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SA-028 銀の輸送部隊?


 たいそうな行列を従えて、東の砦に新しい貴族が赴任してきた。

 規模的には2個中隊に私兵が1個小隊。荷馬車の列だけで20台近くあったようだ。

 そんな行列の最後尾を襲ったのだが、敵の抵抗が頑強で荷馬車を1台奪っただけだったらしい。

 どうにか戦死者は出さずに済んだことを神に感謝しよう。

 

「かなりの手練れで構成されています。山賊稼業はかなり困難なものになりそうです」

「少し襲い方を変えねばならないでしょうね。10日もすれば再び東に荷を運ぶでしょう。それまで待ってください」


 山賊業は俺達の貴重な収入源だから、そう簡単に止める訳にはいかないのが現状だ。何とか新たな襲撃方法を考えなくちゃならないな。

 街道の尾根越えは九十九折の坂が続いている。俺達の襲撃地点は丁度峠の近くになるんだが、両側が切り立った隘路があれば3方向から石弓が使えそうだ。前方を槍車で塞ぎ、後方から矢を射れば……。

 とは言え、中々良い場所が無いんだよな。


「街道の峠道で隘路の場所はありませんか?」

「隘路と言えば……、こことここになるな。東にもあるのだが、少し麓に近い場所だ」


 ザイラスさんがテーブルに地図を広げて隘路の場所を指で示す。その内の1つは峠の烽火台に近い場所で、もう一カ所は峠道に入って直ぐの場所だ。最後にザイラスさんが示したところは峠から東の出口の半分程のところだ。

 距離が良く分からないけど、ふもとまでは数kmはないんじゃないか?

 

「この場所の地形を調べて貰えませんか? 両側に伏兵を置けるかどうか、それに東西に兵を潜ませる場所があるかどうか……」

「それに、監視ができる場所ですね。了解です」

 ラディさんが席を立って、広間を後にする。

 

「今度はどうするのだ?」

「殲滅します。ですが、荷車に奴隷がいた場合は……」

「良く調べて襲えば良い。悲惨な暮らしでも死ぬよりはマシじゃ」


 隘路に誘い込んで、閉じ込める。頑丈な槍車なら荷馬車や軍馬でも阻止できるだろう。後方から追い上げれば、東に向って逃れるはずだ。

 最後は隘路の崖の上から石弓と火炎弾で殲滅する。


「たとえ手練れの中隊でも逃れられないでしょうな……」

「それに、俺達が襲っていた場所からかなり離れた場所での襲撃だ。マデニアム王国の領内と言っても良い。そんな場所で被害に遭ったとなると、新任の貴族よりも、東の麓の砦の指揮官に責任が及びそうだ」


「街道の道幅が狭いのが難点ですね。本来なら後方から騎馬隊で追い上げれば良いんですが、どうしても徒歩になってしまいます」

「大部隊を移動しにくくしていると聞いたこともある。だが、マデニアム王国はそれを逆手に取った」


 少数部隊の越境攻撃だけを想定していたらしい。

 だが道幅3mならば、数百人単位での移動はそれ程困難ではないと思うけどな。一緒に輜重部隊を動かすとなると厄介だが、電撃戦なら……。そう言えば、前に電撃戦の話を聞いたことがある。数日間の食料だけを兵士が持って峠道を越えたという事だ。

 それに狭い街道であれば移動は可能でも戦闘には向いていない。

 向かい合う部隊は精々分隊単位になってしまう。

 

「バンターの作戦がどうであろうと、我等はそれに従うつもりじゃ。たとえ討ち死にしても我らに悔いはない」

「負け戦の口惜しさを少しは晴らしているからな。それが1年も続いたのだ。誰も文句を言う者はおらぬ」


 ある意味、決意表明とも取れる言葉を王女様とザイラスさんが言ったところで今夜はお開きになった。

 1人広間に残って、街道の地図を見ながら駒を動かす。

 ミューちゃんがお茶を入れて下がってくれたから、ちびちびと飲みながら気が付いた事をメモに残す。

 やはり阻止手段と移動手段がネックになりそうだな。

 道が広ければ騎馬隊で突っ込むことも出来るのだが……。


 2日後にラディさんが帰って来た。

 襲撃予定地の隘路をかなり詳しく調査してくれたようだ。元は猟師だから、周囲の状況を見る目は確かだな。罠を張る時もこんな感じで周囲を確認しているんだろうか?


「獣の群れも軍隊もさほど変わりませんな。バンター殿も良い罠猟師になれますよ」

 そんな事を言って、ミューちゃんが持ってきたワインを飲んでいる。

「この調査記録を見ると、この場所で東の街道が良く見通せると?」

「西側も見えますよ。ちょっとした尾根の頂きになっています。問題はここですね」


 ラディさんが指さした場所はちょっとした広場になっている。隘路の直ぐ東側だ。

「マデニアム王国軍の輜重部隊で荷馬車を引いていましたから、この広場には気が付いてはいたのですが、かなり大きな広場です。荷馬車を10台以上街道から引き入れることが可能です」

「昔は無かったと?」

「カルディナ王国攻略のために築いた広場だと思います。前は南に低い尾根が続いていました」


 補給と休息用とみて間違いないだろう。大きさ的には中隊単位で休憩が出来たんじゃないか? この広場から西の隘路を抜ければ峠を越えることが出来る。本来なら峠を過ぎた場所に作りたかったんだろうが、そこまでやると敵に気が付かれてしまうからな。あくまで自国領の街道の整備として準備したに違いない。


