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SA-056 新たな銀鉱山


 トーレルさんの部隊が放った爆弾は、かなりの被害を砦に与えたようだ。しばらく火災が続いていたと教えてくれたから、また食料不足になるんだろうか?

 ラドネンさんに火薬と爆弾の作り方を教えたから、数日もすればたくさんの爆弾ができるはずだ。

 ラディさんは、早速次の原料をタルネスさんに頼んだらしい。

 これで、かなりの爆弾を備蓄できるんじゃないかな?

 ついでに、焼夷弾も作ってみた。小さな酒樽にたっぷりと油を浸み込ませたボロキレを詰め込み、その中に爆弾を入れた簡単なものだが、峠の隘路でこれを崖から落としたらどうなるかが楽しみだ。

 オットーさんが喜んで仲間と担いで行ったんだよな。

 

 砦で火薬の試験を行って10日も経った頃。爆弾を取り付けた矢が60本届けられた。

 その半分、30本を一気に南の砦に撃ちこむべく、夕闇の中ザイラスさんの部隊が砦を発って行った。


「5本でさえ、あの威力です。30本を使ったらどうなるかは想像だに出来ません」

「今更ながら、バンターと知り合えて良かったと思う。たったこれだけの戦力で3か国連合と渡り合うのだからな。やはり、マリアンの祈りのおかげということじゃろうか?」


 そんな話をしているから、エミルダさんが笑っているぞ。

 信仰で物事が動くとは考えられないからな。それでも、俺達のベクトルを合わせる事は出来る。


「やはり、新たなタペストリーを作る事になりそうじゃ」

「タペストリーよりも絵画にしてはどうですか。教団から呼び寄せましょうか?」

「ふむ、絵画も悪くないのう。父君の部屋にたくさんあったのじゃ。あれも燃えてしもうたな」


 記念写真的なものなんだろうか? タペストリ―よりも良いかもしれないな。あの問題のあるタペストリーは完成したらしいのだが、俺には見せてくれないんだよね。 


 ザイラスさん達が帰って来たのは2日目の朝だった。

俺達がレーデル川を越えた辺りで夜を明かし、昨夜に南の砦を襲撃したらしい。


「一斉に30本を撃ちこんだのだが、ふもとの砦並みに火の手が上がったぞ。門を出る騎馬を確認したので、それ以上砦を見ることは無かったが、あれではかなりの兵士に慈悲の一撃を与えねばなるまい」


 火災が発生したと言う事だな。被害が多ければクレーブル王国への北からの攻撃は断念せざるを得ない。

 死者の埋葬規模からラディさんが被害判定を持ってきてくれるだろう。

 

「ご苦労さまでした。ゆっくり休んでください。今夜は、トーレルさんに王都を攻撃して貰います」

 俺の言葉に、一緒になってザイラスさんの報告を聞いていた連中が俺に顔を向ける。


「あの爆発を王都で使うとなれば、民衆が巻き込まれるぞ!」

「むやみに打ち込んだらそうなりますが、狙うところはこの区画です。兵舎ですから民家は無いと思うんですけど……」


 王都の東門の南側。そこは1区画丸々兵舎が並んでいる。

「南側から石塀越しに撃ちこむのか。それなら、どんなに飛んでも他へ影響は出ないだろう」

「区画も広いですからね。長弓を使って、それ以外に飛ばす方が難しいですよ。場所は石塀から200Dも離れれば十分です。少し離れた場所で様子を見ながら襲撃のチャンスを待てば良いでしょう」


 これで、上手く行けば1個大隊は葬ったことになる。

 この情報がマデニアム王国に届くのはいつになるか……。早馬は全て始末していると言っているから、商人からもたらされる情報で向こうも悩んでいるんじゃないかな?


・・・ ◇ ・・・


 砦の周囲は30cmを超える雪で覆われている。

 馬で移動するのが難しくなってきたから、砦への夜襲は雪解けまでお休みになる。

 人手がたっぷりとあるので、砦周辺に新たな柵を作る事にした。

 関所の柵を2重にして、南側の道の東西に柵を作る。尾根に向かって緩やかな坂になっていたから、それだけで防御力は持ってはいたのだが、これだけ俺達が暴れて、尚且つカルディナ王国への増員が行われていることを考えると、この砦に攻めるのは時間の問題ではある。


蔦で編んだ丸いカゴにたくさんの粗朶を積め込んだものを、坂の上にたくさん作ってあるから、それを投げ落とすだけでも相手は怯んでくれるだろう。

矢とボルトは村人を巻き込んで増産している。矢羽が足りないと、この間はラディさんが仲間とキジに似た鳥をたくさん捕えてきた。

あれは美味しかったな。また取って来て欲しいくらいだ。


「だいぶ痛めつけたから、向こうも静かじゃな。これで、クレーブル王国侵攻は頓挫したのじゃろうか?」

「依然として、南の砦には1個大隊が残っています。西と北の砦から兵員を割けば、十分に侵攻出来ますから油断は出来ません。それよりも気掛かりなのは、今年の銀塊輸送がまだ行われていないんですよね……」


 見逃したんだろうか?

