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SA-082 ネコ族の安住の地


 王統女様の考えた統治システムに、ちょっと修正を提案する。

 1つは民衆の参加と統治システムの監視方法だ。

 最初から民主主義なんてできないと思うから、村長や町長の参加をどの部門にどれ位参加させるかという事で、上手く機能すれば将来が楽しみだ。

 統治システムの監視は、その組織が無駄なく機能していることをどんな手段で確認するかという事だが、場合によってはエミルダさんに委ねても良さそうな気がする。教団の精神が反映されるかも知れないけど、統治システムの良心と言っても良いだろう。


「老人の経験を反映すると言う事じゃな? エミルダ叔母様にもしばらくは手伝ってもらう事になりそうじゃな」


 必ずしも老人とは言えないかも知れないけど、それなりの知見はあることを信じたい。

 エミルダさんについては王女様も、手伝ってもらう事を前提に考えていたという事だろう。


「それと、浸透部隊に用務はちょっと……。浸透部隊を調査局、用務は内務としましょう。各部門の長を大臣として、権限を与えることでその責任を持って貰います」

「権限は責任という事じゃな。罰則は大臣を集めて決めれば良い」


 まさか、実刑を持って処罰なんて考えていないよな。

 ゾッとして王女様をチラリと見たけど、普段とあまり変わらない表情だ。

 その判断を王女様が下す時には、多数決を採用したいぞ。


「後は大臣の人選じゃな……。王宮では石を投げれば貴族に当たったが、今ではのう……。奴隷になり損ねた貴族の子供達ではまだまだ無理じゃろうな」


 王女様の考える統治は貴族制を取り入れると言う事なんだろうか?

 テーブルに広げた紙に何かを書き込みながら、うんうんと自分で納得してる王女様を横目で見る。

 と、今度はクルクルと紙を丸めて、ふうっとため息を吐く。

 あまり長く考えるのは不得意みたいだな。

 そんな王女様を後ろで眺めていたマリアンさんが首を横に振りながら立ち上がると、俺達にお茶を入れてくれた。


「まだまだ先は長いですからゆっくりと考えてください」

 そんな言葉を王女様に掛けているけど、先行きはかなり怪しいものになりそうだ。


「ところで、バンター様。ヨーテルンへの進行は南の砦が邪魔をすると、砦の者が言っております。差支えなければ、対応策を教えて頂けませんか?」

「やはり皆気になっているようですね。簡単な事です。ここにウイルさんがいますから、手出しは不可能。下手に俺達を攻撃しようものなら石橋と砦を失うのは確実です」


 次の戦にはクレーブル王国の協力が必携になる。

 実際に戦闘にまではならないだろうけど、そこにいる存在が重要なのだ。

マデニアム王国連合のクレーブル攻略は失敗した。その原因は船や筏によるレーベル渡河作戦が失敗したからに外ならない。

 クレーブル王国の海兵隊の実力は騎士に次ぐんじゃないか?

 そんな戦力がいまだに対岸にいる可能性がある間に、部隊を動かすのは自殺行為以外のなにものでもない。


「クレーブル軍が行動するわけでは無いのですね?」

「ええ、動くことはありません。動くのは、王都に攻撃を加える時です。その時は南の砦が無人化するでしょうから、約束に従って石橋と南の砦をクレーブル王国に明け渡すことになるでしょう。でも、既にその代替地を2倍程得てますからね。領土争いは避けられます」


 旧カルディナ王国の半分を渡しても良いかもしれない。

 ちょっと荒地の粒金がもったいないようにも思えるけど、採掘は苦労すると言ってたからな。俺達の採掘も早めに止めといた方が良いのかもしれない。

 待てよ……。意外と、銀山の沢筋も狙いかも知れない。レデン川にもたくさんありそうな気もするな。


「そうじゃったな。約束は約束じゃ。まして、建国もままならぬ我等と対等以上の約束をしてくれておる。気前よく渡すことにするぞ。頑丈な柵で囲い、商人達の出入りを許可すればクレーブルからどんどん品物が流れてくるはずじゃ」


 広間の扉が開き、ラディさんと娘のミューちゃんが入ってきた。

 しばらくあちこち移動していたようだけど、今度はどんな情報をもたらしてくれるんだろう?


「マデニアム王国とその周辺王国を探ってきました」

 俺に軽く頭を下げると、テーブル越しの席に着いた。ミューちゃんが急いで入れたお茶を美味しそうに飲むと話を続ける。


「マデニアム国王が退位しました。新国王は長男に順当に移行しましたが、后をニーレズムより急きょ迎えています。ニーレズムに南の町を提供し、マンデールには東の村を渡すことで新しい国境を決めたと聞いています」

「何じゃと。それではマデニアム王国の国力がかなり低下してしまうぞ!」


「ええ、マデニアム王国の残存兵力は2個大隊に満たぬものです。治安維持担当を除き、全軍を東のトルニア王国の国境沿いに展開したようです。峠の出口にある砦は無人のようですね。その内、盗賊が住み着きそうです」


 ラディさんがテーブルに乗せられたパイプ用の火種を使ってパイプに火を点ける。

 ゆっくりと、広間の天井に向かって煙を吐き出している。


「気になるのは、マデニアム王都の指揮官達です。今は?」

「軟禁されているようです。カルディナ王国さえ手放してしまいましたし、クレーブル王国攻略は失敗です。致し方ないでしょうな。いずれ責任処罰が行われるでしょう。お族ですが、それを理由に糾弾の手を逃れることはでいないでしょうな」


