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SA-088 クレーブル王国への武器供与


 夕暮れが終わるころ、ウイルさん達が1個小隊の騎馬隊を護衛にしてヨーテルンに到着した。

 ウイルさんだけでなくバイナムさんも一緒だとは、ちょっと予想外だったな。


 広間のテーブルに2人を招き、護衛の騎馬隊にはリックさんがワインを兵舎で飲ませている様だ。

 テーブルに着いていた俺達と改めて騎士の礼をすると、テーブル越しに俺の前に座る。

 ミューちゃんとメイリーちゃんがワインのカップを配り、ザイラスさんが南の砦の開放を祝って乾杯の音頭を取った。


「約束通り南の砦と、石橋をお渡しします。ありがとうございました」

「何の。例などいらぬ。それよりも、1個大隊と聞いていたが、砦の中で1個中隊は死んでいたぞ。それに敗走する敵兵を撃ったのはザイラス殿。我等にとっては温い戦でおわってしもうたわ」


 ウイルさんがそう言って大声で笑いだす。

 確かに温い戦だっただろう。姿を現したところで逃げ出しただろうからな。


「バンター殿。2つ教えて頂きたい。1つは、あの砦の攻撃に何を使ったのだ? 10M(1.5km)程に近づいた時に、あれが起こった。爆発音に火災が起こる等、魔法の火炎弾としか思えぬが、砦の外から火炎弾を撃ちこめる魔導士などそれ程おるはずがない。2つ目は次の1手になる」


 武人だけあって、早速その話題に入ったか。無駄な話はいらないと言う事だな。

 席を立って、暖炉でパイプに火を点ける。少し間を持たせて、頭を整理しよう。

 席に着いたところでワインを一口飲む。


「南の砦の攻略に使った武器は教え出来ません。オブリーさんやリックさんなら物を見たことはあるでしょうが、作り方を知らないはずです。俺の国で代々伝えられたものであれば、将来に渡っての使用は俺達でさえも見合わせる武器です」

「積極的に使えば、マデニアムの残存部隊など容易に対処出来るのではないか?」


 確かに容易ではあるだろう。ほとんど一方的な殺戮を行う事も可能だ。

 だが、相手が砦や王都にいる以上、積極的な使用は、民衆を巻き込む可能性が極めて高い。


「敵兵だけなら容易なのですが……」

「民衆を考えるか。確かにあの威力であれば巻き込まれるのは確実だな」


「それに、武器に頼るのも問題と考えます」

「一方的な戦は慢心の元ということだな。全く、その若さでそんな考えが持てるとは恐れ入る」


「父上、どう言うことですか?」

 リックさんがワイン片手に質問を投げかけると、ウイルさんがジロリと睨んでるぞ。

 結構怖い親父殿のようだ。


「分からんとは情けない。良いか、優れた武器を手に入れて容易にカルディナを手に入れたら、ザイラス達が周囲の王国を攻める事も考えなばならんという事だ。たぶんそれは可能ではあるのだろう。だが、バンター殿はそれをせぬように考えを巡らしているのだ」

