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SA-057 再び使者がやって来た

 ビルダーさんがクレーブル王国に向かってから10日も過ぎた頃。マデニアム王国からの使者が、再び俺達の砦にやってきた。

 表面上は、いまだ敵対しているわけではないから、丁寧に広間に招き入れたが、今回も相手をするのは俺一人になる。ザイラスさん達もテーブルには着いているがマスクを外してはいない。


「確か前にもいらしたバレンツ殿でしたな?」

「いかにも、今回は騎士団の領地を更に広げては? とご相談に参った次第。我らが国王も、征服地である治安維持には心を砕いております。国王に変わって治安維持を代行して頂いたことに、国王はこのとほかお喜びの様子。マデニアムの北に、今に倍する土地を提供いたすと申しております」


 教団の荷馬車の積んであった銀塊を確認したって事だな。名目は良くできている。他国から見れば格段の措置となるだろうし、マデニアム国王の評価も高くなるって感じだな。

 だけど、俺達にとっては恫喝以外の何物でもない。


「格段のご配慮、ありがたく思います。そこまで我等騎士団の事を考えてくださるとは、思いもよりませんでした。

 ですが、故あって我らがここを離れるのは出来かねる次第。

 農地開拓のおりに見付けた銀鉱石の露頭はかなりの大きさです。末長く、教団の力となりましょう」


 俺の言葉に使者達が驚きの声を上げた。

 そんなに驚く事かと思っていたが、少し考えるとどうやら分って来たぞ。

 教団の荷車に積んだ銀塊を山賊に奪われた銀塊と勘違いしたようだ。


「それは本当ですか?」

「見付けたのが昨年の初冬でしたから、とりあえずは銀塊12個を輸送しました。片手間の採掘でもドワーフ達の見積もりでは年間20個を超えるかと……。まあ、あまりそれにかまけて農地開拓が出来なくなっては困りますけどね」


 俺の言葉に使者達が黙り込んでしまったぞ。

 やはり、俺達の版図に銀山があるとなれば話がこじれて来るからな。


「そんなことで、盗賊が来ないとも限りません。少し砦を強化はしているのですが……。なにぶん人手不足。教団を守る基礎の派遣を託しはしましたが、どんな返事が返って来るか」

「それはお困りでしょうな。マデニアム王国が名乗りを上げても良いですよ」

「我らが聖堂騎士団を名乗っていなければ、それも可能でしょう。ですが、他国の騎士に我等の使命を託すとなれば問題です。教団の許可も必要ですし、戒律や教義を専門の神官より受けねばなりません。少なくとも、1年は掛かりそうです」


 困りましたな……。等と言ってるけど、全然顔が困っていないぞ。どちらかと言えば喜んでいるようにも見える。

 

