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SA-054 山賊と盗賊の違い


 翌日の夜、アルデス砦に皆が集まってきた。

 巣穴の砦からもオットーさんがラバに乗ってやって来たから、関係者は全員いるみたいだな。エミルダさんまでテーブルの端に座っているぞ。ミューちゃん達はマリアンさんと暖炉近くに椅子を持ってきて座っている。

 

「俺から報告しましょう。昨夜ふもとの砦に入った敵増援部隊の数は、57小隊でした」

「4個大隊なら64小隊の筈だが? ……俺達で7個小隊を片付けたのか?」


ザイランもそうだが、テーブルを囲んだ連中も驚いている。

 これだけの敵兵を葬ったのは銀塊輸送を襲撃して以来の事だ。


「これで敵の1割を削減できましたし、ふもとの砦にたっぷりと夜間火矢を浴びせていますから、更に減ってはいるでしょう。それに、砦には食料も無いですから、今日はアルテナムの村を略奪しに1個小隊がやって来たようです。トーレルさんの部隊が退けましたが、かなりの手負いを出したようです」


「それですが騎馬が3頭、街道を王都に向かって駆けて行きましたよ」

「たぶん食料を送れとの催促でしょう。放っておいても構いません」


「峠の街道にも早馬が来たぞ。バンター殿の指示通り、矢でし止めておいた」

「これで、どうなりますかね。深夜に再び火矢を放ってください。1矢で十分です。後はラディさん監視をお願いします」


 食料も水も無いような砦にいつまでいるのかが問題だな。

 もうひと押しすれば、軍から逃げ出す兵士も出て来るだろう。


「たぶん軍を逃亡する兵士が出て来るじゃろうな。それで、当初の作戦の通りと言う事になるのか?」

「中隊規模で夜逃げしてくれると助かるんですが、それほどの数にはならんでしょう。でも、マデニアム王国内で活動する盗賊団が作られるはずです。夜に村を襲うかもしれませんから、砦と村への部隊配置はザイラスさんに任せますよ」

「なら、そろそろ出掛けねばなるまい。トーレル行くぞ!」


 途中で役目を話し合うのかな?

 衣装を間違えなければ良いんだけどね。


「我等は、しばらく様子を見ることになるのじゃな?」

「また、マデニアムの貴族がやってきそうですが、村の治安を守っている事で納得してもらいましょう。領地経営のまずさを他国に知られると自分達の地位も危ないでしょうからね」


 王女様にそう答えると、今度はオットーさんが再度自分達の襲撃を確認して来る。

 襲撃するよりも、砦と烽火台を守ってほしいと答えて置く。襲撃は西の隘路で南から矢を射かければ良い。くれぐれも数を減らそうとは考えないでほしいと念を押して置いた。


「さらにマデニアム王国が増援を送って来ると面倒ですよ。ふもとの砦の戦力が一気に増大します」

「いくら増えてもだいじょうぶです。銀の移送で中隊単位で減らせます。それよりも、増援した部隊の兵糧が問題でしょうね。まだ今年は税として取り立てた穀物の移送はしていないようです。増援部隊の兵糧として、砦に蓄えていたんでしょうけど、ふもとの砦を焼いてしまいましたから、1個大隊を養える兵糧が足りません。正義の味方の活躍し放題です」


「他の砦から兵糧を移送することになりそうじゃな。……襲うのか?」

「軍馬が手に入りましたからね。積極的に襲います。輸送隊の荷に火を点ければ良いですから」


 カルディナ王国内での略奪行為は軍を相手にするなら問題ないだろう。襲撃した後、峠の街道方向に逃走して夜間にこの砦に戻れば良い。

 一か月もせずにふもとの砦から兵士が逃げだしていくんじゃないか?


・・・ ◇ ・・・


増援部隊を襲撃してから数日は、この砦の直ぐ南のあるアルテナム村に麓の砦からの兵隊達が小隊単位で略奪に来たらしいが、ザイラスさんやトーレルさん達が配下を率いて守ってくれたらしい。

今では、荷車を引いて若干上乗せした代価を払って穀物を買っていくらしいが、3個大隊近くいるから雀の涙にしかならないだろうな。

 王都や、西、南の砦に兵員を送って、帰りに荷車の列を従えて来るようになったが、依然としてふもとの砦には1個大隊の兵力を置いているようだ。

 崩れた兵舎や館の修理も行っているらしいが、たまに火矢が撃ちこまれるから士気は最低にまで落ちてるんだろう。

 何度か本国に早馬を走らせているが、峠の重装歩兵達が全て始末している。それでも、商人達の行き来はあるから、本国に増援部隊の惨状は伝わっているだろう。


「ラディさんの話では、4個大隊の増援の内、3個大隊が届いただけになっているようですけど、2個中隊も脱走したと言う事ですか?」

「そうなりますね。マデニアムの南部に到達するのはその内半数でしょう。負傷した者達も多かったですから、脱走しても尾根を越えてマデニアム本国で盗賊となる者はそれ位だと思います。とは言え、急に盗賊で暮らせるものではありません。半年後に残る脱走兵は20人に満たないんじゃないかと」

 エミルダさんとチェスをしながらそんな話をしていると、王女様が俺達に顔を向けた。


「我等は簡単に山賊を始めたぞ? 山賊と盗賊では少し違うのか」

「アジトと縄張りが大事だと言ったでしょう? 彼らにそれが見つけられれば良いのですが、ふもとに良いアジトがあるとは思えませんし、獲物を狙える縄張りを村や町とした場合には、治安維持の兵隊達と常に争わねばなりません。村を襲うのは街道で荷馬車を襲うよりも難しいんです」


「ふむ……。となると、砦はもっと難しいと言う事か。バンターが砦攻略に乗り気ではないのはその辺りにあるのじゃな」

 王女様の言葉に、マリアンさんが微笑んでいる。少しは世の中が分かってきたのかも知れないと思ってたりするのかな?