「後ろに広場があるとやりずらいですね。場合によっては後ろへの備えも必要になります。この広場の南は?」

「一時的な休息場所だから、今では藪が茂ってます。人や荷物を隠すのは都合が良いですよ」


 2個分隊以上の人員をあらかじめ隠す事が出来そうだな。隘路の南北の崖も急峻で高さも20D(6m)以上というのは都合が良い。落ちないように腰をロープで結んでおく位の安全策で済みそうだ。


翌日の夕食が終わったところで、次の襲撃計画を披露する。

 狙いは、銀山からの銀の輸送だ。ザイラスさんの話では、カルディナ王国の銀山の算出量は年間40kg程らしい。羊羹ようかんほどの銀地金が30本とのことだ。精製過程で金が少し採れるらしいが、微々たる量とのこと。それでも金貨10枚にはなるそうだから、鉱山を持つというのはこの世界では銀行を持っているようなものなんだろうな。


「1年以上山賊をしてきましたが、銀の地金をまだ運んではいません。戦争で一時鉱山の採掘を止めたとも思えませんし、そもそも王宮の国庫には金銀財宝がたくさんあったはずです。その移送がいつ行われるかは興味がありますね」

「確かに金貨に銀貨、それに宝石の移送は行われているようだが、国庫から運んだとは到底考えられない。精々貴族の館を物色したと言うところだろうな」


 それでもかなりの金額が砦に運ばれて来てるんだよな。貴族って高額所得者なんだろうけど、俺にはその規模がいまいちピンとこない。


「バンターは銀の輸送隊を襲うというのか?」

「場所的には丁度良いかと。改めて2個中隊を本国から移動してきた以上、それには訳ありと考えるべきです。本国も出兵で兵の数が減っているはずですが、やってきた2個中隊は精鋭部隊のようです。峠の部隊がかろうじて荷車を1台ですからね」

「精鋭を送る理由は……、財宝の運搬というわけだな?」


 ザイラスさんの言葉に大きく頷いた。テーブルを囲む連中は、俺達の会話に低く唸っているようだ。


「我らの計画に、資金がいると言う事になるのか?」

「そうではありません。騎士団の人達も、廃村の人達も皆無給で暮らしています。衣食住に問題が無ければ特に給与はいらないでしょう。嗜好品の購入や食材の購入に使う費用は微々たるものです。今回の襲撃はマデニアム王国への我らが挑戦状を突きつけた形になるでしょうね」

「せっかく隣国を平定したのに見返りがあまりないということだな。マデニアム王国が徴兵を敷けば、その費用はばかにならん。たぶん今までに隣国に移送したお宝は、全て補充兵と戦死した兵士の見舞金で消えたはずだ。奴隷でさえ満足に手に入れられなかったからな」


「マデニアム王国の国庫は目減りしているということか? その為にカルディナ王国の国庫から財宝を移送すると……」

「それを奪うと言う事は、確かに挑戦状を叩きつけることになりますね。カルディナ国王の怒った顔が目に浮かびます」


 トーエルさんの言葉に、周囲から失笑が漏れる。

 確かに、怒るだろうな。だけど、そもそも隣国から奪った物だから、俺達に奪われても文句は言えないだろう。正当な持ち主は俺の隣の王女様の物だ。


「だが、そうなると俺達の討伐隊を差し向けてくるぞ!」

「当然そうなるでしょう。でも、どこから討伐部隊を捻出してきます? 場合によっては次の襲撃は中隊を相手にする事になります。中隊を磨り潰す程の山賊に対して、いったいどのぐらいの兵力をぶつけるんですか?」


 そもそも兵力が枯渇している。カルディナ王国4つの砦と王都の治安部隊に大隊規模で派兵しているのだ。本国の守りもそれなりに部隊を必要とする以上、俺達に構っていられる余裕はほとんど無いだろう。


「傭兵という手もあるが、隣国の傭兵を全て集めても中隊にはならん。貴族の私兵を一時的に招集するなら中隊規模にまでは行けるだろうが……」

「国民の徴兵を合わせて行えば中隊規模にはなるでしょう。たぶん現在のマデニアム王国の国防は、貴族の私兵と新兵が半分を超えている可能性があります。そんな訳で、マデニアム国王は憤慨するでしょうが、なすべき手段が今のところありません」


 そんな俺の言葉ににやりと笑みを浮かべるのは、まあ仕方が無い事なんだろうな。

 改めて、襲撃の計画を皆に説明する。

 今夜は峠の砦からハイデルさんにも来てもらっているし、ラディさんも席に付いている。襲撃の計画を話す時にはいつも同席しているドワーフのリーダスさんはいないけれど、代わりにラドネンさんが来ているからだいじょうぶだろう。


「あまり大きく襲撃の手筈を変えるのも問題ですから至って簡単な計画にします……」


 隘路の東の出口を塞ぎ、輸送部隊を閉じ込めて前後左右から矢と火炎弾を降らせる。

 東には重装歩兵を3個分隊置き、軽装歩兵1個分隊と魔道士3人を南北の崖の上に置く。西には騎士3個分隊を置いて西に槍車を押しだして行けば完全に袋のねずみになるだろう。


「今回はトーレルさんの部隊をこの砦に残しておきます。廃村から10人ずつ峠の砦とこの砦に派遣して貰いますから、留守はよろしくお願いします」

「待ってくれ!」


 慌てて、トーレルさんが声を上げたけど、ザイラスさんが首を振っている。

 正義の味方作戦で主役をやったんだから、今回はここで留守番することになっても誰も文句は言わないだろう。

 今回は俺達が主役だと言う目で皆がトーレルさんを見てるから、さすがに諦めるしかないだろうな。


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