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SA-071 アルデス砦の防衛戦


 砦を遠巻きにしてマデニアム軍が2個中隊で囲んでいる。

 ザイラスさんのおかげで2個小隊程削ることが出来たようだ。

 500人を切った数だから、俺達40人で何とかできそうだ。矢とボルトはたんまりあるから、近付いたところを射れば良い。

 

「指示とおり始めています。1M(150m)程の距離を取って敵は動きません」

 広間に入るなりログナさんは俺に報告してくれた。席に座るとカップのワインを一息に飲み干している。


「それにしても柵の上から水を掛けるとは……」

「一応木造の砦ですから、火矢を撃ちこまれるのは目に見えています。少しでも損害を減らす一番の手ですよ」


 オブリーさんにそう答えて、のんびりとパイプを楽しむ。

 次の手は火矢を打ち込みながら門を破るか外塀を上って来るかだけど、攻城兵器を持ってきていないから、急場作りの破壊槌って事になるんだろうな。下の関所を壊せば丁度良い丸太がありそうだ。


「塀の上の人数を数えれば、俺達が少数なのが直ぐに分るでしょう。門の後ろに柵を作っておいてくださいね。門が破られればなだれ込んできますから」

「それも手を打ってあります。あの練習用の丸太はこの為の物だと良く理解できました」


 睨み合いの間に色々と準備出来るな。

 たまに近付いて様子を見に来る敵兵を塀の上から石弓で狙撃しているようだ。

 石弓の有効射程は砦の周囲に杭を打って分るようにしているから無駄なボルトを消費しないで済む。

 

「門を打ち破ったら、これを投げてやるのじゃ!」

 何を? と王女様を見ると、爆弾をくるくると片手で回して遊んでいる。

 思わず背中に汗が流れた。

 王女様の後ろは暖炉だからな。手が滑って暖炉にでも入ろうものならドカン! と一巻の終わりになる。


「お、王女様。それを貸してくださいませんか?」

 おろおろと手を伸ばして頼み込んだ。

「これか? せっかくザイラスに強請ったのじゃが、バンターが使うのであれば致しかたないのう……」


 そう言って、ポイッと俺に放り投げてくれた。

 両手でしっかりと受け取る。全く、ザイラスさんにも困ったものだ。

 だけど、これと俺の持つ2個があれば、結構使えるぞ。


「これもあげるにゃ。父さんから貰ったにゃ」

 ミューちゃんが両手に持った爆弾の上に、もう1個の爆弾を乗せてくれた。

「もう、誰も持ってませんね。これはかなり危険な代物です。万が一にも暖炉に入ったら、ここにいる人間がドカン! と吹き飛びますよ!」


 テーブルに着いた全員の顔を眺めると頭を横にふるふると振っている。もう、持っていないようだな。安心とガッカリでちょっと拍子抜けだ。


「ログナさん。至急、鎖帷子の袖を3つ用意してください。無ければこのハンカチ位の大きさの鎖帷子が3枚欲しいです。後は革紐ですね。良い事を考え付きました」

「出来たら教えてくださいよ」

 そう言うと、後ろに控えていた分隊長を手招きして俺の要求を準備するように伝えている。


「ミューちゃん。西の陣のカタパルトの矢に付けた爆弾にも、鎖帷子を巻いて紐でしっかり縛れと通信兵に伝えてくれ」

「分かったにゃ。西の陣のカタパルトの矢にゃ。鎖帷子を巻いて縛ると伝えるにゃ!」


 ひょこんと椅子から下りて広間を走って行った。

 これで相手はかなり驚くことになるぞ。もっとも最初の1檄だけだけどね。


「ザイラス殿には伝えないのですか?」

「長弓で射るからね。重くなったら飛ばなくなるよ。あれはあれで十分だ」


 分隊長が持ってきた鎖帷子は山賊の衣装から剥がした物らしい。大きさ的には丁度1巻と言うところだ。外れないようにしっかりと紐で縛る。

 出来た3個をログナさんに渡す。


「門の上の通路でこれに火を点けて、向かってきた敵軍に投げてください。火を点けて数を5つ数える頃に爆発しますから、火を点けたら直ぐに投げてくださいよ。でないと一緒にドカン! ですから」

「この紐に火を点けて5つですね。分かりました」

 一々火を点けなくてはならないのが難点だけど、この世界で初の手榴弾になるな。


 扉が開きミューちゃんが帰ってきた。直ぐに俺のところに来たから、何か言伝を頼まれたのかな?


「太い丸太を運んでるにゃ。もう少ししたら、ボルトを撃ちこんでやると言ってたにゃ」

 ミューちゃんの報告は想定内だな。ミューちゃんに頷いて「ありがとう」と礼を言うと、皆の顔を改めて眺める。


「どうやら、砦の門を破る考えです。門が破られて敵兵が門に殺到したら……、ログナさん。お願いします」

「なるほど、殺到したところならあの爆発も威力がありそうですな。そろそろ休んでいる兵を配置しますか?」

「配置と言うより、兵を休ませるように伝えてください。向こうも準備があるでしょうし、直ぐには門を破ることも出来ません」

「確かに。ではそのように手配しておきます」


 ログナさんが席を立って、広間を出ていく。爆弾3つはしっかりと腰のバッグに入れていた。

 数時間はのんびりできそうだ。その間に、ボルトの補給だけはしておきたいな。ミューちゃんとメイリーちゃんに頼んで、俺と王女様達のボルトと矢を用意して貰う。

 2人では大変だと思ったらしく、魔導士部隊のお姉さん2人が一緒に広間を出て行った。

 それにしてものんびりした戦だな。ザイラスさん達の方はまだ始まっていないのだろうか? すでに日が落ちてだいぶ経っているんだが。


 扉が乱暴に開き通信兵が入ってきた。

「報告します。東の陣周辺で戦闘が始まったようです。森の一部に火の手が上がりました!」

「ありがとう。あっちは救援依頼が来ない限り無視してもだいじょうぶだ。こちらの陽動だけど、すでに砦を囲んでいるからね」


 本来なら慌てて東に向かう俺達の背後を突く形で砦を襲っているはずだ。

 だけど、部隊を分けたのが分かっているし、ザイラスさんのおかげで敵軍の攻撃が早まっているからな。

 俺達1個小隊以上が、砦で籠城するとは向こうも思っていなかったに違いない。

 そうなると、ザイラスさん達の方もそろそろなんじゃないかな?


