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SA-061 砦の火事と銀鉱山の破壊


 捕われていた元重装歩兵達は、監視兵の装備を奪ってこれからの行軍が容易なものにしようとしていた。

 ブーツすら満足じゃないからな。山道を歩けるように革ヨロイを短剣で切取ってサンダルのようなものを作っている者までいる。

 隣の精錬所に爆弾を仕掛けてきたネコ族の女性達が、使えそうな装備を持ってきたので、それも皆で分け合っている。

 こんな事なら、ブーツだけでも運んで来れば良かったな。

 それでもどうにか、足ごしらえが出来たようだ。後は、仕掛けが作動するのを待つだけになる。


「北門の鍵は開いていますから、監視兵の詰所の窓から出て塀伝いに北門まで移動してもだいじょうぶだと思いますが?」

「いや、当初の予定通りやろう。南門近くで騒ぎが起これば砦の注意が南に向かう。その隙に北門から出るのが一番都合が良い。上手く行けば誰にも見つからないし、見つかったら、石弓で爆弾を発射すれば良い。北門を出たら真っ直ぐに北の森に逃げ込む」


「ちょっと来てください。誰かがやってきます!」

「監視兵の交替なのか?」


 そんな事を言いながらラディさん達が監視兵の屯所の反対側に皆を誘導する。女性達が石弓にボルトを乗せて牢の通路の闇に隠れた。

 ラディさんと俺が扉の影に隠れて彼らの到来を待つ。足音が近付いて扉の前に止まった。

 その時、大きな爆発音が聞こえてきた。途端に足音が離れていく。

 扉の隙間から外を見ると火事が起きているようだ。南が赤く見える。


「脱出するぞ。先頭は俺が行く。ラディさんは殿を頼む。最後に精錬所の導火線に火を点けてくれ」

 監視兵の屯所の奥にある窓を開けて、そこから外に出ると塀と建物の間を素早く移動する。

 俺一人で先に立ち北門の扉を半開にすると、重装歩兵達を次々と外に出す。

 ネコ族の数人が先導しているから、迷子にはならないだろう。最後の重装歩兵が脱出したところで、導火線に火を点けようと精錬所にラディさんが入っていく。

 精錬所からラディさんが飛び出してきたが、守備兵の屯所の火事に皆の目が向いているから、誰も俺達に気が付く者がいないようだ。

 俺達も急いで外に出ると北門を閉めておく。これでしばらくは俺達が逃げたことが分からないはずだ。


 ラディさんと一緒に北に向かって荒地を走る。ともすれば置いて行かれそうな走りだ。

 砦から数百m程離れた場所で先に脱出した連中が俺達を待っていてくれた。

 彼らの姿が見えた時、砦から爆発音が聞こえてくる。

 あれは、坑道と精錬所に仕掛けた爆弾なのだろう。館に仕掛けたのはもう少し後になりそうだ。


 皆と合流したところで、今度はゆっくりと北に歩く。

 俺達を追ってこないなら、少しでも体力を温存しよう。明日は長距離を歩かねばならない。

 北の林にたどり着いたところで、ラディさんが笛を吹いた。2度大きく吹くと、少し離れた場所から同じように2笛の音が2度聞こえてくる。

 その方向に俺達が進むと、少し窪んだところで野営をしている軽装歩兵達がいた。


「成功しましたね。砦の火事は大きくなっていますよ。2つ火災の炎が上がりましたが、仕掛けは2か所だけですか?」

「もう一つは坑道に仕掛けてきた。坑道だから火事にはならなかったんじゃないかな? だけどこれで北の砦は終わったな」


 行動の瓦礫を撤去して再び銀を採掘するには時間が掛かるだろう。それに採掘をしていた囚人達を俺達が解放したからな。再び採掘するには作業員を集めるだけでも大変だろう。


大鍋で煮込んだシチューとパンが皆に配られる。久しぶりにちゃんとした食事にありついたんだろう。皆、むさぼるような勢いで食事をしている。


 その中にいるレイトルさんをどうにか見つけて、これからの行動を伝える。

「明日の早朝にはこの地を発って東に向かう。朝食と昼食は簡単なものになってしまうけど、それは我慢してくれ。途中の山で一泊すれば明後日には俺達の砦に着けると思う」

「ザイラス殿が騎士団長と言う事ですがどんな組織なんです?」


 簡単な説明をして、王女様が俺達のところにいると聞いて感涙を流し始めた。

 2年以上も苦労したんだからな。希望も無い状態でその日を生きて来たんだろう。王女様がいるとなればカルディナ王国再興の希望が見えてくる。それが嬉しかったに違いない。

 あくる日、俺達は夜が明ける前に東に向かって歩き出す。

 もっと北に向かって森が尽きた荒地を歩こうとしていたのだが、助け出した重装歩兵達のブーツがあまりに酷すぎる。このまま下草がある林の中を歩くことにした。


「北門から追手が出てきませんね」

「それどころじゃないだろうな。屯所が焼かれて館まで火事になってる。その復旧で忙しいはずさ。それにあの火事だからな、かなり被害があったと思うよ」


 兵士と貴族なら死んでも誰も気に留めないだろうが、砦内で暮らしていた領民に被害が出ていないことを祈るばかりだ。区画によって住み分けが出来ていたとザイラスさんが言っていたからたぶんだいじょうぶだとは思うんだけど、ちょっと心配だな。


