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SA-051 大部隊がやって来る


 ふもとの砦は廃墟になってしまった。外側からは入口の扉が吹き飛んでいるだけらしいが、中はかなりひどい惨状らしい。あの爆発を知って近くの村や集落から火事場泥棒まがいの略奪があったらしいが、かなりひどい仕打ちをしていたようだから当然の報いかも知れないな。

 問題なのは、ちょっとやりすぎたと言う事だ。

 まだ、マデニアム王国軍の連中はやって来ないようだが、それも時間の問題だろう。あの惨状を見た後の彼らの行動が気になるところだ。


「砦内にはどれほどの兵力がおったのじゃろう?」

「1個中隊以上、2個中隊以下と言うところでしょうな。指揮官としての貴族とその家族それに私兵共に滅んでいます」


「とんでもない奇策ではありますが、効果は絶大でしたね。私としては、あの砦に進駐しない理由の方が知りたいです」

 トーレルさんの言葉にオブリーさんも頷いている。直ぐ様、俺達が一軍を派遣すると思ったいたようだ。

「マデニアム本国から少なくとも5個大隊が増援されます。峠の地形を使って攻撃しても数を減らすのが精々、ふもとの砦は直ぐに包囲されてしまいます」


 俺達が2個大隊程いるなら、ふもとの砦は有効に使えるだろうけどね。

 それに、マデニアム王国としては犯人を俺達だとは思っていても、その証拠が無い。

 忌々しく思いながら、王都辺りから兵員を派遣してくるんだろうな。


「数日もすればマデニアム王宮にも知らせが届くだろう。増員される兵士達も直ぐにやって来るんじゃないか?」

「小部隊なら直ぐに動けるでしょうが、大部隊となればそうもいかないでしょう。10日前後になるでしょうね。たぶん3個大隊を超える兵力を移動するでしょうし、相手が新兵とも限りません。迎撃は最初の策を少し変えますよ」


 策を変えると聞いて、テーブルを囲んだ隊長達が広げられた地図に目を向ける。

 基本は弓での攻撃だ。

 

「峠を越える街道に隘路が3か所あります。この場所に伏兵を配して矢を進軍して来る敵軍に浴びせる事になるんですが……」


 待ち伏せは南側の崖から行い、矢を放つのは3矢まで。矢を放ったら一目散に南に逃走して、夜の闇に紛れて狼の巣に戻る。


「その時間では魔法は1度使えるだけになるな」

「大軍に慌てて逃げたと思わせれば十分です。2個分隊を配置すれば、たとえ3矢でも被害は無視できませんよ」


 3か所の隘路の一番東と西側の2か所で待ち伏せをする。

 敵軍が立ち止れば、かなりの損害を浴びせられるぞ。敵軍を停止させる方策は……。


「隘路の出口近くで、北側の崖から火の付いたカゴを落してください。中に焚き木をぎっしり詰め込めば、5個でも敵の足止めができます。そのカゴの先から騎馬で矢を射かける事は出来るでしょう。ですが、敵がカゴを越えたら直ぐに街道を西に向かってください」


 追って来る者がいるのかはやってみないと分からないが、先頭が騎馬隊なら飛び越えてくる可能性もある。

 ここは2個分隊で対応して貰おう。それ以上の騎馬隊だと、素早く逃げられそうもない。

 

「騎馬隊の仕事は、敵から少し離れたところで矢を降らせる事にあります。矢を十分に持って行ってください。次に、街道の崖の上の見張り場にも石弓を1分隊配置します。これは、追って来た敵の騎馬隊対策ですから、本体には矢を射る事が無いようにしてください」


 敵を挑発しながら、街道を西に向かう。最後の隘路にも南側に弓兵を配置して、同じように北の崖から火の付いたカゴを落して、3矢を放ち南に移動する。

 消極的な迎撃だが、上手く行けば2個小隊以上を削れるし、敵に与える心理効果はかなりのものだろう。


「消極的な足止めだな……。だが、大軍を相手にするのだ。それで十分だろう。それに、ふもとの砦はすでに廃墟だ。数日過ぎれば、めぼしい物は皆持ちされれるだろうな」

「それは良いのですが、砦の役割を我らがしなければならないかも知れません。しばらくは製粉が出来ないでしょうからね」


 石臼作りは畑違いだ! なんて言いながらも、リーダスさんが作ってくれることになった。軽装歩兵の体力作りを兼ねて、頑張って貰おうかな。

 村から預かった貴重な穀物も使えなくなっているから、それ位は保証してやらねばなるまい。去年奪った穀物がたんまりと残っているからそれを役立てることになりそうだ。


 数日後に、タルネスさんが小さな荷車をラバに引かせて俺達の砦にやって来た。

 荷物は雑貨のように見せ掛けているけど、その中には俺達の要求する品々が巧妙に隠されている。荷車の床が二重底になっているのにはちょっと驚いたぞ。


「フィーナさんに頼まれた品々です。少し高価なものがありましたので……」

 商人達はこうやって荷物を守っているんだな。

 二重底の中からワインのビンを取り出しながら、俺に向かって教えてくれた。

 荷物を全て奪われても、ラバと荷車があれば無一文と言う事ならないって事なんだろう。


「ところで、マデニアム王国のふもとの砦には続々と兵隊達が集まっていますよ。街道の途中にある広場にもテントがいくつか張ってあります。2分隊程が焚き木や水ガメを準備していましたね」

