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SA-022 騎馬部隊と忍者部隊


 冬場の奴隷移送は3回で終了してしまったようだ。

 もう少し続くのかと思っていたが、やはり俺達の存在が輸送を躊躇させているらしい。

 離散農家の保護も4家族あった。廃村で暮らすには問題は無いだろう。


「街道が雪解けでぬかるんでおる。しばらく荷車の輸送は出来ぬであろう」

「とはいえ、油断は出来ませぬ。烽火台から何時連絡が来るかも分かりませんぞ」


 王女様の愚痴にザイラスさんが答えているけど、ザイラスさんもイライラしているようだ。

 もう一つの砦は外壁が出来たらしく、粘土にカヤのような植物を切り取って混ぜたもので丸太の上を覆っているそうだ。その上に塗料を塗れば、雨に打たれても数年は持つらしい。

 重装歩兵と村の若者が一緒に働いているから、思ったよりも早くできそうだ。すでに北側の小屋は完成したらしく、重装歩兵はその小屋で寝泊まりしているらしい。


 トーレルさんはそんな2人をにこにこしながら眺めているし、分隊長達は何時自分達に矛先が回って来るかと気が気ではない。なるべく2人に目を合わさないように下を向いているぞ。

 パイプに火を点けようと立ち上がると、2人の鋭い視線が俺を捕えた。


「次の作戦の説明がまだじゃった」

「そう言えば、春先の襲撃をどうするかは聞いてなかったな」


 やはり矛先が俺に来たか。

 ゆっくりと暖炉に歩くと、パイプに火を点けて自分の椅子に腰を下ろす。


「今年は山賊から義賊に鞍替えすると、前に話をしましたね。そこで必要になるものがあります。馬なんですが、騎士の人達は駄馬でも乗りこなせますか?」

「まあ、乗りこなせない事もないが、やはり訓練された軍馬が欲しいところだ」

「そうなりますと……、馬を奪う手を考えなければなりません。敵も騎馬隊も持っていたでしょうし、ザイラスさん達も騎士である以上馬を持っていたはずです。攻めてきた連中はその馬をどこに置いているのでしょうか?」


 今度は、王女様とザイラスさんが悩みだしたぞ。

 その間に、マリアンさんが入れてくれたお茶を飲んで待つことにした。元気の無かった分隊長も少し顔を上げて俺達の成り行きを見守っている。


「軍馬は300頭はいた筈だ。半分は傷ついて安楽死をさせたとしても、確かにバンターの言う事は考えもしなかった」

「やはり王都じゃろうか?」

「いや、たぶん南の砦ではないかと……」

 

 2人が地図を持ち出して色々と話を始めた。

 南の砦ではここから100kmはあるんじゃないか?

 やはり当初は駄馬を使う事になりそうだな。


「ところで、馬を利用する目的とは?」

「神出鬼没には馬の機動力が必要です。駄馬でも利用したいのは、人間が走るよりは早く駆けることができると思いましたので……」


「となれば、春先の略奪は馬という事になりそうじゃな」

「はい。当然奪った馬を移動しなければなりませんから、昔の街道から屯所に至る道を整備しなければなりません。更に街道からどうやって隠すかも問題になります」


 今度は全員が考え込んだぞ。

 基本は馬1頭が通れる道にすれば良い。それ位ならあまり偽装することなく猟師が山に入った跡位に見えるだろう。周囲の草や枝を使って偽装もできそうだ。


「ラバがこの砦と廃村を行き来させていたのは、このことを考えての事じゃな。全く深い読みじゃ」

「騎士達に交代で道を開かせます。いよいよ山賊としてのクラスが上がるのですから嫌がる者はおりますまい。また馬での戦が出来るとなれば皆一段と訓練に励むでしょう」


 分隊長のリーゼルさんが、やや興奮した口調で進言している。


「早速始めるのじゃ。雪解けでぬかるんではおるが、東からの物資の往来は直ぐにも始まるじゃろう」

 王女様の指示で分隊長達が席を立って広間を出て行く。

 数百m程だから、5日も掛からないんじゃないか?

 道幅については言ってなかったけど、まさか荷車を通せるほどの道に広げることは無いだろう。


 廃村の近くに馬場を作って訓練して貰おうか。

 馬糞は草と混ぜて発酵させれば良い肥料として畑に還元できる。

 となると、騎士達は新しい砦で、この砦は重装歩兵に譲らなければならないな。


「馬上槍も欲しいところですな」

「槍は投槍を使ってください。それもなるべく粗末なものでお願いします。敵に投げつけて遁走が基本ですよ」


 軽くザイラスさんにクギを刺す。

 まだまだ騎士であることを明かさない方が良いからな。


「ほう……。一撃離脱ですか。中々難しい用兵を用いることになりますね」

「難しいですか?」


 トーレルさんに思わず聞き返してしまった。

 騎馬隊の基本の1つじゃないか? どこに難しいところがあるんだろう。


「騎馬隊の基本は敵の弱点を一気に突撃して大穴を空けることにあるのだ。途中で引き返す騎馬隊何ぞ、聞いたことも無いぞ」

「でも、先ほどトーレルさんが一撃離脱という言葉を用いましたよ?」


 ザイラスさんの言葉に思わず聞き返してしまった。

「それは弓隊の動きじゃな。素早く近寄って矢を放って引き返す。あれが一撃離脱という事になる」

 俺達の話に王女様も参加してきた。

 全く戦の方法が違ってるのかも知れないな。

 メモ用紙を使って、一撃離脱、車掛かり、一点突破の戦術を説明する。

 説明は熱心に聞いてくれるんだけど、どれだけ理解してくれたかは不明なんだよな。義賊計画はかなり練習が必要な感じだぞ。


「なるほど、となると陣形も色々知っているようだな」

「ある程度は知ってますけど、現場での応用を重視すべきです。人数が多ければこの鶴翼陣が有効でしょうけど……」


 俺のメモの陣形を興味深々で眺めているぞ。この世界には陣形にこの形が無かったんだろうか?


