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SA-049 マデニアム本国からの使者


 3つの王国から軍の動かし方に精通した者達が集まって、その指揮を軍略に詳しい者が取るとなれば確かに問題だ。

 だが、ザイラスさんからこの世界の戦の話を聞く限りでは、包囲殲滅と正面からのぶつかり合い、それに攻城戦が主な戦のようだ。

 カルディナ王国の短期戦は、一見電撃戦にも思えるが、たぶん十分な準備を行ってそれぞれに明確な目的を与えて行動させたのだろう。

 数か所の拠点を短期間に破っているんだから、それなりに良く考えられた策だと思う。だけど、指揮官や王侯貴族をほとんど殺戮したのは問題だな。カルディナ王国軍の指揮系統を分断させるのが目的だったとはいえ、他に方法は無かったんだろうか?

 まあ、おかげでザイラスさん達もマデニアム軍への攻撃に罪悪感を持たずにいられるから士気の低下を気にせずにいられるんだけどね。


「だが、援軍や銀塊輸送はお粗末だったな。それほど問題とは思えないのだが……」

「たぶん、当初の予定通りに行っていたんでしょう。そこに俺達が外乱として入ったんです。俺達が峠で山賊を働くなんて考えは、マデニアム王国のカルディナ王国征服作戦には無かったでしょうね」


「敗軍の将兵は投降するか、アルデンヌ山脈の奥に逃れると考えたのじゃな。確かに我等の当初の考えはそうであった」

「私達も牢獄で朽ちることを覚悟していました」

 

 王女様とトーレルさんがしみじみと言葉を紡ぐ。

 本来は、牢獄の囚人救出辺りで気が付くべきなのだが、マデニアム王国の第二王子であるドーマルディはそれを見逃している。

 銀塊輸送のとん挫ではっきりと、当初の策が現状に合わぬと気が付いたはずだ。

 となれば……、その原因が俺達にあると結論付けるのは時間の問題になる。

 前に侵略軍の貴族がやって来たが、今度はマデニアム王国から直接出向いてくると考えられるな。それによって、援軍をどうするかを考えると言うのが一番筋が通りそうだ。


「たぶん近々に使者がこの砦にやって来るでしょう。敵を知ると言うのは戦の基本です。やって来るのは連合王国軍を指揮する作戦本部からと言う事になるでしょうから、3王国に名と顔を知られた人物では問題が出てきます」

「そうなると、分隊長ならだいじょうぶだな。俺とトーレルは顔を隠して後ろにいれば良い。オブリー殿もそうした方が良いな。同席はリック殿それにリーゼルで良いだろう。リーゼルの部下を広間の左右に配置すれば問題なかろう」

「我は同席出来ぬのか?」


 王女様がザイラスさんの配置案に異議を唱えている。

 オブリーさんの隣に顔を隠して座ることでザイラスさんが渋々納得しているけど、ジッとしていられるかが問題だな。


「前と同じにバンターが相手をすれば良い。あまり笑わせるなよ。ボロが出そうだからな」

 ザイラスさんがそんなことを言うもんだからテーブルを囲んだ皆が笑い声を上げる。


「今度はそうもいきませんよ。なるべくボロを出さないように努めますが、皆さんにも注意しておくことが1つあります。武器を以前の品に戻し、長弓と石弓は隠しておいてください」

「我等の武器が山賊と異なることを見せるのじゃな。ザイラス、全軍に伝えるのじゃ」

 王女様の言葉にザイラスさんが頷いて了承を伝える。


・・・ ◇ ・・・


 砦に木枯らしが吹き始めると、アルデンヌ山脈の奥にそびえる高山は頂きを白く染めている。もうすぐ冬がやって来るのだろう。

 そんなある日のこと、狼の巣穴から立派な馬車が街道を西に向かっているとの連絡が入った。従う護衛は騎馬隊だけで1個小隊。いよいよやってきたようだ。

 翌日には、関所から俺達への使者がやって来た事を知らせる連絡が入った。

 打ち合わせ通りの準備をして、どんな人物がやって来たかを楽しみに待つことにする。


 30分ほど経過したところで、砦の守備兵がマデニアム王国からの使者の来訪を告げに広間に入って来た。

 その後に6人の騎士が広間に入って来たところを見ると、使者と副官、それに分隊長達だろう。

 砦の中庭に護衛の騎士達が守備兵から御茶の歓待を受けているはずだ。更に20名の軽装歩兵が石弓を持って兵舎で出番を待っている。

 万が一にもここで戦闘が始まっても、十分に返り打ちに出来る備えは出来ている。


「マデニアム王国からの使者と聞きました。どうぞ御座りください。現在アルデンヌ聖堂騎士団長は領内の巡察中です。その間は、私バンターが代行しておりますから騎士団としての責を負う事が可能です」

「マデニアム王国軍団の総指揮を任された一人、バレンツである。第一貴族ではあるが、騎士団長がおらずば責の負える代行で十分だ」


 ミューちゃん達が酒のカップを配り始める。この辺りは作法があるのだろうが、ここは俺達の版図だから俺達の流儀で良い。

 ワインを俺達からカップに注いで、最後にマデニアム王国からの使者のカップに注ぐ。


「遠路ご苦労様です。あいにくと田舎育ちですから口のきき方が出来ません。先ずは喉を潤しください」

 そう言って、俺がカップを掲げて一口飲む。毒は無いとの意思表示になるとのことだ。

 向こうも、一呼吸置いて俺に異常が無いと見て取ってカップを口に持って行く。

 

