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SA-080 地図作りの道具


 ミクトス村にリーデルさんを訪ねて、測量器具のメモを渡すとそれほど難しい話ではないらしい。

 一番危惧していた分度器も金属製の三角定規を取り出して説明してくれた。

 直角三角形が2つ。片方は2等辺三角形だし、もう片方は30度と60度の角度を持つものだ。


「この直角部分を90分割するんだな? 組み合わせれば十分に可能だ。少し応用がはいるが、息子に教えるにも都合が良い。3枚も作れば練習になるじゃろう」


 水準器はメガネ用のガラスを使うと言っていた。金具は青銅で作るから長く使えるぞと言っていたけど、もう1つ大事なことがある。長さの原器だ。

 1Dが30cmほどだと教えて貰ったが、リーデルさんの道具箱にある定規は合っているのだろうか?


「教団の原器に合わせた物じゃ。そんな目で見なくとも、寸法は正しいぞ」

 ジッと定規を見ていた俺を笑いながら教えてくれたけど、原器と言う概念があったんだな。


「1Dの定規に10等分の目盛を刻んでください。その内、1等分に更に10分の1の目盛を刻みたいと思っています。後は、10Dの定規に半D間隔で目盛をお願いします」


 俺の無茶な要求を、それほど気にも留めないと言う事は、ドワーフの技術では簡単だと言う事なんだろうか?

 同じように青銅で定規も作って貰う事にした。


 カナトルに揺られてアルデス砦に戻る事になるが、少し遠回りして北の村の様子を見ることにした。

 この村には入ったことが無い事を思い出した為だ。


 村の周囲に柵があるのは、この地方の特色かもしれないな。南にある門を通ると、門番の青年が槍を持って立っていた。2人いるから何かあっても村人に知らせることが出来るな。直ぐ脇に、塀の高さほどの見張り台もある。

 前の戦にはこの上に立っていたんだろうな。


 南北に荷車2台が楽にすれ違える道が出来ている。その両側に家が建っているけど、更に南北にも道があった。

 家は2間と聞いているが、ロフトも作っているらしいから、少し家族が多くても問題なさそうだ。

 計画的に作っているようだが、少し空き地を作っておいた方が良いんじゃないかな? 子供達の遊び場は是非とも必要だろう。

 数軒の店がある。その一つに見知った顔の男が嫁さんらしい人と、店の前で話し合っている。


「これは、バンターさんじゃないですか? ここに来るとは珍しいですね」

「たまには、あちこちうろつかないと状況が掴めませんからね。中々良い場所に店を開きましたね」


 そんな俺の言葉に頭を掻きながら、ビルダーさんが嫁さんを紹介してくれた。軽く頭を下げて挨拶しておく。


「タルネス殿より聞きましたよ。さすがはバンター殿と感心しました。何か必要な物があればいつでもお申し付けください」

「夏には試験運用をしたいところです。対岸同士で話を伝え合う事もあるでしょう。通信兵を置きますから、彼等に伝えれば空いてる時間なら伝えてくれますよ」


 電報みたいな話にはなるのだが、船で行き来するよりは遥かに便利になるはずだ。

 少しは、民生用に使っても良いだろう。将来的には電報システムを考えても良さそうだな。商売に利用する者も多いんじゃないか。


 ミクトス村やふもとのアルテナム村よりも整然としているな。何か、モデル住宅が並んでいる感じもする。

 ビルダーさんに別れを告げて、南に向けてカナトルを進ませる。

 ちょっとした巡視って事になるのかな。

 色々と課題もあるようだが、とりあえずは平和だ。

 ここなら、戦の影響を受けずに済むだろう。西にある北の砦が問題だが、2度も跳ね返されてる。あえて攻めてくるのは無謀の一言だ。


 広間に戻って、お茶を飲む。ミューちゃんの入れてくれるお茶も、この頃は当たり外れが無くなってきたな。

 パイプに火を点けてのんびりと地図を眺める。

 この地図が、きちんとした形になると、どんな姿になるんだろう。

 直ぐには完成しなくとも、最初の地図は俺の生きた証として残しておきたいものだ。


「戻ったか。村はどうであった?」

「平和に見えたよ。店が出来たから、早めに配給制では無く、普通にお店で買い物が出来るようにしたいね」

「その辺りも良く考えねばなるまい。勤労をどのように評価するかで不平も出よう。一生懸命に働いても食うに困るようでは困る。フィーネにも図っているのじゃが良い考えが浮かばぬ」


 確かに個人の仕事を評価することは難しく思える。

 リーダスさんの仕事と農家の人が畑を耕すのを同じ作業と見ることが出来るだろうか? 個人の持つ技能の評価と仕事量それに成果を考えねばなるまい。

 全て放棄して村人に任せることも一つの方法だが、そうなると収穫物が直ぐに得られない農家の人達が飢えてしまう。

 ひょっとして、漠然と悩んでるんじゃないか?

 ヒント位は与えても良いかもしれないな。


「基本は仕事に対する評価だと思うな。特殊技能を持つ人達にはその分上乗せすべきだろう。仕事時間も考慮しなければならない。それをいくつかに区分して、どんな仕事がどこに当てはまるかを考えれば良いんじゃないか?

