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SA-037 調味料を商うためには


 どうやら、王女様の叔母さんが南にあるクレーブル王国の御后らしい。

 クレーブル王国との街道にある橋を両陣営が堅く守っているのは、お后様の要望によるものだろう。ある意味貴族達を上手く御しているとも言えるな。

 ちょっと手伝ってもらおうか。上手く行けば俺達の新たな収入にもなりそうだ。


「ちょっと商売をしてみませんか?」

 翌朝の食事の後に、テーブルでお茶を飲みながらくつろいでいた連中に話をきりだした。

「何を扱うんだ? まだ村の農産物を売れる段階では無さそうだが」

「調味料です。村の雑貨屋にあったのは岩塩と乾燥ハーブだけですよ。俺達にはラディさんと懇意のタルネルさんが運んで来てくれますから、色々と味付けが出来てるようですが、村の食事はそうではなかったですね」


「確かに味がいまいちだったのじゃ。調味料が足りなかったからなのか?」

「たぶん。クレーブル王国が停止してるんでしょう。ある意味嫌がらせですね。その後ろにはお后様の影があるのではないかと……」


 そんな感じで、俺の計画を話してみる。

 俺達とクレーブル王国との取引になるが、橋を渡れば積荷を検めるだろう。それを防ぐには……。


「教団の荷物だと!」

「そう言う事にすれば、荷を検めることは出来ないでしょう。俺達と教団の繋がりは、この間の伯爵の一件で、マデニアム王国軍にも知られているはずです」

「だが、教団が知ったらどうするんだ?」


 事前に許可を貰えばいい。それにクレーブル王妃にも確認しといたほうが良さそうだ。

 単純な荷運びの許可証だから、銀塊を1つも添えて依頼文を書けば直ぐに手に入るんじゃないかな? 利益の半分ぐらいは保証しても良いだろう。

 お后様には、姪の王女様が騎士団で保護されていると聞けば、それなりに動いてくれそうだ。

 

 それに、調味料ならそれほどの量にならないのも都合が良い。教団からの定期的な支給品の運送だと思わせる事も出来るだろう。

 積荷を没収も出来ないだろうし、俺達に渡ることを指を咥えて眺めることになりそうだ。


「そうなると、峠の山賊達に率先して調味料を奪えと言いたくなるな」

「良い考えです。かなり、辛いことになるでしょうね」


 トーレルさんの言葉に、ザイラスさんと王女様が首を傾げているが、食事を美味しく食べることは生活の基本だと思うんだけどな。

 2人ともあまり味を気にしないのだろうか? それも問題な気がするぞ。


「先ずは、教団への依頼じゃな。それはエミルダおば様に任せればいい。後で呼んでくるから、バンターが説明するのだぞ。クレーブル王国の叔母さまには、早速文を書くのじゃ」

 言い出したのは俺だからそれ位は何とかするけど……。先の長い計画だけど、色々とやってみるのもおもしろそうだ。


 普段は元馬小屋の礼拝室で、見習い神官の指導をしているエミルダさんだが、午後のお茶の時間には広間にやってきて俺達と一緒に歓談をしていく。

 教団の暮らしはどんなものかは想像できないけど、一緒に話をしていると中々の教養人である事が分かる。

 将来は俺達の作る王国の大臣として迎えたいのだが、せっかく国の重鎮の家系という檻から解放されたことを喜んでいるようでもあるから、かなり先が思いやられるな。

 

「要するに、教団から私への個人的な荷物とすることでよろしいのですか?」

「中身はこちらで用意したいのですが、その辺りの便宜を図って頂ければと……」


 俺の言葉に意味が分ったのだろう。おもしろそうな表情でお茶を飲んでいる。


「となれば、単なる積荷の目録というわけにはいきませんね。教義を広めるために定期的に荷を運ぶと言う事になるでしょう。当然、積荷は小さくなります」

「クレーブル王妃に手伝いを頼んで、調味料を運んでもらおうと思っているのですが」


「教団の教えに従う者に、施しもしませんと」

「銀塊1つで足りるでしょうか?」

「十分に引き合うと思いますよ。となれば……、教団への書状は私が書きましょう」

「ならば、これを叔母様の名前で送って欲しいのじゃ」

 

 羊羹をハンカチで包んだような物が、王女様の後ろに控えていた魔道士のお姉さんからエミルダさんのテーブル前に置かれる。

 エミルダさんが直ぐ後ろに控えていた見習い神官に振り返って頷くと、見習い神官が席を立って大事そうに荷物を手に取った。


「中々おもしろい策を考えましたね。民衆には影響が出ぬように……」

「その為に正義の味方がおりますから……」


 エミルダさんと顔を見合わせて微笑む。どうやら俺の考えてるあらましを理解してくれたみたいだな。

 クレーブル王国の御后様にも書状を書いてくれると言ってくれたのがありがたい。王女様だけでなく、エミルダさんが俺達に加わっていることを知ればきっと協力してくれるに違いない。


・・・ ◇ ・・・

 

