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SA-090 ちゃんと統治できるんだろうか?


 ラディさんの報告が終わったところで、王女様が建国宣言の話を始めた。

 内容的には俺の話した通りの簡単な式典だが、住民全員へのワイン1カップの振舞いは、皆も手を打って賛成してくれた。

 自分達にも! なんて考えてるのが良く分かるぞ。

 式典会場はヨーテルンの西の広場。宴席は式典終了後にその場で行う事、振舞い酒は各町や村の酒場で村長達の判断で行う事にするようだ。

 成人住民の人数に応じた酒樽を確保せねばなるまいが、これはクレーブル経由で何とかなるだろう。ビルダーさんの嫁さんの実家がクレーブルだから酒と料理の材料は彼に一任することで何とかできそうだ。

 女王の冠については、ザイラスさんがウイルさん経由でクレーブル王国と調整してくれることになった。


「1度はクレーブル王宮に出掛けねばなるまい。山賊で得た宝石を使いたいと思いますがよろしいでしょうか?」

「構わぬ。誰の物かも分からぬ品じゃ。我等の建国に役立つなら、元の持ち主も満足してくれるに違いない」

 これで王冠は問題なさそうだな。あまり華美にならない方が良いんだけどね。


 次々と課題が出され、誰かに一任される。

「つまずいたなら、バンターに相談すれば良い。先ずはやってみてその課題を見極める事じゃ」


 打ち合わせが終わる前に、王女様が皆に告げたけど、俺だって問題を色々抱えてるんだよな。

 ぞろぞろと広間を引き上げる皆を眺めながら、ため息を1つ。

 パイプの灰を落して、再び暖炉で火を点ける。席に座ったところでミューちゃんがカップにワインを注いでくれた。


「もう遅いから休んで良いよ。俺はもう少しここにいる」

 そんな俺の言葉に、頭を下げてミューちゃんは部屋を出て行った。

 俺1人、テーブルの地図を眺めながら一服を楽しむ。

 さて、最大の課題は王都攻略の手順であることに違いない。


 王宮があるんだから、イザという時の隠し通路位はあるんじゃないかと思って、王女様に聞いたことがあるんだが、王女様の知る通路は王宮側が通れるとは思えないと言っていた。隠し通路である以上、王女様が脱出した後に破壊したんだろうな。

故意に破壊しなくとも、王宮の火災に寄って瓦礫が焼け落ちて通路を埋めてしまったかも知れない。

 唯一、敵に知られぬ王都への入り口だと思っていたのだが、現実にはそれ程甘くなさそうだ。

 次の方法としては、北の砦で行ったように警備の薄い城壁からの侵入だが、王都を囲む城壁の高さは俺の身長の2倍はあるそうだ。中隊規模での侵入など出来るわけが無い。

 ラディさんの話では、商人達の荷馬車も幌をめくって中を確認するそうだから、正面から乗り込むことも出来ないぞ。

 少なくとも実行は春以降だ。のんびりと考えるほか無さそうだ。

 カップの残りのワインを一気飲みして、暖炉でタバコの灰を落すと自室に引き上げる事にした。


 翌日。良く晴れた朝だが、吐く息は白い。

 一応、鎖帷子を付けずにセーターを着たんだが、早めに顔を洗って暖炉で温まる方が良さそうだ。

 井戸で顔を洗い、砦に戻る前に西の広場を回っていく。少し遠回りだが、朝から騎士達の木剣を振る掛け声が聞こえたので、様子を見に行く事にした。


「おはようございます。バンター殿も朝稽古ですか?」

「いや、寒がりだから、昼近くにするよ。それにしても皆元気だな」

「練習すれば、それだけ剣の腕は上がりますからね。それにいつも練習しないと長剣を振る筋肉が鈍ってしまいます」


 俺と話をしていた騎士はそう言って、練習していた騎士と練習用の丸太を代わる。

 直ぐに、大きな掛け声が聞えてきた。

 騎士の練習は山賊時代から見ているけど、本当に真面目に練習するんだよな。

 出来るなら、剣道部の連中にも見せてやりたい光景だ。

 

 ブルッと体が震えたのは、俺の鍛え方が足りないせいなんだろうけど、都会育ちだからねぇ……。体を丸めて砦に向かった。

 広間に入って席に着くと、ミューちゃんが朝食を用意してくれる。

 朝食だけは、いまだに俺一人なんだけど、皆はいったい何時頃に起きてるんだろうな。

 そんな事を思い浮かべながら、胡椒の効いたスープを頂く。

 

「全く、朝は早く起きるものだぞ」

 朝食を終えてお茶を頂いている俺を呆れた顔をして王女様が呟いた。

 そうは言っても、寒いからな。ベッドから出るまでが問題だ。


「努力はしてるんですが……。ところで、ザイラスさんは?」

 いつもの席にいないのに気が付いて聞いてみた。

「クレーブル王国に出掛けたぞ。5日もすれば戻るであろう」


 例の話だな。御后様もザイラスさんの顔を見て喜ぶに違いない。

 俺達と、また違った経緯を聞くことも出来るだろうから、国王様も喜ぶだろう。


「王都攻略前に建国式典をせねばなるまい。バンターの方もよろしく頼むぞ」

「統治システムについては伺いましたが、肝心の人選はまだですよ」

「これで、どうじゃ?」


 王女様がメモを渡してくれた。

 どれどれと、中身を確認すると……。


 騎士団団長のザイラスさんに変化はない。騎士である騎馬隊はトーレルさんが率いるようだ。機動部隊とあるのは軽装歩兵で、拠点守備隊は重装歩兵と言う事だろう。通信部隊が新設されているのは、通信兵の重要性を理解したに違いない。

 徴税は財務に変わってる。国庫の管理まで含めると言う事だろう。フィーナさんが責任者だ。

 開発はどこまで守備範囲が広がるか微妙なところだけど、リーダスさんが責任者という事は工業に特化されそうだな。鉱山開発もこの範囲になる。

 農林業はアルテナム村長のマクラムさんになるようだ。まだ50歳と聞いたから、長期的な農業政策が期待できるぞ。

 商業は、ビルダーさんにするようだ。付き合いはタルネスさんの方が長いんだが、マデニアム王国の出身が問題と言う事だろう。建国段階で波風を立てることは無いと言う事だろうが、ビルダーさんはタルネスさんを同列に置くだろうな。名目的な責任者という事になるのかな?

