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SA-047 教団鑑札の使い道


 盛夏が過ぎ、砦にも涼しい風が吹いて来る。

 そんなある日の事、砦に小さな荷馬車が入ってきた。荷馬車を覆う幌には教団の♀のマークが左右に赤く描かれている。

 荷馬車の御者台から下りてきたのは、若い男性の神官とビルダーさんだった。

 早速、ミューちゃんがエミルダさんに知らせに行ったみたいだ。俺達は2人を広間に招き入れて一休みして貰う事にした。


 大きなテーブルに座ったのは俺と王女様、それにオブリーさんの3人とマリアンさん達だ。直ぐにエミルダさんがやって来て若い神官に挨拶している。それに答える神官がかなりへりくだった言い方をしているから、神官の位はかなり厳密に守られているって事なんだろうか?

  

「教団の鑑札は商会ギルドの鑑札の上をいきますね。荷改めも無く、優先的に石橋を渡して貰えました。クレーブル、カルディナの両関所共にです」

「何度も往復して貰いますから、その内には荷を改められることもあるでしょう。ところで隣の御仁は?」

「初めてお目に掛かります。クレーブルお妃の命により、クレーブルの神殿よりオブリー殿に同行しているヨハンネスと申します。教団の使いとして町や村の祠を守る神官へ伝達する役目を仰せつかっております」


 クレーブル王国の御后様が動いてくれたんだな。そうなると、教団の鑑札とヨハンネスの教団での役目を使えば、周辺諸国を自由に動けることにならないか?

 タルネスさんの行商人繋がりのネットワークと教団のネットワークを使えば、かなり詳細な周辺諸国の状況を知ることができそうだ。


「どうしたのじゃ? 含み笑いなどしおって」

 王女様が俺の顔を覗きこんでいた。顔に出てたのか?

「クレーブル王国には足を向けて寝ることができないと……。さすがは御后様です。俺の考えなどお見通しと言う事です」

「やはり、バンター殿もそう考えたのですね。姉様の手紙にも役立つだろうと書かれていますよ」


 エミルダさんが読んでいる手紙はヨハンネスから渡されたものだ。御后様からの手紙だろう。やはりヨハンネスを上手く使えと書かれていたんだろうな。


「私には、理解出来ませんが。いったいどういう事なのでしょう?」

 オブリーさんが俺に訴えてきたけど、王女様やマリアンさんも頷いているぞ。

 少し面倒な話になるけど、説明しておいた方が良いだろうな。


「俺達がマデニアム王国の新兵で構成された増援部隊を襲撃しようとしていることは、皆も知っているところだと思う。

 俺も最初はそれ程難しい話ではないと思ったんだけど、どうもそうではないらしい。場合によっては、マデニアム王国と深く同盟を結んだ王国が援軍を出すことも出来ると考えた。俺達がクレーブル王国に出掛けて義勇軍を得たようにね」


「それはそうですが……。その援軍と、新兵の移動が重なる事まで考えるのは……」

「オブリー、それがバンターなのじゃ。可能性があるならその対策を考える。おかげで準備が大変じゃ」


 王女様がオブリーさんに教えてるけど、何か取り越し苦労の塊のように聞こえるな。


「そこで、気になるのがこの2つの王国だ。ニーレズムにマンデール王国。かなりマデニアム王国と深く係わりを持っている。特にニーレズムは要注意だな。ニーレズムには港が無い。マデニアム王国と組んでクレーブル王国を狙っっていると俺には思えるんだ」


 俺の言葉にオブリーさんの顔色が変わったぞ。自国に攻め入る可能性を初めて知ったのだろうか?

 単純な性格みたいだから、教えると敵方に知られると思って誰も教えてあげなかったのかもしれないな。


「早く知らせなければ……」

「すでに、クレーブルは対策をしているはず。攻め口は、レーベル側の石橋と東の国境沿いになる筈だけど、石橋にはウイルさんが陣を張っているし、東にも軍を派遣しているんじゃないか? 防衛線に徹するなら相手の半分の兵力で十分だ。柵を幾重にも張って2個大隊も派遣すれば、ニーレズムは攻め込めないよ」


「その通りです。カルディナ王国の戦が始まった知らせを受けて、バンター殿の言う通りの事をクレーブル国王は指示しました」

 俯くような感じで、オブリーさんが話してくれた。当時の指示の意図が分からなかったんだろうな。

 

「そうなると、私共は広く諸国を巡って情報を集める事になりますな」

「やってくれますか? 特にニーレズムとマンデールの情報は少しでも早く欲しいところです」

「上手く鑑札を使わせてもらいます。クレーブル王国が香辛料の取引をマデニアム王国とカルディナ王国に対して停止していることを上手く使わせてもらいますよ。ところで、運んで来た香辛料と調味料の三分の一を使わせてもらいますよ」


 マデニアム王国で香辛料を使えば色々と情報を仕入れられるだろう。

「ビルダーさんも悪ですね」

「いえいえ、バンターさんほどでは……」

俺とビルダーさんは、互いににんまりとして頷いた。

 そんな俺達を見てマリアンさんが首を振っていたから、きっと悪徳商人同士の会話に聞こえたんだろうな。


「私は荷を村の妻の店に下ろしてきます。帰りに砦に寄りますから、その時にヨハンネスさんを拾っていきますよ。マデニアムからニーレズムに向かえば、マンデールの噂も聞くことができるでしょう」


