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SA-069 通信兵を持つ強み


2日程経つと色々と情報が入って来る。

 アルテナム村から森に偵察部隊が派遣されたようだ。これでミクトス村の南にある森の中の砂利道は発見されそうだな。

 峠の監視部隊と狼の巣穴に残っていた連中もミクトス村や本来の重装歩兵部隊に合流したようだ。関所の部隊も引き上げてきている。

 これで、ほとんど俺達の部隊が配置に着いた事になる。

 後は、開戦を待つだけだが、ラディさんからの情報がまだ入ってこない。少なくとも開戦1日前には連絡があるだろう。


「北の村の民兵が3個分隊とはありがたい話です。これで少し南に部隊を展開できます」

「ミクトス村も2個分隊を出して貰えました。おかげで陣地防衛に1個小隊を派遣できます」

「我等もこの砦だけを守るつもりはありませんぞ。2個分隊を遊撃隊とする予定です」


 夕食後のいつもの打ち合わせは、敵の迎撃準備が出来たことを知れせてくれる。

 ザイラスさん達も荷車に資材を積んで西の陣地の後方に置いてあるそうだ。

 ここまで準備が完了してると、確かに敵の攻撃が待ち遠しく思えるな。

 テーブルの上に広げられた地図には俺達の部隊の駒があちこちに並べられている。少し版図が小さくなったようにも思えるけど、相手を迎えるならば防衛陣は小さい方が戦力を集中できるからな。これでも広すぎる感じがするぞ。


「もう少し爆弾を作っておくべきだったな。これで最後なのか?」

「30個程度なら材料があれば直ぐにも出来ますが、今は入手するのが困難です。最初に全て使ってしまって構わないでしょう。後は一撃離脱でお願いします」


 ザイラスさんのぼやきに俺が応じると、仕方なさそうに頷いてくれた。

 もう少し残しときたかったと言うところだろうな。だけど、この世界では邪道に近い武器だからあまり多用しない方が良いだろう。

 

「心配なのは食料ですが、戦が長引いてもだいじょうぶなのでしょうか?」

「今年のミクトス村は豊作だそうですからだいじょうぶです。北の村の住人が増えましたけど、少なくとも冬は越せそうです。食料は相手のマデニアム軍の方が問題でしょうね。長引けばマデニアム本国からの輜重部隊がやって来るでしょうから、その荷を頂くことも考えの内です」


 戦が10日を越えることは考えられない。大部隊の投入はそれだけ食料を準備しなければならないと言う事だ。

 王都の食料倉庫を空にする位に食料を持ち運びたいだろうけど、そんな事をしたら反乱が始まりそうだからな。


・・・ ◇ ・・・


「ラディ殿から連絡です。王都からマデニアム軍が進撃を開始したとの事です。アルテナム村の偵察隊からは連絡がありません」

「ご苦労。王都から北の砦に向かって、俺達の西に出るには2日は掛かる。まだゆっくりしていて良いよ。各部隊には王都から進軍したとだけ連絡しといてくれ」


「いよいよじゃな。予備の石弓も荷馬車に積んであるぞ!」

 王女様は機嫌が良い。すでに騎士団の衣装に身を包んでいるけど、どう考えても始まるのは2日後だぞ。

 そんな王女様をマリアンさんが困り顔で見ているし、エミルダさんは微笑んで見ている。


「やはり陽動が先になるかのう?」

「アルテナム村に駐屯している部隊は俺達が3個大隊規模であれば陽動部隊ですが、1個中隊と少しですからね。正規軍と言っても過言ではありません。こんな状態で陽動を相手が掛けるなら……、北の村になります」


 俺の言葉にオブリーさんが顔を向ける。理解しがたいって事かな?


