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SA-058 準備を急がねば


 ザイラスさんから貰った北の砦の地図は、1辺が500mを超える城壁都市そのものだ。

 斜面に建造しているから、南と北では石塀の高さが身長以上に異なる。北の石塀は3mも無さそうだ。平面の地図だが、要所要所に高さが書かれているから良く分るぞ。

 砦内も平地ではなく、南に向かって下がっているようだ。

 近くの谷は、鉱山からの土砂で埋められている。

 全体を見ると、南に向かって防衛を考えているようだ。北には岩山が迫っているし、西は隣国との国境となる高い尾根がある。東は土砂を捨てる谷があるのだが、投棄した土砂で小さな道を土堤の上に作っているだけのように見える。

 結構深そうな谷だから、この土堤を越えて来る敵兵なら弓兵が1個小隊もいれば防衛出来そうだ。

 それに引き換え、南側は開けている。荒地ではあるのだろうが道路は敷石で補強され、荷馬車2台がすれ違えると書かれているから、ほとんど街道と同じに整備されているのだろう。


 これを攻略するとなれば南側に3個大隊ぐらい展開して、総掛かりで挑むことになるんだろうな。

 かなりの犠牲者が出るだろうし、住民の被害もおって知るべしという事になる。

 10人程の奇襲で囚われた兵士を救い出そうと考えているんだけど、かなり無謀に思えてきたな。


「兵舎はここで間違いないんですね?」

「確認した。問題はここだな。一度忍びこんでは見たが、監視は厳重だ」


 ラディさんが地図の一角を指で示す。そこは鉱山労働者の住居とあるが、奴隷のように扱われる囚人達を閉じ込めているのだろう。その隣に銀の製錬所が設けられている。警備は両者を合わせて行えば兵士を削減できるって事だろう。

 砦の館は立派な造りのようだ。1辺が20mもある建物だから、砦の指揮官が家族で滞在していたと言うのも分る気がする。

 

「マデニアム軍は砦に向かう炭を満載した荷車に忍んでいたようですな。2個小隊がこの辺りで荷車から飛び出したと酒場で話していました」

「1個小隊で館を制圧して、残りの連中が南の門を開いたんだろうな。周囲に隠れていた兵士がなだれ込んでは、短時間で砦の制圧が出来ただろう」

「同じ手は使えませんよ?」

「ああ、だけど少しは似て来るよ。最初に指揮官の館を奇襲するのは理にかなってるからね……」

 

 北の砦を襲うのは俺達浸透部隊が担当する。

 砦を中心に防衛線を造るのはザイラスさん達ならお手のものだろう。

 

「それで、頼んでいたものは出来た?」

「何とか……。燃焼時間はバンター殿の言うおおよそ2時間です」


 簡単な日時計だから、かなりの誤差があるだろうけど、それ位の時間があれば十分だろう。昔は時計代わりに使われたと言うし、後々も色々と楽しめそうだ。


「仕掛けるのは、兵舎になるんでしょうね?」

「ああ、大勢が南門近くに集まるはずだ。その後で館の扉を閉めて火事を起こす」


 火事を消しに警備兵が囚人を離れたすきに助け出そう。

 北門の警備は手薄になるだろうし、第2の爆発は銀の製錬所で起こせば良い。


「北門の外側に軽装歩兵を1分隊。俺達の協力者はそれだけだぞ」

「砦内は我らで十分でしょう。軽装歩兵には追い掛けて来る敵兵の始末を頼みましょう」


 ラディさんも俺達だけで十分と考えたようだ。

 総勢6人だけど、人数が多ければ良いというわけじゃないからな。

 一番問題だと考えた、脱出させた兵士をどうやって俺達の砦まで連れて来るかと言う事は、ラディさんが山脈の森を通ることを提案してくれた。ふもとの森が尽きた場所は、岩壁を前にして比較的平らな荒れ地が続いているらしい。

 体力が衰えていることを考慮しても、3日もあれば砦に着くと言う事だ。


「追手には爆弾も使えるでしょう。石弓のボルトに爆弾を括りつけたものを各自3本持っています」

「足りる?」

「手持ちは2個ですが、これは砦内で使いたいですね」

 

 基本はこれで行こう。後は臨機応変と言う事で何とかなりそうだ。

 銀鉱山の鉱石を採掘している元兵士は当初100人を越えていたらしい。現在は60人近くまで人数を減らしていると言うから、俺達の防衛戦が今期行われない場合は更に救出できる元兵士が減ってしまう。

 どうにか救出できるまでになったと言う事だが、向こうから攻めて来るのが前提なんだよな。

 準備だけは早めにと、ラディさんにお願いして俺達の打ち合わせを終了した。

 俺の部屋で2人での密談だから他に知られることは無い。

 

 広間に行くと、こっちは砦の防衛会議の最中だ。

 基本は、西をザイラスさん達が2個小隊で対応し、南は王女様とオブリーさんが重装歩兵と軽装歩兵の指揮を取る。

 村の守りは、100人以上になった村人の有志が自警団を作ってくれた。

 石弓と弓で武装しているから、東の方はだいじょうぶだろう。敵側も大部隊を展開できない地形だからな。

 

