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SA-089 新王国の役割分担


 ラディさん達が商人達と王都に向かったのを見届けて、西の広場を後にする。

 西の広場は、騎士団の拠点に変わりつつある。広場を取り巻く建屋は馬小屋や兵舎、それに騎士団の共同炊事場等に改修されているから、ここだけを見るとアルデス砦が大きくなったようにも思えるな。

 西門の外側で歓声が上がっているのに気が付いて、その方向に顔を向ける。


「クレーブルの兵隊さんが弓の練習をしてるにゃ。兄さんが教えてくれたにゃ」

 一緒にラディさんを見送りに来ていたミューちゃんが教えてくれた。

 早速始めたようだな。海上で飛距離が伸びた矢は敵に対して一方的な戦いをする事が出来るだろう。カタパルトと併用すれば交易船の安全にかなり寄与出来るだろうな。


 砦の広間に入ると、王女様とマリアンさん、それにエミルダさんとオブリーさん達が王女様の前に広げたメモを見ながら話をしている。

 エミルダさんがここに来て問題が無いのかと聞いてみたら、聖堂騎士団と行動している分には問題が無いそうだ。

 アルデス砦の礼拝堂は神官見習の女性が祈っているのだろう。信心深い村人がたまにやって来るから、誰もいないわけにはいかないな。

 

「建国宣言を行う準備をしておる。大まかにでも国政をある程度民衆に知らしめる必要があるのじゃが……」

 俺が席に着く前に、王女様が訴えてきた。

 確かに、伝える必要はあるだろうな。町や村の長を集めてちょっとした式典も視野に入れなければなるまい。

 その後の宴席もたぶん必要になるだろうな。民衆にワインを1杯ぐらいは何とかしたいものだ。

 その財源だいじょうぶなんだろうか? ちょっと心配になってきたぞ。

俺が俯きながら席に着くと、今度は心配そうな顔をして話を続ける。


「財源は心配せずとも良い。南の砦とふもとの砦の金庫に、相当の資金があったようじゃ。王都の金庫程ではないが、我等の式典なぞたかが知れておる」

「ひょっとして、何を知らせて良いか分からないって事ですか?」


 テーブルに着いていた女性陣が同時に頷いている。

 あまりかしこまらなくても良いんじゃないかな。早い話が王女様が建国宣言をすればそれで済む事だ。形式に囚われるようでは本末転倒になりかねない。


「こんな感じで良いんじゃありませんか?」

 先ずは、式典を始めると言う宣言だ。これはザイラスさんあたりが良いだろう。

 次に、王女様が建国を宣言する。『ここにシルバニア王国建国を宣言する!』と言えば良い。

 それと同時に戴冠式を行う。エミルダさんに任せれば良いだろう。王冠は作らねばなるまい。

 3番目は、大まかな国政の説明だが、場合によっては俺でも良いだろう。どんな部署を女王陛下の下に置くかを離せば良い。

 4番目に、他王国からの親書を披露することになるだろう。クレーブル国王に頼めば、何とかしてくれるんじゃないかな?

 最後に、式典終了の挨拶をすれば良い。


 俺の言葉をマリアンさんが書き留めてるぞ。それを元に皆で考えようと言う事だろうな。


「確かに王冠は必要じゃろう。小さくとも良い。単なる装飾品なのじゃからな」

「クレーブルに頼んではどうですか? 親書と合わせてもだいじょうぶだと思いますよ」

 エミルダさんの勧めに、王女様がマリアンさんにメモの記載を修正させている。


「3番目はバンターで問題なかろう。基本は前に話した通りじゃが、修正は出来よう。最終版を事前に我等に披露してくれれば良い」

「王女様の宿題を纏める形で作ります。先ずは簡単なものですよ。後でじっくり考えれば良いでしょう。それと、式典が終われば宴席です。王女様の名前で民衆にワインを1杯は振舞いたいですね」


 うんうんと王女様が機嫌よく頷いているけど、エミルダさんは俺をおもしろそうに俺を見ている。


「民衆にまで喜びを分かち合うと言う事は教団の教義にも適っています。中々出来る事ではありませんが」

「俺達の版図の領民が少ないからでしょうね。王都を我等が手中にしたら、俺も考えるところです」


 王国が小さければ隅々まで治世の手が届く。この世界の王国が大きなものにならないのはそんな裏があるのかも知れない。

 とは言っても、周辺諸国の中ではクレーブルの政治が一番近代的に思えるな。

 資源はあまりないようだが、貿易の収益で国庫は潤っているだろうし、周辺に強力な王国もいなかったようだから、穏やかに国を治めていたようだ。貴族の弊害も1代限りの貴族らしいから、起こらないんじゃないかな。


 その辺りの考え方を新しい王国の統治システムに取り入れれば、さほど反対する者はいないだろう。

 元貴族はいるんだけど、自分の家を復活させたいと考えても親の負っていた仕事も覚えていないんじゃないか?