「報告します! 西の荒地より敵軍多数。真っ直ぐ東を目指しています」

「了解。北の陣方向で戦闘が始まる。たぶん直ぐに連絡があるだろう。しっかり確認してくれよ!」


 俺に頷いて通信兵が引き返して行った。

 そんな姿をルンルン気分で王女様が見ているぞ。もうちょっと緊張感が欲しいところだな。

 ログナさんが帰って来て、兵達を休ませていると教えてくれた。そうはいっても1分隊は見張りをしているに違いない。

 先は長いんだから、休める時は休ませておきたいところだ。


「2M(300m)先で準備を始めてます。しばらく、破壊槌なんて練習していないんでしょうね。見てて思わず手伝ってあげたくなりましたよ」

「となると、食事が出来そうですね。スープだけでも作りますか。たまに戻れば飲めそうですよ」


 俺の言葉にマリアンさんが頷いて、ミューちゃん達と暖炉傍で準備を始めたようだ。

 それを見てオブリーさんは呆れた顔をしているし、ログナさんはハハハ……と笑い出した。


「全く、他の連中に聞かせても信じないでしょうね。扉を破る準備を敵がしている最中に、スープ作りを命じるなんて」

「腹が減っては戦が出来ぬという言葉が俺の国にありましたよ。剣を交えている最中にお腹が鳴っては、末代の恥になります」


「おもしろい話じゃな。だが、我もそう思うぞ。軽く食べておけばイザと言う時にも力負けはせぬからな」

「全くです。おい、外の連中にもスープを作って食事をするように伝えておけ。更に、我らがバンター殿は、この状態でのんびりとスープが出来るのを待っているとな」


 分隊長が走り去るのを見て、オブリーさんが俺に顔を向けた。

「良いのですか。これから戦ですよ?」

「まあ、オブリーの言う事も分かるつもりじゃ。本来なら興奮して食事どころではないじゃろう。戦の前に食事など聞いたことも無い。じゃが、別な見方も出来よう。大軍に囲まれても、砦の中では食事を作っておるとな。我等の士気は上がり、敵は疑念を抱くであろうよ。それは我等の戦力差を縮めることはあれ、広げることにはならぬ」


 要するに、余裕を持って戦が出来るって事になるんだよな。

 戦は生と死が隣り合わせだ。神経が常に張り詰める。ちょっとした休憩、一服、食事が高ぶった神経をどれだけ癒してくれるか……。そう言う事だと思うし、食べた方が力も出る。


「報告! 北の砦からです。西からの軍はおよそ2個大隊。真っ直ぐ砦を目指しています」

「分かった。北に炎が上がったら連絡してくれ。ザイラスさんからは何も無いか?」


「ありません」と答えて、通信兵が去って行った。

「始まるのう。ザイラスで防げるじゃろうか?」

「20個程爆弾を持っています。突撃を何度か防げるでしょう。俺達も、早いところ敵を何とかしないといけないんですが、意外と敵は手こずっているようですね」


 破壊槌は丸太の左右に10本位ロープを結ぶだけで良いのだが、そんなに時間が掛かるものなんだろうか?

 まさか他の攻城兵器を作ってるわけじゃないだろうな?


 バタンと乱暴に扉が開くと、軽装歩兵が飛び込んで来た。

「破壊槌を移動して来ます。石弓の狙撃で相手の損害多数!」

 そう伝えると、広場に駆けて行った。


「どうにかじゃな。だが門にたどり着くまでが大変じゃ。その上壊す最中でも攻撃は続くからのう」

「スープでも飲んで俺達も出掛けてみますか? あまりのんびりしてると出番が無くなりそうです」


 カップに半分位のスープでも、初冬の夜の寒さを少しは軽減できる。

 飲み終えた順に広場に向かう。石弓の弦を引いてボルトをセットし、セーフティを掛けておく。


 さて、皆はどこだ? と見渡すと、ミューちゃんが屋根の上で手を振っている。門の東側の屯所の屋根に上っているみたいだ。

 梯子を外せばそう簡単に上れそうもないから良い場所に陣取ったな。数枚の木の盾を中庭に向かって並べているから、矢を防ぐこともできそうだ。


 ハシゴを上って屋根に上がると、水を入れた桶やボルトを入れた箱があちこちにある。ここで籠城することも出来そうだぞ。

 屋根伝いに南に下がると、西の屯所と連絡するための橋のような通路がある。その下に門があるから、通路には重装歩兵が1分隊乗っている。

 通路の横幅は1.5m程で後ろに低い柵がある。通路に立つと丸太作りの外壁が肩程も高さになる。それだと矢に当たりそうだから適当な間隔で矢狭間が作られており、そこから外の様子を眺めたり、石弓を放っている。


 王女様達は屋根の一番南側に陣取り、矢狭間から外を眺めている。

 俺も覗こうかとした時だ、ドン! っと言う鈍い音と共に、一瞬だが砦が揺れたような気がしたぞ。


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