その日の昼頃、東からゆっくりとやって来る騎馬隊と歩兵の姿が見えた。

かなり、痛手を受けているらしく、馬上に腹ばいになっている者もいる。

陽動は失敗したようだな。それに引き上げたとなれば陽動の意味が無くなっているとも取れる。

ザイラスさん達は上手く凌いでくれたようだ。


途中の林で一泊して、翌日の昼には軽装歩兵達が作った柵を林の中から迂回する。

林から出ると、遠くに俺達の砦が見えてきた。煙が上がっていないから、砦も無事に違いない。

俺達を見付けたんだろう、騎馬が数騎走ってきた。


「バンター殿達ですね。直ぐに荷馬車を用意させます」

「砦に着いたら食事が取れるようにお願いするよ。それと彼らの装備だ。ちょっとひどすぎるんだよな」

「それも何とかしましょう。では後ほど……」


 騎馬は来た時よりも速く帰っていく。

 もうすぐ食事が取れると聞いて、元囚人達の歩みも早くなった気がするな。

 やがて荷馬車が数台やって来た。元囚人達を先に乗せて俺達は次の荷車を待つことにする。


 昼過ぎにはどうにか俺達も荷車に乗ることができた。がたごとと揺られながら砦にたどり着く。

 報告は着替えを済ませてからだ。

 広間に入って、王女様達に軽く頭を下げ、作戦成功を知らせるとすぐさま自室に向かう。【クリーナ】の魔法で忍び装束と自分の汚れを落としたところで、綿の上下に着替える。

 靴はブーツのままだが、やはりゆっくり過ごすときにはサンダルが欲しいな。作ってくれる職人を見付けたいものだ。


 広間に向かい、いつもの席に座るとミューちゃんがお茶を出してくれた。

 ずっと水筒の水だけだったからな。ゆっくりと味わいながら頂く。


「バンターの方も成功と言ったところか?」

「ええ、57人を救出しました。もう少し早めに行けば良かったと後悔しています」

「バンターがいたから、救出できたのだ。我等ではどうにもできなかったろう」


 王女様の言葉に皆が頷いている。1個大隊が詰めた砦を強襲するなんて無謀以外の何ものでも無いからな。

 だけど救出を待ち望みながら息絶えた者も多かったに違いない。それは俺達の胸に刻んでおこう。


「昨日、西に向かう騎馬隊と歩兵を見掛けました。北の砦を出た部隊はおよそ2個中隊ですが……」

「西の柵を挟んで戦ったのだが、長弓を使った一撃離脱は戦法としてうまく使うことができたぞ。奴らの矢が届かぬ場所から矢を放てるからな。あの長いヤジリを受けてはヨロイも突き抜ける」


 鎧通しを放ったと言う事か。騎馬隊の総数は80騎にもなる。一斉に放てば面を制圧できるからな。


「我等も上手く戦をすることができたぞ。何のことは無い、関所を破られぬ限り砦は安泰と言う事が良く理解できた。間道は緩やかな谷底じゃからな。斜面を登る敵には容赦なく矢を与えたぞ」


 地形を上手く利用できたという事だ。

 問題は戦の被害判定になるのだが……。


「南から侵入してきた敵軍の損害はおよそ1個中隊。西からの部隊は2個小隊と言ったところでしょう。我等騎士団の損害は重軽傷者が20人程出ましたが、死者はおりません。傷付いた者も3日程で部隊に復帰できるでしょう」


「俺達の方は北の砦の屯所と館を焼いた。銀鉱山の坑道を破壊して、捕われていた重装歩兵を救出、救出時に敵の監視兵数名を殺害した」

「まて! 本当に坑道を破壊したのか?」


「爆弾を仕掛けて精錬所共に破壊したけど、入り口付近が崩れただけだろう。だけど再び採掘するにはしばらく時間が掛かる筈だ」

「益々俺達に向かってくるぞ」

「だが、簡単な作りの割には攻めるのが難しいぞ。バンターがここに決めたのが理解できる」


「重装歩兵達には衣服を支給して食事を与えておる。夕食時には小隊長をここに呼ぶことにするぞ」

「それですが、だいぶ人数も増えました。広間での食事と打ちあわせは各部隊の小隊長と副官としませんと入りきれませんよ」


 王女様にトーレルさんが意見している。確かに窮屈になってきたからな。分隊長は必要に応じてで良いのかもしれない。副官を持たなければ筆頭分隊長を連れてくるはずだ。


 作戦地図を眺めると、すでに攻め込んだマデニアム王国軍は引き返したようだ。間道の出口付近に1個中隊が配置されているけど、これは俺達の出陣を迎撃するためのものだろう。ザイラスさん達の正義の味方はしばらく中断になりそうだ。


「現状はこんな形で奴らは布陣している。このままでは俺達の食料が足りなくなるぞ」

「何ら問題ありません。俺達のもう一つの砦は無警戒のようです。峠の砦を使って物資は買い込むことができます。峠の街道の監視は十分に行ってください。それと早急に重装歩兵を狼の巣穴に移動する必要がありますね」


「明日には重装歩兵を移動できる。タルネスとの交渉も任せられるな」

「そうなると次の戦はどこになるのじゃ?」

「先ずは敵を観察しましょう。でないと裏をかかれますよ」


 俺達の実力が分かったはずだ。次はかなり凝ったことを考えるんじゃないか。

 そのためにも、マデニアム王国とカルディナ王国の敵軍の状況を知る必要が出てくる。


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