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SA-046 周辺諸国のつながり


 狼の巣穴から東にある街道の先に広場を事前に作ったり、3個大隊程の軍で一気にカルディナ王国を攻略する電撃戦、更には商人の荷馬車に兵をしのばせて北の砦を落している。

 マデニアム王国にも戦略を考える人物がいるって事だろうな。

 現在のカルディナ王国をみると、その人物がハンドリング出来ない状態になっているようだ。

 軍政を敷いているようだけど、それを行っているのが貴族であり、自分達の蓄財第一主義のようだ。ある程度はマデニアム国王も黙認するのだろうが、余りにもお粗末だからな。

 ふもとの砦を守る貴族は交替しているようだし、他の砦や王都を守る貴族もボロが出ない内に帰る事を考えているんじゃないかな。

 せっかく占領したカルディナ王国の主要産業である銀山からの製品は、俺達が奪っているからね。

 少しは、マデニアム王国にも届いているのだろうが、半分以上俺達が阻止出来れば今後の俺達の作戦に色々と役立てることができる。

 マデニアム王国の今後の出方が気になるな。

 カルディナ王国がクレーブル王国と縁戚関係を強く結んでいたことも驚いたけど、そんな関係が周辺諸国でも当たり前に行われていたとなると、他国からの援軍も考えられるぞ。その場合は……。


 ジッとテーブルに広げた地図を眺める。

 ザイラスさんが俺に渡してくれた羊皮紙の地図はカルディナ王国内を描いたものだ。やはり、将来を見据えるとカルディナ王国の周辺を含めた地図が欲しいな。

 主な産業と持っている兵力、それに大まかな砦と町の位置位が記載されていれば良いのだが……。


「若いバンター殿が、そんなに遠い目をするのも珍しいですね」

 どうやら、俺の事をジッと見ていたらしい。広間でマリアンさんとお茶を飲んでいたエミルダさんが俺に向かって微笑んでいる。

「次の作戦を考えているのでしょう。策を違えたことがありません。私は神が我等を助けるためにザイラス殿の前にバンター殿を落したと思い、神に毎朝感謝の祈りを欠かしたことがございません」

 

 そこまで考えることは無いと思うな。そんな風に思っていたら、万が一にも作戦ミスを起こした後が怖くなるぞ。

 

「ただの若者です。少し本の知識があるだけですから、失敗だってしますよ」

「その失敗ですら、王女様をお守りした結果ではありませんか。数年もせずに再び王宮に戻れる気がします」


「それに関連した話ですが、この地図はザイラスさんの持っていたものです。カルディナ王国についてはある程度理解できるのですが、カルディナ王国の周辺の王国とその先にある王国を含めた地図は無いんでしょうか?」


 俺の問いに、マリアンさんが隣のエミルダさんと顔を見合わせている。

 質問が理解できないのだろうか? そんな思いで2人を眺めていると、エミルダさんが俺に顔を向けた。


「世界地図と言う事になるでしょうね。あまり出回ってはおりませんが、小さなものは私も持っております。今運ばせましょう」

 見習い神官が、広間を出て行った。

 どうやら、教団が作った地図らしい。各国に神官を赴任させるときに教団が手渡す地図と言う事だ。

 地図を頼りに、教団の教えを広めに行くんだから、末端の神官は強い宗教心を持ってるんだろうな。

 だが、そんな末端からの情報が伝わる教団は、この世界の情勢に一番詳しい事になる。その情報を得ることができれば良いのだが……。


 直ぐに戻ってきた見習い神官が、俺の前に折りたたんだ羊皮紙を置いてエミルダさんの後ろに下がる。


「その地図が役立つと思います。教団で得た地図ですから、街道と王国の位置を大まかに記載してあります。私達は、デリア神皇国からトーレスティ、クレーブル、ニーレズムと街道を東に進み、ニーレズムからマデニアムにレーデル川の石橋を渡って来たのです。カルディナ王国の3方の街道が塞がれていると聞きましたから」


 王国の位置関係は、カルディナの南にクレーブル、カルディナの西がウォーラムでその南がトーレスティになる。トーレスティの西にデリア神皇国があるようだ。

 カルディナの東はマデニアムでその南にはニーレズム、マデニアムとニーレズムの更に東にはトルメアとマンデールがあるようだ。


 この地図を見ると、エミルダさん達はかなりの遠回りをして俺達のところにやって来たようだ。だが、今の話ではニーレズムとマデニアム間の街道は遮断されていないと言う事になるな。

 カルディナとクレーブルのような縁戚関係を持っているのだろうか?


「分かりましたか? マデニアム王国とニーレズム王国は貴族間の縁戚で強く結ばれています。王族は、ニーレズムの東にあるマンデール王国から御后を迎えているようですよ」

「マンデール王国の北に位置するトルメア王国とは?」

「何らの血縁もありません。民間は分かりませんが、王族、貴族の間では私の知る限り無かったようです」

 王侯貴族ともなれば、結婚式の知らせを教団に知らせる習わしがあるらしい。

 エミルダさんは、そんな記録を教団で何度も見たことがあると言っていた。


 そう言う事ならば、マデニアム王国と接する4つの王国の内、ニーレズムとマンデール王国との国境警備を縮小して、トルメア王国に睨みを聞かせているって事になる。

 マデニアム王国に残った兵力は2個大隊程度で十分と言う事になるんだろうな。

 やはり新しく徴兵した兵力は、全軍をカルディナ王国に送って来ると見て間違いなさそうだ。

それよりも、俺と同じ事をマデニアム王国が考えた場合が問題だぞ。マンデール王国から1個大隊、ニーレズム王国から2個大隊は出すことができるだろう。

 6個大隊の増援もあり得るって事になる?


