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SA-055 爆弾作り


 砦に雪がちらつき始めた。いよいよ本格的な冬になってきた感じだな。

 数日前に、2個大隊に守られた立派な馬車が、峠を越えてカルディナ王国に入ってきた。

 重装歩兵達の矢を受けても、何事も無いように盾で身を守りながらそのまま行軍を続けたらしい。かなりの精鋭なんだろうな。それだと被害が最小になる。

 これで、カルディナ王国に駐屯する敵の勢力は7個大隊規模にまで膨らんでしまった。

 

「どうやら、南の砦に2個大隊、王都と北の砦それにふもとの砦に1個大隊、西の砦に2個大隊を配備したようです」

「ご苦労さまです。これで策を練りやすくなります」


 ラディさんが敵軍の配備状況を調べてくれたんだけど、商人達の通行は相変わらずフリーパスのようだ。さすがに王都と西の砦それに北の砦は荷を改めるようだが、町や村にはほとんど治安維持部隊を置いていないと教えてくれた。

 これは正義の味方の活躍にもよるんだろうな。

 狼藉を見掛けたら直ちに、駆け付けるようだからね。

 相手に非があるから、俺達に文句も言えないようだ。ザイラスさん達の良いストレス解消にはなっているようだが、そんな話を夕食の後の話し合いでするもんだから王女様のストレスは段々高まっているようなきがする。


「何か、ドドーンとこの間のようにいかないものなのか?」

「あることはあるんですが、作るのが面倒ですし、使い方はかなり難しいですよ」


 いつものように、食後のワインを飲みながらの歓談で王女様が俺に問いかけてきた。

 そんな俺の話に、ザイラスさんが興味を示す。


「あれをもう1度やるのか? 今度も上手く行くとは限らないぞ」

「威力は認めますが、爆発しないこともあるんでしょう?」

 

 トーレルさんも懐疑的だ。俺だって2度目が上手く行くとは全く思っていない。

 作るとすれば火薬なんだが……、あれって分量比があったはずだ。生憎とそれを覚えていないんだよな。

 試行錯誤で作ろうとしてこっちが爆発でもしたら大変だから、今まで黙ってたんだけどね。


「確かにあれは、やり過ぎじゃっと我も思う。あれよりは小さくても良いぞ!」

「上手く行けばと言う前振りが必要な物はあるんですが、作るまでが面倒なんです」

「バンターらしくも無い話じゃな。どうせ雪で動きが取れぬ状況じゃ。先ずは作ってみてはどうか?」


 確かに、朝食後に30分程丸太を相手に木刀を振るだけだからな。暇と言えば暇なんだけどね。

 そんなわけで、タルネスさんに硝石と硫黄を1袋頼み込んだ。

 ドワーフの職人に石臼とフルイを頼み、村から背負いカゴ1つ分の炭を調達する。

 制作場所は砦の門の傍に作った番小屋の片方を提供してくれた。


「硝石は畑の肥料だぞ。落ち葉の中に混ぜ込んで寝かせれば良い肥料になるんだが、関所の南に並木道でも作るのか?」

「硫黄は火矢の火持ちを良くするのに使うことがありますから、更に火矢を砦に撃ちこもうと言う事じゃないでしょうか?」


 年が明けて届いた荷物を見てニコニコしている俺に、後ろからそんな話が聞えて来る。

 やはり、知らないんだろうな。

 となれば、出来たあかつきにはかなり役立つことになりそうだ。

 

 石臼で原料を細かく潰してフルイで粉を取り出す。そんな日々が10日も続くと、焼いた土器のカメに3つの原料が粉でたっぷりと蓄えられた。

 次に、これの混合なんだけど、比率が問題なんだよな。

 硫黄、硝石、木炭を1:1:1で混ぜ合わせ、紙で包む。

 次は少し比率を変えて……。そんな紙包みが10個程出来たところで実験を始めることにした。

 

