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SA-067 敵の敵は味方?


「バンターの進言に考えてはいるのじゃが……。中々良い考えが浮かばぬ」

「ほう、王女様にどのような進言をしたのですか?」

「戦の後を考えよとな。すでにバンターの頭の中では次の戦では無く、その後を考えておる。それを言われると、かつてのカルディナ王国の治世がどのように行われていたかを思い出しておるのじゃが、中々難しいところがあるのじゃ」


 王女様の言葉に、皆の視線が俺を向く。

 おもしろそうな顔や、驚いたような顔をしているな。


「さすがと言いますか、驚くかぎりですね。すでに戦の後をお考えとは……」

「まあ、さすがに細部までを考えるとは行きませんが、王国を興すとなればある程度の下地作りを始めなければいけないでしょうね。すでに村が2つ出来ています。我らの国民は2千を超えるのも直ぐでしょう。暮らす上での決め事は、将来の王国の治世の元になると言う事です」

 トーレルさんの言葉に、何故今それを考える必要があるかを説明した。


「山賊時代が良かったようにも思うが、バンターの言いたい事も分かるつもりだ。幸いにもエミルダ様もいらっしゃる。王女様も考え過ぎずに、バンターと相談してエミルダ様の意見を聞いても良いのではありませんか?」


ザイラスさんは、責任放棄を宣言してるぞ。 

 少しは協力で来ても、やはり王女様の決断と言うところじゃないかな。エミルダさんも王女様がしっかりと考えて決断をしたならば、それを否定することは無いと思うんだけどね。


「ある意味、王女様の宿題と言うところです。少なくとも数年後には王国の再興となるよう、我ら一同頑張るつもりです。その後は2度と他国に攻め込まれぬよう、王国の領民が楽しく日々を送れるようどのような治世を行うか、十分に考えてください。直ぐに答えは出ないでしょう。簡単に出るような治世でも困ります」


 俺の言葉に一同が頷いてくれる。

 ある意味、兵士だからな。命じられたことをしっかりと務めることは身についているんだろうけど、他の者達を導くという、命令とは異なる人の動かし方は不得意なんだろう。それでも、王女様を中心に治世を進めたいという気持ちは一致している。


「そうじゃな。色々と聞いてみるつもりじゃ。我1人で考えるよりも、皆の考えも参考にしてみたいと思う」


 そんな事を言うから、ザイラスさん達が微笑んでいるぞ。一人で考え込まないって事は良い事なんだろうが、他人に頼るのもどうかと思うな。

 だけど、大戦の前にこんな話ができると言うのも、俺達にゆとりがあるからなんだろう。どの顔を見ても悲壮感を表情に出している者はいない。

 未来の王国の姿を思い描いて微笑んでいる者達ばかりだ。


「よろしいですかな? 数年先の話よりも、数日後の話をしたいと思います」

 ラディさんの言葉に、全員の微笑みが消えてラディさんを見つめる。

「マデニアム王国からタルネスが戻ってきました。彼の伝えた話をここで披露します……」


 どうやら、教団との確執はマデニアム王国内では起こっていないようだ。引き続き教団の鑑札が有効に使えるらしい。その中で、第2回目の徴兵が行われたらしい。さすがに今回は1個大隊規模だが、連合王国全体で行われたことで3個大隊が新たに作られるとの事だ。


「古参兵の三分の一を引き抜くそうです。それによって、精鋭が2個大隊作られるでしょう。峠での嫌がらせがどの程度有効かは、次の部隊では分かりかねます」

「たぶん減らせても1個小隊規模だろうな。問題は、士気の高い部隊がやって来る事だ。それが俺達にぶつかって来る事になるだろうな。カルディナ王国内で俺達と争える部隊数は1個大隊を少し出たぐらいだろう。指揮が低下した部隊だが陽動には有効だ」


「それだと、4個大隊を相手にすることになるぞ!」

 ザイラスさんの言葉に全員が鋭い視線を俺に向ける。


「ええ、でも俺達を攻略するには一度に部隊を投入できないと言う最大の弱点は依然として存在します。2つの村から民兵を募れば1個小隊にはなるでしょう。石弓を持たせればかなり有効に使えます。

 重装歩兵と民兵を拠点防衛に、騎馬隊を遊撃隊に、更に軽装歩兵を荷馬車に乗せて、敵の攻撃箇所に合わせて移動運用を図れば、少ない人員で陽動部隊にも主力にも耐えられるでしょう」


「馬で走り回る事になるな」

「ええ、ですからザイラスさん達は攻撃陣形を取ることになります。車掛かりで矢を射込んでください。矢の補給はあらかじめ何カ所かに荷車を置いておくことになります。軽装歩兵の荷馬車部隊も、荷車に荷物を載せられますから長期間単独で運用ができます」


「バンター殿は、騎馬隊の不足を軽装歩兵で補うおつもりですか?」

「どちらかと言うと、防衛陣の人数不足の補完です。たぶん西の荒地が主戦場になるでしょう。それに対する防衛陣はアルデス砦と新しく作った北の村までの柵が基本になります……」


