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SA-036 村の食堂に行ってみた


 ラディさんが商人達から集めて来た情報によると、峠の街道のマデニアム王国側の出口にある砦の指揮官が更迭されたようだ。

 指揮官は貴族が受け持っているという事だから、マデニアム王国の貴族の勢力図が結構変わって来てるんじゃないかな?

 銀塊の輸送を襲撃して、部隊を全滅させたからな。相手側の油断を利用した事になるが、確かに安全輸送を担当する砦の大失態にはなったんだろうな。


「次の輸送が問題です。場合によっては商会に輸送を委ねる可能性もあります」

「峠の街道を使ってくれるなら対応はできるよ。問題は、クレーブル王国経由と連中が考えた時だ」

「それは、別の問題が出てきます。現在、レーデル川の関所は商会の荷馬車でさえも積荷改めをしています。奴隷売買は原則的には禁止されていますからね。そこで銀塊が大量に出てきたら……」

「場合によっては、カルディナ王国に攻め入る事も考えられると?」


 ラディさんが頷いた。

 結局、戦争なんて、お金って事なんだろうな。

 美辞麗句を連ねた開戦の訓示も、蓋を開ければ銀鉱山が欲しかっただけなんだろう。

 それは、追々頂く考えをめぐらすとして、肝心の本国の方はどんな感じなんだろう?

 ラディさんには、旧カルディナ王国内の状況を探って貰うとして、マデニアム王国内の情報が欲しいところだ。


「ラディさんの懇意にしている商人の伝手で、マデニアム王国内の状況を探ることができるでしょうか?」

「タルネスという商人が、その内ここにやって来るでしょう。大店おおだななら問題もあるでしょうが、小さな行商ですからね。私から伝えておきましょう。一度アルデス砦を訪ねるようにね」


 そう言って席を立つと、俺に軽く頭を下げて広間を出て行った。

 せっかく来たんだから、娘に言葉を掛けてやっても良さそうなものだけど、俺の後ろに控えていたミューちゃんには一度目を向けたきりだからな。


 いつタルネス氏がやって来るか分からないから、その間に俺も村に一度行ってみたい気もするな。

 王女様も一緒で良いだろう。ミューちゃんにマリアンさんと騎士の誰かを3人程連れて行けば、警備に問題は出ないんじゃないかな。

 マデニアム王国がいつまで俺達を容認しているかは不明だが、騎士団打倒の動きがあれば事前に察知できるだろう。


 数日後、ふもとの村に雑貨を買いに出掛けることにした。

 様子を見るのが目的だから、ラバに引かせた荷車が1台なのだが……。


「結構、揺れるのう。ミューも落ちぬようにしっかりつかまっておれ!」

「だいじょうぶにゃ!」


 騎士が手綱を引く荷車には、たたんだシートをクッション代わりにして王女様とミューちゃんがちょこんと乗っている。

 揺れる荷車が楽しいのか、キャーキャー言いながら、荷台の手すりにつかまっているから、隣を歩くマリアンさん達が心配そうに見上げている。

 後ろの騒ぎを無視して、俺とトーレルさんが先頭を歩く。荷車の後ろにはトーレルさんの部隊であるラミオンさんが5人の騎士を従えて歩いている。

 総勢12人で出掛ける買い物は、どちらかというと王女様のストレス解消に近いものだ。やはりサディーネ王女は深窓で暮らしていたわけで無さそうだな。

 

「危険は無いと思いますか?」

「ラディさん達が先行していますから、危険があれば教えてくれるでしょう。それに、ザイラスさんも20騎で離れた場所に待機しているはずです。それに、俺達の規模がマデニアム王国に知れたとは思っていません。下手に襲撃してせっかく奪った領土を手放したくは無いでしょう」


 いまだに書状を送って来ないところを見ると、表立って教団に逆らうという姿勢は無いようだ。覇王を目指すなら高笑いして無視するのだろうけど、あの時の伯爵は呆気にとらわれていたからな。欲しかったのは銀鉱山という事がバレバレだ。


「出来れば、北の山で狩りをしてほしかったのですが……」

「今回出掛ければ少しは、静かになるでしょう。峠の砦も開店休業みたいですからね」


 マデニアム王国との街道を通るのは商人達ばかりのようだ。

 大店が10台以上の荷車を引いてくる時もあるようだが、警護は傭兵が数人らしいから、やばい物を運んでいるわけでは無さそうだ。本格的な襲撃は収穫物が税として納入される秋以降になりそうだな。

 とは言え、無作為に荷車を停めて積み荷を確認しているようだ。東からの荷車はやっていないようだが、西からの荷車に奴隷がまぎれていないとも限らない。


「それにしても、占領軍は静かですね。確かに兵員不足はあるのでしょうけど」

「徴兵した新兵の訓練が進んでいないのではないかと……。いずれ、やってくるでしょうし、対策も必要です」


 ふもとの村への距離は6km程だが、ラバの歩みは遅い。朝食後に出掛けたのだが、このままでは昼近くに到着するんじゃないかな?