「中々良い場所に砦を作りましたな。ですが、ここは我等マデニアムの領地ですぞ」

「騎士団領地を自分の領地と言うのもおもしろい話ですね。と言う事は、逆にも言えます。我等騎士団の領地にマデニアム王国があるとね」


 随行の騎士が俺の言葉に怒りを帯びた顔で睨みつけているけど、テーブル越しだから安心していられるな。テーブルを乗り越えて来るなら、俺の後ろでジッと立っているザイラスさんとトーレルさんが直ぐにも叩き斬るだろう。


「なるほど……。少し我等にも誤解があるのかも知れません。征服された王国の領土は征服した王国の領土となる。ここまでは納得していただけるでしょうか?」


 その言葉に俺はゆっくりと頷いた。


「ならば、この砦一帯は我らの土地ではないのですかな?」

「我等騎士団領はカルディナ王国とは別の存在。しっかりと国土をカルディナ王国より拝領している。すなわち、カルディナ王国の領土ではないのだが、マデニアム王国は隣国さえも自国領と言い張るつもりなのか?」


 俺の答えに、表情を微妙に変えたぞ。

 自分達の事前調査にそんな国は無かったと思い出しているのだろうか?


「まあ、カルディナ王族より我等に伝えられて直ぐにあの騒ぎだ。周辺諸国には伝わっていないようだから、ここではっきりと伝えておく。我等は教団とも繋がるれっきとした騎士団だ」

「開け渡して、他の土地に移らぬと?」


「それは教団の信義に反することにもなる。信義を貫かぬ騎士団など名ばかりの騎士と思うが?」

「審議を重んじる騎士団員が顔を隠すとはどういうことだ?」

 端の男が大声で俺に怒鳴ってきた。まあ、想定内の質問だな。


「それも信義の1つである。我等は騎士団の信条の下に平等である。老若男女、生まれ、年齢を超越して同列である。それは神の前に全てが同一であることに同じ、それを具現化するために普段はこのように顔を隠している。そのままこの場に出ても良いのだが、遠路訪ねてくれた礼を思って、甚だ不本意ではあるが我等3人は顔を出している」


 騎士団によっては、他人に理解できないような戒律や信義、儀式があるとザイラスさんが教えてくれたから、これで十分に説得力を持つはずだ。


「正義の味方の衣装とも聞きましたが、まあそれは良いでしょう。ですが、我等の内政に干渉して貰いたくはありませんな」

「商人があまりやって来ぬゆえ、村や町にも出ねばならん。そんな時に狼藉を働く者がおれば、マデニアム王国に変わって我らが民を守っておるが……、無用だと言う事か?

 確かにマデニアム王国は街道に巣食う山賊さえ野放しでいるようだから、あながち、盗賊はマデニアムのお家芸と言う事になるのかも知れんな。それなら、我等の行為はマデニアム王国の方針とは相いれぬ事になる。大変な失礼に当たる行為だったかも知れん。この場でお詫び申し上げる。

民を助けると言う我等騎士団の失礼な行為をマデニアム王国に対して行ったことは、教団に一切を話して教団からも謝意の書状を出して頂けるようにするつもりだ」


 俺の言葉に最初は頷いていたバレンツの表情が話が進むにつれて蒼くなってきた。

 そのまま伝われば、マデニアム王国は盗賊国家として周辺諸国に伝わることになる。それは国家として大きな傷が付くと同時に他国の侵略理由にも十分な表現になってしまう。


「いやいや、おかげで治安維持が容易になったとも聞いております。なるほど、商人が来なければ出向く事も必要になるでしょうな」

 ハンカチを出して額をぬぐっているぞ。かなりショックを受けたに違いない。


「ですが、あまり迷惑を掛けぬ方がよろしいかと思いますな。急造の砦など大群の前には脆い物です」

「でしょうな。関所を設け、柵を周囲に作っていますから、今のところ襲撃は1度受けただけで済んでいます。早めに援軍を派遣して頂けると我等もここで安心できるのですが……」


 襲撃を受けたという話を聞いて、随行者達の顔に疑問が浮かんだのを俺は見逃さなかった。

 やはり、俺達と山賊が何らかの関係を持っていると考えていたようだ。

 襲撃を受けたと言う事に嘘はないが、それはマデニアム軍からだ。嘘は言っていないから俺の表情に変化は無かったと思いたいな。


「確かに、それは問題ですな。しかもマデニアム王国領内からの襲撃では、我等も恥じ入るばかりです。参考までに教えて頂きたいが、騎士団の規模はどの程度なのでしょう? それが分かれば盗賊団の規模も我等なら推測が可能です」


 ストレートに聞いてきたな。

 ここはあまり過大に言っても砦の規模でバレそうだ。


「俺がここにいる限り、2個小隊の騎馬隊位は跳ね返すことができますよ。それより多ければ砦の扉を固く閉じて守れば良い事です」


 俺の答えにバレンツはニコリと微笑み、随行者達の顔色は逆に蒼くなってきた。このまま帰れない事もあり得ると暗にほのめかしたんだから普通ならそうなるよな。

 だけど、バレンツはそうならなかった。あらかじめ俺達の規模を聞かされてきたんだろう。その規模が俺の言葉から得た数量とさほど変わらないと言う事になるんだろうか?

 となれば、やはりドーマルディは策士として優秀な部類に入ると言う事になる。


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