「兵力が足りぬのは、いかんともしがたいのう……」

「バンター達を使えぬのは苦しいですな。軽装歩兵を1分隊取られるのも問題です」


 色々と悩んではいるようだ。

 だけど、敵側も悩んでるに違いない。俺達を相手に消耗するわけにはいかないからな。


「ん、バンターか。そっちは何とかなったのか?」

「かなり厳しいところがありますけどね。俺達が戻っても砦が無くなっていると言う事は無いようにお願いしますよ」

 

 いつもの席に腰を下ろすと、パイプを取り出してザイラスさん達の部隊配置を眺める。

 基本に忠実ってことだろうな。関所に重装歩兵を配置し間道の両側の低い尾根に軽装歩兵を配置する。尾根の柵は3重だから騎馬隊は登って来れない。この地形を知るならば軽装歩兵を大量投入すると言う事になるんだが……。


「東西の軽装歩兵が2個分隊では……」

「東を3個分隊、西は1個分隊で十分です。関所の屯所の西にもう1つ柵を作れば、西の尾根を巡って来る敵兵はここで阻止出来ますよ。重装歩兵がほぼ1個小隊ですからね」

 

 俺の案を聞いて、オブリーさんが俺に顔を向ける。

「それでは、西を回って関所を襲う敵兵がほとんどになりますよ!」

「良いじゃないか。ここまでは来れるだろう。だけど、阻止されたら彼らの引き返す場所はどこだ?」

 

 再び激戦が続く間道に下がるだろうか? たぶん西の荒れ地に向かうだろう。だが、そこは体を休めることは出来るだろうが、水も食料も無い。


「経験豊かな指揮官なら指揮官なら、東西から火の点いたカゴを転がされたら、直ぐに下がると思うな。野心を持った指揮官なら東西の尾根を目指すだろう。だけど、簡単には登れないから、断念すると思うよ。更に登らせるような指揮官は指揮官の器ではないな」

「それはそうだろうが、たぶん西回りで押し掛けてきそうだな。屯所の西に至急柵を2重に造れ。弓と石弓が届く距離で良いだろう」


 リーダスさんに造って貰ったカタパルトは、飛距離が200m以上にもなった。これを東の尾根に並べれば、関所につながる間道を優に飛び越える。

 たとえ2個大隊がやってきても十分に戦えると思うんだけどね。


 一か月ほど何事もなく時が過ぎたところで、2回目の銀塊の輸送を行う。

 数は10本程度だが、前回と合わせれば、マデニアム王国が銀塊輸送で奪われた数を上回る。

 これで、俺達がカルディナ王国で新しい銀山を得たという事を、連中は知ることになるだろう。

 銀塊を見付けても取り上げられないのが悔しいだろうな。

 クレーブル王国に入った教団の荷馬車は、王都で銀塊がアブリートさんに渡される。

 半分はクレーブル王宮で管理され、銀塊1本は教団へ渡される。

 残りの銀塊は俺達を助けてくれる義勇軍の家族や、調味料や香辛料の買い入れに使われる。

 外洋を渡る貿易は銀で支払いが行われるそうだから、クレーブル王国としても、俺達の銀塊を有効に使って運用利益を上げてくれるはずだ。

 建国宣言を行った後で返してくれると言ってるけど、そのまま運用して利益だけを受け取れるようにしたいものだ。


「早馬の往復が盛んだが、襲わなくても良いのか?」

「ええ、あれは俺達の銀山に係わっているんです。できれば早めに俺達を襲って欲しいですからね」


「でも、マデニアム王国は本当にこの砦を襲うでしょうか? 教団と対立することになりますよ」

「それも楽しみの1つです。教団の馬車に積んだ銀塊の1部だけが、教団に向かう事をマデニアム王国は知りません。俺達の銀山を襲う事は教団への銀の流れを止める事になると裏のカラクリを知らなければ思うでしょうね」


 既存の銀山と新たな銀山、それほど距離が無いから更なる銀山を探すんじゃないかな。

 既存の銀山に教団の神官を案内して、俺達が私腹を肥やしたから征伐した位は言うかも知れないな。

 俺達を壊滅させれば、新しい銀山で十分に潤える。古い銀山を教団に渡しておけば、たとえ先細りになるとはいえ一時的に、教団への銀塊の上納を行うことができるだろう、

 要するに、どうにでも言い訳ができるって事に違いない。

 

「たぶん、マデニアム王都から部隊がやって来るんじゃないかと思ってます。マデニアム王宮にあるという作戦本部の連中です。俺達が裏で山賊をしている位は知っているでしょう。知れば、俺達が今までの部隊とはかなり異なった戦をする集団であること分かる筈です。その集団が作った砦を攻めるんですから、簡単な作戦ではありませんよ」


「だが、俺達はバンター無しでその戦を行うんだぞ!」

「ええ、ですからちゃんと準備したんじゃありませんか。弓と石弓で相手をすればだいじょうぶですよ。間違っても敵の誘いには乗らないでください」


「だが、早くに帰って来てくれ。それと仲間を頼む」

 ザイラスさんの言葉に黙ってうなずいた。

 バシ! と強く肩を叩かれる。

 銀山で過酷な労働を強いられる元兵士達を救出するのが、俺とラディさんの役目だからな。


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