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SA-081 将来を考える時もある


 初夏を迎えてもマデニアム軍には動きが無い。 

 砦と王都の門を堅く閉じているようだ。それでも周辺の農地を耕す農民や行商の動きは制限していないようだから、タルネスさん達が商売に出掛けて様子を探ってくれる。


 ふもとの砦の仮復旧は終了し、ザイラスさん達が駐屯している。今は崩れた城壁の石積みをしているらしい。


「館の方は職人を入れて手直ししている。仮の王都としても恥じないようにしてやるからな」

 様子を見に出掛けた俺達を前に、ザイラスさんが笑いながら教えてくれたんで、王女様が顔を赤くしていたぞ。

 ここが居城と言う事になるのだろうか? 俺としてはアルデス砦を将来的な王都にしたいところだ。

 資金源と穀倉地帯を近辺に置き、攻めずらい場所が一番だと思うんだけどね。

 旧カルディナ王国やクレーブル王国の王都が平地にあるから周辺の王国も似た地形にあるのだろうが、別に王都を城壁で囲む必要は無いだろう。

 ミクトス村を将来の城下町にすれば良い。

 ヨーテルンの町も将来的には砦を作ることになるだろう。その時にはアルテナム村の砦を移せば良い。アルテナム村は商業の中継地点と穀倉地帯の要として発展するに違いない。


「重装歩兵達の港の工事は進んでいるのか?」

「港と言っても、川船を停泊させるだけですからね。護岸工事と倉庫、それに守備兵と商人が寝泊まり出来る建屋で十分です」

「2か所と言うことだったが、拠点は一か所で済むのか。西に南の砦があるのだ。しっかりと柵は作っておくように伝えてあるぞ」


 それも見てきたつもりだ。まだ南北に200m程の長さだが、2重にの柵が1.5km程の長さに伸びるらしい。

 建屋を囲むように柵がもう1つ出来ているから、南の砦からの攻撃にも耐えられるだろう。ふもとの砦の騎馬隊が駆けつけるまでの時間を短くするために、新たな街道も整備しつつある。小石を退けるだけでも荷馬車の通行はかなり楽になるからな。


「ふう……。我等の領土もかなり広がったのう。ヨーテルンを版図に加えれば、十分に建国が可能じゃろう」

「年内には何とか……。これで、マデニアム王国の駐留軍と本国の連絡を完全に閉ざしました。峠の西の隘路出口を遮断していますから、たとえ攻め込んでも突破することはほとんど出来ないでしょう。残存部隊は少しずつ削ることになります」


 ヨーテルンへの進出には1つ問題もある。レーデル側の支流が街道を横切って南北に走っているのだ。

 川幅数mの小さな川だが、大規模な部隊移動は街道に限定されている。

 もう1つ橋を掛ければ良いのだが、俺達の技術では石橋を築くことは不可能らしい。

 となると、簡単な架橋方法を考える必要がありそうだ。

 アイデアとしては川船を2隻並べて板を渡すことになるな。反攻作戦までには準備をしておく必要が出て来そうだ。


「バンターはヨーテルンの住民を全てアルテナム村に移動させるつもりなのか?」

「それは無理でしょう。1割程の住民を移動出来れば俺達の簡易砦を作れます。それに周囲はカルディナの穀倉地帯。農民の移動は俺達の食料事情を悪化するかも知れません」


 移動が出来る者だけを移動すれば良い。

 その辺りは、町長と教団の神官に相談して貰おう。

 移動するのは、秋の収穫を終えた後。それならば農民達も冬越しの食料を得られるし、俺達は税を取る事も無い。

 銀山の収入はありがたく使わせて貰おう。鋳物ところ順調な産出量らしい。それに、クルーネさんが採掘した砂金も結構溜まってきたぞ。

 しばらくは俺達の秘密と言う事で、ネコ族の連中と半分に分けたんだが、カップに半分を過ぎた量だ。

 これだけでも、俺達の冬越しの食料が得られるんじゃないか。


「あのレデン川に船で橋を作るのか……。ならば、この辺りに小屋を作って船と板それに杭等を準備してはどうじゃ?」


 王女様の指差した場所は、北の森の直ぐ傍になる。

 森に隠すと言うのもおもしろそうだな。大回りだがかなりの部隊を移動出来るぞ。


「そうですね。俺も賛成です。小屋造りは軽装歩兵に頼みましょう。だいぶアルテナムの復興も進んでますからね。船はリーデルさんに作って貰えば良いでしょう」


 ふもとの砦、アルテナム村の簡易砦それに南の船着場が少しずつ形になってきた。

 通信兵が足りなくなってきているのが問題だが、村の少年達を通信兵が養成しているから、更に数人を増やせるだろう。

 軽装歩兵の何人かが通信を覚えてくれたのもありがたい話だ。通信兵のほとんどが少年兵だから、危険地帯にはあまり派遣したくないところだ。


「ヨーテルンの攻略はどのような策を用いるのじゃ?」

「ラディさんに調べて貰った限りでは、敵兵がいないそうです。進出はいつでも出来ますが、平地の町ですからね。敵の攻撃にあまり耐えられません。俺達が進出しない限りヨーテルンは平和です」


「手を出さぬという選択肢もありそうじゃな?」

「そうもいきません。ヨーテルンの周囲は旧カルディナ王国屈指の穀倉地帯です。マデニアム王国から分断された軍は今のところおとなしいですが、取入れが済めばヨーテルンを略奪するでしょう。それまでには何とかしませんと」