 用務はさすがに内務と変えてあるな。ここはマリアンさんで確定だ。たぶん、魔導士部隊がそのままここに移動するのだろう。


 これらの部門は長官制を取るようだ。

 とりあえず、任命して置いて部下は自分で探せと言う事だろうか? 人材の取り合いが激しくなりそうだぞ。

 俺の名は王女様の隣に特だしだが、配下に諜報部隊とある。ラディさん達は他の部門と独立しているようだな。それほど人数が多くないから丁度良いか。

 ネコ族の者達が北の村に定住してくれるなら2個分隊程度は確保したいところなんだが……。


「この名簿は本人の同意を得ているんですか?」

「いいや。全くの独断じゃ。確認などしたら、皆反対するに決まっておろう」


 だよな……。でないと、こうは決められなかったろう。

 だが、早いところ本人達に知らせる必要はありそうだ。

 ん! 待てよ。これだと、司法機関と立法機関が無いぞ。

 立法機関は、各町村の長と関連する長官で何とかなりそうだ。上申して貰い、王女様の承認で良いだろう。事前にマリアンさんに確認して貰えば、安心できるな。

 司法は問題だな……。


「王女様。もし、罪を犯した者がいれば、何を元に罪を裁くのは誰になりますか?」

「そう言えば、そんな役職の者がおったな。ザイラスに任せれば良い。軍の方はトーレルに任せるじゃろうから丁度良さそうじゃ。とは言え、罪人の弁護は許す事にしようぞ。腕の切断以上の刑は、部隊長の過半数の賛成で行う事にすれば、かなり刑の執行は少なくなるじゃろう。先ずは任せて、後に見直せば良い」


 かなりアバウトな統治システムになりそうだ。

 それでも、貴族制ではないから少しは民意も反映出来るだろう。最初から完璧は望めないし、俺の世界だっていろんな国がいろんな問題を抱えていた。

 定期的に、いつものメンバーが集まれば、それほど極端な統治にはならないだろう。

 何事も、足を踏み出せば何とかなると、お祖父ちゃんも言ってたからな。


「ザイラスさんが戻って来たら、発表したいですね。町や村の長には、片腕となる人物を見付けておくように知らせた方が良いかも知れません」

「了解じゃ。基本は、先ほどバンターの付け加えた項目を追加すれば良いであろう。国教は教団の意思が働きそうじゃが、エミルダ姉様の協力を考えれば致し方あるまい」


「国教ですが、押し付けるわけではありませんよね?」

「信仰は自由が原則じゃ。誰もその信仰を邪魔出来るものではない。バンターが教団が敵とするシャイタンを信仰しても何の問題も無いぞ。国としての信仰対象が教団の教える神となるだけじゃ」


 ちょっと解り難いところがあるが、個人の信仰には干渉しないってことだな。国として行事を行う場合には教団の教える神となるって事か?

 戴冠式に、王女様に女王の王冠を与えるのがエミルダさんである、と考えれば良さそうだ。戦争終結が来れば戦死者の追悼も行わねばなるまい。確かに国教を決めておくことは重要な気もするな。


「ところで、バンターは信心深いと騎士達が話しておる。バンターの信じる神は、4神の内、どの神になるのじゃ?」

「教団の神が唯一神でないことに安堵していますが、俺の信じる神はかなり多いですよ。一言で言えば800万という事になるんですが、それは大きな数字を表す俺達の国の言葉ですから、とにかくたくさんいるんです。例えば、このお茶のカップにも神は宿っていますし、建物にも1つずつ神が宿ります。井戸にもおりますし、当然のごとくアルデンヌ山脈には峰の1つ1つに神が宿っていると俺は思っています」


 そんな話を、驚いて聞いているのは、マリアンさん達で王女様はおもしろい事を聞いたというように微笑んでいるぞ。

 エミルダさんは、俺の宗教観にあまり驚いた様子が見えない。何か知っているのかな?


「バンターさんの宗教観に似た話を、交易船の船長に聞いたことがあります。森にはたくさんの精霊が住んでいて、気を1本切るにもお祈りを捧げる者達もいるのだと……。

 それで、バンターさんは剣の練習を終えると、練習の丸太に頭を下げるのですね。私も、聞いた時には驚いたのですが、バンターさんの姿を見て納得したのです。あの姿は神への感謝だと理解出来ました」


 全ての物に神が宿ると言う概念が、この世界の人達に理解できるとは思えない。だけど、そんな姿勢だから、俺はこの世界の神を否定しないのかも知れないな。

 それに、変わった奴だとは思われてるけど、それは騎士として相応しい姿かも知れぬと、トーレルさんは肯定してくれたからな。

 将来、王女様を伴侶とする時にはこの世界の神の祝福を受けるのだろうが、俺にはそれも許容できる。



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