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SA-048 急な知らせ


「チェック!」

 エミルダさんのビショップが俺のキングを狙う。すかさずルークをスライドさせてビショップを牽制すると、エミルダさんは離れた場所にナイトを移動させた。俺の陣をナイトとルークで攪乱するつもりなんだろうか?

 ビショップを王の隣に移動させて守りを固める。


「それにしても、このゲームは完成度が高いですね。だいたいの動きは分かりましたから、姉様に送ってあげましょう」

 エミルダさんがクイーンをつまみ上げて呟いた。


 少しテーブルの端の方では王女様とミューちゃん達がスゴロクで遊んでいる。オブリーさんもいつの間にか混じってるな。

 嬌声を上げながらサイコロを振っている娘さんを眺めながらマリアンさんが微笑みながら編み物をしている。何となく平和な感じがするな。

 村の職人とドワーフに作って貰ったゲーム盤はたちまち俺達の間で評判になった。暇をつぶすゲームというものが無かったらしい。

 ザイラスさんとトーレルさんは砦の庭で大きなチェス盤でそれぞれの部隊の応援を受けながら遊んでいるらしい。

 1辺が3mものボードを作った時には皆が呆れてたけど、ボードの周囲をベンチで囲んでいるから皆で観戦することを考えていたみたいだな。

 チェスのルールをかなり大勢が覚えたみたいで、簡単な解説書と、小さなチェスのセットは狼の巣穴や関所にまで運んでいる。

 少しでも緊張を和らげる助けになれば良いんだけれど……。

 

 先を見越した手を打つべくクイーンを手に取った時だ、バタンと乱暴に扉が開き軽装歩兵が慌てて飛び込んできた。


「関所から連絡です。この間やって来た若い神官が荷馬車に乗って戻ってきたそうです」

「ヨハンネスでしょうか? 何事でしょう」

「急ぎ戻るとなれば理由は1つです。通信兵! 至急各部隊の隊長を呼んでくれ。ラディさんの場所が分らなければ、浸透部隊に連絡するだけで良い」


 マデニアム王国からの援軍に関する情報に違いない。2つ作戦を立ててはいるが、どちらになるかがこれで決まりそうだ。

 

 しばらくして砦に着いたヨハンネスさんが俺達に告げた内容は、俺の想像を上回るものだった。

 縁戚関係を持った2つの王国からの援軍は5個大隊、それにマデニアム王国領内で徴兵した兵員の数は3個大隊。しかも、クレーブル王国国境に2個大隊の軍を張り付けているらしい。

 クレーブル王国を攻略して一気に2つの王国の利権を3つの王国で分配しようと言うのだろうか?

 

「商人達の話と、祠を祭る神官達から聞いた話をとりあえずまとめておきました。私はこのままエミルダ様のところで次の荷馬車が来るまでいるつもりです」


 そう言って、懐から大事そうに分厚い封書を取り出して俺に渡してくれた。

 ありがたく頂く。この情報は金では買えないからな。

 年を越せば役に立たないけれど、今の状況では何物にも替え難い。

 

 パイプを楽しみながら、エミルダさんに頂いた周辺地図とザイラスさんが貸してくれたカルディナ王国の地図を眺める。

 ヨハンネスさんの調べ上げた周辺諸国の情報は、地図を見ながら読むと理解できる内容だ。

 やはり、最終的にはクレーブルとカルディナを滅ぼすことが目的だな。カルディナ王国を滅ぼしたは良いが、結果が思わしくないから次の戦に踏み切れないと言う事だろう。

 銀山の利権をきちんと形にしたいと言う事が良く分る。

 となると、俺達の存在は目の上のタンコブって事になる。北の砦の守りを固めると同時に、西と南の砦を増員して、クレーブル侵攻の時期を探る腹のようだ。

 マデニアム王国とニーレズムとマンデール王国は連合王国として機能するのだろうか? いくら縁戚関係が濃密とは言え後の始末が大変だろうな。

 とはいえ、連合化により15個大隊以上の兵力を展開できるのも問題ではある。

 さすがに全部隊を使う事は想定がいだろうが、各国が3個大隊を融通し合うだけで9個大隊を動かせるんだからたいしたものだ。

 問題は、それらを統括して指揮する者は誰か? と言う事だ。

 

 ヨハンネスさんの書状にそれが書かれてあった。場所はマデニアム王国の王宮内の一室らしい。そこが作戦本部になるのだろう。

 そこに3つの王国が2人ずつ、作戦参謀を送りこんでいるらしい。そのトップはマデニアム王国のドーマルディ王子と言う事だ。

 第二王子と言う事だが、将来の王国を背負う者として王宮内では噂されていると書かれていた。年齢は25歳と言う事だから、かなりの野心家に違いない。

 更に作戦本部の設置は昨年末と言う事も気になる。

 俺達の銀塊輸送部隊を襲撃してからになるな。そうなると、彼らの当面の目的は銀塊輸送の円滑化になる。


 クレーブル王国への侵入は、銀塊輸送に目処がたってからに違いない。

 クレーブル王国を滅ぼして銀塊輸送経路と港を同時に手に入れることも考えられるが、カルディナ王国を電撃戦で滅ぼしているから、同じ策を使う事は出来ないだろう。クレーブル王国も軍隊を東にシフトしているんじゃないかな?