「ところで、昨年の秋にふもとの砦に大きな火柱が立ちましたが、何かあったのですか? 我等の砦に製粉の依頼がそれ以降舞い込んでくるのです」

「小麦粉の倉庫で爆発があったようです。粉を扱う場所では稀に起きることだと王子様に教えていただきました」


 ほう、粉塵爆発の知見を持っていたのか。

 リーダスさんがドワーフの言い伝えを話してくれたから、マデニアム王国にはそれが文献としてあったようだ。

 さすがは、病弱本の虫と言ったところだな。


「とりあえず、盗賊の襲撃はマデニアム王国の増員を知ればおとなしくなるでしょう。それを期待する日々が続いています」

「騎士団の事情も分かりました。私としては国王の英断を急いで知らせようと思って参った次第ですが、ありのままを伝えるつもりです」


 そう言って席を立った。

 俺達も席を立ち、互いに一礼して使者は広間を去って行った。

 砦の門を立派な馬車が護衛の騎士1分隊を引き連れて離れていく。

 見送る義理も無いから、門を出たところで全員が広間に戻る。

 熱いお茶を飲んで人心地つけると、王女様が俺に顔を向けた。


「結局は何をしに来たのじゃ?」

「俺達を始末する段取りを付けに来たんですよ。カルディナ王国よりも2倍広い土地をマデニアム王国が用意すると言うのは罠です。

 マデニアム王国に残った兵力は3個大隊以上ありますからね。俺達の移動に合わせて包囲殲滅を行う腹だったと思います」


「それにしてはあっさりと引き上げたな?」

「俺達を殲滅する理由が少しボケたと言う事と、新たな情報を仕入れたので至急本国に戻るためだと思います。

 教団の荷馬車に積んだ銀塊が、銀塊輸送で手に入れた物ではなく、俺達の版図から出たという話を信じたんでしょうね。リーダスさんには銀塊製造を頑張って貰わねばなりません。夏前にもう1度銀塊を輸送すれば、いよいよここになだれ込んで来ますよ」


「だが、俺達には現在カルディナ王国に駐屯しているマデニアム軍を退ける力は無いぞ!」

「でも、全てを動かして俺達を襲う事は出来ませんよ。西のウォーラム王国は2個大隊を国境近くに待機させているでしょうし、南の砦はクレーブル王国と石橋を挟んで睨み合っています。

 俺達を襲えるのは、ふもとの砦と王都の駐屯部隊。王都を空には出来ませんから良いところ2個大隊です。それも、俺達とのぶつかり合いで損耗しようものなら3王国の連合の目的が瓦解してしまいます。

 良いところ、1個大隊でしょうね。それなら俺達でどうとでも出来るでしょう」


 少なくとも、本当に銀山を手に入れたかを確認してからになるだろう。

 それまでは、俺達がふもとのアルテナン村や少し離れたヨーテルン町に出掛けた時に、情報収集を行ってくるんじゃないかな。

 有望な銀鉱山を見付けて、財政が潤いそうだと答えておけば良さそうだ。


「だが、教団に騎士団派遣を頼んだのは、問題にならないか? かなり欲深い連中がいると聞いたことがあるぞ」

「あれは出まかせですから、誰も来ませんよ。クレーブル王国からの義勇兵だけで十分です。秋には兵員を増やせそうですからね」


 俺の言葉にザイラスさん達が互いに目で話し合っているぞ。

 最後に王女様が頷くと、再び俺に顔を向ける。


「峠の工事で牢獄の兵士は救出したと思うたが、また同じ手を使うのか?」

「いえ、今度はここに捕われた兵士を救出します」


 テーブルに広げた地図の1点を指差した。北の砦の兵士を救出するチャンスが早々あるとは思えない。

 敵が大きく動くとき、それに伴って北の砦の敵が動かぬわけがない。

 

