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SA-094 交易船の相談


 建国記念式典の翌日は、やはり二日酔いで頭が痛い。

 とりあえず、ヨーテルンの町に戻ってきたが、これはトーレルさん夫妻の結婚式を記念式典の宴席で始めてしまったせいでもあるようだ。

 酒の入った兵士達に担ぎ上げられて、エミルダさんが2人の結婚を神に報告したから、この世界では正式なものとなるようだ。嫁さんの荷物は後程届くはずだとアブリートさんが言ってたから、あとは2人で何とかするんだろう。

 はっきり言って、熱々な様子を見せられたら俺達は早々に退散するしかない。

 クレーブルの来賓達も一緒に帰って来た。やはり新婚の館に長居は無用って感じに思える。

 ザイラスさんは、2人の王女様とバイナムさんにウイルさんそれと騎馬兵を1個分隊引き連れて狼の巣穴に向かった。山の中の砦で一泊して明日にはヨーテルンに戻ってくるだろう。

 

「これで、新しい王国が出来ましたな。我等を凌ぐ大国になると国王は言っておりました」

「すでにクレーブルは周辺諸国とは異なる方法で国を動かしています。新参者の俺にはクレーブルの改革を行った人物が誰なのかは分かりませんが、その決断は遥か未来を見ていたはずです」


「改革は先々代の国王様が行いました。貴族の大反対に遭い、御命まで狙われる始末。それでもウイル殿の祖父に助けられて反対派を抑えて行ったのです。先の国王時代にも少しその影響はあったのですが今ではそれもありません」


 ちょっと間違えば内乱だったと言う事になるな。それでも自分の信念を曲げなかったのは凄いな。偉人として名を記録されるに違いない。

 俺達の場合は隣国の侵攻で貴族が無くなったと言う事になる。 

 日和見主義の貴族がどんなに取り入っても、自国の貴族の為だからな。子供達は奴隷にされ、大人達は処刑されたみたいだ。


 そんな奴隷の身に落とされた貴族の子供達も少しは保護したんだが、半数以上はマデニアム王国で亡くなったらしい。

 ひ弱な子供達に重労働をさせたんだろう。全くむごい話だ。


「バンター殿は、いつ身を固められるのですかな?」

「まだ、少し残ってますからね。それが一段落してからだと思っています。それよりも、ザイラスさんがのお相手に悩むところです」


 考え込んでいた俺に、アブリートさんが話し掛けてきた。

 今日はシルバニア王国の2日目だ。あまり過去に起きたことには囚われずに過ごそう。これからの戦の仕方によっては助かる命も助けられなくなる。

 

「そう言えばまだでしたね。これは、帰ったら御后様と相談しなくてはなりません」

 元国王の姉という事だから、御后様の勧める相手を断ることはザイラスさんには無理に違いない。

「よろしくお願いします」と言って、アブリートさんの奥さんと笑みを交わす。


「これこれ、本人の意見も聞かぬと困ることになるぞ。トーレル殿はあのように誰の目にも美男子と映るが、ザイラス殿は……」


 はっきり言って、筋肉自慢のお人だ。脳筋とは言わないけど、毎朝の練習は兵士の2倍はやってるんじゃないかな?

 夏の最中に暑いと言って上半身裸になった時にはどこのプロレスラーかと思ったぐらいだ。

 顔にも身体にもいくつもの切り傷がある。初めて見たら後ずさりしそうな形相だしな。


「それなら尚更です。騎士団長は妻帯せず。と言う話も聞いたことがありますけど、あれは昔の事ですわ」


 旦那さんの注意に、奥さんが厳しく反撃しているぞ。

 これは少し楽しくなってきた気がする。明日になったら王女様にも教えてやろう。

 戦が一段落したら、騎士団内の婚礼が続きそうな気配だな。それは喜ばしい事に違いない。そんな日程をどうやって調整するかの方が、大変だけど平和な気がするな。


「私どもは、明日にはクレーブルに戻ります。国王に伝えたいことがありますかな?」

「そうですね。シルバニア王国が交易船を持ちたがっていると、お伝え願えませんか?」

 

 俺から交易船の話が出たことを、おもしろそうな目で見ている。

 アブリートさんが言葉を出す前に、席を立って暖炉でパイプに火を付けた。再び席に着いたところで、アブリートさんが質問を始めた。


「我が国の交易船では、利益が出ないとお考えですか?」

 俺の言葉をそう取ったか? 確かに、交易船で得た利益は銀鉱山の採掘益にも迫る物があるんだろうな。


「いえ、どちらかと言うと逆になりますね。既存の交易国以外にもたくさんの国があるはずです。そんな国を訪ねて新たな交易を探ろうと思っています。ですから、利益が出るのはかなり先になってしまいます。そんな交易船を運営するのであれば、目先の利益に甘んじる商人達からの援助は得られないのでは?」