 火薬は密閉すると爆発して、解放すれば勢いよく燃えるだけだと聞いたから、砦の中庭の真ん中に石で土台を作り、その上で紙包みを広げて火を点ける事にした。

 3m程離れた場所に小さな移動式のコンロを置いて、長い木の棒の先端に細い紐を巻き付けて点火棒を作る。


 危険だから、集まってきた連中を後ろに下がらせると、最初の紙包みを石の上に乗せて中の火薬を露出させた。これは同一比率の奴だな……。

 点火棒の紐に火が付いていることを確認しながら周囲を眺める。皆、興味深々で見ているが、俺が棒で書いた線の内側には入っていない。こんなことはちゃんと守れるんだが……。


3m程の棒を持って燃えている紐を火薬に近付けて火を点ける。

ゆっくりと火が広がっていくだけだった。硫黄が燃えて煙が上がる。これは失敗だ……。

棒で、紙包みを石の上から落とし、傍に掘った穴に棒の先で落とし込む。

 次々に紙包みに火を付けていく。

 あまり芳しくないな。それでも、硝石の比率を上げた紙包みは勢い良く炎を上げたぞ。

 確か1:1:5で硝石の比率だけを上げた物だ。

 少し分かってきたぞ。次は硝石の比率を更に上げて限界点を見てみよう。


 翌日、同じ場所で試験を行う事になったが、今度は観客が半分以下になった。

 あまりおもしろそうじゃないと言う事なんだろうな。

 実験を初めて何個目かの時だった。火を点けた火薬が1m以上も炎を上げて一気に燃えた。

 次の火薬も同じように燃えたから、比率は先ほどにすれば良さそうだ。

 

 3日目は実験をせずに、導火線の制作を行う。火薬に水をまぶして練り込み、ほぐした紐に練り付けながら紐をもう一度編んでいく。

 あまりにも不器用な手つきでやっていたから、様子を見に来たドワーフのラドネンさんが手伝ってくれた。

 綺麗に元の紐に戻ったのを見ると、やはりドワーフ族は手先が器用なんだと感心してしまう。


 4日目に、3m程の導火線が出来たから、10、15、20cm程の長さに3本を切り取って燃焼時間を確認する。

 心臓の鼓動を時計代わりにして、導火線に火を点けると、6秒、8秒、13秒という結果が出た。15cmはこちらの単位で半Dとなるんだろう。この長さで10回の鼓動と考えれば良いようだ。

 次は火薬を入れる入れ物だが、木工職人に直径5cm長さ20cmの木の棒をくり抜いて貰い、その中に火薬を詰めて導火線を差し込み紙でギューっと押し込んだ。

 10個作ったところで、いよいよ大実験ができる。


 夕食を終えて皆でワインを飲んでいる時に、どうやら完成した事を皆に告げる。

「あのボワーとした火を使うのか? あまり戦に役には立たぬと思うのじゃが……」

 王女様は疑ってるな。その言葉に頷いている連中も問題だぞ。


「少し改良しましたから、明日は砦の西に集まってください。何事も物は試しって言うじゃありませんか」

「そうですね。昼間は私達も暇ですからね。バンター殿が完成したと言う以上、やはり見る必要があるでしょう」

 トーレルさんも疑ってるようだ。

 これは是非とも考え方を変えて貰わねばなるまい。早々に席を辞して自室に戻り、最後の仕上げを行う。

 俺の貰った、長弓の矢に火薬の入った筒を糸でしっかりと括り付ける。

 俺も皆に混じって弓の練習をしているから、それなりに撃つことはできるが、その距離はどうにかオブリーさん並みで、狙いは王女様より外れが多い。だが、これは遠くに飛ばすだけだから俺にだって十分に使えるはずだ。


