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SA-059 北の砦


 豪華な馬車3台が騎馬兵2個小隊に守られて、峠を越えてふもとの砦に到着したらしい。いよいよやって来たようだ。


「それでは、出掛けてきます。くれぐれも対応を間違わないでください。相手の呼び掛けに答えることは厳禁です。下手な答えは言い負かされて、味方の士気を下げる事になりますよ」

「ああ、無言で過ごせば良いな。矢の射程に入れば一斉に矢を放つ」


 王女様にも、ご無事で! と挨拶したところで、荷馬車に乗り込む。

 荷馬車3台に乗って幌を被せれば、夕闇の迫る街道ならただの商人と思われるはずだ。

 明日にでも戦が始まりそうだから、早めに北の砦近くに向かわねばならない。

 

 同行してくれる軽装歩兵はルーベルさんと言う30歳の分隊長が率いている。北の砦にも数年ほどいたらしいから安心できそうだ。

 街道の石畳を西に向かう荷車の荷台は、結構ガタゴトと揺れるから毛布を丸めてクッション代わりに使っているけど、このまま数時間も揺られるとお尻が痛くなりそうだ。

 ヨーテルンの町を過ぎたところで、街道をそれて北に向かう。

 北の砦に至る道路は街道並みに整備されているらしいが、相変わらずの揺れが続いている。


 突然、荷馬車が停車した。

「北の砦の明かりが見えてきました。ここで軽装歩兵を下ろします」

 ラディさんの言葉に荷台のほろをめくっって見ると、軽装歩兵が武器を携えて道路から離れて行く。

 砦を大きく迂回して砦の北門近くの森に潜伏するのだが、かなり距離があるから、砦の北の森に着くのは明け方近くになっているだろう。


 軽装歩兵が下りてしまうと、俺は御者台の方に移った。

 ネコ族の男女9人と俺、それに商人1が3台の馬車に乗っている。荷台には、安物の酒のビンが数本に、小さな箱詰めのタバコだけだ。

 王都から荷を運びにキトの砦に寄ってみたという演出なんだが、何とかなるかな?


 馬車の御者台にカンテラを吊るして、ゆっくりと北の砦に近付いて行く。

 

「打ち合わせ通りで良いんですよね?」

「ああ、裏の商人だと思わせてくれ。積荷の一部は見せないと信用しないだろうからね」


商人はタルネスさんの親戚らしい。

 あまり商売にはならないけど俺達に力を貸してくれる。


砦の南門に近付いたところで、俺達は守備兵に止められた。荷物改めは、行う時と行わない時があるらしい。今日は行っているようだが、東への陽動作戦前だから入念に行い始めたのかも知れないな。


「商人か? 積荷を見せてくれ」

商人が鑑札を見せている間に、俺は一番後ろの荷馬車まで移動して幌を巻上げて積荷を見せる。


「何だ、これっぽっちか?」

「東の街道が物騒でね。山賊に1割持ってかれてんのさ。粗々王都で売りさばいたから、この砦に足を延ばしたんだけど、売るのはこれなのさ……」


 荷車の床板を1枚外すと、横に布包みが並んでいる。


「麻薬じゃないだろうな? 打ち首だぞ」

「そんなわけあるかい。今見せてやるよ……」


 包みを1つ取り出して、片手に中身を少し取り出した。

 衛兵に手に乗せた、粗目の粉を差し出すと、一つまみ掴んでくんくんと匂いを嗅いでいる。はっとした表情で口に少し含んだところで、俺に向かってにこりと笑みを浮かべた。


「少し分けて貰えるか?」

「少しだけだぞ。これだけ運ぶのにどれだけ苦労したか……」


 恩着せがましく呟いて、小さな紙袋に中身を少し取り分けてやった。

「ありがとよ。胡椒だなんて何年振りかだ。確かに、積荷が見えなくても一財産だな。砦の連中も喜ぶだろう。雑貨屋にも降ろしといてくれよ」


 そう言って、俺の肩をポンっと叩いた。これで確認完了って事なんだろうか? 

 幌を元に戻して、砦内に荷馬車を進める。


「雑貨屋と食堂で良いでしょう。噂を聞いて砦中が明日は賑わいます」

「荷馬車から荷物は今夜中に下ろしてください。明日早く砦を出ます」


 荷馬車は広場の脇にある荷車止めに置いておくそうだ。

 深夜に荷物を移動しておけば良いな。商人は宿に泊まり、俺達は荷馬車に泊まる。

 荷物番をするために荷馬車に泊まるのはよくある事らしい。

 