 一気に砦を作る事になるだろうな。2個小隊を派遣すれば1個大隊ぐらいなら防衛出来そうだ。その為にも事前準備を周到に行う必要があるんだが……。


・・・ ◇ ・・・


 夏になったところで、レーデル川に船を浮かべて最初の銀塊をクレーブル王国に送る。その代価として、穀物と調味料、それに硝石と硫黄を受け取る。

 ミクトス村や北の村は耕作を始めて間もないし、アルテナム村の畑は平年よりもかなり種蒔きが遅れた。

 まだまだ俺達の領民全てを養うには時間が掛かりそうだ。

 アルデス砦の兵舎とふもとの砦の倉庫にそれらを備蓄し、冬を乗り越えることにする。


「ワインが20樽も運ばれてきたぞ。酒場を始められそうだ」

「前の戦でだいぶ村人に助けられました。5樽ずつ送って、残りは2つの砦で良いでしょう。あまり飲まないでくださいよ」


 俺とザイラスさん、それにトーレルさんの3人で、船の積荷の荷下ろしを感慨深く眺めていた。

 俺の言葉に、ザイラスさんが苦笑いをしながら頷いているから、ここはトーレルさんに期待する外無さそうだな。


「粒金も送ったのでしょう? それにしては積荷が少ないように思えますが」

「トーレルさんのお嫁さんの支度金と書いておきました。ふもとの砦でお暮しください。俺はアルデス砦で十分です」


「待て待て、それでは配下の者の方が優雅な暮らしになるぞ。王女様にはそれらしく暮らして欲しかったのだが」


 俺の言葉にザイラスさんが慌てて意見を言ってくるけど、これは王女様も願っている事だ。アルデス砦を将来の王城とする。

 例え、木造であろうとも俺達の象徴となる城であれば十分だ。

 皆の集まる広間と数室の私室があれば、華美にとらわれずとも十分に暮らせる。


「少しは理解できますが、世間体ということも大切ですよ」

 トーレルさんの言葉に、そうだ! と言いたげにザイラスさんが頷いている。

 それも分かるんだけど、誰も訪ねてくるとは思えないんだよな。

 

「王女様の願いとなれば少しは譲歩せねばなるまいが……。そうだ! クレーブルの石工は有名だ。あの港まで作ったのだからな。アルデス砦を王城に変えれば良い。幸いにも資金に困ることは無いからな」


 自分の考えにザイラスさんが満足そうな顔をしているけど、ひょっとして銀塊を使おうと言うんじゃないだろうな?

 それこそ本末転倒、あれは王国の為に使おうと決めているんだが……。


 夏に数回の交易を行い、特に支障が無い事が分かった。

 川船を漕ぐのは、力自慢の重装歩兵達でも苦労していたが、クレーブル王国の船乗り達は苦も無く船を操っている。

 川船の運航はクレーブル王国に任せる事にして、ビルダーさんが推薦してくれたレイドルさんに船着場の運営を任せる事にした。

 カルディナ出身だし、タルネスさんとも知り合いらしい。息子夫婦をクレーブル王国側に派遣して一家総出で対応してくれるそうだ。


 後はふもとの砦との道の整備だが、重装歩兵達が数回往復して道を整備したから、荷馬車が壊れるような心配をしないで行き来できるようになった。


 アルデス砦の広間は少し寂しくなってしまった。

 狼の巣穴を閉じたから、軽装歩兵2個分隊と重装歩兵が1個小隊、それに魔導士部隊が今の住人になる。

 その内、重装歩兵2個分隊が北の村で住宅作りを継続中だから、砦の総兵力は1個小隊と言ったところだ。


「ザイラスやトーレルもおらぬのは、少し寂しい気もするのう」

「次の戦には俺達もアルテナムに移動します。今は、新しい王国の統治方法を纏めませんと、建国宣言に支障が出ますよ」


「分かっておる。それで、ここに我らがおるわけじゃ。エミルダ叔母様にも手伝って貰いだいぶ出来てはきたのじゃが……」


 王女様が丸めた紙をテーブルに広げると、戻らないように作戦地図の駒を4隅にポンポンと置いて眺めはじめた。

 俺とマリアンさんがその紙を眺めると、前に俺が描いた三角形の姿がだいぶ変わっているな。それだけ、色々と考えたのだろう。


 一番上にあるのが王族とある。これは王女改め、女王となるんだろうな。

 その下にあるのが、軍隊と文官組織になる。

 軍の組織は騎馬隊である騎士と重装歩兵、軽装歩兵、弓隊、それに浸透部隊、魔導士隊の6つのようだ。独立した弓隊というのは、まだ作られていないが、各部隊の代表が置かれるのは理解できるな。

 文官組織は、徴税、開発、農林業、商業、それに用務となっているが、用務というのが分からないな? 後は、そのものずばりなんだろうけどね。

 組織の代表を置くのは何となく大臣って感じだな。


「この用務とは?」

「一言で言うなら雑用係じゃな。王族の世話とこれら組織の連携をとるためのものじゃ。当然、各組織の評価も行う事になるぞ」


 城の掃除や食事、王女様の世話も誰かがしなければならないってことか?

 それにしては範囲が広いようにも思えるな。それなら、ここに浸透部隊を入れたいところだ。御庭番って事になるんだろうな。

 もう少し良い名を考えなければならないだろう。いくらなんでも用務大臣なんて名前が悪すぎる。



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