 地図を広げて現状の柵を示す。

 北の村の外に設けた丸太作りの塀は高さが2mにも満たないが頑丈なものだ。アルデス砦もそう簡単に落ちる砦では無い。

 両端の要所に2個分隊の重装歩兵をおけば、数kmの柵の中央にちょっとした出城を作れるだろう。そこに重装歩兵1個小隊を置く。

 周囲100m程は防衛できそうだが、大きく穴が開いているように敵には見えるはずだ。その防衛を担当するのがザイラスさん達になる。

 軽装歩兵は2個分隊をミクトス村の南に作った防衛陣に置く。敵の陽動部隊に備えるためだ。狼の巣穴方向からの襲来も考えられるが、ミクトス村の民兵で足止めできるだろう。荷馬車部隊は、それら部隊の補完を行うものだ。

 

「軽装歩兵の分隊は5分隊ですから、1分隊は砦に残します。砦の通信兵にも弓を渡してください。マリアンさんの魔導士部隊は俺と一緒に荷馬車部隊に編入です」

「私はどこを守りますかな?」

 珍しく、ラディさんが俺に質問を投げる。


「ここです。敵の後部に位置する輜重を焼いてください。まだ、爆弾が残ってますよね?」

「3本を残していますが……。おもしろそうな作戦ですね。準備だけは早めにしておきます」


 周りの連中が呆れたような顔をしているけど、前回だってここで行われた戦に注意が向けられた時に北の砦から囚人を救出している。その作戦の変形なんだけどな。


「全く、バンターが味方で良かったぞ。バンターならば周辺諸国を全て征服できるんじゃないか?」

「そんな恨まれることはしませんよ。小さな王国ですけどそれなりに均衡が取れていましたからね。ザイラスさんだって、攻撃してきたマデニアム王国に攻め入ろうとは考えていないでしょう?」


 俺の質問に苦笑いをしながら頷いている。

 他国を攻めるのは容易だが、その後始末を考えると容易でないと言う事が分かって来たんだろう。

 俺達の戦は、旧カルディナ王国の再興で十分なはずだ。


「民兵の募集と訓練を始めないといけませんね。それも時間がありません」

「矢とボルトの制作も急務じゃな。前の戦でかなり使ったが、回収した矢とボルトもある。村で作れる数は1日数十というところじゃ。村人にも手伝って貰わねばなるまい。振舞い酒位は用意して欲しいものじゃ」


 ドワーフの爺さん達は村人との付き合いも深くなってるようだな。

 樽を1つ届ける位はだいじょうぶだろう。後でフィーナさんに頼んでおこう。


「外に質問はありませんか? 重装歩兵の皆さんには大変でしょうが、北の村での民兵募集と防衛陣の構築をお願いします。騎士の皆さんには西の柵と、簡単な空堀を重装歩兵から引き継いで作ってください。軽装歩兵は南に対する備えをお願いします」


 特に質問は無いようだ。

 カップの残りのワインを開けて皆が広間を出ていく。

 残ったのは広間に続く左右の部屋に自室のある俺達だけだ。ミューちゃん達がお茶のカップを改めて配り、ワインカップを回収している。


「やはり兵力が足りんか……」

「相手もそうですよ。一見、大兵力がカルディナに集まっているように見えますが、予備兵力を俺達に使えば、3方の王国が黙っていないでしょう」

「動かぬ王国も我らの味方と考えているのか?」


「味方とは言いませんけど、助かっているのも確かです。南の砦から軍を引けば、ウイルさん達が2個中隊の騎兵を連れてこちらに向かってきますよ。西の砦や王都の兵力を落してもウォーラム、トーレスティがどう出るか分かりませんからね」


 そんな説明をする俺の顔を、トーレルさんが笑顔で見ながらお茶を飲んでいる。

 いつも一歩下がって俺の行動を見ているんだよな。エミルダさんも似たところがあるけど、どちらかと言うと俺よりも王女様を見ている方が多い。


「敵の敵は味方……。フェンドール殿の残した言葉ですが、バンター殿の作戦立案を見ると、それが良く分かりますね。たった1行の言葉でしたが、ずっと悩んでいた一節でした」

「戦ばかりではありませんよ。政争の駆け引きにもよく使われる言葉なのです。私はずっと貴族間の争いごとを他の視点から見た格言だと思っていました」


 単純な格言だから応用範囲が広いと言う事なんだろう。

 兵法書にはそんな記載が多く見られる。必ずしも戦だけとは限らないと言うことだな。他と競合する時にも応用が効く言葉がたくさんある。まあ、それも一種の戦と考えれば確かに兵法書なんだけどね。


 翌日、各部隊が自分達の仕事を独自に始めたようだ。狼の巣穴からも少しずつ部隊がやって来る。

 現在残っているのは2個分隊と監視兵に通信兵らしい。敵の増援を確認したところで、更に部隊を縮小して行けば良い。今でも、夜逃げして来る農民がたまにいるらしいから、できるだけ保護してあげたいからな。


 重装歩兵がカタパルトを西の陣地に運んでいく。

 俺達はカナトルに乗って状況を見ていたのだが、王女様は運ばれていくカタパルトを見てちょっと寂しそうだ。

 前の戦ではだいぶ活躍したらしいからな。それが砦の防衛から消えるのが寂しいのかもしれない。


 そんな光景を眺めながら東に向かってカナトルを進める。

 森を見下ろす高台に作った陣の視察に行くところだ。今まで無防備だった場所だから、軽装歩兵が総動員して柵や陣地を作っているようだ。村人も手伝いに来てくれているらしい。その状況視察に向かうところだ。



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