 俺はのんびりと周りの風景を楽しみながら、トーレルさんと世間話に興じる。

 関所を出てから直ぐに、尾根を削った森の隘路が1kmほど続くと、後は緩やかな下り坂だ。行程の半分も過ぎれば林も無くなり荒れ地に踏み固めた道がうねうねと遠くに見える村へと続いている。

 村は典型的な中世の村だな。村の周囲が丸太の塀で囲まれている。盗賊の襲撃を考えているのだろう。門を閉じれば、入りこんだ盗賊をゆっくりと狩れるんじゃないかな。


 村まで2km程に近付くと、道も広くなって左右に畑が広がっている。

 畝が綺麗に揃っているから、まじめに働いているんだろう。

 そんな畑に、ちらほらと農民が馬を使って耕しているのが見える。

 だいぶ、農民は夜逃げしたんだけど、裕福な農民達は何とか村で暮らしていけるようだ。


 村の門には兵士が数人駐在していた。俺達をいったん止めて、村への用件を聞いてきたが、買い物とだけ答えておく。

 全員が正義の味方の服装だから、頭と目を覆面で隠している。

 覆面を取れという指示には、騎士団の掟という事で済ませておく。俺はともかく、トーレルさんや王女様の顔が知られていると面倒だからね。


 雑貨屋で、村人から頼まれた種や苗、それに調味料を買い込んでおく。雑貨屋の言い値で支払ったから、主人も機嫌よく荷馬車に荷物を運んでくれた。

 マリアンさんが布地と刺繍用の太い糸を買い込んでいるけど、何か作るんだろうか? 新たなタペストリーの案が出来たのかも知れないな。


 村にある食堂に行って、昼食を取る。

 簡単なハムサンドに野菜スープだが、俺には砦の食事の方がおいしく感じるな。食後のお茶を飲んだところで、トーレルさんが支払いに行った。

 首をかしげているところを見ると、値段が気になったのだろう。

 後は帰るだけだが、最後に酒場に寄って、ワインを1タル買い込んだ。砦の連中へのお土産用だな。

 

「何にも、騒ぎが起こらぬぞ。拍子ぬけじゃ!」

「マデニアム軍も手控えているんでしょう。買い物で村を1巡りしましたが、北と南の門に数名ずつ、1分隊がいるだけですから」

 

 王女様にそんな話をトーレルさんが言っているけど、ふもとの砦は守備兵に外出禁止令でも出したのだろうか?

 たまに火矢をザイラスさん達が撃ち込んでいるのが効いているのかもしれないな。

 まだ日が高いけど、俺達はアルデス砦に向かって道を急いだ。


 砦の食事は、村の食堂よりもやはり味が良い。

 この違いも気になるところだが、食事を終える頃にその理由に気が付いた。

 調味料が少ないのだ。その理由として考えられるのは、商人の通行が滞っているということになる。

 俺達の場合はタルネスさんが運んでくれるから問題は無いんだけど、町や村の場合はどうなっているんだろう。王都の物流も気になるところだな。

 峠での山賊行為は、カルディナ王国からの搾取品を頂戴しているだけだから、カルディナ王国に入る物品については軍に係る物以外は襲撃していないはずだ。

 やはり、商人に直に聞いてみる必要がありそうだな。

 

 王女様も村に行けたから機嫌が良い。ミューちゃんと明日は弓の稽古だと話しているから、しばらくは欲求不満になることは無いだろう。俺のストレスも少しは減るに違いない。


 夜遅く、ザイラスさんが帰って来た。

 帰りを待っていた俺達は、先ずザイラスさんの報告を聞く。


「南のクラレム町に滞在し、夕暮れを待って南の砦に火矢を放って帰って来た。南は穀倉地帯だが、畑がだいぶ荒れていたな。町にも活気は無かったぞ。火矢は2射したが、火の手は上がっていない」

「ご苦労様です。今日、アルテム村に皆で行ってきましたが、だいぶ色々と分ってきましたよ」

「何の変りも無く、平和であったが?」

 俺の言葉に王女様が疑問を述べる。トーレルさん達も頷いているから、やはり気付いていないようだ。


「昼食を食べましたよね。夕食と比べてどうでした? それと値段は?」

「量はまあまあでしたが、少し高いと感じましたね。値段も1人8レク、銅貨8枚ですよ。昔なら銅貨5枚が標準です」


 支払いで首を傾げた理由はそれだったのか。物価が6割上がってるのは問題だな。そうなると、マデニアム王国はこの国に従来の倍近い税を課しているってことになりそうだ。夜逃げする農家もその辺りに原因があるんだろう。


「確かに、クラレム町の食事も高かったな。それに不味い」

 ザイラスさんも同意してるってことは、この国全体がそうだと見るべきだろう。

 

「カルディナ王国は、調味料をどこから仕入れているんですか?」

「南のクレーブル王国からです。あの国の南には海があります。調味料は遥か遠くの国から船で運ばれてくると商人から聞いたことがあります」


 マリアンさんが王女様の後ろから答えてくれた。

 となると、物流が滞っている原因はクレーブル王国にあるって事だな。

 国境の橋を両陣営が封鎖しているとはいえ、商人達の通行は許可しているはずなんだが……。

 

「何者かの意図が感じられますね。クレーブル王国とカルディナ王国は縁戚関係があったのですか?」

「クレーブル王国の后は亡くなった国王の姉だ」

 ザイラスさんが教えてくれた。となると、厳重に橋を封鎖している理由も見えて来るな。マデニアム王国をかなり嫌っているようだ。

 これは、協力してもらえるかもしれないぞ。


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