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SA-021 あの剣客の動きができそうだ


 廃村の南西の尾根を利用して作る砦は、麓の村から6km程の距離らしい。

 少しわざとらしい感じもするけど、将来の関係を考慮すれば中々良い場所ともいえる。まあ、水場の関係もあるんだけどね。

 水量は多くは無いけど、湧き水を掛樋かけひ)で大タルに常時流しているから、不足すると言う事態にはならないんじゃないかな。


 廃村の北の森から木材をソリに乗せてポニーに似た馬で運んでいる。1日の搬送量が10本でも、一か月続ければ300本になる。

 春先にはある程度の外壁が形になるんじゃないかと思う。


「こんなに近くてだいじょうぶなのか?」

「近いことと、攻め易い事は同じではないですよ。むしろ、向こうが攻めてこないんじゃないかと心配してます」


 工事真っ最中の砦の中に作ったテントに入って、囲炉裏で体を温めている。

 今日はザイラスさんと王女様を伴っての状況確認だが、思った以上に良い場所だ。

 急峻な隘路に近い地形だから、関所を作る事も簡単だ。頑丈な門で廃村との小道を塞げば防衛だって楽になるだろう。


「砦2つに村1つ。どうにか地方領主というところじゃが、麓の村と交易を考えておるのか?」

「そろそろ初めても良いかと。……そのための道作りは敵兵にお願いしませんと」

「攻め手の行軍を利用するのか? 全く、抜け目がない奴だ」


 ザイラスさんが笑いながら俺のカップにワインを注いでくれた。

「全く、若いながらも軍略家としては、周辺諸国にバンターを越えるものはありますまい。良くぞザイラス殿は見付けられましたな」

「見付けたと言うよりは降ってきたな。その上俺が飲んでいたワインのカップを壊した張本人だ」

「転移魔法に志願して飛ばされて来たようじゃ。そこに神の手が入ったのじゃろうと、マリアン達は噂しておる」


 色々言ってるけど、気にしたら負けだからな。

 俺は、一日三食が食べられて、暖かく寝られれば今はそれで十分だ。


 一通り、砦の状況を見たところで、尾根の砦に帰る事にした。

 俺の足で5時間程の距離を歩くことになるが、最初に歩いた時を思えば楽に感じるな。

 魔法による身体強化だけではなく、毎朝の訓練でそれだけ筋肉が付いてきてるんだろう。 

 廃村も最初に通った時には背の高い草が辺りを覆っていたが、今では通りまで作られているし、十数軒の民家が並んでいる。数軒を新たに作っているようだから、今年中には立派な村になりそうだ。


砦に着いたところで、留守番のラディさんに状況を聞いてみた。

 ラディさんと懇意の商人が荷を届けてくれたらしい。俺に小さな布包みを渡してくれたので中を確認すると、眼鏡用のレンズだ!

 焦点距離を確認して木工職人に望遠鏡を頼まないとな。


「我の望遠鏡が作れるのじゃな!」

「ええ、そうなりますが、数個出来そうですから、新しい砦と、ラディさんにもお渡しします。偵察には最適ですからね」

「リーダスさんが新たに石弓を20丁届けてくれました。ボルトケースに定数の数、その他にボルトが100本です」


 そろそろ、正体を現すことになりそうだな。

 その時期は、奴隷の移送が一段落した春先という事になるだろうから、ほぼ計画通りではある。


「雪に埋もれてからの奴隷移送はバンター殿の言った通りですが、この頃獲物が少なくなってきましたぞ」

「砦の囚人は一段落という事でしょうね。この砦の防衛も少し考えてください。街道からの入り口は現在閉ざされていますが、春には開通させようと思っています」

 

 今現在は深い藪で閉ざされている。本来のこの屯所への小道なのだが、開通させればラバが引く荷車位は通れるはずだ。

 それに、本来の騎士は馬に乗ってる筈なんだよな。その馬を使った強襲を考えると、どうしても砦から街道への道が必要になって来る。


「今年は忙しいですよ。麓の砦にいる貴族は街道警備を任されていますが、かなりの損害を俺達が与えています。警備の兵すら半減してますから、いつ更迭されるか分かりません。更迭された後に、俺達への攻撃が新しく任官された貴族が始めることは確実です」

「それで、もう一つの砦を作ったのじゃな。向こうの砦は1つ。街道警備に部隊を派遣すれば砦が怪しくなってしまう」


 王女様も、俺が集中と分散を使い分けているのが理解できたようだ。

 新しい砦は相手に見せるだけで効果がある。

 重装歩兵に石弓を持たせているから、包囲されても十分に持ちこたえられる。俺達が廃村経由で救援に向かえば簡単に側面を突けるだろう。

 隘路を持った小道は、それだけで防衛設備にもなるからな。


 マリアンさんの入れてくれたお茶を飲みながら、皆が談笑しているのを見てるのも平和な感じがするな。

 いつの間にか、この暮らしに馴染んでいるようだし。この先もこのまま山賊でいるって事も選択肢の1つなんだけどね。


「春になればいよいよ義賊なのじゃな!」

「はい。山賊よりは格が上になりますよ。もっとも、やることはそれ程変わりません。今までは、街道でのみ活動していましたが、これからは村や町そして砦が活動の中心になります」