 ビルダーさんは俺が頭を下げるのを押とどめるようにして広間を後にした。

 廃村の店は倉庫にしか見えないけど、色々と品物が揃っているようだ。タルネスさん達が不足すれば直ぐに運んで来るらしい。

 そんな店の品物を少しずつ詰め込んで、聖堂騎士団員が村や町の神官に運んでいる。

 ありがたく受け取ってくれると言う事だから、やはり村人達は窮乏しているのかもしれないな。


「これは、ウイル殿よりバンター殿に渡してほしいと……」

 懐から書状を出した。ミューちゃんがトコトコとヨハンネスのところに向かい書状を受け取って俺に渡してくれた。

 書状を受け取り、南に向かって押し頂く。

 広げて中を読んでみると……。騎馬隊2個中隊はいつでも出せると書かれている。その合図は、それに向かって【メル】を2発。少し間を置いてさらに2発と言う事だ。

 書状を王女様に渡すと、驚いて俺を見ている。


「使うつもりか?」

「使わずに済ませないといけません。ですが、万が一の備えとしては十分です」


 次に南の石橋を渡る時に、丁寧に礼を言ってくれと頼み込む。

 書状はあえて書かずとも良い。そんな状況ではない事をウイルさんなら理解してくれるだろう。


 ビルダーさん達は翌日に、砦を去って行った。次は峠を越えてマデニアム王国だ。

 ご苦労さまだけど、色々と情報を仕入れて来てもらおう。


 その夜、ザイラスさんから2枚の地図を受け取った。

 北の砦と、西の砦の地図だ。

 そう言えばと言いながら、マリアンさんが王都の地図を自室から持ってきてくれた。魔導士達と相談しながら描いた物らしい。


「次は、いよいよどちらかに手を出すと言う事か?」

「正義の味方ではありませんよ。反乱軍として動くことになります。装束は山賊衣装でお願いします」

「となると、火矢を放つと言う事になるな。北の砦は少し面倒だ。周りに広い場所が無い」


 王都の地図を広げると、周囲1km程の碁盤の目状の街並みだ。西に王宮がある。狙うとすれば豪商や兵舎、食料庫になるのだが……。

 区画整理されてるとは言え、大火事になると民衆に犠牲に出ないとも限らない。

 となると、更に狙う場所は限られてくるぞ。


「この兵舎と隣の倉庫は狙い目ですね。やはり石作りですか?」

「火事を恐れて王都の建物は全て石作りだ。火矢も役に立たぬだろうな」


「そうでもありませんよ。マデニアム軍によって王都の大部分に火を放たれています。外側からの火には強くとも、中から火を点けられれば燃えてしまいます。

 あれから、2年も経っていないでしょうから、あちこちの建物はまだ石で壁を覆っていないでしょう。木造がかなりあると考えても良いのでは?」


 トーレルさんが教えてくれた。どうやら王都から連れてこられた投降兵の話らしいから信用できる情報と言えるだろう。


「ダメで元々です。何度か放ってみてくれませんか?」

「それで相手を落すことは考えておらぬからな。少しは被害が出れば十分だろう。出てくれば、そいつらを殲滅できるからな」


 ザイラスさんとトーレルさんが何やら言い争っているのは、どちらが出掛けるかって事らしい。ここは1つ、両部隊に出掛けて貰おうかな。


「ザイラスさん。明日の昼に出発して貰えませんか? 装束は騎士団の姿でお願いします。街道を東に向かって、峠の監視兵に東から移動する商人や部隊がいないことを確認したら……」

「山賊の衣装に交換して出掛けるのか? 夕暮れ前に村の傍を通ることになるな。山賊が西に向かったと思わせるのだな?」

「トーレルさんは街道を外れて西に向かってください。できれば出発は深夜にお願いします」


 関所にザイラスさん達が戻ってからでいいだろう。

 襲撃時刻は明け方になる。途中で着替えれば、聖堂騎士団の村や町への訪問と思われるだろうな。

 まさか装束を換えているとは思わないだろう。

 何回かそんな襲撃を繰り返せば、例の貴族がやって来るんじゃないかな?

 今度はどんな要求を持ってくるだろう。教団を使おうなんて考えるところに無理があるんだが、そろそろ俺達の正体に気付いたかも知れないな。


「我等の楽しみが無いのう……」

 王女様の言葉に頷いているのはちびっ子2人だな。

 いつの間にか王女様と仲良くなっているのは良いのだけれど、同じような性格なのは問題だな。

 簡単なゲームでも作ってあげようか?

 チェス位ならできるかも知れないし、何といっても職人を抱えているからな。良い物ができるかも知れないぞ。


 翌日、意気揚々とザイラスさんの指揮する1個小隊が砦を後にした。

 トーレルさん達は自分達の出発が待ち遠しそうだったけど、深夜まで我慢して欲しいものだ。

 ザイラスさん達を見送ったところで、俺達は村に向かって荷車を走らせる。

 村の様子も気になるし、職人達にゲームボードを作って貰わねばならないからね。


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