「俺達の戦力をどの程度見極めているかと言う事で相手の行動を予測できます。前に2個小隊なら跳ね返せると使いの者に言いましたよね。あれで俺達の戦力を図れば多くて2個小隊と言う事になります。防衛は攻撃よりも人員を少なくできるからです。

 もし、俺達が砦に籠っているなら、北の村を突けば救援に飛び出すでしょう。アルテナム村の3個中隊がそれに合わせて攻撃すれば落すことも可能になります」


「だが、実際にはその倍以上じゃ」

「はい。その時はアルテナム村の部隊が次の陽動部隊となるわけです」


「2重の陽動を掛けると?」

「ミクトス村の南を考えると3重の陽動を考えているのかも知れません。いずれにせよ、本体は西からやってきます。重装歩兵と騎士達の騎馬隊で阻止しなければなりませんから、陽動部隊を早々と退散させて、西に部隊を移動する必要が出てきます」


 現場を見ずに作戦を立てれば、どういう事になるか分からせてやろう。

 マデニアム王国では俺と同じように地図を広げて駒を並べているだろう。その地図に俺達の状況がどれだけ書かれているかが問題だな。

 使者を2度立てたんだから、それなりの状況図が描かれているはずだ。だが、そこに詳しい地形は掛かれていない。


「我の書状はちゃんと届いたのじゃろうか? バンターはこの後が大変じゃと言うておったが」

「俺の思い過ごしであれば良いんですけどね。余計な事をやってくれると思ってますよ」


 2方面作戦を考えないだけマシかも知れない。

 とはいえ、旧カルディナ王国の混迷は免れそうもないな。


その夜、ラディさんの部隊から北の砦より騎馬隊が出撃したとの連絡が入った。

こちらの考え通りに動いてくれそうだ。

直ぐに、ザイラスさんと北の砦を守るネルサンさんに連絡を入れる。

北の森を迂回する軽装歩兵だと厄介だが、騎馬隊は森を抜けられないだろう。とは言え、どんな手を使ってくるかは襲撃を受けないと分からない。


「バンターの言う通りにやってきたのう。となると明日は南からになるのじゃろうか?」

「本来ならそうなるでしょうけど、騎馬隊の規模がまだ分かりません。明日の明け方なら、南からの攻撃は無いでしょう。夕暮れ時なら連動します」


 まだ、アルテナム村の動きが無い。

 王都から出発した早馬が何らかの指示を与えてはいるのだろうが、見張りからの知らせはまだだ。


 翌日、自室の扉を叩く音で目が覚めた。ミューちゃんが完全武装姿で興奮した顔を俺に向ける。

「アルテナムが動いたにゃ。皆、広間にいるにゃ」

 俺の部屋に入って、木箱の中から俺の戦装束を取り出している。

 着替えなくちゃならないから、ミューちゃんを慌てて部屋から出すと、忍び装束に着替えて背中に刀を背負う。

 腰のバッグに爆弾が1個入っているけど、これは内緒の品だ。

 なるべく使わないでおきたいものだけどね。


 鎖帷子を下に着るから少し重いのが難点だが、ラディさん達はこの装束で軽々と飛んだり跳ねたり出来るんだよな。ネコ族の身体能力は驚くばかりだ。

 頭に鎖帷子を中に仕込んだ頭巾を被り、マスクは置いておこう。準備が出来たところで広間に向かう。


 ミューちゃんの言う通り、広間には砦に残った部隊長と王女様達が戦支度で揃っている。

 俺がいつもの席に着くと、ミューちゃんが朝食を準備してくれたけど、まだ顔も洗っていないぞ。


「昨夜は騎馬隊の突撃は無かったようじゃ。やはり今夜と言う事になろう」

「アルテナム村の部隊が動いたと?」

「このように移動しておる。2個中隊と2個小隊が間道に向かい、2個小隊が森の中で分離したそうじゃ。間道をゆっくりと進む部隊に監視兵が張り付いておる」


 2個小隊なら十分に対処できそうだ。

 西に2個分隊を移動することもできるだろう。まあ、敵を退けた後と言う事にはなるだろうが……。


 スープでパンを流し込むように食べ終えると、ミューちゃんがお茶のカップを渡してくれる。ポットを持ってテーブルを回り、各自のカップにも注ぎ足しているようだ。

 

