話に混ざっていた、高山三佐の言葉によって。


「……ええと、三佐さん。いま、なんと?」

「とんすとんさんのドラゴンカルビ、一人完食を達成したのが、私だという話ですが何か」

「MAJIDE!?」

「幻聴じゃなかったわさ!?」


「想像しろ! いつものクールモードで一人焼肉屋に入る三佐さん! おもむろにドラゴンカルビを注文する三佐さん! きっと『え、これ16人前ですよ?』ってバイトの人に聞き返されておもむろに『かまいません』って答える三佐さん! 一人で座ってる前に七輪が3つ並んではからずも周囲の注目を集めてしまう三佐さん! それをもくもくと切っては食べ切っては食べする三佐さん……」

「やべえツッコミどころしかなくてどこからツッコミいれればいいかわからん……っ」

「あ、あれ。三佐さんってこの前の女子オフで会ったときすっごいスレンダーさんだったわさ?」

「許せない! なんて燃費が悪いうらやましいボディですの!?」

「考えてもみるでありますよ。保育士さんといえば抱っこ! そして、いい保育士さんはこどもときちんと目を合わせるために屈みまくる! つまり三佐さんはウェイトトレーニングとスクワットを日々こなしてるG.I三佐さんなのでありますよ!」

「……なんか一週回って結局軍人さんネタに戻ったわさ」



 ◇  ◇  ◇



「おう、坊主。おつかれさんっと」

「……旦那また見てたんすか」

「周りが茶々いれないと変に一人で考え込むとこは、まだ変わらんなあ」

「ま、あれでコンプレックスの塊だったり、意地っぱりだったりしますから。たから、ゴザルとかいつもの馬鹿連中が回りでわいのわいのやってる状態がいいんっすよ。アイツらがいなかったら、オレが何言っても通じないかもしれないし」

「へっへっへ。オレがお嬢のことは一番よくわかってるー、ってか?」

「冗談! そんなんだったら苦労しないっすよ。ただの想像っす」

「苦労ねえ」

「ふふふー、なんの苦労でしょうねー」

「ゆ、ユズコさん!? なに当然のようにしれっと混ざってるんっすか! 副官としての苦労っすよ! あいつが安定してりゃオレが楽できるからですねえ……っ」

「今のはユズコメモにばっちり記載完了! いいですねー。若いですねー。青春ですねー」

 

 

【ユズコの〈D.D.D〉観察日誌】


○ユタさん

 ・ツッコミ〈武士〉の人。リーゼさんの相棒さん。

 ・リーゼさんの同級生……ってことは高校生! 若いのに苦労性さん。うちのギルドはボケの人が多いから……。

 ・ゴザルさんとは親友同士みたい。きゃっ。

 ・昔、たちの悪い女の人にギルドが引っ掻き回されて、女の人が苦手みたい。私が話しかけても、ちょっと緊張してる。

 ・でも、リーゼさんは大丈夫みたい。なんでかなー? なんでかなー?(大事なことなので二回書きました)


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