表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/209

SA-039 クレーブル第1騎士団


 対岸に泳ぎ着いたところで、岸辺で焚き火を囲む。

 20分程で対岸に着いたのだが、やはりまだ初夏にもなってないから水温は低いな。

 2人でぶるぶる震えながら、お茶を飲んでいる。

 

「ゆっくりしていきましょう。カルディナ王国に進駐したマデニアム王国軍はこちら側には来ませんし、私達を見付ける者はクレーブル王国の連中です」

「一応、書状は持ってきましたから追い返されることは無いと思いますが、クレーブル王国の内情はどんな感じなんですか?」


 トーレルさんがお茶を飲みながら話してくれた内容によると、それなりに王国としての機能がきちんと回っているらしい。

 貴族達も人数が少ないせいなのか、自分達の役目をキチンと果たしているようだ。

 とはいえ、国政に不満が出ないのは、南方にある貿易港で国庫が潤っているせいなんだろう。貴族達も商会に出資金を出しているみたいだ。

 株式の初期段階なんだろうか? 利益を出資金に合わせて分配するような事も行っているらしい。


「そんな貴族達ですから、先を見る目はしっかりしています。少し、欲を持ってはいますが強欲で身を亡ぼすことはありません。何といっても、クレーブル王国の貴族は能力主義ですからね。貴族の身分は全て男爵。3年ごとに能力を王族が査定して役割を見直すようですよ」


 合理的なんだか良く分からないが、1つの家系が仕事を独占することが無いって事なんだろうか?

 既得権益化することを避けるためだとは思うけど、思い切った国政だと思うな。

 身体が乾いたところで、トーレルさんが馬から鞍を外して焚き火の傍に置く。鞍も濡れているからな。これが乾いたところで出発するんだろう。

 腰のバッグは革袋に入れて来たから濡れていない。

 パンを取り出して焚き火で炙って食べる。スープが欲しいけど贅沢は言えないからな。


「この場所から、クレーブル王都までは1日程です。途中の町で食事を取りましょう」

 トーレルさんも、パンだけでは満足してないみたいだな。

 お茶でパンを流し込むように食べ終えると、パイプを楽しむ。トーレルさんは小さなビンで酒を飲んでいる。

 出発するまでにはもう少し時間が掛かりそうだ。


 数時間、体を休めたところで、川沿いに西に歩くことになった。

 朝方にはレーデル川の石橋に着くという事だが、その前にクレーブル軍に見つかりそうだな。

 星明りの下を馬に揺られながら進んでいると、前方から松明を掲げた騎馬が走って来るのが見えた。

 さて、俺達の扱いがどうなるかだ。


 相手の姿がはっきりと見えたところで、トーレルさんが右手を高く上げる。

 それに答えるように先頭を走ってきた騎馬の人物が右手を上げて答えた。どうやら、騎士同士の挨拶のように思えるな。


「止まれ! 我等クレーブル第1騎士団所属の者だ。貴殿は何者だ?」

 先頭の騎士が俺達にたずねて来たが、その声は女性の声だった。

 一緒にやって来た騎士達は松明を掲げて俺達の周りをいつの間にか包囲している。


「元カルディナ王国騎士団第2騎士団所属のトーレルと軍師のバンターである。クレーブル王妃への書状を届けに参った!」


 高らかに声を上げて用件を伝えるトーレルさんだが、いつもこんな挨拶を騎士同士ではするんだろうか?

 その間に攻撃されたらと思うと気が気でないんだが……。


「トーレル殿! 良くぞご無事で……。我らの騎士団が近くに陣を構えています。私に付いて来てください」

 

 トーレルさんの名前はメジャーなようだ。ザイラスさんとどっちがメジャーなんだか気になるけど、ここは向こうの指示に従おう。

 どうやら、投獄されることも、ここで闇に葬られることも無さそうだ。

 1騎が伝令に走り出したところで、俺達は数人の騎士に囲まれて、レーデル川に掛かる石橋を目指して進む。


 前方が明るく見えてきたと思ったら、そこには大きな陣地が設えられていた。

 大型のテントがいくつも張られて、篝火があちこちに作られている。

 一際大きな天幕の前で俺達は馬を下りた。

 数人の男達がやって来て馬をどこかに運んで行った。鞍の荷物だけはしっかりと外して背負うと、騎士達に促されて大きなテントの中に入っていく。


「しばらくだな。やはり生きておったか」

「死にかけましたが、ザイラス殿に助けられました」


 壮年の騎士にハグされながらトーレルさんが答えている。私的な話みたいだから、このままにしておこう。


「先ずは、座れ。そっちの若いのはお前の従者なのか?」

 俺を見とがめて、トーレルさんに確認している。

「いえ、我等騎士団の軍師です。見掛けと言葉使いは何ですが、彼の策の前にはフェンドール殿を霞ませるほどです」


「良く見れば、この周辺王国とは異なる容姿だ。黒い髪に黒の瞳は、遥か東の種族と聞いたが」

 そんな事を言いながら、簡易テーブルの椅子を俺達に勧めてくれた。

「どうやら、学究が過ぎて、転移魔法の志願者になったようです。ザイラス殿の目の前に降ってきたという事ですから」


 若者は馬鹿な真似をすると、男の目が言ってるぞ。

 それにしても、この御仁は誰なんだろう?