「銀鉱山で使役されている連中か……。あれから2年近くになっている。鉱山の労働は過酷だろうが、まだ残っているだろうな」

「すでに2年です。砦の連中も警戒が緩んでいるでしょう。先ずはどれ位の人数が残っているかを把握する必要があります」


「それは俺の仕事だな。商人と一緒ならば怪しまれることも無い。酒場で聞き耳を立てるだけでも情報が集まるだろう」


 ラディさんの申し出に俺は頭を下げて答えた。


「そうなると、いっそう砦の防衛を考える必要が出てきます。あの爆弾も用意しておきたいですね」

 トーレルさん達も自分の役割が見えてきたようだな。

 柵の多重化と爆弾があれば大軍を擁しても俺達を落すことはできないだろう。

 西に広がる荒地にもちょっとした土塁を築きたいところだな。


「騎士団として村や町に出掛けた時に、暮らしに困っている家族があれば、俺達の村を教えてください。開墾がはかどりますし、村を守る事もできます」

「そうだな。たまに声を掛けてはいたのだ。峠を越えてマデニアムに向かえとな。この冬に何組かの家族を保護出来たぞ」


 ちゃんと動いていてくれたか。直接戦闘はせずとも、人数が多ければそれだけ役に立って貰えそうだ。


 話し合いを終える時に、リーダスさんに俺が書いた絵を見て貰った。

「長弓を3本まとめて使うのか? 車輪が付いているのは、人ではこの弓を扱えぬと分かっているようじゃな。弦をこの滑走台を滑らせれば、小さめの投槍なら飛ばせそうだ。

 これに、爆弾を括れば確かにおもしろい使い方が出来そうだな。5台で良いな。これなら木工職人に頼めるだろう」


 カタパルトの仕組みを理解してくれたようだ。

 一部は金物が使われるが、機構そのものは石弓と大差ない。弦を引くのが苦労しそうだけど、3人1組なら何とかなるだろう。

 何とか飛距離150mをものにしたいな……。


 翌日、峠の街道を立派な馬車が東に向かったと烽火台から知らせが届く。

 襲撃はしないように連絡しといたから、今夜にはマデリアム王宮に俺達の話が届くだろう。

 次の銀塊輸送を確認するまで動かなければ、北の砦を何とかできそうだな。

 

「我には敵が攻めて来るなら、北の砦より兵士を救出できるというのが良く分からんのだが……」

 広間でエミルダさんを相手にチェスをしていると、王女様とオブリーさんが俺達の近くに座った。

 敵の陽動の予測なんだけど、ここはちゃんと説明しといた方が良いかもしれない。オブリーさんだってそれを知りたくて同席したんだろうな。


 エミルダさんに小さく頷くと、笑みを浮かべてチェス盤を退けてくれた。そっと立ち上がると、暖炉のポットでお茶を入れようとしてるから、慌ててミューちゃん達が手伝い始めたぞ。


 ミューちゃんが配ってくれたお茶を一口飲むと、テーブルに地図を広げて、チェス盤の駒を並べながら説明する。


「現在までの、柵を記入してある。これを見て分るとおり、俺達の砦を攻めるには、この間道を抜けて関所を破る必要があるんだ。

 道幅は狭いし、大軍を横に展開することもできないから、関所の矢間やはざまから矢やボルトを撃てば守り切れないことは無い。

 それに、この両側の斜面を登ることもできるだろうが、柵が三重に作ってあるし、カゴに粗朶をたっぷり詰めて火を点けて転がせば、この間道は酷い事になるだろうな。

 マデニアム王国の使者が2度来たのは、そんな俺達の防備を探る目的もあったはずだ。

 そこで、敵がどんな作戦で来るかは、ある程度予想が立つ……」


 陽動を仕掛けて、俺達の戦力を分散させることが一番手っ取り早い。場合によっては陽動をそのまま強襲に置き換えても良いだろう。それは陽動部隊に対する反抗勢力の度合いによって決まる筈だ。

 その陽動部隊は、関所の北側に広がる荒地を西から攻撃して来る事になるだろう。何といっても広いし、部隊の展開がスムーズに行える。

 本来ならば、攻撃軍の主力を移動しても、そこを狙いたいはずだが、大部隊の移動は直ぐに知れるからな。

 西から攻めて俺達が主力を西に移動した時に、間道を攻め上って来るというのが敵側の作戦に違いない。


「じゃが、それでは2つの軍が時間差を持って我等に向かってくることになるぞ。連絡手段は無いはずだが……」

「たぶん、西からの攻撃を夜明け、南の間道からの攻撃を日の出という事であらかじめ定めておくのでしょう。

 陽動は致し方ありませんが、規模がある程度大きくなると俺は考えています。上手く行けば、そのまま攻め込めば良いんですからね。

 となれば、北の砦はかなり兵力が低下するでしょう。その隙を狙って救出しようと考えています」


 とはいえ、2個中隊はいるんじゃないかな?

 それをどう切り抜けるかが問題ではあるんだけどね。

 3か月ほど間がありそうだから、のんびりと考えてみよう。



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