 商人達の荷に紛れ込ませたなら、峠の連中には分からないだろうな。

 小規模ながら穀物の積荷があったそうだから、その可能性は高いかもしれない。


「もしかして、例年より産出量が少ないのかも知れん。300年以上掘り続けているから、鉱石の枯渇の話は前々からあったのだ」

「それに、兵員が採掘に当たっているならあまり積極的には掘らないでしょうね」


 部下達が頑張って柵を作っているんだが、俺達は広間でのんびりとお茶を飲んでいる。

 春の作戦を立てねば申し訳ない話なんだけど、お茶を飲みながら世間話に近い話をしているんだよな。


 突然、広間の扉が乱暴に開かれて、リーダスさんが駈け込んで来た。

「大変だ! これを見てくれ」

 俺達に突き出された手には黒い石の欠片が乗っているだけだ。

 全く何が大変なんだか説明して欲しいな。


「これは……。銀鉱石じゃないか!」

「何だと!」


 皆がテーブルに乗せられた、どこにでもあるような石の欠片を眺めはじめた。

「炭焼き釜を作ろうとして、山の斜面を掘ったら出てきた。簡単な試掘ではかなり有望な鉱脈だぞ。それに見ろ。金まで混じってる。北の砦なんか目にならないほどの量が取れるぞ!」


 まだ興奮冷めやらずと言う感じのリーダスさんに聞いてみた。

「銀塊にするには面倒なんですか?」

「ん、……それ程でも無い。銀塊10個で金塊が三分の一と言うところだな。村人10人程使って良いなら作ってやるぞ」

「ふもとの畑作に影響が無ければお願いしたいですね。使い道は色々とありそうです」


 任せとけと言いながら、広間を飛び出して行った。

 また一つ産業が出来た感じだな。これで、食料の心配は無くなったともいえるだろう。


「全くとんでもない話になったな。だが、そうなるとマデニアム王国が放っておかないぞ!」

「柵と爆弾があれば、早々砦は落ちませんよ。念のために、大軍をここに向かわせることが出来そうな場所にあらかじめ柵は作った方が良いでしょうね。西の柵も補強したいところです」


「もう一つあるぞ。どうやってマデニアム王国に我らの銀山を知らせるのじゃ?」

「教団の荷車を使います。教団の荷車を改めること自体問題はあるでしょうが、南の石橋の状況を見ると改めないわけにもいかないでしょう。その荷馬車に銀塊が積まれていたら、彼等はその荷を奪えるでしょうか?」


「奪えるわけはない。そんな事をしたら、教団を担いで周辺諸国がマデニアム王国の討伐に動くだろうな」

「となれば、その荷を送った俺達に銀山の権利を奪いに来るでしょうね。新たな銀山となれば向こう何百年かは富をもたらします」

「当然、突っぱねるな。……なるほど攻めて来るぞ」


「北の砦の銀山の状況はそれで分かります。南から来るか、それとも西から来るのか」

「西の柵を更に増やすことも考えねばなりませんね。そちらは私の部隊が担当しましょう」

「なら南は俺になるな。おもしろくなりそうだ。王女様ではないが、山賊になって良かったぞ」


 そんな事を言いながらザイラスさんが豪快に笑っている。

 つられて俺達も笑い出してしまった。


 雪が冷たい雨に変わるころ、久しぶりに重装歩兵のオットーさんが広間に入ってきた。

 そろそろ冬も終わりだから、冬場の首尾を報告に来たらしい。


「やはり銀塊輸送は、大げさに行われなかったようです。裕福そうな商人の馬車については1割の穀物などを貰いうけましたが、銀塊はありませんでした。離散農家が4組ありましたので、ミクトス村に送り届けました。早馬は10回以上東に向かいましたが「すべて阻止しております」


「ご苦労。帰りの荷にワインを1ケース入れておくのじゃ。春には大きな作戦がある。峠もそれによっては忙しくなるやも知れぬぞ」

「任せてください。それでは失礼します」


 早々に帰って行ったけど、どうやら宴会用のご馳走を仕入れる為でもあったようだ。アジトで鍋を囲んで盛り上がるんだろうな。


「やはり、銀塊輸送は小規模商人の手で行われたようじゃな。そうなるとそれ程の量では無かったと言う事にもなりそうじゃ」


 商人の信用度が問題だろうな。持ち逃げされることはあまり無いらしいが、銀塊1つで一生暮らせるならよこしまな考えを持つ者もいるだろう。

 だけど、年間15本とか言っていたから、数本ずつ移送するなら何人かの商人に託すだけで出来そうだな。

 

 やはり、マデニアム王国の連中に俺達の銀塊を見せびらかさないと、状況は見えてこない感じがするぞ。


 少しずつ陽気が良くなって、砦の周辺にも野草が顔を出して来た頃。ビルダーさんがラバに荷車を引かせて砦にやって来た。

 資材担当のフィーナさん達と荷の確認をしたところで、広間に入ってきた。


「ご苦労さまです。石橋の方は大変でしょう?」

「全くです。教団の物だと言っても荷を改めるようでは、教団に文句を言いたくなりますよ。教団付きの騎士が同行してくれなかったらと思うとゾッとします」


 騎士達はエミルダさんのところに行ったようだ。

 あまり関知しない方が良いかも知れないな。


「俺達の荷を運んでください。中身は銀塊です。12本ありますから、10本はクレーブル御后様に、残り2本は教団に渡してください」

「銀塊ですと! 北の砦を落したんですか?」

「俺達のところに銀山があったんです。荷を改めたら俺達から託されたと言ってください。たとえ没収されても抵抗はしないでくださいよ。没収されるとは思いませんけど、念の為です」


 やはり、ビルダーさんでも驚くよな。

 それだけ銀は取引の重要な役目を持っているのだろう。

 さて、これでマデニアム王国がどう出て来るかが楽しみになってきたぞ。


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