「ザイラスはどうなのだ? 実際問題として私には可能に思える」


 自分に話が回って来たので、慌ててワインを飲み干してるぞ。俺にとっても良い機会だ。カルディナを手に入れたその後については話し合ったことも無かったからな。


「俺達は、他国を望まぬ。バンターはマデニアムの一部を手に入れようとしているが、精々、山道の出口の砦までだ。バンターは覇王には成れんな。俺ものんびりと暮らしたい」

「我も他国までは望まぬぞ。我らの国造りをせねばならん。将来的にはどうなるか分からぬが、我等が生きておる間はこのままじゃ」


 覇道には走らないか……。なら、安心して暮らせそうだ。

 周辺王国の見本となれるような王国を目指せば良い。


「あの武器を譲り受けて護衛船に持たせようとしたのだが、残念だったな」

「護衛船の攻撃手段は何をお使いですか?」

「弓と剣だ。矢は火矢を使う。200D(60m)の距離で相互に使うから、船火事で沈む護衛船も多いのだ」


 なら、丁度良いのがあるじゃないか。少しは事態を改善できるんじゃないかな。


「ザイラスさん。弓とカタパルトは供与出来ますか?」

「供与も何も、リックは弓を使ってるし、義勇兵達もカタパルトの操作は行っているぞ。石弓も問題なかろうが、飛距離が足りんな」


 石弓を海戦に使うのは微妙だな。だけど先の2つは問題ないと言う事か。

 2人に、その話を聞かせると驚いて、リックさんとオブリーさんを見ているぞ。


「矢が300Dだと! それに1M(150m)も投槍を放てる……」

「事実です。私達も騎士団に加わって最初に教えられたのが弓でした。今までの概念が変わりました」

 オブリーさんの言葉に、リックさんも頷いている。

 ウイルさん達の、そんなバカなという顔が2人を見て、少しずつ治まっていく。


「街道の途中でたくさんの矢を拾ったが、我等の弓では使えぬ。やはりこちらの軍で使ったものだったか。300以上回収してきたぞ。たぶん騎士が渡しているはずだ」


 改めて礼を言う。

 作るよりも回収した方が楽だからね。まだまだ戦は続く。矢はいくらあっても足りないくらいだ。


「オブリー達が知っているなら、ありがたい話だ。少し兵を交替出来ぬか? 次の出船は一か月ほど後だ。それに間に合えば良いのだが」

「もう少し、こちらで厄介になった方が良いでしょう。1分隊をこの町に残して教えを受けると言う事も考えられますが?」


 ウイルさんの提案にオブリーさんが答えている。その答えにバイナムさんが頷いているから、そうすることが決定みたいだ。

 後で、グンターさんに差し入れを持って行くか。けっこう、教えるのは面倒だからね。


「我等は、しばらくは動かぬ。1分隊であれば十分に武器の使い方をおしえられるじゃろう。3日もあれば十分じゃ」


 その答えに、バイナムさんが驚いている。新兵器の運用を3日というのは、いくらなんでも短いと思ったのだろうか?


「とは言え、カタパルトの制作は面倒じゃ。直ぐに作らせるが、ここに運ばれるまでは10日は見なければなるまい」

「どれほどの数を?」

「我等は7台持っておる。船に積むなら2台は乗せられそうじゃ。制作は3台で良いであろう。弓は作るのにそれ程時間が掛かるとも思えぬ。ヨーテルンの武器職人に頼めばよい。1分隊であれば5日も掛からぬじゃろうな」


 バイナムさんが頷いているところを見ると商談成立って事かな。

 問題は、その値段だが……。


「アルデンヌ聖堂騎士団より、クレーブルが預かった銀塊は20本を超えている。これは教団への上納、義勇軍参加者の家族への手当てを除いての額だ。この内半分を、交易船の株を購入して運用し、もう半分で食料や調味用、それに酒等を購入し、こちらに送っている。騎士団の軍資金は溜まる一方だぞ。たぶん、金貨100枚に達しているはずだ。銀貨なら1万枚というところだな」 


 単に蓄えるだけでなく、運用してくれてたんだ。

 1年後には何割増しかで返って来るんだろうな。それを更に次の交易船の株に充当すれば良いだろう。今のところは、現在の手持ちで十分だからな。


「やはり、その代価は次の戦へ我らが協力すると言う事で対処するしかあるまい。それが最後の問いにもなる」


 身体で代価を払ってくれると言う事なんだろうな。

 だが、しばらくは戦は無いぞ。

 

「ありがたい申し出ではあるんですが、俺達はこの状態で冬を越そうと思っています。我等の版図に暮らす住民は2万を越えました。建国宣言を行い内政を考えねばならない時期に差し掛かっています。

 ですが、いまだに反乱軍の版図内には我等を数倍する旧カルディナの住民がいることも事実。この開放は忘れてはなりませんが、事を急いで領民を失うのも問題です」


「王も、『急ぐな!』と念を押すように言われたのは、バンター殿の危惧を持っていたのであろう。王都奪回はやはりバンター殿でも、難しい事ではある」


 バイナムさんが腕を組んで考え込んだ。

 王女様は黙って俯いている。ザイラスさんはジッと俺を見据えていた。


「ですが、それは来年に何とかしたいと思っています。急がぬと、もっと面倒なことになりそうなので……」

 

 俺の言葉に、組んでいた腕を戻して、テーブルの上に広げてあった地図を、自分のパイプを取り出して指し示した。


「ウォーラム……。なるほど、先を読む。確かに反乱軍が動く可能性がありそうだ」

「王都を放棄して西の砦に籠られると、その可能性が高まります。西の砦の途中にあるトレンタスの町が被害を受けますから、王都より先にトレンタスと今は考えています」


 皆が地図を覗き込む。

 王都から西に向かう街道は途中から北西に方向を変えて、尾根を挟んでウォーラム王国に向かう。尾根の街道は俺達が山賊を始めた尾根の峠に近い地形だそうだ。

 トレンタス町は王都から西に半日程の距離にある、レーデル川の石橋を越えたところにある。トレンタスの町から、トーレスティ王国に向かう街道が始まっているのも注意する必要があるな。


「手前の石橋が面倒だな。しかもこの辺りの流れは速いから、船を使う訳にも行くまい」

「何も、石橋を越える必要はありません。トーレスティ町の開放はクレーブル王国にお願いしたい。それが、武器の代価でいかがでしょう? さらに、現在の交易船の株の半分をクレーブル王国に差し出す事で何とか納得願いたいのですが?」


 今度はテーブルの全員が俺を見てるぞ。

 金で解決できるなら十分だと思うんだけどな。それに後ろの憂いが無ければ安心して王都を開放出来るだろう。


「武器を2倍……。交易船の株は必要ない。我が国王は、『王女を助けよ!』とも言っておった。トーレスティ開放はその範中にあると思う。王女様の約束してくれた武器の供与を倍にするのは我の独断。だが交易船の護衛船が3隻である以上、2隻にはその装備をしておきたい」


「了解じゃ。何とか2倍の6台を送ろう。だが、少し時間が掛かりそうじゃ。20日は掛からぬと思うが、10日では準備出来ぬ」

「十分です。風で10日も足止めされることは、多々ありますれば」


 これで、少し肩の荷が下りたぞ。トーレスティはヨーテルンを越える住民が住んでいる。反乱軍がウォーラム王国と手を結んだならばトーレスティが戦火に巻き込まれてしまうからな。



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