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SA-091 建国してからが勝負で良いんじゃないか


 10日程過ぎたころ、主だった連中が集まったところで王女様からシルバニア王国の統治に係る発表が行われた。

 たちまち広間が喧騒に包まれる。ここはのんびりとお茶を飲んでいよう。


「俺はまだ現役だぞ!」

「国庫の管理等……」


 ぼやきよりも呻きに近い言葉が聞こえて来る。

 王女様の宣言だから、拒否も出来ないんだろうな。となると……。

 次々に席を立って、広間を出て行ったぞ。誰もが使えそうな人材を集めに出掛けたということだろう。


「まだ伝えることがあったのに……」

「先ずは、人材発掘に出掛けたみたいですね。予想通りですが、それほど人材が多い地も思えません。明日の夜には、げっそりして集まってくると思いますよ」


 開け放たれた広間の扉を、呆気にとられて王女様が見ている。ミューちゃんがとことこと席を離れて扉を閉めてくれた。

 それだけ急いでたんだろうな。どんな人材を探してくるか楽しみだ。


「私の役目が大きいように思えるのですが?」

「名ばかりの長官職じゃ。今までのままで良い。だが、他の長官達の仕事ぶりを眺めてほしい。一応押しつけたようなものじゃ。上手く役がこなせるとも思えぬ」


 押しつけたようなものじゃなくて、完全な押し付けだ。

 それなりに反省はしてるって事だな。だけど基本的にはこれで何とかなりそうな気がするぞ。点数で言うなら、40点も取れれば十分だ。


「私の役目は今まで通りと言う事になりますな」

「そのまま続けてほしい。出来れば種族の帰還を探って、定住化を打診してほしいだけどね。問題があるようなら俺も出掛ける」

 

「早ければ、来年には先遣部隊が戻ってきます。北の村に住む家族に先遣部隊との接触を指示しておきます。定住と我等の部隊への参加を打診すればよろしいですね」

「お願いします。出来れば2個分隊以上欲しいところです」


 出来れば1個小隊規模で欲しいところだ。どうも、周辺諸国の情勢が気になる。数か所同時に確認することも多々ありそうだからな。


「バンターは、ラディ達の部隊を軍に組み込まぬのだな?」

「軍に必要な部隊は偵察部隊でしょう。敵軍の動きを素早く探って味方に知らせる部隊は専用の部隊にした方が良いでしょうね」


 機動部隊にカナトルを使った偵察隊を1分隊も作れば良いんじゃないかな。

 走るよりは早いし、小さいから見付かる危険性も少ない。馬が使えれば良いのだろうが、平地に限られてしまうからな。


「それで、王宮はアルザス砦、王都はふもとのアルテナム村で良いんですね?」

「2つに区分したいと思っておる。工房のミクトス。商業のアルテナムじゃ」


 ドワーフが主体となるミクトスはリーデルさん達の拠点となるだろうし、アルテナムはビルダーさん達に任せることになりそうだ。となると、ここヨーテルンはマクラムさんという事になる。

ふもとの砦には、ザイラスさんとトーレルさんがいるから、ヨーテルンには重装歩兵に守らせれば良い。アルデス砦は機動歩兵と2つの村の民兵で何とかなりそうだ。


「重装歩兵を1個小隊作りたいですね。狼の巣に置けば東の連中に不意を突かれることもありません」

「ミクトスの守りもある。オットーに募集させるか……」


 統治システムのメモを見ながら王女様がぶつぶつと呟き始めた。

 マリアンさんが俺を見て両手を広げているから、しょうがないと諦めたのかな?

 暖炉でパイプに火を点けて席に戻ると、ミューちゃんがカップのお茶を新しく入れ替えてくれた。

 

「ミューちゃんは、どこに入るのかな?」

「今まで通りにゃ。父さん達との連絡掛かりと、バンターさんの世話をするにゃ!」


 諜報部隊所属って事か……。将来を考えると、もう1人欲しいところだな。

 明日の夜は再び忙しくなりそうだ。その前に、磁石の作り方をメモにしておく。

 熱した鉄板をゆっくり冷やして、カナヅチで1発叩く。これで、鉄の内部の原子だか、分子だか知らないが、小さな磁石に方向性を持たせられると聞いたことがある。

 これでダメなら、ミカン電池で電磁石を作ろう。

 磁石のケースを銅で作って、銅針の上に磁石を乗せる。それをガラスで覆えば良いはずだ。針にはケースの外側まで続く線を刻んでおく。これで磁極線が引けるから、磁極との基準線を元に角度測定が出来るだろう。

 地球の回転軸と磁極にズレがあるのは分っているが、大陸全体の地図を作るわけではないから、それは無視しても構わないんじゃないかな?