「包囲殲滅ですか……。こんな陣形を敵に敷かれたら、覚悟を決めねばいけませんね」

「全くだ。確かに古の軍略家を超えるかも知れんな。敵でなくて幸いだとつくづくおもうぞ」


「そんな離れた場所にいては、細かな話も出来ぬ。我の隣に来い。我の命を2度救ってくれた者じゃ。敵方であろうはずがない」

 王女様の言葉に、マリアンさんが王女様の左隣に椅子を用意してくれた。


「確かに王女様の言う通りだ。そんな端に置く必要も無さそうだな」

 ザイラスさんの言葉にトーレルさんも頷いている。

 それならと、王女様の左隣に少し離れて椅子を移動して腰を下ろす。

 その様子がおかしかったのか、ザイラスさん達が吹き出す寸前の顔になってるぞ。


「バンターならその位置が最適だ。実績もある」

 そう言って、ついに吹き出して大笑いを始めたぞ。

 皆が同じように笑ってるのは、俺のやったあの2件を思い出してるんだろうな。早く忘れて欲しいんだけど、印象の深い光景は中々忘れられないようだ。


「娘達が将来に広間に飾るのだと言って、あの光景をタペストリーにしていますよ。中々出来るものではありません。タペストリーにはふさわしい場面ですよ」

 マリアンさんの言葉に、俺を除く広間の全員が再び笑い声を上げる。

 トーレルさんは涙まで流している。そんな題材に本人の了承は必要ないんだろうか? まして、あの結末では来客だって笑い出すんじゃないか?


「くくく……。やはり作っていたか。バンターよ。名誉な話だぞ。生存している時にタペストリーの題材になった者等いまだかつてない。だが、……わはははは」

 褒めてるんだろうか? かなり微妙なところだな。


「誰もがバンター様の咄嗟の行動に簡単するでしょう。最後のところはさすがに省略すると思いますよ」

 マリアンさんが慰めてくれてるけど、それだって不確定要素が入ってるんだよな。

 何とか、タペストリーの題材を変えるような事を考えないと、俺の生き恥を披露することになりそうだ。


「ところでラディさんの部隊を、浸透部隊として運用することは問題ないんですよね?」

「部隊編成はバンターに任せる。人員は俺の方で動かすとしてもだ。だが、浸透部隊というのが俺にはどうもさっぱりだ。その辺りの説明をしてくれると助かるな」


 すでに装備は整えている。外で訓練をしているラディさんを呼んでもらう事にした。

 入ってきた、ラディさんを見て、皆が驚いている。

 たぶん忍者を見たことが無いからだろうな。

 鎖帷子の目が粗いし、鎖も普通の品よりかなり細い。ゆったりした綿の上下は黒装束だ。足元は薄い革のブーツで腕も腕先まで革の手甲で覆われている。ベルトのバッグは大型だし、背中には片手剣を背負って覆面姿だ。


「盗賊でも始めるのか?」

 ザイラスさんの感想に、王女様も頷いてるぞ。

「すでに山賊ですよ。この装束が動くのに一番都合が良いんです。それに活動は夜間限定ですし、村に潜む時には昼間は屋根裏に隠れて貰います」


「中々動きやすいですよ。折り畳み式のクロスボウも使い易いです。今は手裏剣を投げる練習中ですが、春までにはかなり腕を上げて見せます」

 

 手裏剣をザイラスさんに見せているようだが、十字手裏剣ではなく、棒手裏剣なのが残念ではある。


「あの姿で潜入させるのか?」

「俺の国では専門の部隊がいました。山奥に住んでた人達ですから、ラディさんなら都合が良いです。騎馬隊の活躍は浸透部隊の後方支援が無ければ直ぐに囲まれてしまいます。俺達の戦力はまだそれほど高くはありませんから」


 追って来る相手の前にタルを転がすだけでも良い。その間に距離を稼げる。

 そんな芸当ができるのは、身が軽くて夜間視力に優れたネコ族以外に考え付かない。


「ところで、春になったら、重装歩兵の人達にこの砦を任せますよ。俺達は新しい砦に移動して機動戦を始めることになります」

「ああ、すでに連絡してある。重装歩兵だけで1個小隊程の戦力だ。傷も癒えて、今は砦作りに励んでいる。今までの襲撃を簡単に分隊長達がまとめているから、それを参考に山賊を続けて貰うつもりだ」

「それよりも通信兵があまり育ちませんね。現在、あの光信号をやり取りできるのは10人程です。新たな砦との連絡手段も考えませんと……」


 トーレルさんは少し心配性だな。すでに考えてはいる。烽火台から新しい砦を望むことができるのだ。見通しが出来れば、光通信は可能って事になる。


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