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SA-098 王国の運営資金は?


 北の砦から戻って来た翌日の昼下がり、砦の広間には2人の長官が副官を従えて集まって来た。

 財務長官であるフィーナさんに2人の男女。元は貴族の子供達だったが、4年で立派になったようだな。

 内務長官であるマリアンさんは、女王様のお守り的な役割でもある。一番の常識派だから今後とも頼りにしたいものだ。2人の魔導士のお姉さんを同席させているから、少しずつ役割分担を持たせたいと言うのが良く分かる。

 元気な女王様だから、いつも目を光らせていないと心配なんだろうな。


「大変な役を仰せつかりました。我等旧カルディナ王国貴族ではありますが、新しいシルバニア王国では貴族を持たぬ制度にするとか。貴族では無くなりましたが王国の財務を預かるとなれば親の役職を越えるものと私共は感じております。両親に誇れるよう頑張るつもりではおりますが……」


 そんな前置きをしながら俺達の前にメモを1枚ずつ配ってくれた。

 中身は、税制の課題のようだな。現在の国庫の中身まで書かれているぞ。


「現在の手持ち金は、約金貨250枚に銀貨が3200枚。銀塊18本に金塊が2本です。銅貨は木箱2つに約5千枚近くあります。

 昨年の支払額は、およそ500万Lですが、その前の年は200万L程度でした。王国が安定しませんから今年度の支払額はおよそ1千万Lを越えるものと考えていますが、税を徴収せずとも何とかなる数字です」


 少なくとも3年は持つと言う事か……。

 問題は金と銀だな。

 周辺王国で使われる教団認定の通貨を発行するのは教団だ。銀塊1本で600枚の銀貨を支払って貰える。

 金塊にしても同じなんだが、その貨幣価値と等価ではないんだよな。

 金や銀の含有量が高ければ直ぐに容易に曲げられてしまうから、財布代わりの袋になんか入れておけない。

 含有量は6割程度と、ビルダーさんが言ってたな。

 兌換硬貨でもないんだが、各国がバラバラに発行するわけではないし、必要悪の形で使っていくのは今後とも変わらないんだろう。

 そこで問題になるのが、クレーブル王国の交易船だ。金貨や銀貨の含有量が低い硬貨では貿易する上で問題になる。

 硬貨ではなく、小さなブロックにした金や銀で取引を行っているらしい。その単位はクレーブル国王の指輪の重さを元に、1Lgリグとしているらしい。1Lgの10倍と十分の一の大きさのブロックを作っているそうだ。

 金と銀でそんな取引用の硬貨を作ったらしいが、圧倒的に使われるのは銀のブロックらしい。

 ちなみに、1Lgは銀貨6枚半に相当するとの事だ。


「ミクトス村で採掘される銀は、年間10本以上の銀塊になります。銀塊1本で120Lgになるそうですから、約12000Lの徒歩があります。可能な限り、銀塊を交易用に使った方が王国の為になるのですが……」


 ここで必要悪の話に戻るんだな。

 教団の運営には莫大な資金が必要になるはずだが、寄付の話はあまり聞こえてこなかった。

 銀を硬貨に換える時の差額がこれほどとはな。もう少し少なくしないと、民衆の宗教離れが起きるんじゃないか?


「教団に毎年1本の寄付は継続してくれ。残った半数を硬貨に換えて貰い。もう1方をクレーブル王国の交易船の運用に回せば将来の王国の財源になる」

「了解しました。北の砦の開放で更に銀の算出は増えるでしょう。年間10本を目安に放出して、残りは国庫に保管します」


 ここまでの話に女王様とマリアンさんの意見はないようだ。

 皆に断ってパイプに火を点けると、ミューちゃんがお姉さんを手伝ってお茶を運んでくれる。


「一番の課題は民衆からの税になります。基本は2割で問題ないと思います。カルディナ王国では3割でしたが、浪費する貴族階級が存在しませんからね。

 農家については生産量の2割。ただし、耕作面積が30D四方を越える場合とします」


 自分達が消費する作物は対象としないと言う事には賛成だ。でないと家庭菜園まで課税対象になりそうだからな。


「関税は設けません。商人の便宜を図ればそれだけ流通が活発化します」

「賛成だ。だけど、俺達の王国を認めた王国との間だけで関税を撤廃する」


 シルバニア王国を承認しているのは現時点でクレーブル王国だけだからな。

 品物の流通を考える王国なら直ぐに使者を立ててやって来るんじゃないか?


「問題は、農家以外の住民です。さすがに人頭税は問題が出てくるでしょう。取引に合わせて1割の税を考えているのですが……」

「人頭税というから問題なんだ。家に税を掛ければ良い。村、町、王都等の住居を20軒ほど調査して広さを確認し、その大きさと利便性で税を加減する。ただし住人の年間所得の2割を超えないようにしなければダメだし、農家は既に税を徴収しているから対象外だ」


「主に、他で働く住民はそれで良いでしょうが、酒場や宿それにお店は問題になります」

「酒場は酒に税を掛ければ良い。酒を出荷するか国境を越える時に税を課すことで煩わしさは無くなるだろう。宿は泊まった人の人数で決めれば良いんだが、ベッドの数で決めても良いだろう。問題は商人達なんだ……」


 基本は売り上げに課税したいところだが、いくらでも誤魔化せるんだよな。

 店を持つ鑑札という事になるんだろうか?