 ドーマルディ王子の野望は消えたって事かな。

 マデニアム王国を譲られた新国王も統治が難しいだろうな。王国の荒廃はかなりのものらしい。農民を徴用したのが間違いだと早く気付いていれば、そこまで痛手は受けないだろうし、クレーブル派兵を決意しなければ、カルディナ領内から銀塊を細々と輸送できただろう。

 そうであったなら、俺達の新王国宣言は更に時間が掛かったかも知れないな。


「将来的には、烽火台の尾根をそっくり頂く事にしたいですが、その前にウォーラム王国って事になりますね。俺達がマデニアムの残存部隊を下手に駆逐すると街道を下りてきます」

「バンターが王都を攻略を手控える理由がそれなのじゃな。クレーブルを頼らぬと言うのは我にも理解できるが、王都を攻略せぬ限り北と西の砦はそのままになってしまうぞ」


 ここでヨーテルンを手にしたところで、敵の疲弊を待つことになってしまう。

 それでは、旧カルディナ王国の半分の国民をマデニアム反乱軍の圧政下に置くことになってしまいかねない。

 少しは夜逃げして来る者達もいるだろうが、数が増えればその対策を考えるだろうな。

 たぶん、厳罰を持って臨むはずだ。


「次をお考えですな? たぶんそれはクルーネがもたらしてくれるでしょう。お渡しできる粒金は半分でよろしかったですな」

「十分です。それで、俺の提案は考えていただけましたか?」


 俺の質問に両目を閉じてしばらく考えている。ラディさんとしても個人で判断出来ないと言う事なんだろうか?


「私がカルディナ王国とマデニアム王国の草に巻き込まれて既に4年ほどになります。我等種族はアルデンヌ山脈を5年程掛けてぐるりと巡っておりますから、来年には近くにやって来るでしょう。私は良い考えに思えますが長老達がどのように考えるかが問題です。それでもかなりの移住希望者は出てくると思われます」


 漂泊の民族が定住を計れるかが問題なんだろうな。


「バンターの言っていた、将来の北の村の話じゃな。ヨーテルンが手に入れば、北の村の住人の大部分がアルテナムに戻るじゃろう。更に南にも村が出来るやも知れぬ。その時に北の村がどうなるかという事じゃな」

「はい。出来ればネコ族の永住の地として提供できないかと考えています。せっかく農地を広げているのに、廃村では……」


「我は賛成じゃ。ラディのような者達であればなんの問題も無かろう。それに、農業がダメなら牧畜という手もあるぞ」


 確かにそれもあるな。食肉の供給と乳製品があれば新たな商いもできるだろう。

 軌道に乗るまでは王国で保護もできそうだ。何といっても、俺達の目となって活躍してくれたからな。

 それ以上の働きを期待している俺の企みは、まだ言わない方が良いだろう。


「たぶん賛成してくれるとは思いますが、全員という事にはならないでしょう。それでも我らの故郷が出来ることは喜ばしい事だと思っています」


 そんな漂泊の種族はネコ族だけなんだろうか?

 他にもそんな種族がいるような気もするけど、俺達が知らないならばどうしようも無いな。


・・・ ◇ ・・・


 少しずつ山が色付き始めた。

 砦に吹く風も、段々と涼しさを増してくる。

 来月にはアルテナム村の周辺では麦の取入れが始まりそうだ。

 そんなある日。アルデス砦に主だった者達が続々と集まってきた。いよいよ、ヨーテルンの町を我らが手中に収めるのだ。


「10日後にヨーテルンを手に入れる。ヨーテルンの農地の刈り入れは3日後から始めるそうじゃ。およそ7日で刈り入れは終了する。マデニアム王国に反旗を掲げた軍隊の収奪があるならばそれ以降となるであろう。たぶん、収獲を見張る分隊は既にやって来ておるやも知れぬ」


 テーブルに集まった部隊長の顔を眺めながら少し長めに王女様が話を切り出した。

 誰もが真剣な表情で王女様の話を聞き漏らすまいと聞いている。

 

「今度は平地の戦じゃ。今までは防備に優れた環境で戦をしたが、今度は違う。皆も、バンターの策を良く聞くのじゃ」

 そう言って、俺に顔を向けると、皆の視線が俺に向いたのが分かる。


「強襲と素早い陣地作り、それに敵に見える俺達の姿。攻め込めば爆弾の雨……。簡単に言えばそんな戦になると思います……」


 先ずは、強襲だ。

騎馬隊2個小隊で町を囲み、ラディさん達に町に駐屯する敵兵を襲撃して貰う。時間帯は夕暮れ時。ラディさん達には敵兵が見えるが、相手は夕闇でラディさん達を視認できないだろう。


「夕暮れ前に、ザイラスさん達が町を囲んでからの襲撃です。1人も町から逃してはなりません」


 次に軽装歩兵1個小隊が素早く町の西に柵を作る。杭とロープで十分だ。2重に張れば敵の騎馬隊も突撃できない。


「荷馬車を最大に活用してください。ヨーテルンから避難する者達の移送は柵の資材を運ぶ北の村人に協力して貰います」


 ヨーテルンから避難した住人の家屋を取り壊して簡単な砦を作る。これは俺達が滞在できる兵舎と考えて貰えば良い。


「砦作りは重装歩兵1個小隊にお願いします。アルデス砦には留守部隊として1個小隊を置きます。北の砦は今でも1個大隊規模の兵力を持っていますからね」


 カタパルトは荷台に積み込んでそのまま運用する。更に数を増して7台になったから、爆弾装備で活躍してくれるだろう。



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