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SA-025 正義の味方を始めよう


 次の作戦を皆に話した2日後に、ラディさんが広間に駆けこんで来た。

 忍者装束が中々似合うんだよな。俺もあの装束にしようかなんて考えていると、息を整えたラディさんの報告が聞えて来た。


「1分隊程の軽装歩兵がやってきます。昼過ぎには関所が見える場所にやって来るでしょう」

「ここまで来るのか?」

「偵察では仕方あるまい。向こうも吃驚するであろうが、そうなるといよいよという事か?」

 

 ザイラスさんと王女様が俺に顔を向ける。

 予想してる事だから、それほど気にすることは無いんじゃないか?


「あまり関所に近付くようなら、矢を射かければ直ぐに逃げ帰りますよ。あくまで偵察です。それが来ないとこっちも困りますからね」

「いよいよ我らの旗を見せる事になるのう。ところで我らの名前は考え付いたのか?」


 それって俺の仕事なのか?

 一応考えてはあるけど、他の連中は何も思い付かなかったんだろうか?


「そうですね。『アルデンヌ聖堂騎士団』なんてどうでしょうか?」

 俺の言葉に、皆が目を見開いている。

 何か不味い事を言ったかな?


「ちょっと待て。色々あるが……、先ずはその名前はどっから持ってきた?」

「北の山脈はアルデンヌですよね。そこからですけど……」

「聖堂なぞ、この辺りには無いぞ。西のトーレスティ王国の更に西にあるのは聞いたことがあるが」

「山脈が我らの聖堂であると思えば良いですよ。俺の信じる神は祈る姿を常に見守ってくれますから、それほどおかしな話ではありません」


 自然信仰だからな。それに他の神だって否定しないから都合が良い。


「騎士団とは、現時点で他の王国に束縛されない騎士の集まりだとアピールできます。ある意味、山賊とは別の組織であると思わせれば十分です」


「山脈を巨大な聖堂であると考えるのか。それなら教会を持たずとも良い理由にできるであろう。仲間に神官が加わっても、異論すら唱えることが出来ぬ」

「屁理屈ですが、納得できる話ですな」


 王女様とザイラスさんはおもしろそうに頷いているぞ。

 そんな2人をマリアンさんが呆れた表情で見ているのだが……。


「とは言え、危険な名称でもあります。名乗りを上げる前に、教団へ打診をした方がよろしいかと思いますが?」

「フム……。確かに、後に課題を残すことも無かろう。教団への打診はマリアンに任せたぞ」


 王女様の言葉にマリアンさんがため息をついている。あんな調子で、小さいころから迷惑を掛け通しだったに違いないな。


「俺も賛成だ。仮にも聖堂を冠にする騎士団であるなら、知らせた方が良い。なぁに、山賊で手に入れた宝石を何個か包めば黙認してくれるはずだ」


 何となくこの世界の宗教事情が分かる話だけど、後腐れが起きなければそれで良い。上手く運べば、教団のバックアップも期待できそうな話だな。


「そうなると、団長が王女様になりますが……?」

「いや、団長はザイラスで良い。王宮の図書館で読んだ古い記録に騎士団の話があったのじゃが、全て独身男性であったとあるぞ。我らは表向きは庇護される者達でじゅうぶんじゃ」


 確か、そんな決まりのある騎士団もあったような気がするな。

 古から学ぶと言うのも良さそうだ。それなら、教団との交渉も上手く運びそうな気もする。


「要するに、戦闘集団を率いる代表がザイラスさんって事です。王女様を保護するに十分な理由にもなるでしょうから俺も問題ないと思いますよ」

「バンターは、どうする?」

「ラディさんの仲間に入ろうと思います。俺は正面切っての戦は出来ません。仕掛けは色々と思い付くんですけど……」


 とりあえず名前だからね。そんな物だろう。

 歩兵達だっているんだし、騎士団と言うのはちょっと無理があるのだが、後々の布石と考えれば問題ないと思うんだけどね。


 翌日になると、アルデンヌ聖堂騎士団の名前は皆が知ることになった。あちこちで噂を聞いて広めたらしいけど、歩兵の連中も喜んでいたな。

 何となく士気すらも上がったようにも思える。

 帰属意識がそうさせるのかも知れない。今までは滅んだ王国の敗残兵だったが、自称とは言え、騎士団を名乗る以上、ある意味王国に匹敵すると思っているのかも知れない。


「まだ、動きは無いのか?」

 昼食を皆で取っていると、王女様が退屈そうに俺を見て呟いた。

「そんなに急には動けないでしょう。麓の砦は兵力不足、あちこちの砦に協力を仰いでいる最中ですよ、最低でも2個中隊は準備するでしょうからね」


「ある意味、麓の砦の兵力を削ぎ過ぎたかも知れんな。重装歩兵達が街道の山道で活躍しているぞ」

「さぞかし、麓の砦の指揮官は頭が痛いでしょうね」


 トーレルさんの言葉に、一同の口元がほころぶ。

 少しずつ削いでやろう。3方の砦は国境警備を兼ねているから、あまり兵力を提供できないはずだ。

 それでも少しは出すだろうが、その兵力をすり潰された時、この国では徴用すらできないはずだ。


 扉の開く音に皆の視線が動く。入ってきたのはラディさんだ。麓で様子をうかがっていたはずだから、ようやく敵軍が動いたという知らせなんだろうか?


