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SA-062 視察はポニーに乗って


 夕食が終わったところで、各部隊長が集まって来る。

 騎士を率いるザイラスさんにトーレルさん。重装歩兵のオットーさんにレイトルさんは兄弟だったな。軽装歩兵はグンターさんにレビットさんだ。浸透部隊はラディさん。それ以外に、王女様とマリアンさん最後は俺になる。

 テーブルに10人が座り、壁際のベンチに筆頭分隊長達が座っている。

 テーブルをもう少し大きくした方が良いのかもしれないな。

 

「バンターの奇略で新たにレイトル達が仲間になった。峠の砦はオットーと交替で、マデニアムの荷を奪って欲しい。懇意の商人との荷の受け渡しも頼むぞ。

 アルデス砦には残りを置くことになるが、今回の戦で敵を退けている。次は更なる大軍が押し寄せるはずだ」

「ですが、今回やって来たのは、西も南もおよそ2個中隊でした。やはり、爆弾を矢で射たのが良かったのでしょうか?」


 ザイラスさんの言葉にグンターさんが確認している。

 それもあるだろうけど、やはり一番の原因は攻めずらい場所に砦を作ったからだろうな。

 各砦に対して行ったザイラスさん達の嫌がらせも効果があったに違いない。

 マデニアム王国から4個大隊の増援を受けても、それなりの被害を与えたという事になるんだろう。

 だが、それでも1個大隊程度の被害のはずだ。

 やはり南の砦と王都に兵力を集中しているとしか考えられないな。

 既存の進駐軍と合わせれば5個大隊は残っている筈。それを2個中隊とはどういうことだ?


「やはりマデニアムの作戦が見えてきませんね。俺達の銀山は喉から手が出るほどに欲しいはず。それを考えれば兵力が遥かに大きいマデニアム軍が力攻めをしてもおかしくはないんですけどね」

「他の作戦を考えていると言う事になるのか?」

「たぶん……。この場合クレーブル王国へ攻め入る可能性が大きくなるんですが、クレーブル王国は東に部隊を展開している筈です。カルディア王国との接点である石橋も対岸に1個大隊を布陣していますから、船で渡るにしても上陸地点を急襲されてしまいます」


「やはり、マデニアムの内情を探るしか無さそうじゃ。ラディよ、よろしく頼むぞ」

「了解です。私も少し気になる事がありますので、教団の祠を訪ねてみようと思っています」


 ラディさんの気になることが問題だな。

「ひょっとして教団とマデニアム王国の関わり合いですか?」

 俺の言葉に皆が俺とラディさんを交互に見ている。


「そうです。俺達騎士団は教団との関わり合いを示しています。その騎士団を攻撃したとなれば、マデニアム王国内の教団の神官達が心配です。カルディナ王国内の神官達も心配ではありますが、すでに行動を制限されていますから、これ以上の干渉は行わないと思うのですが……」


 教団への攻撃がカルディナ王国内に限定されているかどうかは、確かに確認する必要がありそうだ。

 教団の鑑札を使ったクレーブル王国とのつながりが、途切れてしまいそうだからな。


「それで、バンターはマデニアム軍が次の攻撃を行うのはいつごろになると思っているのだ?」

「たぶん、冬になるでしょう。本国で立案した作戦を行って敗退したばかりか、北の砦を攻撃されて銀鉱山を破壊されたことになります。次は凝った作戦で来るんでしょうけどね……」


 とはいえ、マデニアム軍は再び戦力不足に陥っているんじゃないかな?

 すでにクレーブル王国への侵略の頃合いを探っていた筈だ。ここで戦力をすり潰していたら、いつになってもクレーブルには攻め込めない。


 俺達の攻略に2個中隊程度の兵力を使ったとなると、次は1個大隊を越えそうだ。

 カルディナ王国の全マデニアム王国軍は少なくとも5個大隊。南進を図るためには最低2個大隊。西のウォーラム王国への睨みを効かせるために1個大隊。トーレスティ国境と王都の守りに1個大隊だとすれば、俺達を相手にできる兵力は1個大隊となる。

 南進部隊から2個中隊は回せるだろうが、それまでだろうな。

 後は、マデニアム王国との連合軍から更なる増援を持ってくることになるが、東のトルニア王国との国境警備をおろそかにはできないだろう。

 精々、1個大隊を派遣できるかってところかな?

 それも、マデニアム王国の教団神官を訪ねれば見えてくるかも知れない。


「次の戦にしばらく時間があると思っています。マデニアム王国内も気になりますが、ふもとの村がもっと気になります。次の部隊がやって来ると村を蹂躙しかねません。村人の避難も考えておくべきでしょう」

「少なくとも3千人を超えるぞ。俺達の村で吸収しきれないと思うが?」


「西の柵から少し離れた場所に新たな村を作る事は出来るでしょう。再び西から攻め手来る可能性は高いですけど、騎馬隊がおれば安心できます」

「そうじゃな。民衆が戦に巻き込まれるのは問題じゃ。間道をいつまでも封鎖できるとは思えぬ。封鎖が解かれたら、村長と話をしても良さそうじゃ」


 戦の規模が大きくなれば、民間人の保護も考えないといけないな。

 それにしても、3千人とはな……。先行して住居を作らねばなるまい。冬に近付いているからなおさらだ。


「軽装歩兵で家を作れないか? 丸太運びは俺達がやろう」

 ザイラスさんの言葉にグンターさん達が頷いた。

「我等重装歩兵も手伝いますぞ! 常に2個小隊で作業をすれば1個小隊を砦に残せます。何時敵が攻めてこないとも限りませんが、最低の守りで作業を進めましょう」


 常に80人以上で作業をするなら結構早くできそうだな。暖房用の暖炉は無理でも囲炉裏なら何とかなりそうだ。食事も作れるから都合が良いだろう。

 