 荷馬車を止めると、荷台の床板を外してカゴに布包みを放り込む。

 2つのカゴに一杯になったところで、商人が2人のネコ族の男を連れて街並みに向かって歩き出した。

 残った俺達は、近くのカマドを使って途中で集めた焚き木で食事を作り始める。

 食事を作っている女性達の近くで、少し長い棒を持って、荷車止めにあるベンチに座ってパイプを楽しむ。

 幌の中では、ラディさん達3人の男が発火装置を組み立てて袋に詰め込んでいるはずだ。

 俺達の装束と武器もまとめて床下に置いてあるが、それを着るのは深夜になってからで良い。


「荷馬車は俺達だけですね」

「ああ、何台かあると思ってたけど、それだけ商人が北の砦に回ってこないって事かな?」

「そうなると、酒とタバコも用意しておくんでしたね」


 酒は数本ずつ積んであるし、タバコの包みも50個程積んであるはずだ。王都のウr残りを演出するためだから、商人が宿に持ち込むんだろう。良い小遣い稼ぎが出来そうだな。


 門の屯所から2人の兵士が俺達の荷馬車に近付いて来る。

 棒を手元に移動してパイプを吸っていると、向こうも俺の動作に気が付いたらしい。


「別に危害を加えるつもりはないぞ。タバコがあれば分けて欲しかったんだが……」

「それなら、先ほど言ってくれれば良いのに……。商人が荷物と一緒に持って行きましたから、俺の予備が1個あるだけです。それで良ければ」

 そう言って、ベルトのバッグから握り拳位の神包みを取り出した。


「済まんな。5Lでいいんだろう?」

「私物ですからお渡しします。その代わり、たまに荷馬車にも目を向けてくれれば助かります。夜通し起きてるのは辛いですからね」

「護衛じゃ、それが当たり前だろうに。ああ、たまに見れば良いな。ありがとう」


 そう言うと、紙包みを受け取って帰って行った。

 先ず荷馬車を見ようなんて考えないだろうな。俺が見張ってることで、こっちは無警戒で良いだろう位に考えてるはずだ。

 そんなところにカゴを担いだネコ族の男が戻って来る。今度はタバコと酒を背負いカゴに入れて街並みに入って行った。


 荷車からラディさん達が出て来た。どうやら準備が終わったらしい。

 カンテラを荷馬車の後ろに下げて、荷車の底板を外して簡単なんベンチを作って座ると、ネコ族の女性が俺達にお茶を入れてくれた。


「準備は終わりました。隠すのは深夜で良いでしょう。私以下2人が残ります。明日の夜に北門で合流しましょう」

「ここの守備隊が出発した後でないと不味いぞ。もし、明日に出発しなければ、その翌日だ。3日待って出発しない時には、仕掛けを分解して北門から森に向かってくれ」


 たぶん明日には出発しないと、ふもとの砦との連携が出来なくなるはずだ。砦の奥の館は煌々と明かりが漏れている。出発の打ち合わせでもしているんじゃないかな。


 背負いカゴを担いで行ったネコ族の男が戻ったところで食事になる。

 簡単な食事だがラディさん達はこの後しばらくは保存食になるんだよな。


 食事が終わると、毛布を被ってベンチに座る。

 カンテラの近くに俺がいることで門番の兵士達は安心しているだろう。

 ネコ族の人達は荷車に入って、寝ることになるが一番離れた荷車ではラディさん達が忍び装束に着替えているはずだ。縄を撒いた土器のツボには爆薬が入っている。周囲は油を浸み込ませたぼろ布だから、爆発すれば周囲に火の粉が広がる。3個用意したけど上手く爆発するかな?

 大きさはバレーボール位だから布に包んで簡単に背負っていける。


 翌日、朝日が昇るとともに、大きく伸びをしてベンチから腰を上げる。毛布を畳んで荷車に放り投げると、ネコ族の女性達が簡単な朝食を作っていた。

 食事を終えてお茶を飲んでいると、商人がやって来る。

 これで、砦に用事はない。荷車を動かして砦を出る。

 門のところで、門番に残りものですがと言って酒のビンを渡して置く。


「ありがとうよ。お偉いさんたちが、午前中にも出掛けるらしいから、午後には飲めそうだ。お前達も早めに街道に出るんだぞ」

 思わずにんまりしてしまったが、俺が自分達を羨ましく思ったと勘違いしたようだ。同じように俺に笑いかけてくれたぞ。


 砦が見えなくなるまで南に荷馬車を走らせる。その間に荷台で忍び装束に身を改めると、武器を背負って遠くに見える砦を眺めた。

 砦が丘に隠れたところで周囲を確認して、俺達は荷馬車を下りる。

 馬の手綱を前の荷車の荷台に結び付ければ、後ろ2台の荷馬車は付いて来るはずだ。

 商人に別れを告げ、て西回りに砦の北を目指して歩き始めた。


早めに西の尾根近くに広がる林の中に入る。

 身体強化魔法の体力2割り増しは、ネコ族と行動を共にするには必携だ。

 それでも俺が遅れる訳は、彼等も身体強化の魔法を使ってるってことだな。だいぶ体の筋肉が付いたとは思うんだけど、今までの訓練がケタ違いだから、どうしようもないとあきらめる事になりそうだ。


「ここまで来れば一安心です。夜分に砦の北門付近ですから、少し休みましょう」

「足手まといがいるからな。申し訳ない。なら、砦から出掛ける連中の数を大まかにつかみたいんだが……」

「良いですよ。昼過ぎに出発すれば十分です。小さな焚き火位は出来そうですから、ゆっくり砦の南門を眺めていてください」


 砦との距離はおよそ2km程だから、数を数えられなくとも兵員の種別とおおよその数位は分かるだろう。

 アルデス砦に教えてやりたいけど、方法が無いからな。

 後で策の検証には必要だろうし、何といっても砦の残存兵力が分かるはずだ。


 小さな焚き火はあまり煙も立てずにポットのお湯を沸かしている。焚き火でパイプに火を点けると、近くの倒木に腰を下ろして、ジッと南門を眺めることにした。



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