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SA-041 許可は出た


 国王との正式な謁見は30分も掛からずに終了した。

 その後、国王の私的な晩餐会の始まるまで別室で待つことになったのだが……。

 案内されるままに、1階の入り口近くにある部屋に通される。無駄に大きな部屋だ、部屋の中でバレーボールができるんじゃないか? 大きく作れば良いってものじゃないと思うんだけどな。

 窓際にある小さなテーブルセットに座って、トーレルさんは侍女が運んで来たワインを飲んでいる。

 俺は、侍女に断ってパイプを楽しむ。

 

「いよいよですよ。国王は文武両道、下手な言い訳は見透かします」

「かなりの切れ者だと分かりました。これは、苦労するかも知れません。ですが、その時は御后様にすがりましょう」


 王女様の書状は話が終わってからにしたかったが、場合によっては切り札として途中で使わざるを得ないかもしれない。

 さて、どんな風に話を持って行こうかと考えていると、侍女が俺達を迎えに来た。いつの間にか日が暮れていたらしい。この部屋には光球が浮かんでいたから、外が暗くなるのに気が付かなったようだ。

 部屋を出ると、通路にはランプが灯っている。ランプと光球を使い分けているのだろうか? 砦ではランプが主流だけど、光球も何度か作るのを見たことがある。その辺りの使い分けは後で聞いても良さそうだな。


 階段を上がり、2階に上がる。

 2階は王族の居室という事なんだろう。

 階段を上って最初の部屋の扉を開けると、数人が席に着いている。丸いテーブルには着飾った男女に武装した男女が座っていた。

 案内されるままに、俺とトーレルさんが席に座り、覆面を解く。

 少し待っていると、騎士が部屋の扉を開き王族の入室を知らせる。俺達は全員席を立って、少し頭を下げて王族が席に着くのを待った。

 

「座ってよいぞ。トーレル、遠路ご苦労だった。あれから1年以上も経っている。どんな状況かを教えてくれ」

 国王の言葉に、俺達は一礼して席に着いた。

 ワインが配られ、武装した男が俺達の来訪を祝ってカップを掲げる。それに合わせて俺達もカップを掲げて一口飲んだ。


「これから話す内容は、この場の話という事でお願いいたします。我らの立場も微妙なところでありますから、万が一にもマデニアム王国の手の者に聞かれたならば計画がとん挫する事にもなりかねません。

 詳しくは、隣のバンター殿に語って貰いますが、なにぶん遠方の種族という事で、敬語が苦手という事をあらかじめ知り置きください。自分の言葉が不敬罪になるのではと、ずっと悩んでいる位ですから、悪意は全くありません」


「なるほど、良く見れば黒髪に黒い瞳。肌の色も少し異なるようですな。だいじょうぶです。我ら一同それに国王とて、悪意なき言葉であれば敬語でなくとも構いませんよ」

 初老の貴族の言葉に皆が頷いた。

 なら、俺が話してもだいじょうぶだな。


「今からお話しするのは、およそ1年前のことです。ある日、俺の部屋から落ちたような気がして、気が付いたらザイラスさん達が囲んでいたテーブルの上でした……」

 

 王女様達との出会い、山に逃れるよりもと山賊になる。山賊としてマデニアム王国へ運ばれる奴隷を開放し、穀物を奪いある程度自活できるまでになる。

 砦を作り、進駐してきたマデニアム軍の狼藉から領民を守り、およそ1個大隊程のマデニアム軍を殲滅してきた。


 俺の言葉に武装した2人が身を乗り出し、貴族は頷いている。

 王女様の無事に御后様は目頭を濡らしているぞ。

 だが、国王だけは俺の話を目を閉じてジッと聞いていた。


「よくもザイラスが山賊になることを選んだものだ。とは言え、山賊とは名ばかりで実態は一軍を率いた事になるのであろう。山中に砦を築き、隘路を利用して敵を討つならば、少人数で大軍を相手にできるやも知れぬが……、それを実際に行えるものが何人いるか。バイナム、そちならどうだ? 王国が滅びても、再興を考えて具体的に動けるか? まして2個小隊で2個中隊を殺戮できるか?」


「我等なら、海に逃れたでしょうな。そこまでです。再興を図るとなれば数十年を考えねばなりますまい。最後に、我等には2個小隊で2個中隊を相手に殺戮する手立てを考える策士はおりませぬ」


 そう言ってバイナムさんが俺を見た。トーレルさんやザイラスさんには無理と考えたようだ。


「正しく、稀代の軍師ではあります。この間は、ついにマデニアム王国の貴族が我らの砦にやってきました。懐柔を図ろうとしたようですが、バンター殿の言葉に早々に逃げ帰えりましたよ」

 トーエルさんがこの間の経緯を話し始めた。

 今度は、貴族の男が俺をジッと見ているぞ。確か、アブリートさんだったかな。


「何ともだいそれた名前を付けたものですな。アルデンヌ聖堂騎士団ですか……。はて、どこかで似た名前を聞いたことがありますぞ」

「『我が前にそびえる大聖堂は空高くそびえ、左右の伽藍を一目で見ることはできぬ』……有名な古典の一節ですわ。ですが、それを教団が返書に記載したとなれば、教団が認知した騎士団という事になります。エミルダ姉様が来たのはそれもあるのでしょう。姉様はその古典が好きでしたから。

フィーネという貴族の娘の名も聞いたことがあります。そうですか、今ではカルディナに帰ったという事ですね」


「だが、王女自らが山賊とはな……」

 国王が苦笑いをしている。どうやら、内情を理解したという事なんだろうか?