 とは言っても、悩むには農業だろうな。直ぐに成果が出ない。これは、成果を全て俺達の物として、労働力に対して賃金を払うと言う事も一つの方法だ。もっとも数年が経過したら収穫物の一部を歩合制で分けないと労働意欲が無くなってしまうんだけどね」


 俺の言葉を大きく目を見開いて聞いていたけど、直ぐに広間を飛び出して行ったぞ。

 やがてフィーナさんとその仲間達を引き連れて、もう一度さっきの話をすることになってしまった。

 うんうんと頷きながら聞いてくれるから、フィーナさん達は少しは理解してくれたのかな?


「質問をお許しください。技能を評価するとは、職人達の技能と言う事ですね。リーダスさんと弟子の違いを考えれば良いでしょうし、金属加工と木工技術の違いもあるでしょう。かなり幅を持った基準が必要になってきます」

「それで良いと思うな。評価の基準に、その技能を習得するための年月があっても良いだろう。人種的な面も少しは評価すべきだ」

 ネコ族の人達はどう頑張っても鍛冶職人にはなれないだろうな。その逆もあり得る。


「農家の人の収入を労働時間で支払うとは思い切った考えです。そうなると、その作業を監督する人もいるでしょうし、作業に対する積極性も評価することが必要です」

「当然だ。最初は人望の厚い人に監督をお願いすることになるが、評価は3段階位にして格差をあまり設けないことも必要だぞ。でないと農家の差別化につながりかねない」


 一番難しいところなんだよな。

 最後に兵士達の給与も考えなければならない。旧カルディナ王国での給与を踏襲することなく、兵士の年代を基準にする方が良いだろう。それによって自分の将来設計が出来る。階級を考えて、その階級に沿った給与の上乗せも考えるべきだな。


 そんな話を終えると、彼らの表情が少し明るくなってきた。

 王女様と一緒に駆けこんで来た時には、かなり焦燥感が漂っていたからね。

 ミューちゃんが配ってくれたお茶を飲みながら、隣同士で会話が弾んでいるのは、俺の話が少しは役に立ったと言う事だろう。


「となると、銀塊を換金する必要があるぞ。少なくとも今年中にはある程度の形として皆に示したいところじゃ」

「経済が整えば税金も徴取出来ます。それによって民生と軍備を充実させることになるでしょうけど、王女様への宿題も忘れないでください」


「忘れる事なぞ出来ぬ。将来がそれで決まるのじゃ。父王に笑われぬようじっくりと考えておるぞ」

 そんな言葉を使うって事は、まだまだ先ってことだな。

 建国宣言に間に合えば良いだろう。じっくりと考えて俺達の将来を決めて欲しいものだ。


「たぶん、王女様なら既にご存知と思いますが、こんな形に考えると分かり易いですよ」

 メモ用紙に三角形を描く。

 三角形の中に横棒を引き、一番上に国王と書いた。一番下には国民と書く。

 その間には空間がある。ここに何を入れるかと言う事になる。


「統治の仕方には色々あるでしょうけど、これが一番受け入れ易いと思います。国王は国民の頂点で何をするか、国民は何を期待するかそのために何が出来るかを考える事になります。この間に入るのは、旧カルディナ王国では貴族なんですが、たぶん上手く機能していなかったはずです。では何が入るのか? その役目を考えるとおのずと名前が入ると思います。それは1つではありませんし、もう1つ枠が増えるかも知れません」


「役目を考えてみると言う事じゃな。おもしろそうじゃ!」

 喜んでるところを見ると、やはり行き詰まっていたようだ。統治の目的は何かと言う事も一緒に考えるべきだろう。国王の役目も明確にしておいた方が良いだろう。曖昧では革命を起こされそうだ。


数日が過ぎた頃。広間にエミルダさんがやって来た。午後のお茶の時間には少し早すぎるな。俺に用事って事だろうか?

 地図の作り方を考えていたので、テーブルの上はメモ用紙が散らかっている。

 そんな俺に笑みを浮かべると、慣れた手つきでお茶を入れてくれる。

 メモを纏めて話の相手をすることになりそうだ。


「初めて見る文字ですが、それはバンターさんの国の数字でしょうか? 本当に学者だったのですね」

「学者と言うよりは、学んでいた者の1人です。この国の数字と計算の仕方が良く分かりませんので、自分の国の数字と計算方法を使ってました。地図を作ろうと考えまして、俺の考えた方法で問題が無いかを確認していたところです」


「数字で地図を作るなど、初めて聞きました。絵師に頼むのが一般的ですよ」

「たぶんこの辺りではそうなんでしょうね。この地図もそんな方法で作られたはずです。でも、色々と問題もあるんです。たとえば、アルデス砦と北の村の距離はこれでは分かりません。北の砦との距離も正確ではありません。土地の傾斜も不明ですから、灌漑用の水路を掘る場所の特定、それにどれ位掘れば良いかも分からないんです」


 それは技師の仕事だと割り切っているんだろうな。

 だけど計画性を持たせるには是非とも必要だし、軍事に一番大切なのも地図であることは確かだ。


「そんな地図が作れるのでしょうか?」

「俺の国ならそれ程難しくは無いんですが、ここには俺の国にあるような便利な道具もありません。一応初期の地図作りに使った道具をリーデルさんに作って貰ってはいますが、それを使いこなせる人材がいるかどうか……」


 悩みだしても始まらないからな。俺が覚えている限りの数式を活用して得られたデータを地図化するほか無さそうだ。

 悩む俺の姿を、いつものようにジッとエミルダさんが見ていた。


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