 とはいえ、いきなり王都に出現するのも問題がありそうだ。

 麓の村と近くの町、それに街道の山越えを始める位置にある砦も対象とすべきだな。

 俺の言葉にザイラスさんが地図を広げて頷いている。


「かなり広範囲に活動することになるな。狙いは何だ?」

「弱きを助けて強きをくじく。これが仕事ですね」

「騎士の心得を実践すると!」


 トーレルさんが素っ頓狂な声を上げると、椅子を蹴飛ばしながら立ち上がって俺を指差した。

 テーブルを囲んでいた連中も一斉に俺を見る。


「悪代官が、民衆から搾取するのを我らが邪魔をして、奪ったものを民衆に分け与える。これが義賊です!」

「是非、私は志願しますぞ! 王国騎兵隊でいた時よりも燃える展開です!」

「何を言う、最初は俺達に決まっておろうが!」

「いやいや、騎士よりも我等軽装歩兵の方が動きが良いですよ」


 口々に俺にアピールして来るぞ。

 ここは俺に責任が来ないように王女様に選んでもらおう。

 チラリと、王女様を見るとうるうる目線で俺を見ていた。自分も参加したいって事か?

 ここは少し冷却期間を置いて考えた方が良さそうだ。


「出来れば2つに分けて仕事をしたいと思ってます。現在建設中の砦が形になって来たらという事で」

「楽しみじゃな。先ずは山賊であったが、今度は義賊なのじゃな」


 やることは大差無い事をこの人達は知っているのだろうか?

 場所が少し変わるだけなんだけどね。

 それでも、砦作りを急がねばならん、なんて相談を始めたぞ。


 少し、外に出て次の作戦を考えてみるか。

 テーブルから離れると広間を出て砦の中庭に出る。広さは20m四方ぐらいなんだが、3本の丸太を相手に騎士達が木剣を振っている。

 カシン! と響く音は、聞いていても気持ちが良い。

 

「お、やってきましたね。練習しますか?」

「朝だけでいいよ。新しい砦から歩いて来たから今日はおしまいだ」


 そんな俺の言葉に騎士や兵達が笑っている。

 2回も担架で砦に運ばれてるから、どうしても皆の笑い者になってるんだよな。

 あくまで表面では笑っても、内心では尊敬されてるとマリアンさんは教えてくれたから、俺も笑い顔で応じてるんだけどね。


 そんな練習を見ながら、傍らに作られたベンチでパイプを楽しんでいると、長剣の使い方は中々のものだ。

 遠心力で叩き付けると言う感じに見えるな。ちょっと隙がありすぎるけど、ザイラスさんクラスになると方でも軽々やってるんだよな。

 軽装歩兵が槍を使っている。ひたすら突きだけを行っている。長槍ならともかく、短槍なら棒術との組み合わせになると思ってたぞ。

 棒術を教えてやりたい気分だが、俺だってテレビで見たことがあるだけだからな。

そんな事を考えていた時、ふと思い出してしまった。

 俺は刀の使い方なんて習ったことが無かったぞ。剣道は高校の授業で型を中心に習ったけど……。だが、あの時の俺は間違いなく居合抜きをしたんだよな……。

 一度、何ができるかを確認した方が良さそうだ。

 でないと、とっさの行動でまた皆に迷惑を掛けないとも限らない。2度あることは3度あるっていうくらいだから、予習復習は勉強だけに限らないんじゃないか?


あくる日。朝食を終えると、木刀でこの間の居合を復習してみた。

 丸太を敵に見立てて、踏み込みと抜刀のタイミングを確認してみたのだが、体が自然に動いている。

 両手で刀を握って正眼に構える、一刀流も問題ない。

 いったい俺の身体はどうなってるんだ? まるで小さいころから刀に慣れ親しんだような動きだ。


「おもしろい構えですね」

「練習ですから……」

 そんな答えを俺の練習を見ている騎士にしたところで、木刀を短槍に取り換えた。


「短槍の基本は正確な突きですよ」

「この国の人達はそうらしいけど、俺の国ではちょっと違うんだ」


 槍の中間を肩幅に開いて両手で持つ。

 これが基本の筈だ。そして下から突き上げる。

 外野がフューっと口笛を吹いている。中々筋が良いって事かな?

 次の攻撃で外野が総立ちになった。柄の後ろで丸太を横殴りにしたのだ。素早く槍を返して突きを入れる。

 数歩後ろに下がると、槍を目の前でバトンのように回転させる。相手を翻弄して、槍の先端と石突きの両方で攻撃を加える。

 それは長剣を両手で振り回すようにも見えるはずだ。俺の練習が終わった時には、ザルトスさんまで騎士達に混じって眺めていたぞ。


「それだけ動けるのに、図書室で本を読んでいたのか? お前の国の騎士はどれだけ剣が使えるんだ」

「これも見ていて覚えたもので、振り回すのは今日が初めてですよ。いつも後ろで槍を突き出してましたから」


 そんな俺の話に彼らも頷いてはいるのだが、納得できないって感じだな。

 だが、少し自分の能力が分かってきたぞ。

 どうやら素早く動けるみたいだ。それにでいつも見ていたテレビドラマの剣客の動きが、ある程度できるみたいだな。どう見ても特殊撮影の動きも何とか再現できそうだ。

 となると、目指すはあの映画の主人公になる。ちょっと楽しくなってきたな。


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