「山賊だろうと、盗賊だろうと関係ありません。それに襲うのはマデニアム王国軍とその息の掛かった奴隷商人達。全く問題ありませんわ」

「千人殺せば英雄だが、1人殺せば殺人犯とはよく言ったものだ。盗まれた王国を盗み返すつもりのようだ」


 料理が運ばれ食事が始まる。

 途中のレストランも美味しかったけど、やはり王宮だけあって味が更に良くなっている。俺達の国盗りが終わればこんな料理をカルディナ王国でも食べられるのだろうか?

 

 食事が終わり、ワインが運ばれてきた時に、国王が口を開いた。

「謁見の間で、3つ願いがあると言ったな。それは何だ?」

「1つ目は、この書状をこの銀塊と一緒に教団に届けて頂きたい」

 エミルダさんから預かった書状に銀塊を添えて差し出した。


「中は見ても構わぬのか?」

 俺が頷いたのを見て、国王が書状を開いて読み始める。

 そっと、隣の御后様が覗いているのはちょっと問題なんだろうな。だけど、王女様の叔母さんらしいから似た性格なんだろう。


「荷車1台の荷物を運ぶ教団の通行証が欲しいのか? 全く意図が分からんが」

「教団の荷物であればクレーブル王国もマデニアム王国も荷を改めずに運べます。2つ目の願いは、荷車にクレーブル王国で手に入る調味料と香辛料を乗せて頂きたい。もちろん代価は銀塊でお支払いします」


 全員が俺に顔を向ける。

 そんなに驚く事なのかな?


「北の石橋を封鎖しているから、確かにバンター殿が言った品物は不足しているでしょう。ですが、それよりは食料、武器ではないですかな?」

「食料は、マデニアム王国への輸送部隊を襲撃してたっぷりと貯めこんでいます。武器も有り余って、鍬に打ち直しているほどです。俺達に足りない物、いやカルディナ王国全体に不足している物は、調味料と香辛料です。不足しているのは敵軍も同じ事、ならばそれを操ることも可能です」


「策略に用いるのか……。全く恐れ入る。アブリートに任せたいが、受けてくれるか?」

「姉を殺された恨みは忘れませぬ。任せて頂きたい」


「最後の願いは……、仕事の許可と言ったな。何を始めるのだ?」

「義勇軍を募集したいと考えています。その前に、我等が欲しいのはクレーブル王国軍ではありません。あくまでカルディナ王国の再興は我らが務めと考えています。ですから、軍を辞めた者達の中で、俺達の王国再興の手助けをしてくれる者達を探したいのですが……」


 国王がおもしろそうな顔で、バイナムさんに顔を向けた。

「傭兵と言わないのだな?」

「傭兵は高額の報酬で雇わねばなりません。それにマデニアム王国が我等よりも高額の報酬を与えれば寝返る恐れもあります。俺達の王国再興の意思に感じて、手伝って頂ける人物を探したいと思っています」

「金ではないという事か。確か、先ぶれがおもしろい事を言っていたな。『正義の味方』とか言っていたぞ」


 トーレルさんが、正義の味方の説明を始めた。

 今度は、皆が笑みを浮かべてその話を聞いている。


「それに似た昔話があったな。なるほどザイラスが悔しがるだろう。トーレル殿なら、昔話そのものになるぞ。タペストリーの題材にも使えそうだ」

「いやいや、タペストリーの題材はすでにバンター殿の武勇伝をマリアン殿が作らせてますよ」


 俺の恥ずかしい話が披露される。トーレルさんはすっかり酔っているんじゃないか? 尾ひれがついた話になってるぞ。


「王女の命を3度も救って、手傷を負いながらも一太刀で3人も葬ったのですか! それは是非とも完成したタペストリーを拝見させてもらいたいものです」

 苦笑いしか出来ないな。


「だが、先ほどの話の裏を反せば、正規軍の一部を除隊させて聖堂騎士団に参加させることは可能に思う。バイナム、1個大隊は無理か?」

「とんでもありません。我らが募集したいのは騎士が2個分隊、軽装歩兵が2個分隊程です。俺達の兵力を上回る義勇軍は後々に問題を残します。それに、クレーブル王国から1個大隊が行方知れずになれば、周辺の王国が放っておかないでしょう」


 王様の言葉を慌てて打ち消したが、俺の言葉に更に皆が驚いたようだ。


「1個小隊だと! それで、戦ができるのか?」

「バンター殿の作戦は、かなり変わっています。たぶん彼の種族の戦の方法なのでしょう。少人数で大を制する。しかも味方の損害を出さぬ。マデニアム王国軍を累計では1個大隊程葬っていますが、味方の損害は全くありません」


「いったい、どうやったらそんな戦ができるのだ? そう言えば、捕まえたマデニアムの密偵からトーレルは獄に繋がれたと聞いたが、どうやって脱出したのだ?」


 今度は俺が話す番かな?

 崖を崩して、街道を通れなくすれば、やって来る人夫は牢獄からと考えた作戦のあらましを説明する。


「確かに、そうなるな。牢獄を襲撃せずとも、牢から出す手段はあるということだが、かなり入念な策だな。それも1つではない。複数の策を組み合わせて用いるのだな。バイナム、バンター殿の望む5割増しの兵を除隊させて引き渡せ。その中に、将来性のある部隊長を1人入れるのだ。バンター殿の作戦立案をつぶさに見て学ばせるがよい」


 どうやら、俺の望む兵力を貰えそうだ。

 話が終わったところで、御后様に王女様から預かった書状を渡す。切り札にと思ったが使う事が無くて良かったぞ。

 これは支度金ですと言って、銀塊を2つテーブルに乗せる。

 タダより高いものは無いと言うし、少しでも渡しておけば俺達も安心できるからね。


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