「どうしたのじゃ? 地図を睨みながら唸っていたぞ」

 いつの間にか隣に王女様が座っていた。

「ちょっと、先が苦しい事になりそうだと思ってたんです。どうやら、マデニアム王国の新兵を相手にすれば良いと思っていたのですが、それだけでは済まなくなりそうです」


 それはバンターが考えることじゃ! 何て言いながら席を立って外に出掛けたけど、俺達を取り巻く条件はかなり厳しいぞ。


「ところで、ウォーラム王国はリブラム王国と手を汲んでいるようなことはありませんよね。トーレスティ王国も気になるところです」

「良くご存知ですね。デリア神皇国との接点はありませんが、ウォーラム王国はリブラム王国と姻戚関係がありますし、トーレスティとヨーレム王国も似た関係です。クレーブルとトーレスティの間には親しい関係はございませんが、民間の間では交流が盛んです」


 となると、危険視しなければならないのは、ウォーラム王国だけとなりそうだが、街道の関所が邪魔でカルディナ王国には攻め入れないようだな。やはり銀山の利権が目当てって事になるんだろうな。

 トーレスティ王国との街道は同じように閉鎖しているようだが、互いに監視し合っている感じに見える。こちらはとりあえず手を抜いても良さそうだ。


 となると、とりあえずはニーレズムとマンデール王国の様子が知りたいところだ。

 商人つながりで様子を聞いてもらう事になるか……。


「それにしても、隣国だけの様子を知るのではなく、周辺7か国以上の様子を考えるのですか? そんなに多くの王国の力関係を考える人は初めてです」

「王国の規模が、あまり変わらないと言うところが問題なんです。一国の動きが周辺各国に波紋のように広がっていきますからね」


「上位の神官からリブラム経由は止めるように言われました。比較的通行が容易なのは、ニーレズム経由だと」

「ニーレズムもクレーブルを狙っていたのかも知れません。カルディナとクレーブルの関係を築きたかったのではと想像しています。この街道に、海沿いの港町があるのはクレーブルだけですから」


 ニーレズム王国には海から離れたところに街道が走っている。海には至っていないのだ。となれば、ニーレズムには港が無いと言う事になる。

 マデニアム王国がカルディナの銀山を欲しがるように、ニーレズム王国は

クレーブルの港を欲しがっていたんじゃないか? 王族の縁戚であるマンデール王国よりも、現時点ではニーレズム王国の方が同盟関係の結びつきが深いように思える。


「それで、バンター様はどうなさるのですか? 万が一にもニーレズム王国とマデニアムが結んでいればマデニアムの兵力不足に援軍を送る事もあり得るのでは?」


 俺とエミルダさんの会話に、割り込むようにしてマリアンさんが俺にたずねてきた。


「それが一番気になっています。場合によっては隣国のマンデール王国さえも援軍を出す可能性があるでしょう。マデニアム王国からの増援部隊の対策は2つ考える必要が出てきました」


 マデニアム王国内で徴兵した新兵のみの場合と、他の王国からの援軍を交えた増援部隊の対策が必要って事になる。

 ザイラスさん達は、あちこちの砦に火矢を放っているけど、次の襲撃はかなりきつい戦になりそうだぞ。


 そんな話をエミルダさんとしてから10日も過ぎた頃、俺達のところに教団来御用達の鑑札が届いた。

 急いで、ラディさんの部隊にビルダーさんを探して貰う。

 いよいよ、調味料を閉ざす作戦を始められるぞ。ひそかに運んだ調味料は、俺達では消費しきれないから、8割を村や町の神官に寄付してあげよう。村人達に分け与えてくれるに違いない。残った2割は賄賂に使えそうだ。


 数日して、俺達のところにやって来たビルダーさんに鑑札と金貨を渡してクレーブル王国に渡って貰う。


「妻の実家もお役に立てるでしょうが、御后様とそのようなお話がなされているなら心強い限りです。この鑑札、役立たせて頂きます」

 鑑札を渡そうとした俺の手を両手で押し頂いって、何度も頭を下げるから俺の方が恐縮してしまう。

 俺は、よろしくお願いしますと、どうにか声を掛ける事が出来たぐらいだ。


「これで、策の1つが実行できるのじゃな」

 広間の出口で、もう一度俺達に頭を下げるビルダーさんの姿を見て王女様が呟いた。「ええ、今度はかなり厄介なものになりますよ。色々と準備が必要になってきます」


 俺達の売りである、素早さと連携が試されそうな気がする。

 他国からの増援部隊を伴ったカルディナ王国への増援部隊を強襲する方法をどうにか考え付いた。

 後方と側面から攻撃して、西の街道はがら空きにするという作戦だが、この策が取れる場所が限られてくる。尾根越えの街道に3つある隘路の内、一番東側の隘路でこの作戦を行うつもりだ。

 その隘路は、両側の崖はそれ程高くはないが、長さが500m以上続いているらしい。

 さらに、隘路が終わってもふもとまでは3kmも離れている。

 半減させることは無理だろうが、かなりのトラウマを与える事ができるだろう。


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