 この辺りは、変に課税すると、後々まで問題が起こりそうだ。商会ギルドには睨まれたくないからな。


「タルネスさん、ビルダーさんそれにレイドルさんと相談してくれ。年間の総売り上げの2割を目安に課税したいのだが、店の鑑札という事では不満を持たれそうだと言えば、知恵を出してくれるだろう。それと、大店と行商では当然課税の歩合は異なって構わんとも付け加えて欲しい」


「タルネスには世話になったからな。村や部落を回って商いをしてくれるのじゃ。その利益もそれ程多くは無い。荷馬車1台ならば年間10Lでも十分じゃ」


 荷馬車に税を課すと言うのもおもしろそうだ。でも、香辛料ならば荷馬車1台でも金貨で取引できそうな感じがするな。


「場合によっては商会ギルドを訪ねるのも良いだろう。生憎と王都にあるから今年の冬になりそうだけどね。それで、一番大切なことは、絶対に総収入の2割を超えないようにしてくれ。低収入の者達だっているはずだ。税の免除と救済措置も考えてくれよ」

「確かにバンターさんの言う通りです。王都には表通りもありますが、裏だってあるんです。親に先立たれて使い走りをする小さな兄弟達を住んでいる家が大きいからと言って過大な税を掛けるようでは困ります」


「住民からの税は住民の為に使うものじゃ。取り立てで不幸が重なるようでは我等シルバニア王国の建国の意義にも反する。一番大事な仕事じゃがフィーナであれば何とかしてくれると思うておる」


 マリアンさんや女王様も少し他人事だが、言っていることに間違いは無い。

 フィーナさんの名前はシルバニア王国の礎を作った一人として長く記憶にとどまルんじゃないかな。


「少なくとも、今年は無税で何とかなりそうじゃ。来年もドタバタ騒ぎの名残りがあるであろう。王都を開放できれば連中が貯めこんだ財宝も手に入るであろうから、再来年から税を徴収することを考えれば良い。そうなると、今まで我等に穀物を納めてくれた村には見返りが必要じゃろうな」


 確かにミクトス村には世話になっている。

 北の村も今年は俺達に作物を渡してくれるんじゃないかな。今年の作物は購入すれば良いか。山賊時代からの連中には銀貨を配ること位はしないと薄情な連中に思われかねないぞ。


フィーナさん達が広間を出たところで、マリアンさんが俺達に改めてお茶を入れてくれた。内務長官自らがお茶を入れるのが俺達の王国だと思うと、ちょっと違和感もあるんだが、人材不足はどうしようも無いところだ。


「問題は、旧カルディナ王国の版図を我等が物にした後じゃ。依然としてウォーラム王国は我等を狙っておる」

「マデニアムの連中がウォーラム王国への山の街道にいくつもの障害を作ったようです。トレンタスの町を迅速に開放できれば西の砦と一緒にクレーブル王国が封鎖してくれるでしょう。あまり時を置くことも問題ですが、王都攻略は今年中に行わないと、王都の貴族が自らの命と引き換えにウォーラム王国の軍を引き入れないとも限りません」


さすがに2個大隊も西からやって来られたら始末に負えない。

王都攻略と同時に進めようと思っていたが。トレンタスの開放は急いだ方が良いのかもしれないな。


 その夜の会合で、クレーブル王国軍のトレンタス町の開放の話をしてみると、即座にザイラスさんが賛成してくれた。

 

「トレンタスの開放はウイル殿達が動けば容易に行える。だが、2つ問題が出てくるぞ」

「ウォーラム王国軍との戦の可能性と、王都に残った連中ですね。これで完全に周囲から孤立することになるんですが、果たしてどんな手を打って来るかと心配ではあります」


 山道に入る手前でウイルさん達が陣を敷けば、ウォーラム軍は手出しできないだろう。2個大隊全軍で対処するとは思えないが1個大隊でも敵軍の展開が出来ない場所だからさほど問題にはならんだろう。

 あるとすれば、西の砦なのだが、2個中隊では何も出来ないし食料が尽きれば投降せざるを得ないだろうな。

 東から王都の軍勢が背後を攻める事態も想定できるが、元々兵力不足ではあるのだ。出てくれるなら、俺達の王都攻略が容易になる。


「俺が話を付けて来よう。出来るだけ尾根に近い場所で陣を敷いてくれと伝えれば良いな?」

「もう1つ。1個中隊は常に動けるようにしてこことここに見張りを配置するように伝えてください。背後を突かれると、レーデル川とレデン川に挟まれる可能性があります。もっとも、この2つの川のおかげで背後は比較的安全ではあるんですが……」


「街道に橋と西の砦の入り口だな。了解だ」

 地図をジッと見つめてザイラスさんが納得してくれた。

 これで、かなり情勢が変わって来るぞ。



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