「新たな交易路ですか……。是非とも国王に具申いたしますぞ」

 そう言ってしっかりとした目で俺を見つめてきた。たぶんそれに近い案はあったのだろう。だが、リスクがありすぎて見合わせ板に違いない。

 俺達の王国がバックアップすることにより、そんな計画が浮上したんじゃないかな。

 俺の話を驚くよりも、頷いて聞いていたところをみると、どうもそんな感じがする。


「何を探しますかな?」

「珍品であれば何でも……、と言ったところですが、大きくは2つです。絹と陶器ですね。絹は女性方に喜ばれそうですし、陶器のカップは金属では味わえない趣がありますよ」


「絹という布は一度見たことがあります。あの光沢は誰もが心惹かれますが、バンター殿はそれが作られる場所を知っているのですか?」


 アブリートさんの奥さんが興味深々に俺に聞いてきた。

 少しは入って来てるのかな? 今まで見たことが無いから、上流階級の御夫人が愛用している位なんだろうか。

 この世界に日本や中国があるとは思えないけど、絹はかなり昔から作られていたはずだ。東に向かって船を出せば手に入るんじゃないかと思ってるんだけど、可能性はかなり低いかもしれない。


「どうやったら絹が作れるかは知ってます。でも、どの国で作られているかは分かりません」

「ほう、作り方は分ると言う事ですか。それは絹が作れる王国を探す重要な手がかりをバンター殿は持っていると言う事になります。それも、国王にお知らせしてよろしいでしょうか?」

「ええ、良いですよ。1つお教えしましょう。それが作られる現場を女性が見たら、十人が十人、悲鳴を上げて逃げると思いますよ。場合によっては気絶するかも知れません」


 蚕は虫だからな。人間が長い間飼いならしたことから、餌を自分で探すことも出来なくなっている。人間が桑の葉を与えてくれるの待つだけなのだ。

 絹糸を作るには、そんな蚕を何万匹も飼うことから始まるんだよな。繭を作る前の蚕は人差し指と同じ位の大きさになるからな。


「見るに耐えぬ重労働という事でしょうか?」

「いえ、そんな事はありません。女性がクモを嫌うようなものです」


 俺の言葉にアブリート夫妻が顔を見合わせて頷き合っている。

 アブリートさんは筆頭貴族だと聞いたけど、奥さんの方も何かやっているんだろうか?

 とりあえず、掴みは出来たって事だろう。絹を知っているなら都合が良い。


 翌日、2人の王女様と武骨な騎士3人が帰って来た。

 今夜はヨーテルンに宿泊し、明日には帰国するとの事だ。


「大きくなったら絶対に山賊になるのじゃ! あんな砦で皆と毎晩宴をするなど、羨ましい限りじゃ」

 クレーブルの王女様が広間に入るなり、アブリートさんに報告している。

 アブリートさんは困った顔をしているけど、奥さんの方は楽しそうな顔をして王女様を傍に招いた。


「中々おもしろい場所に住んでいたな。あそこなら山賊をしても早々捕まることは無いだろう」

「とは言っても、山道での山賊稼業はバンターがいたからだろう。俺達では、どうやって襲撃するかをザイラスに聞くまではまるで分らなかった」

「俺達に後が無かったからですよ。襲撃に成功しなければ、食料さえ直ぐに枯渇する状況でした」


 俺の言葉に2人は首を振っている。納得していないと言う事か?


「やはり天性の策士だろうな。ザイラス達が軍師に迎えたのは幸いだったと思わずをえん」

「軍略だけでは無さそうです。明日の王宮の騒ぎが目に浮かびます」


 アブリートさんが昨日の話を皆に始めた。

 最初は、俺のいつもの悪ふざけだと思っていたようだが、絹を作っている場を見たという話を聞いて、王女様達が改めて俺を見る。


「全く、驚く限りじゃ。そうなると、新しい交易路が出来るのじゃな?」

「それを探る事が出来るかと。最初から利益を考えて貰っては困ります」

「十分じゃ。新しい銀鉱山と旧来の鉱山がある。その使い道を考えておったのじゃが、バンターの計画で将来性が持てる」


 銀鉱石の枯渇を王女様も考えてたみたいだな。

 ふと、アブリートさんを見ると、満足そうに頷いている。姪という事だから、王女様の将来を見据えた目を頼もしく思っているのかもしれない。


「もし、我等が先に見付けたらどうしますか?」

「気前よく、譲ります。でも、俺はその作り方を知っていますよ。これはクレーブル王国よりもかなりの優位を持っていると言う事になるんでしょうね?」


 俺の言葉にアブリートさんが笑い出す。

 勝負にならないと言う事が分かったようだ。協力すれば利益が得られる。単独で行うなら、俺達が安い値で絹を生産できると考えたのだろう。

 

「国王に、バンター殿の問いを伝えた時が楽しみです。ですが……」

「王都奪回は、クレーブル王国に少し手伝って頂きたい。出来れば2個大隊。俺達だけでも出来そうですが、かなり苦しい戦をせねばなりません。領民に被害が出ないような戦を考えてはいるのですが……」


「すでにウイル率いる2個大隊は、バンター殿の指揮下にいつでも入るようにと国王の命が下っている。その時が来たならウイルに伝えれば良い」

「ありがとうございます。このお礼は、別な形でお渡しできると思っていますから楽しみにお待ちください」


 何を渡すんだ? というような目で俺を見てるけど、レーデル川屈曲部の砂金なら丁度良いんじゃないかな?

 両国で共同経営の会社を作れば、少しは利益が出るだろうし、ゴロゴロした岩が転がっている荒地の開墾にも拍車が掛かるに違いない。

 牧草の種を撒き、放牧を初めても良さそうだ。船旅の塩漬け肉やハムの生産が軌道に乗れば交易船の船乗りにも喜ばれるだろう。



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