 戦が長引いて船による交易品が滞るような事になれば、商会ギルドや3カ国の周辺諸国が動くとも限らない。

 クレーブル王国への進軍は北の石橋の攻略と東からの軍勢が同時に行われるんじゃないか? ニーレズム王国とクレーブル王国間の戦の背後を突ける形になるから、クレーブル王国軍が戦線を維持できなくなりそうだ。


・・・ ◇ ・・・


 夕食後に主だった連中がテーブルを囲む。いつもならワインだが今夜はお茶で我慢してもらおう。

 

「そろそろ本題に入ったらどうだ。巣穴の連中もいるってことは、次の襲撃の話だろうが、状況が変わったのか?」


 ザイラスさんがカップを覗き込んでるけど、いくら見てもワインには変わらないと思うぞ。


「教団の鑑札を届けてくれたヨハンネスさんが、マデニアム、マンデールそれにニーレズム王国の様子を教えてくれました。

 どうやら、3つの王国が連合を組んでいるようです。狙いは、カルディナ王国の銀山と、クレーブルの貿易港を手に入れることのようですね。

 動員可能な兵員数は全部で15個大隊。とは言え、更に奥にある王国との国境警備は続けなけれなならないでしょう。それに王国自体の治安維持も必要です。おおよそ9個大隊、それにマデニアム王国の徴兵で得た3個大隊が加わった12個大隊と言う事になるでしょう。ちょっと苦しい戦になりますから、覚悟してください」


「12個大隊とはとんでもないな。勝てるのか?」

 数字を聞いて皆が驚いている中で、ただ一人俺をジッと見つめていたザイラスさんが聞いてきた。


「その動員数ですが、すでに3個大隊はカルディナ王国に入っています。更に俺達が1年半で倒した敵の総数は1個大隊に近いのではないですか? それに、クレーブル王国への侵攻を考えれば3個大隊以上を国境近くに待機させる必要もあるでしょう。これらを考えると、カルディナ王国への増援は3個大隊に満たぬ既存の兵力と、新兵の3個大隊と言う事になります」


「とは言え、戦は数の勝負とも言われています。1国の正規軍よりも多い増援ですよ!」

 オブリーさんは、すでに勝敗は決したような口調だな。だけど、そうでもないんだよね。


「確かに圧倒的な数です。でも、すでにザイラスさん達のおかげでカルディナ王国に進駐しているマデニアム軍は、砦を固く閉ざして外に出ようとしていません……」


 おかげで俺達の背後を突かれる心配があまりない事も確かだ。

 それに、増援部隊の主力は南のレーベル川の石橋を攻略するためだと思う。人海戦術でなら落とせるだろうが、長い橋だから時間がかかるだろうな。

 その間、俺達が黙って見ているわけがない。


「問題は、敵の進軍構成と時期です。少なくとも厳冬期は行わないでしょう。晩秋であれば、カルディナ王国の穀物も税として取り立てることができますから大軍を植えさせることも無いでしょう」


「時期は刈り入れ後と言う事か。構成とは、やって来る部隊の規模と新兵達の割合って事になるな。それは峠の烽火台からでも分かるが、あまり時間が無いぞ」


 それが一番の問題だ。

 全軍を一度に送りたいだろうが、山道が延々と20km近く続いているのだ。ちょっとしたトラブルで直ぐに渋滞してしまうから、送る側としても何度かに分けて送ることになるだろう。


「ところで、マデニアム王国の第二王子を知っていますか?」

「急に話が飛ぶな。……確か、トーレルより少し若いと聞いたが?」


「私は一度マデニアム王国の王宮で見たことがありますよ。ひょろりとした感じで、そうそうバンター殿のような風貌です。銀色に近い金髪はあの時初めて見ましたね。少し顔色も優れませんでした」


 トーレルさんが思い出すように言葉を紡ぎ出す。

 病弱に見えたと言うのが問題だな。本の虫って事だろう。当然、過去の戦には精通しているってことになる。

 3王国の総指揮を執るに値するって事になるな。

 となれば、過去の山賊の被害を防止する手立ても当然考えて来るはずだ。

 何となく、三国志めいて来たな。俺が公明ならいいんだけどね。


「病弱でも、聡明な王子であると父君が話してくれたぞ。兄上に少しは見習うようにも言っておった」

「少し、見えてきました。俺と同じような境遇なんでしょうね。たぶんずっと本を読んで暮らしていたに違いありません」


「マデニアム王国のバンターと言う事か? 問題だぞ、それは!」

 ザイラスさんが珍しく大声を上げた。

 そんな風に言うと、他の連中が不安になるんだよな。分隊長の何人かは目を伏せているぞ。


「ところで、カルディナ王国を含めて、周辺の王国はどれ位の歴史があるんですか?」

「数百年と言ったところでしょうか? その前にも王国はあったのですが大きな戦によって記録が失われています」


 エミルダさんの言う事だから、教団の歴史もそれ位と言う事になりそうだな。


「マデニアム王国第二王子がいくら古来からの戦の記録を読んでも、たかが数百年です。俺は2千年以上も前の記録すら読んだことがありますよ」

「何じゃと!」


 王女様が驚いて大声を上げた。テーブルに着いた隊長達も同じような目で俺を見る。

 少なくtも、三国志は読んだし、ゲームだってやったからな。それに究極の戦略、『逃げるが勝ち』だって知ってるぞ。

 増援軍のカルディナ王国派遣を巡って、少し策を競う事になりそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] (。´Д⊂)読んでてどうしても気になったので。 大群を植えさせる→飢えさせる 拝読は気力が戻ればまた再開したいと思います。
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