「あまりに敵の来襲が遅いので村で様子を探ってきました」

 そう言いながら、革袋をマリアンさんに手渡して席に着く。

「かなりマデニアム王国の貴族達は反目し合っているようです。麓の砦に送ってきた援軍は多いところでも2個小隊。村の酒場にたむろしてますが、ケンカの起こらない日は無いようです」


「バンターの言うとおりか。貴族間が反目し合っているという事は下級貴族を送り込んだんだろうな。カルディナの領土が落ち着いたところを見計らって、中流貴族を送り込む腹だ」

 

 下級貴族を使い捨てるって事だろうか? と言うよりも、リスクがある時期を彼らに任せるという事なのかも知れない。

 だが、カルディナ王国の財宝をかなり手に入れられるんだろうから、ハイリスク・ハイリターンの賭けを行っている自覚位は持っているんだろうな。


「やはり、2個中隊には達せぬか?」

「最大でそれ位かと。村も戸をしっかり閉めて、表を歩く村人もおらぬ様です」


 兵達の規律も相当に緩んでいるみたいだな。

 これじゃあ、向こうから攻めてくるなんて望めないかもしれないぞ。


「やって来るだろうか?」

 やはり、王女様もそう思っているようだ。

「実は、『正義の味方』作戦と言う計画を持ってはいるんです……。始動するのは来年以降だと思ってまだ形はなっていないんです」

 

 正義の味方と言う言葉に、広間の全員が反応したぞ。

 真剣な表情で俺を睨んでいるようにも見える。正義の味方って、この世界では悪役なのかな?


「俺の耳に『正義の味方』と聞こえたのだが?」

「偶然じゃな。我にもそう聞こえたぞ」

 

 ザイラスさんと王女様が俺を問い詰めて来た。残った連中も頷いている。


「正義の味方となれば俺の事だろう?」

「いや、我に違いない。正義の味方ともなれば容姿端麗と決まっておる!」

「乗馬の腕と剣の腕も問題です。ここは僭越ではありますが……」


 途端にワイワイと騒ぎ始めたぞ。

 ひょっとして、やりたかったという事なんだろうか?

 これは、しばらく掛かりそうだな。

 マリアンさんが困ったような顔をして、お茶のポットとマイカップを持って俺の隣に腰を下ろした。


「教会のお話で、昔の騎士のお話があるんです。弱い者の味方をする騎士のお話なんですが……」

 そんな話をしながら、俺のカップにもお茶を注いでくれた。

 なるほどね。子供時代の憧れが現実になるかも知れないという事なんだろう。

 それにしても、皆一歩も引かずに自己主張をしているな。

 このまま、疲れるのを待っていよう。その間に正義の味方の使い方を考えなければならないからね。


 マリアンさんと後ろに控えているミューちゃんを交えてしばらく世間話をしていると、だいぶテーブルが落ち着いて来た。

 それでも、互いに目で牽制し合ってるんだから、油断はできないな。


「オッホン! 皆さんよろしいですか? 俺は、俺達全員が正義の味方になれると思っています。ですから、状況に応じて最適な仲間を出撃させれば良いと思っています」

「全員にチャンスがあるという事か? なら、我らが仲違いをする必要も無いようだな」

「最初から、早く言え。もう少しで決闘が始まるところだったぞ」


 少し俺も注意する必要がありそうだ。正義とか忠誠、解放なんて言葉には要注意って事になるんだろう。


「皆さんは長剣を使われますが、フルーレも使えるでしょう。身のこなしが素早くて、フルーレの上級者であり、【メル】の魔法の保持者が2人欲しいです。バックアップはラディさん達にして貰えば、最初の正義の味方と誘い出しをすることができると考えます」


 俺の言葉に、互いの顔を見合わせている。

 中々条件が厳しいと思ってるのかな? だけど、捕まったりしたら面倒だから逃げ足が速いって事が絶対条件案だけどね。


「トーレルとバルツになるか……。だが、次は俺達だぞ!」

 ザイラスさんが残念そうに呟いたのを、王女様までが同じような表情で頷いている。

「それで、私達は?」

 トーレルさん達はザイラスさんと反対で、嬉しそうな表情をしてるから輝いて見えるな。まあ、恨まれるのは2人だから、だいじょうぶだろう。


「酒場近くで待機して、兵達に絡まれる村人を助けることになります。使う武器はフルーレでお願いしますよ。衣装は、マリアンさんが作ってくれますから」

「ん? これで行くのではないのですか」

「やはり、正義の味方となればそれなりの衣装になります」


 去り際に壁に『A』の文字を描かなければならないから、ちゃんと練習させないとね。

 

「隠れる場所はラディさんにお願いします。できれば村人を巻き込んだ争いになった時に……」

 ラディさんが俺の説明を聞きながら、ニヤリと笑っている。トーレルさん達は満足そうに頷いてるんだが、ザイラスさんと王女様の顔が段々と剣呑な雰囲気になってきたぞ。


「バンター。やはりフルーレでないとダメなのか? 長剣を使わせれば俺が一番なんだが……」

「ちゃんとザイラスさんの出番も作りますから」

「我も忘れるでないぞ!」


 やはり根に持ってたみたいだ。

 ザイラスさんは、男だから分かる気もするが、王女様ってどちらかと言うと助けられる方なんじゃないか?



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