「でも、それではいつまでたっても王国再興はできないと思うのですが?」

「我は少し分かってきたぞ。こちらから攻めるのではなく、向こうに攻めさせる手じゃな。攻撃よりも防御は格段に楽であると何かで読んだ事がある。この砦と下の関所はそのためのものか!」


 王女様にも分かるようでは、少し考えないとダメなのかな? それとも、それだけ戦慣れしたと言う事なんだろうか?


「サディも立派になりましたね。今の一節はフェンドール殿の残した書の一節ですよ」

「私も読んだことがあります。でも、あまり実際の事が書かれていませんでしたので良く理解できたとは……」

 スゴロクのダイスを持ったまま、俺達の方にオブリーさんが顔を向けた。解説が欲しいと言う事なんだろうか?


「そうですね。では、この砦を例に攻撃よりも防衛が容易いと言う事をご説明しましょう……」

 チェス盤を少し退かして、テーブルに地図を広げる。この地図はアルデス砦を中心に周囲数十kmを描いた物だ。

 峠の街道とふもとの砦に村、俺達の2つの砦と烽火台に、ミクトス村が描かれている。


「この砦を作るにあたって、2つの絶対に譲れない条件がありました。ふもとの村に至る道がある事、それに水場があることです」


 山脈から伸びる緩やかな斜面である以上、村への道は山道になる。道を荒地に開くならそれ程苦労はないが、山麓にある砦や村に作るとなると、自然と谷間を利用することになる。それは隘路を伴うから大軍を一度に通すことができないということだ。

 現に、騎馬隊を谷間の道に捕えて壊滅させている。


「それに、坂の下の兵士よりも坂の上の兵士の方が攻撃するのに有利です。矢は遠くに飛ぶし、敵は坂を上らなければ攻撃できません。ヨロイや武器は重いですから、それだけで疲れてしまうんです。

 でも、絶対ではありませんよ。俺達の5倍の兵力があればこの砦は落とせますからね。それだけの兵力に囲まれないようにすれば落ちることはありません」


 それでも直ぐには落ちないし、敵方の損害もかなり出るに違いない。だが、数で圧倒されれば落ちない砦などどこにもない。


「無理すれば落とせないことは無い。でもそれをやると自軍の損耗も無視できなくなる。と言う事ですか。でも、マデニアム王国からの増援で事に当たれば……」

「十分可能だと思いますよ。でもやるでしょうか? 次の戦を考えれば攻城戦は具の骨頂です」


 単にカルディナ王国の銀山を狙っているならそれもありだろう。だが、カルディナ王国を平定した後、クレーブル王国に攻め入るとなれば少し躊躇せざるを得ない話だ。


「3か国の連合とカルディナ王国それに俺達で均衡してるというのか?」

「さすがにそこまでの力は俺達には無いですよ。ですが、3か国の連中に俺達の真の兵力は分からないでしょう。ふもとの砦をあれだけ破壊したんです。俺達の仕業と考えてはいるでしょうが、その勢力をどう判断するか見ものですね」


 俺の言葉にザイラスさんとトーレルさんが顔を見合わせて笑い始めた。


「ハハハ……、全くだ。あれだけ破壊するとなると、大隊規模になるだろうな」

「大隊でもどうでしょうか? 何か策を用いたと考えるでしょうが、私達の考える策であれを行う事は、どんな書物にも書かれておりません」


「そうでもないぞ。我等ドワーフには似た話が伝わっておる。鉱山では火に気を付けるようにとの話だ。今では鉱山内の灯りは光球を使うが、昔はランプを使っておった。山の神の怒りをかうと、坑道が一瞬で破壊されるそうだ」


 リーダスさんの話は正に粉塵爆発に違いない。それが火に起因していることを経験で学んだんだろうな。光球は熱を持たないし、可燃物を燃やす事も無いから、現在の鉱山の主流になっているんだろう。

 となると、銀山もそう言う事になりそうだな。

 

「だが、それはドワーフ族の話だ。王宮内で他種族の話を纏めた書物など見たことが無い」

「病弱であれば、広く見識を高めるために国内を巡行することも無いでしょう。やはり、あの破壊の秘密は分からないと思いますね」


 トーレルさん達は前向きだな。俺が心配性なだけなんだろうか?

 とはいえ、しばらくは様子をうかがう事で皆の意見は一致した。それでも、カルディナ王国の夜は、1個小隊の盗賊団が引き続き活躍するとのことだ。



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