「バンター殿に紹介しましょう。クレーブル第1騎士団の団長を務める、ウイル殿です。騎馬隊2個中隊を率いる人物ですよ」

「初めまして。トーレルさんが言いましたように、言葉使いは勘弁してください。今は、アルデンヌ聖堂騎士団の軍師をしているバンターと言います」

「若くとも軍師が務まるなら大したものだ。ウイルと言う。……ところで、カルディナから逃亡してきたわけではあるまい。クレーブル王国訪問の目的は何だ?」


 従者が俺達に運んで来たカップのワインをグイと飲んで、ウイルさんはいきなり核心を突いて来た。

 トーレルさんが俺に顔を向ける。俺が答えろって事だよな。


「援軍を要請しに、やってきました。その一言です」

 俺の言葉に、俺達のテーブルを遠巻きにして立っていた騎士達の間にどよめきが起こる。予想の範囲だろうが、はっきりと言われるとは思わなかったようだ。

それに反して、ウイルさんはおもしろそうに俺を見ている。


「はっきりと言ったものだな。回りくどい要請よりも、余程良い。明確に相手に伝わる。……で、2個大隊位で良いのか? 我らの王国軍は5個大隊を常備しているぞ」

「それが……、バンター殿は1個小隊で良いと言っているのです」

「何だと!」


 思わず声を荒げて俺の顔を鬼の形相で眺めて来た。


「援軍が多ければ多いほど戦をするには有効でしょうけど、俺達の戦ではそれ程大人数を必要とはしません。

 大軍同士がぶつかれば死傷者は多数。まして、現在のカルディナ王国はマデニアム王国軍が砦や王都に籠っている状態です。攻城には多数の犠牲者が出ます。これはなるべく避けたい。

 向こうの動きを待って奇襲する方法で、国力を削いでいくのが俺達の戦のやり方です。この方法であれば、我等騎士団の兵力を少し底上げすれば十分なのですが、多くの騎士達が命を狩られています。これ以上の底上げが早急に出来ないことから、クレーブル王国に援軍を頼みに来た次第」


 ウイルさんが表情を和らげて、俺からトーレルさんに視線を動かす。トーレルさんに確認を求めているのかな?


「ウイル殿には想像できますか? 2個小隊で2個中隊を殲滅するなどと言う戦を。バンター殿の策はそのような戦の積み重ねです。ザイラス殿と組んで始めた戦で、いまだに死人を出していません」


 信じられぬと言った表情で俺を見ている。

 そんなウイルさんに、これまでの戦でトーレルさんが参加したものを話し始めた。少し長くなりそうだから、後ろにいる騎士に断ってパイプを楽しみながら待っていよう。

 やがて、魔物でも見るような目で俺にちらちらと視線を動かし始めた。

 トーレルさんの話が終わると、深く息を吸って俺に顔を向ける。


「正しく、フェンドールを凌ぐ人物という事になるな。複数の策を組みわせる軍師など、この周辺諸国にはいないだろう。

アルデンヌ聖堂騎士団であれば、なるほどマデニアム王国も面と向かって戦が出来ぬだろう。エミルダ神官が騎士団付きであればなおさらだ。

 王女様がご無事であれば、何としても御后様が援助を賜るだろう。それでも1個小隊で良いのか?」


「十分です。ですが、兵種については2個分隊を馬付きの騎士で、残りの2個分隊は軽装歩兵でお願いしたく思っています」

「そこに策が絡むのだろうが、余りにも少ない。トーレルを知る身であれば、少し増やすのは問題なかろう。御后様に俺が叱責されそうだ」


 あまり援軍が多くなっても困る。俺達騎士団が1個中隊に満たない事を説明し、援軍もその半分以下としたい事。それと、名目上はクレーブル王国のあずかり知らぬ事にしてほしい事を説明する。

 と同時に、クレーブル王国の港を経由してマデニアム王国に流れる物資の一部を遮断して欲しいと頼み込んだ。


「ほう、我等が石橋を封鎖していることでそのような策も生まれるのか。援軍は義勇軍とすることは納得できる。確かに周辺王国とマデニアム王国の同盟が気になるところだな。それもあって、援軍を小規模にすると言うのも分かるつもりだ」


 俺達のカップにワインを自ら注いでくれた。

 ありがたく口を付けると、今度はトーレルさんに正義の味方の話をせがんでいる。いつの間にかテントにいる騎士の数が増えているぞ。

 トーレルさんが、正義の味方作戦のやり方を話し始めると、皆がジッと聞き耳を立てて聞いている。

 その話が、陣に広まったのだろう。何時の間にか、俺達の直ぐ後ろまで騎士達が詰め込んでいる。

 後ろの方では、中に入りたくて騒ぎ始める者まで出る始末だ。

 騎士の連中は皆、正義の味方がやってみたいのかな?


「ワシが20若ければ、ワシが部隊を率いていくぞ。トーレル達には馬車を用意してある。中でゆっくり休めば、起きた頃には王都に着くだろう。人選は我等に任せておけ」


 騎士の案内で外に出ると、立派な馬車が止めてあった。

 ふと後ろの天幕を振り返ると、中で喧騒が始まっている。

 誰が行くかで、自分の売り込みが始まったみたいだな。ウイルさんがどんな連中を選ぶか楽しみになってきた。

 用意された馬車は対面式のベンチシートだから前後でトーレルさんと横になる。

 ガタガタと言う振動は、簡易なスプリングでそれ程気にならないし、ベンチがフカフカだから、安心して眠れそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