 何日か過ぎたある日の事。ラディさんが2人の男と共に俺達のところにやって来た。

 1人は中年の行商人であるタルネスさんだが、もう1人は初めて見る顔だ。


「タルネスに相談して俺達の協力者を1人連れて来た。まだ若いがカルディナ領内で行商をしている」

「ビルターです。タルネスさんより話は伺いました。王都で商売をしていたのですが、焼き討ちに遭いまして、今では駄馬で行商をしております」


 3人にテーブルの椅子を勧めて、俺達に協力できるかを再度確認する。特に家族がいる場合は問題だからな。タルネスさんも家族での行商だが、規模が小さすぎて占領軍も問題にしてくれないらしい。

 だが、ビルターさんの場合は王都で商いをしていたとなれば、それなりの規模を持った商人って事になるのだろう。没落した行商ということで占領軍から下に見られていても、顔を知られている事になる。


「できれば、家族をこちらに呼んで下さると助かります。決して人質としてではありませんよ」

「分かっております。家族の安全を考えて頂き感謝に堪えません。古い友人は周辺の王国で商いをしておりますから、私と、長男で今まで通り行商を行い、この先にあると言う村に家内達に店を開いて貰いましょう」


 そうなるよな。だけど村人がまるでお金を持っていないだよね。

 ありがたい話だが、ここは商いの方法を少し変えて貰わねばならない。必要な品を村人達にあたえて、その代金を騎士団が支払う形になるのだろうか?

 

「この先にある村での農業は始めたばかり、とてもお店に支払いができる状態ではありません。とは言え、暮らしに必要な物もあるでしょう。砦にフィーネという少女がおります。彼女達と村長を交えて店の品ぞろえと支払いの方法について相談して頂けると助かります。ですがそれは後日でも良いでしょう。ところで、金貨での取引は可能でしょうか?」


 金貨と聞いて、ビルターさんは口元に運ぼうとしていたお茶のカップをテーブルに戻した。

 吃驚した表情で俺を見ている。


「戦前には何とか金貨で品物を扱うまでにはなりましたが……。今では、銀貨1枚を見るのも、たまの出来事です。いったい何を扱うと言うのですか?」

「調味料……。香辛料と言った方が分かり易いですか?」


 今度は隣のタルネスさんと小声で話を始めたぞ。なんか慌てているようにも見えるから、パイプを楽しみながら眺めていよう。

 今日はザイラスさんがテーブルに着いている。作戦については黙って聞いているだけなんだけど、王女様はそうもいかないようだ。後ろに控えているマリアンさんとさっきから小声で話し合っている。あまり商業についての知識は無いみたいだな。

 ミューちゃんはジッと俺達の話を聞いているけど、ラディさんにちゃんと役に立ってる事を無言で伝えてるのかな?


「……失礼しました。金貨での取引、確かに香辛料を商う上では必要でしょう。それに調味料となれば、隣国クレーブル王国との商売になるのですが、生憎と街道の橋を両国の軍が封鎖しております」

「もしも、展開した軍を気にせずに通れるとしたら?」


「クレーブル王国には私の妻の本家があります。必要な香辛料、調味料を集めるに苦労はしません」

「おもしろい通行証が手に入る予定です。それがあれば積荷の確認も無しで、どちらの関所も通れますよ。早ければ2か月後にね」


 クレーブルの商人達に知人がいるなら好都合だ。

 王女様がようやくテーブル越しに3人を眺めているから、俺の考えが少し分かったみたいだな。

 後はのんびりとお茶を頂きながら、町や村の様子を聞くことにした。

 行商人達は、関所の無い街道を行き来しているそうだ。マデニアム王国と旧カルディナ王国を往復していることになる。

 そんな事から、マデニアム王国の貴重な情報が手に入る。

 ミューちゃんにメモ用紙を貰って、分ったことを書き込んでいく。情報は多いほど良い。行商人2人の教えてくれる話は、敵方にスパイを放っているような感じにも思えるほど貴重なものだ。


「農家から次男三男が徴用されています。貴重な働き手を削っていますから、今年の穀物収穫高は2割位は減ると思いますよ」

 パイプを取り出して一服を始めたビルターさんが教えてくれた。

 この周辺の王国の人口は、15万から20万人程度らしい。鉱山や漁業等の産業が無ければ、王国の約7割以上は農業に従事していると言う事になるだろう。仮に10万人が農業であるなら、平均的な家族構成が10人として、1万の農家が存在することになる。そんな農家で次男、三男が兵役に着ける割合を1割と仮定して……。およそ1千人ってことになるな。

 1個小隊が約40人、1個中隊は4個小隊とすれば、6個中隊以上を作れることになる。

 補充兵として、こちらにやってくるとなるとかなり面倒なことになりそうだな。 


「生産量が減るのは、たぶんこの国からの税で賄えると踏んだのでしょう。ですが、6個中隊は厄介ですね。既に募集が行われた後で徴兵すると言う事は、最初の連中がこちらにやってくるのも早まりそうです。その後に6個中隊……。およそ2個大隊が作られると言う事になりますよ」

「俺達の仲間はあまり増えそうもないな。今年で1個分隊が出来れば良いところだ」


 騎士団の支配地域を広げると、兵力を分散してしまう。俺達の兵力は少ないからな。2個分隊程の騎士が馬付きで手に入れば良いのだが……。


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