「貴重な情報をありがとうございます。やはり騎馬兵もいたんでしょうね?」

「街道では見掛けませんでした。砦の中までは分かりません」


 荷下ろしをしながら俺にそれだけ伝えると、足早に砦を去っていく。村にも寄っていくんだろう。嫁さんと子供を村に置いているからな。

 村に店を開いたと聞いたけど、ちゃんと機能してるのかな? そんな心配をしながら広間に戻る。

 峠道の広場に休息所を作っているところをみると数日中には、大部隊が移動してきそうだ。俺達も準備を始めないとな。


 夕食後に、いよいよ迎撃する事を皆に伝える。

「敵の足止めはザイラスさんにお願いします。20騎で対応してください。トーレルさんの部隊は、ザイラスさんの残りの2個分隊と自分の部隊で出口付近で待機してください。万が一にも、ザイラスさんの部隊が敵の騎馬隊から追われている時には、矢を放てば十分にザイラスさんを逃がすことができます。直ぐにこの砦に戻って関所の扉を閉じれば、騎馬隊をそこで阻止出来ます。

 南側の2か所の伏兵は巣穴の重装歩兵にお願いします。少し人数が足りないのは軽装歩兵1分隊で補います。

 北側からカゴを落すのは軽装歩兵を1分隊ずつ使います。更に、軽装歩兵1分隊と王女様の部隊を、この崖の上で待機させます。

 敵の後ろを徹底的に叩くつもりですが、次の隘路の手前で街道から離れて北の山に入ります」


「敵の後ろを2個分隊で叩くのは無謀ではないか?」

「その為に、皆で焚き木を入れたカゴを背負っていきます。10個程並べて火を放てば、俺達が逃げる時間は稼げます」


「……、バルツを連れて行け。長い槍で槍衾を作れば近寄ってこれないだろう。トーレルも6個分隊は必要ないだろう」

「私も賛成です。道幅が狭いとはいえ、数は相手の方が遥かに勝ってますからね」


「それなら、最初の襲撃を終えた重装歩兵を使いましょう。南に移動していますが、迂回して、俺達の潜む崖の南側の森で待機して貰えば、2個分隊の重装歩兵が槍衾を作れます」

 

 王女様を危険にさらしたくないと言うのは分かるんだけど、ちょっと過保護な配置だな。

 総勢30人を超える送り狼みたいな部隊だけど、かなり敵を倒せるんじゃないか?

 王女様がにこにこしながら頷いているのをマリアンさんが呆れ顔で見ている。

 これで、配置と作戦が決まった。明日は大移動になるぞ。


 翌日、砦のざわつきで目が覚めた。

 どうにか周囲が明るくなってきた時刻で、日が昇るにはもう少し掛かりそうな感じだが、広間の方から足音が聞えて来るし、中庭からは馬の鳴き声が聞こえてくる。

 急いで着替えると、背中に刀を背負って広間に向かう。

 そこには山賊衣装に着替えた面々がすでに朝食を済ませてお茶を飲んでいるようだ。


「バンターが最後だぞ。早く顔を洗って来い!」

 ザイラスさんが怒鳴るように言ってるけど、まだまだザイラスさんの出番にはならないと思うんだけどな。

 とりあえず外に行って水場で顔を洗い、広間に戻ってきた。

 席には朝食が用意されている。俺のカップにミューちゃんがお茶を入れてくれたけど、ミューちゃんも山賊の衣装を着て、首に覆面用の布をマフラーのように巻いている。背中には軽装歩兵達の持つ石弓よりも一回り小さな石弓を背負って、片手剣を腰に下げている。メイリーちゃんも同じ衣装だ。お揃いにしたのは仲が良いからかな?

 オブリーさんも同じような衣装だけど、下げているのはフルーレのようだ。王女様もフルーレだからこれもお揃いだな。


「早く食べるのじゃ。バンターの朝食が終わり次第、出発するぞ!」

 そんな王女様の言葉に、急いで焼き肉が挟まれたパンを食べてスープで飲み下す。

 襲撃っていうと皆朝が早いんだよな。早くに準備しても待ってる時間が長くなると思うんだけどね。

 

 どうにか食べ終えたけど、お茶を飲む時間があるんだろうか?

 皆が俺の方を見て睨んでるんだよな。


「さて、もうすぐ出発じゃ。ザイラス、トーレル。頼んだぞ!」

「もちろんです。途中途中に通信兵を配すれば、全体の状況も分かる筈。通信兵無くば、この戦はどうにもなりませぬ」


 どうやら、俺達の最大の武器が皆に認識されつつあるようだ。少年兵が中心だけど、その役割は戦場での活躍を上回る。

 少人数で、奇襲を効果的に行えるのも通信手段があるからに他ならない。


「終わりました。出掛けますか?」

「うむ。それでは敵の大部隊を相手にしようぞ! 戦場は峠の街道じゃ。いくら数が多くても我らの前に並ぶのは常に20人を超えることは無い」

「「「オオォォ!!」」」


 王女様の言葉に皆が雄叫びを上げる。

 峠の地理の優位性を皆が自覚しているってことだな。

 これなら、敵に飲まれることは無いだろう。


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