・・・ ◇ ・・・


 次の日の夜の集まりは、少し殺気が溢れていた。

 やはり、人材集めに苦労しているらしい。まあ、それは仕方がない。皆初めてだろうしね。


「王女様。我等には大役が務まらぬと一同、考えた次第。なにとぞ、お考え直し下さるわけにはいかぬものでしょうか?」

 一同を代表して、ザイラスさんが王女様に具申している。


「とは言え、他に務まる者が思いつかぬ。バンターは、失敗を認めると言っておるぞ。少しずつ、上手く行くようにすればよい。我を含めて誰もが初めてじゃ。このように会合を持って、課題があれば皆で考えればよいであろう」


 真面目な人達だから、適当に役を務めることが出来ない性分なんだろうな。

 今までの戦もそうだった。自分勝手な行動をあまりしないんだから、かなり自制心が強い人達だ。ある意味、物事はキチンとこなさなければいけないという信念があるようにも思える。悪い事ではないんだけど、こんな時には困ってしまう。


「最初から万事うまくこなす事を考えるから、自信が持てなくなるんです。今までだって何とかやって来たじゃありませんか。死を覚悟するような戦いも経験しました。でも、王女様の依頼した役割で命を落とすことは先ずありませんよ。

 とはいえ、上手く行かなければ一番困るのが国民になります。国民の数がまだ少ない段階なら、失敗は何とかできます」



 これが、王都を攻略した後なら、かなり面倒になるだろう。だが、現在の領民は2万程度だ。政策に不備があっても、何とか救済できる。


「建国後の統治は国民が少なければ、それなりに対処できるとバンターは考えているのだな? 確かに、俺達の政策結果をくまなく確認できるだろう。確認することで俺達に間違いがあれば修正出来ると言うことか……」

「ですから、初めてでも何とかなると考えています。やらない前から自分を否定するようではこれからの国造りに支障が出ます。すでにカルディナ王国に貴族は存在しませんから」


 これで、クレーブルから貴族を持ってこようなんて考えるなら、国造りを断念して千年後の落人部落を作る事になるぞ。

 だけど、落人部落でさえ王国の縮図になるのだ。役目は大して違わないと思うんだけどな。


「責任は問わぬと?」

「見過ごした責任は問いたいです。ですが、施策と結果が伴わないことで責任は問いません」

「どこまで出来るかやってみろ。という事だな。その責任は問わぬが、やりっぱなしでは責任を問うと言う事か……。どうだ? それなら、何とかなりそうな気がするが」


 ザイラスさんの最後の言葉は俺とザイラスさんの言葉をジッと聞いていた連中に向けてだ。

 皆も色々とザイラスさんに、考えを改めて貰えるよう頼んでいたに違いない。

 ザイラスさんの言葉に深く頷いたところを見ると、決心が付いたんだろう。


「済まぬな。我がもう少し王宮で学んでおれば、皆に国政の手伝いを頼まずに済んだと思う」

「いや、それは違います。国王とて、1人で王国を統治することは出来ません。優秀な人材がその周りにいてこそのものです。上手い具合に、図書室で本ばかり読んでいた男がここにいます。彼を上手く使えば我々の政策に浮かび上がる課題も処理してくれましょう」


「出来ればそうしたいのですが、1つ大きな問題もあるんです。俺の考え方の基本が周辺王国を含めてかなり異質であることも確かです。これは直ぐに変わるものでもありません」


 何といっても民主主義で育ったからな。王国制とは専制政治の一種だと思う。これはかなりの隔たりがあるように思えるんだけどな。


「それでも、アルデンヌ山脈を聖堂に例える人物であることに代わりありません。その感性を私は高く評価しています」

 

 エミルダさんは俺を高く買っているいるように思えるな。普通の高校生だったんだけどね。


「あまり卑下することもあるまい。我等をここまで導いてくれたのじゃ。クレーブル国王さえもバンターを認めておる。バンターに役を負わせずにおいたのは、皆の相談役としての立場じゃ」


 王女様の言葉にザイラスさんが頷いている。

 我が意を得たりって感じだな。のんびりとアルデス砦で過ごそうかと思ってたんだが、そうもいかなくなったみたいだ。


「先ずは計画を立ててみよ。建国式典より1年後と3年後を考えるのじゃ。バンターは5年後までを考えると言うておるが、我等は精々3年後までじゃろうな」

「それで、建国式典は何時に?」


「春分の日で良いじゃろう。ふもとの砦で執り行うぞ。トーレルは軍の指揮だけじゃろうから、今までとそれ程変わりはあるまい。式典の準備はトーレルに一任じゃ!」


 ガタンっと音がした。

 トーレルさんが椅子から落ちたみたいだが、やはり晴天の霹靂ってやつだろうな。

 銀塊5個で何とかせよと王女様に言われてるけど、かなり予算は膨らむんじゃないか? 落とした砦の宝を少し放出することも考えなくちゃならないかも知れないな。


「一か月もすれば王冠がクレーブル王国より届くでしょう。その使者に具体的な日取りを教える事にします」

 半ばあきらめ顔だけど、トーレルさんもある程度は覚悟していたみたいだな。

 上手く行けば、王冠と一緒にトーレルさんの嫁さんまでやって来るかもしれない。ちょっと楽しみになってきた。


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