「とりあえず、馬車に水と食料を積んでおいてください。パンは明日の分まで焼いて配っておけば良いでしょう。夕食は戦場になるかも知れませんよ」

「だいじょうぶじゃ。すでに手配しておる。荷馬車には我等と魔導士部隊。それに軽装歩兵が15名になるぞ。砦はログナが2個分隊を率いておる」


「南の陽動が2個小隊ですから、森に退ければ2個分隊を砦に移動できます。もう少し大勢で来ると思っていたんですが、敵も森からの攻撃は無理があると判断したのでしょう」


 鬱蒼とした森を大部隊が抜けるのは時間が掛かるし、森に火を放たれたら全滅しかねない。ある程度の作戦能力はあるんだろう。それでも俺達の兵力を分散させるために少数の部隊を森に放ったようだ。


「俺達の当座の戦いは砦の上からになります。敵の弓兵には十分注意してください。引き寄せて石弓で狙撃すれば良いでしょう。治癒魔法の使い手を3人程集めてくれませんか?」

「救護所と言う事ですね。私と見習い、それにフィーナを使います。フィーナの部下はどうしますか?」

「石弓を使うことが出来ます。5人で門の矢狭間に陣取ってくれればありがたいです」


 エミルダさんが救護所を担当して貰えるのはありがたい。ナイチンゲールン精神は無いようだから、俺達だけの救護所になる。


「石弓が5人とはありがたい増援ですな。私も1分隊で門の周辺を守りますから、ご安心ください」

 ログナさんが俺の心配を少し和らげてくれた。

 とは言っても、山賊行為をしていた時は崖の上から石弓を使ってくれたんだ。かなり期待できるんじゃないかな。


「南の陣地から連絡です。アルデス砦に軽装歩兵1個分隊を送るそうです。ミクトス村からの民兵が2個分隊から3個分隊に増えたと言っていました」


 通信兵が俺達にそれだけ伝えると広間を出て行った。

 ミクトス村の守りは固いと言う事なんだろう。増援はありがたい話だ。

 どうにか1個小隊規模になりそうだ。そう簡単に砦を破ることは出来ないぞ。


「敵は大部隊ですが、関所を破壊するまでに時間が掛かります。坂の上からたっぷりと火の玉を転がしてあげましょう。間道が明るくなりますから俺達の攻撃がし易くなります」

「すでに準備は出来ております。20個を最初に落として、その後は順次と言う事で部下に指示しておきました。我等重装歩兵が砦の南に位置します。2つ目の柵を越えるようであれば急いで砦に移動するつもりです」


 砦の東には逆茂木を並べてある。坂を上って逆茂木に突っ込む兵はいないだろう。砦を囲む事に専念するに違いない。万が一砦を無視しても、夜には村の方向が分からないはずだ。


「ゆっくり待ちましょう。戦は向こうがやって来ないと始まりません。砦から敵部隊が見えてからでも十分間に合いますよ」

「昼食をずらして、早めの夕食とします。バンターさんの話では今夜と言う事ですね」


「夕暮れ時となるでしょう。深夜では部隊指揮が難しくなります。大まかな指示を与えて明日の未明にそれを確認するという流れを敵は持っていると思います」

「我等のように夜でも遠くに指示が出来る手段を持っておらぬからのう。あれは便利じゃ」


 通信手段に興味を持ったオブリーさんが、王女様に色々と質問を始めたようだ。

 クレーブル王国にもそんな方法は無いはずだ。

 2人で広間を出て行ったのは、そのやり方を実際に見せるつもりに違いない。光通信が広がるのは意外と早いかも知れないな。



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