 それなら、1代限定貴族とするクレーブル王国と同じように、仕事を束ねる人材としての称号でも満足して貰えるかも知れない。

 それに、俺達が救出できずにマデニアム王国に連れて行かれた子供達も気になるところだ。今なら、何とか連れ戻せる可能性もある。

その辺りの調査をタルネスさんに頼んでみるか。タルネスさんは元マデニアム王国の商人だからな。行商人だが商会ギルドの鑑札はどの王国でも有効だから、商会ギルドを通して連れ去られた奴隷達の買戻しを図ってみよう。


「王女様。銀塊を数個用立てて頂けませんか? カルディナ領内から連れ出された奴隷を買い戻してあげたいと思います」

 俺の言葉に、ハッとメモから顔を上げて俺を見つめる。


「気付かなんだ……。恥じ入るばかりじゃ。すでに3年以上経過しておる。無事であれば良いが……。バンター、直ぐに始めてくれ。銀塊など、掘ればいくらでも手に入る!」

「了解しました。タルネスさんに頼んでみます」


 俺だって忘れていた件だから、王女様を非難出来る者等いないだろう。だが、奴隷として連れ去られた子を親は覚えているはずだ。そんな子供が戻って来るなら、俺達の建国を心から喜んでくれる民衆が更に増えるだろう。

 全員が戻るわけではないだろうが、何とかしてあげたいものだ。


・・・ ◇ ・・・


 数日後に王都から戻ってきたタルネスさんに、銀塊を5個渡して俺の用を頼み込んだ。

「分かりました。連れ去られた奴隷の消息を掴んで買い戻せば良いのですね。商会ギルドを通してやってみましょう。たとえ敵国相手でも、商会ギルドは中立ですから依頼の件は心配ありません」


 荷馬車の荷台の二重底に銀塊を隠して、タルネスさんはヨーテルンを後にした。

 早ければ峠の雪が消える前に、元奴隷達を乗せて帰って来るだろう。

 東の門の外に出ていく荷馬車の列を見送って広間に急ぐ。

今度はラディさんの調査報告を聞かねばならない。王都で2泊して得た情報は、誰もが気になるところだ。


 俺が広間に入ると、すでにテーブルは満席だ。分隊長達もかなり揃っているぞ。

 席に着くと、テーブルの端に座ったラディさんを見て頷いた。

 俺が戻るまで、何も話していなかったようだ。


「それでは王都の状況をお話しします……」

 ラディさんはそんな前置きをすると、お茶を一口飲んで話しを始めた。


 食料の不足はそれ程感じられないが、宿の食事は以前の倍になっているようだ。今のところは、王都の食料貯蔵庫を開放して何とかやりくりが出来ているのだろう。

 冬野菜もスープに入っていたと言っていたから、トレンタス町もしくはトーレスティ王国から商人が運んで来たのだろうか?


「王都の住民はかなり疲れているように見えますが、今のところは平穏です。裏通りに物乞いの姿もありません。ですが、全くいないというのも不自然な気がします……」


 たぶん、定期的に兵士が巡回してどこかに運んでいくんだろう。きちんと救済しているかはラディさんも分からなかったらしい。

 そんな住民の暮らしの様子がしばらく続く。


「以上が、王都の住民の暮らしぶりです。次に反乱軍の様子ですが、規模は、およそ1個大隊半と言ったところです。少し減っているようにも思えます……」


 2個大隊以上を予想していたんだけどね。となると、俺の予想と1個大隊が不足する。考えられるのは、西の砦への増援、もしくは北の砦の銀鉱山の復旧だろうな。

 彼らの生きる道はウォーラム王国への従属となるはず、そのための有利な条件作りは銀鉱山以外に存在しない。王都は富を消費するところで富を作るところではないのだ。


「私も気になりましたので、帰り際に西の砦と北の砦を見て来るように配下の者に言い付けてきました。5日程でその答えが分かるものと……」


 次に話してくれたのは王都の王宮周辺の状況だった。

 王宮と貴族街のほとんどが消失しているらしいが、焼け残った建物も少しはあるようだ。そんな建物を修理して何組かの貴族が住んでいるらしい。

 反乱軍の統率はその貴族達によって行われているとの事だ。


「貴族の名は分かりませんでした。我等との戦とクレーブル王国侵攻での敗戦の責任を負わされてマデニアム王国の貴族の粛清が行われた節があります」


 兵士達の士気はそれ程ではないが、一応規律は執れているらしい。厳罰主義で対処しているらしく、東門の外には何人かの兵士の晒された遺体が吊るされていたと話してくれた。

 厳罰主義で指揮と統率を図るのは勝ち戦では良いのだが、負けが濃くなると場合によっては反乱が起きるぞ。

 その反乱の被害が奴らの上層部に向けらられば良いのだが、王都の住民に矛先が向かう恐れもある。かなり面倒な攻略を考えねばならないようだ。


「以上が、王都の状況です。不足があれば再び商人と共に王都に向かう事が可能です」

「ご苦労さまでした。現状ではそこまでで良いでしょう。少し考えなければならないことがありますし、北と西の砦の様子から分かって来る事もあるでしょう。しばらくはヨーテルンで英気を養ってください」


 俺の言葉に、ラディさんが深々と頭を下げる。

 全く、難問が次々に舞い込んでくるな。少しづつ役割分担を図って行かねばなるまい。


 いつの間にか配られたカップのワインを飲むと、パイプに火を点ける。

 問題は、敵に知られずに王都に送り込める部隊数という事になりそうだ。いくらラディさん達が優秀でも千人弱の部隊を倒すことは出来ないし、貴族には私兵だっているだろう、数家族であればそれだけで1個小隊の戦力になりそうだ。


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