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SA-087 南の砦の攻略


「クラレム町には注意を与えてますね?」

「町長と神官に伝えてます。数日は固く扉を閉じろと。出来れば、女子供を東の荒地に避難させるようにとも、伝えてあります」


 今夜が決行の日だ。既に、南の砦の東西10km程のところには、クレーブル王国の軽装歩兵がレーデル川を渡って進軍を待つだけになっている。

 日のある内に、避難できるものは避難させたいところだ。男達は町に残っているんだろうが、逃げ出した砦の連中がどんな事を始めるかは分からないからな。

 ぐずぐずしてると、ウイルさん達の騎馬隊が追い駆けて来るだろうから、一目散に街道を駆け抜けるとは思っているが、念のためだ。


「俺達はそろそろ出掛けるぞ。20個も爆弾を放てば火事になるのは間違いない。夕暮れ時に実施する」

「その後は、レデン川の石橋付近で敵兵を襲ってください。減らせる時には減らしましょう」


 俺の言葉に頷くと、トーレルさんを連れて広間を出て行った。

 石橋付近には、ラディさんが焚き木を数か所に積んでいる。ちょとした松明代わりに使えるだろう。


「後は待つだけになるのう……。皆無事に帰ってくれば良いのじゃが」

「だいじょうぶでしょう。王都からの早馬や交替の部隊も全く姿を見せません。各砦の指揮官の連携が出来ていないようです」


 敗戦続きの状態で連携していないのが不思議な話だ。

 ここまで貴族の横のつながりは皆無なのだろうか?


 日が傾いて来た頃に、ラディさんが荷馬車に通信兵を乗せて南の砦が見通せる付近にまで出掛けたようだ。

 これで状況が少し見えてくるぞ。

 重装歩兵達はヨーテルンの3つの門に分散配置しているし、青年団の連中は全員が西の広場に集まっているらしい。短槍を全員が手にしているらしいから、1個小隊規模の軽装歩兵って事になるのかな。


「今回の策が上手く行くと、南の砦への街道の遮断が面倒になるのう」

「それはウイルさんが手を打ってくれます。石橋の南に展開した部隊をそのまま石橋の北に展開するでしょう。1個大隊の砦を1個大隊で襲うような事は、いくらなんでも……」


 将来の交易都市となる、クラレム町の防御力を上げる位の手助けはしてくれるんじゃないかな?

 街道に沿って2つの砦があるようなものだ。しかもクラレム町の直ぐ北にはレデン川が流れてるんだから、1個中隊を派遣するだけで足止めが出来るだろう。

 とは言っても、石橋と町との距離が少しあるんだよな。数百m程だが、夕暮れ時にその場所をザイラスさん達は駆け抜けて砦を急襲することになる。

 ウイルさんのことだ。南の砦の攻略が終われば、クラレム町の北に柵位は造るんじゃないかな?


 軽い夕食を取り、ワインを飲みながら報告を待つ。

 王女様がテーブルを指でコンコンと叩いている。そろそろ飽きて来たのかな? 何か適当な話題があれば良いんだが……。


「ところで、新しい王国の名を決めたのですか?」

 中々良いところでオブリーさんが質問を投げてくれた。王女様の指の動きがピタリと止まったぞ。


「いくつかは考えたのじゃが、どうもしっくり来ぬ。バンターはどうじゃ?」

「俺ですか?」


 思わず、確認してしまった。それは王女様が考えることじゃないのか? 臣下の者に考えさせるのはどうかと思うな。


「俺の国の名は、ニホンですよ。こちらの名前とはちょっと趣が違いますから、参考にはならないかと……」

「それでも、考えたのであろう? どんなじゃ?」


「『シルバニア……』は、どうかな? そんな事を考えてましたけど」

「銀の王国という事じゃな! カルディナと少し似た感じもするのう……。将来の伴侶の言葉じゃ。我は軽く思わぬぞ」


 ええ! と、思わず王女様の顔をまじまじと見てしまった。

 ひょっとして、考え付かなかったのか? だったらもう少し色々と考えとくんだった。


「『シルバニア』ですか……。良い名だと思いますよ」

 マリアンさんも、ミューちゃん達と一緒に頷いてるぞ。

「そうなりますと、建国式典で、王女様が初代シルバニア女王になられるのですね!」


 うんうんと嬉しそうに王女様が頷いてるぞ。

 気にいったのかな? まあ、しょせん名前だから、気に入らなければ後に変えることもできるだろう。

 

 通路を音を立てて走って来るのは通信兵だろうか?

 バタンと広間の扉を開けると、大声で報告を始める。


「ラディ様から通信です。南に炎が上がった。以上です」

「ご苦労。次々と通信が入る筈だ。夜遅くまで続きそうだから頑張ってくれよ!」


 俺の言葉に頷くと、今度は広場に向かって走って行った。皆に教えるんだろう。たぶん全員がその知らせを待っていたに違いない。


「始まったか。これでザイラス達は引き上げるのじゃな?」

「石橋の北側で待つはずです。石橋の周辺に設けた松明に火を点ければ、矢の雨を降らせられます。王都にはなるべく逃げ込ませたくありませんからね」


 南の砦の火災を合図にウイルさん達も行動を開始したはずだ。

 夕闇に紛れて砦に接近しているはずだが、砦の連中が逃げだすタイミングを上手く突けば良いのだが……。石橋の北に展開したマデニアムの反乱軍は左側面から近付いて来るクレーブル王国軍を見れば逃げだすと思うのだが、一戦する可能性もあるな……。