 翌日から、第二の村造りが始まる。

 騎士達が荷馬車を引いて森に向かい、もう1台の荷馬車に杭やノコギリ、斧等を積んで村の建設予定地に軽装歩兵2個小隊が向かった。

 重装歩兵1個小隊は砦に残って南と西を監視する。


 俺は次の戦に備えて、防衛に弱点が無いかを地図を見ながら入念に確認を始めた。

 だけど、どう考えても南から1個大隊で攻め入るには無理があるぞ。

 途中にある隘路が一度にこの荒地に入る人数を制限してしまう。

 隘路の出口に火を点けたカゴを並べるだけで隘路は大渋滞。そこに爆弾でも投げ込まれたら一気に小隊単位で虐殺できそうだ。

 となると、西の荒地からやって来るのが主力になるのか?

 だが、西の荒地にはもっと問題がある。入るための道が無いのだ。1個大隊を賄う少量の輸送が困難になってしまう。

 次の戦は睨み合いが続くだろう。そうなると、飢えによる兵士の士気の低下は馬鹿に出来ない。

 もう一つの方法として狼の巣穴を落して東から攻め入ると言う手があるが、それだと大戦力を移動できない。精々1個中隊と言ったところだろう。重装歩兵が1個小隊で守っているから、抜かれるにしても俺達で十分に迎撃態勢が整えられるだろう。


 そんな風に考えると、この砦を攻めるにはかなり難しくなるぞ。

 俺だったらどうやって攻略するだろう。逆の立場で考えてみるか……。


 やはり陽動が必要になるな。相手の戦力が乏しいのだから、陽動は効果が高い。

 その陽動を仕掛ける場所は、西って事になる。だがそれ以外の陽動を行える箇所は無いのだろうか?

 

 峠の街道の出口付近はなだらかな谷間になっている。

 ここを上ってくればミクトス村が目の前だ。遮るものは畑だけになってしまう。ここは一度確認しておく必要がありそうだな。

 軽装歩兵が移動できるか、騎馬はどうなのか……。

 それ以外の場所と言うと、西の並んだ2筋の柵の西側だから、西の陽動部隊と変わりが無さそうだ。


 翌日、砦の東を確認しに行くと言ったら、王女様とオブリ-さんも同行することになってしまった。当然ミューちゃんとメイリーちゃんも一緒になるわけだが……。


「馬が無いのう……」

「小さいのがいるにゃ!」

 俺達が中庭で待っていると、ミューちゃん達が引いてきたのは、ポニーのような小柄でずんぐりした馬だった。確か、カナトルとか言ってたな。


 思わず顔を見合わせてしまったが、カナトルの背中にはちゃんと鞍が乗っている。

 だけど、これだとあぶみから地面まで30cmも無いぞ。優しそうな顔をしてるから振り落とされるようなことにはならないだろうけど……。


「カナトルは誰でも乗れるにゃ。曲がりたい方の手綱を引けば良いにゃ。両方引けば泊まってくれるにゃ。進む時はお尻を手で叩けば良いにゃ」


 ミューちゃんが簡単に教えてくれるけど、果たして上手く行くのかどうか。だけど、ちゃんと乗れれば、スクーターを手に入れたような感じになるのかな? 行動範囲が一気に広がりそうだ。

 ここは練習がてらにカナトルの扱い方を学ぶとしよう。


 ミューちゃんが渡してくれた手綱を握ってカナトルの鞍にまたがる。

 ほんのちょっと目線が上がった位だな。地面に近いから振り落とされても大怪我を負わずに済みそうだ。

 首を回して俺を見るカナトルの大きな目に気が付いて、軽く首筋を撫でてやる。

 嬉しそうに首を伸ばしているから、やはり温厚な動物のようだ。


「バンターさん。どこに向かうにゃ?」

「ああ、言ってなかったね。砦の南に広がる森の縁を東に向かってくれ。敵が攻めてきそうな場所があるか確認するんだ」


 ミューちゃんは俺に頷くと、皆が乗馬したことを確認して俺達を先導するように砦の門を潜っていく。

 確か、前進はお尻を叩くんだったな。

 ポンポンと片手でカナトルのお尻を叩くと、前を行く王女様の後ろに付いてカナトルが歩きだした。

 小さな馬だから歩幅も小さいのだろう。あまり上下動も感じられない。

 ちょこちょことした足取りで進んでいくぞ。

 これなら、俺にも何とかなりそうだ。走らせられれば俺にも騎馬襲撃に参加できそうな感じだな。

 俺達が歩くよりも速い速度で荒れ地を進んでくれる。来春に備えて畑に灰を捲いている農夫が俺達を見付けて手を振ってくれる。

 そんな農夫達に王女様達が一生懸命に手を振っているのも微笑ましい感じだ。


 やがて、緩やかな丘を下ると鬱蒼とした森が見えてきた。

 あまり人が入らないようだから、それだけで1つの要害になりそうだな。晩秋になっても葉がそれほど落ちていない。針葉樹が多いのだろう。

 


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