 待てよ、似た兵器で火箭というロケットのようなものがあったな。あれも火薬の噴出力で飛ばすんだから、できるかも知れないぞ。

 そんな事を考えながら早めに横になった。


翌日、朝食後に実験と言う事で、大勢が砦の西の緩やかな坂に集まってきた。砦の西側の見張り台にも守備兵達が集まっているようだ。

 ミューちゃんに炭の入った小さなコンロを持って貰い、俺は長弓と5本の矢を布に包んで背中に背負う。

 俺達の到来を知って、俺を中心に半円形に皆が取り巻いた。


「弓を使うのか? やはりあのボワーでは無いようじゃな」

「まあ、見ていてください。使うのが面倒なんですが、ザイラスさん達は良く見ておいてくださいね」


 背中の布の包みを広げて、最初の矢を取り出す。

 ヤジリ付近に付けた筒先から伸びる導火線を少し折り曲げて、ゆっくりと引き絞った。


「ミューちゃん。導火線に火を付けて!」

 携帯コンロに突っ込んだ棒を持って、ミューちゃんが導火線に火を点けたと同時に矢を放った。

 ヒュルヒュル……と矢が音を立てて飛んで行き、地面に落ちた瞬間。ドドーン! と炸裂して雪に覆われた地面が土煙を上げる。


「「「何だと!」」」

「あれが、バンターの言う似た物じゃな。【メル】より威力がありそうじゃ。それにあの距離まで【メル】の火炎弾は届かぬ」


「俺達にも使えるのか?」

「後、4本ありますから試してください。この矢に取り付けたこの筒に仕掛けがあります。この紐に火を付けて心臓の鼓動が10回程度であの爆発が起こります。火を点けたら直ぐに矢を放ってください。狙いを定めようとしていては、あの爆発がその場で起こります」


「分かった。要は、あらかじめその方角に向いていれば良いのだ。最初は俺で良いな」

 ザイラスさんがトーレルさんに確認している。

 トーレルさんが頷いたところで、ザイラスさんが弓に矢をつがえて引き絞る。


「点火!」

 慌てて、ミューちゃんが導火線に火を点けた。

 直ぐに矢が放たれ、俺よりもずっと離れた場所で爆発が起こる。


 用意した5本の矢は直ぐに無くなってしまったが、威力と使い方は理解してくれたようだ。

 興奮した様子で、今後の戦にどう使うかを話し合っているぞ。

 それより早く、砦に戻らないと凍えそうだ。ミューちゃんとメイリーちゃんは小さなコンロを抱くようにして温まっている位だ。


 砦の広間に戻ってきたが、まだ先ほどの兵器の威力に皆が興奮しているようだ。

 マリアンさん達がお茶を入れてくれたから、少しは頭を冷やして欲しいな。


「戦の常識が変わるぞ!」

「あれを一斉に放ったら、如何に相手が大軍であろうとも問題はありません」

「で、どこで使うのだ!」


 王女様の言葉に、皆が一斉に俺を見た。

「後、5本残っています。作り方を誰かに教えようと思いますが、手に入れた原料で作れるのは数十本と言うところでしょう。それを砦に撃ちこもうと思っているんですが……」


「ラドネンに教えてやってくれ。かなり興味を持ったようだ」

「導火線作りでお世話になりました。了解です」


 比率さえ分かればそれ程難しくは無いからな。面倒ではあるけれどね。


「5本残っているのでしたら、今夜は私の番でしたね。ふもとの砦で良いでしょう」

 トーレルさんは嬉しそうだ。隣のザイラスさは悔しそうな表情で大人げない感じがするな。


「まあ、トーレルと交互に撃ちこんでこよう。で、バンターがそれを一番使いたい場所はどこだ?」

「クレーブル王国の国境で2個大隊を要する南の砦です!」


 皆の顔に喜色が浮かぶ。

 絶対に守るべき個所はクレーブルとの間に作られた石橋なのだ。その石橋を数を頼りに渡ろうとすることが無いようにしなければならない。

 それを未然に防ぐ上で、この兵器は絶大な威力を発揮するだろう。



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