 次の連絡が入ったのは、パイプを楽しんでいる時だった。

 バタバタと走り込んで来た通信兵が大声を出した。


「ザイラス殿の報告が中継されてきました。石橋はクレーブル王国軍が確保。南の砦より逃亡者多数。矢の嵐で敵を倒しつつあり。以上です!」


 俺の言葉も聞かずに、外に走り出して行ったぞ。

 まあ、特に伝えることは無いけどね。


「矢の嵐とは?」

「矢継ぎ早に、矢を放ったのでしょう。12本を次々と放てば、2個小隊で960本の矢です。嵐の雨のように敵兵に矢が降ったという表現でしょう」

「それでは、矢が足りなくなるぞ?」


 たぶん、予備の矢を持って行ったのだろう。騎馬だから、持っていくには邪魔にならなかったに違いない。


 かなり遅くなって、ラディさんからの通信が届いた。

 手負いの兵士が街道を北に進んでいるとの事だ。砦を脱出した兵士達なんだろう。

 そんな連中なら、逃げ足はそれ程早くなないだろう。

 後ろに、ザイラスさん達がいるからな。これからザイラスさん達による手負いの獣狩りが始まりそうだぞ。


 さらに通信が届く。今度はザイラスさんからのようだ。

 ウイルさんと再会したらしい。ウイルさんに後を任せて北上するとあった。


「まさか、王都までは行くまいな?」

「それ程、無謀ではないでしょう。逃げだした兵士を街道を北上しながら狩るつもりのようです。朝方には戻ってくるはずです」


 問題は、敵兵が街道では無く荒地を進めば王都にたどり着けることだ。夜間である以上しかたがない事ではあるが、明日の夕刻には王都で南の砦陥落を⒮ることになるだろう。

 さて、王都の連中はどう出るか?

 穀倉地帯のヨーテルン、クレラムを失ったと言う事は、カルディナ領地の穀物生産量の三分の二を失ったことになるだろう。対して、領民の数は反乱軍の領地内の方が遥かに多い。王都の10万人はちょっと気が遠くなる人数だ。俺達の方は2万にも達していないんじゃないかな? ヨーテルンからクレラムのレデン川沿いにはたくさんの集落があるが、その人口は合計しても2千人というところだろう。

 この辺りで民兵組織を作りたいが、指導と指揮を行う人材は少ないからな。


 王女様達には休んでもらい、俺とオブリーさんだけが残る。

 オブリーさんが珍しくお茶を入れて俺に振る舞ってくれた。


「クレーブルは約束を守りました」

「そうですね。ここまでは王国同士の約束という事でしょうか?」

「分かりますか?」

「たぶん、明日にでもウイルさんがやって来るのではないかと思っています」


 クレーブル王国御后の弟がカルディナ国王であり、その御后はクレーブル王国の筆頭貴族であるアブリートさんの姉だ。

 ある意味、クレーブル王国もマデニアム王国の反乱軍には恨みがあると言って良いだろう。

 カルディナ王国に援軍を送れなかったのは、南の砦と石橋の占拠で動きが取れなかったからなのだが、そのくび木が今夜外れたのだ。

 

「あまり兵を集めなければ良いのですが……」

「可能な限りとは思っています。父も国王に同意すると思いますわ」


 2個大隊は確実ってところだな。

 陸戦隊を使えば軽装歩兵の役目も持たせられるから、クレーブル王国には実質7個大隊の軍隊があったことになる。

 弱体化したとはいえ、東のニーレズムはいまだに脅威であることは確かだろう。

 西のトーレスティはクレーブル王国と縁戚関係を持っているが、国境警備は必要だろうし、海洋貿易の護衛船団も必要だ。

 4個大隊は国内に置く必要がある。……やはりカルディナへの派遣は2個大隊だな。3個大隊では、即応部隊と王都警護が出来なくなりそうだ。


 空が白んで来た頃にザイラスさん達が帰ってきた。

 やはり街道を北上しながら砦を逃げ出した敵兵を葬って来たようだな。白いズボンに血の跡が生々しい。

 簡単に守備を確認して、俺達は広間を後にした。


 用意された部屋で目が覚めたのは、午後もかなり遅い頃だった。

 井戸で顔を洗う俺を、おばさん達がおかしそうに口元に手を当てて笑っている。

 そんなおばさん達に、片手を上げて挨拶すると余計に笑い出した。

 食事の手伝いにやって来た町の叔母さん達なんだろうが、今頃起きた俺がおかしかったのかな?


 広間に入ると、すでに全員がテーブルに着いていた。ザイラスさんやラディさんは、ちゃんと眠ったんだろうか?


「バンターで最後じゃ。先ほど南の砦より早馬がまいった。今夜ウイル殿がやって来るぞ。今後の相談をしたいとの事じゃ」

「ゆっくり休みましたから、俺はだいじょうぶです。一応、ウイルさんと話をいたことはありますが、会談で気を付けることはありますか?」


「特にありません。ウイル殿は勇猛果敢。バイナム殿が最も信頼する武将の1人です。バンター殿の印象も悪くないと私は思っています。普段通りで問題ないと思います」


 トーレルさんはそう言うけど、俺にはクレーブルのザイラスさんに思えるぞ。

 かなり強気であることは確かだ。

 たぶん直ぐにでも王都攻略を言い出すのは目に見えている。

 何とかそれは避けたいものだ。俺達の軍備が整わないし、北の砦と西の砦の反乱軍も気になる。

 数時間の時間はありそうだ。

 やってくるまで、次の作戦を考えねばなるまい。



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[一言] シルバニアって森に住むとかそんな意味だった気が……
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