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SA-198 王国作りはどこまで続く


 ザイラスさんとウイルさんから、この頃毎日のようにブランデーの督促が届くんだけど、こればっかりはな……。


「4タルあると聞いたぞ。1タル送れば騒ぎは収まると思うのじゃが?」

「たとえ、陛下のご命令でもこればっかりはお許しください。熟成が進めば進むほど美味くなるそうです」

「それなら、そうと言えば良いのに……」


 ぶつぶつと言いながらサディがお茶を飲んでいる。しっかりと伝えたんだけど、どうやらそれまで待てないようだ。

 古いワインを手に入れて、少し早いけど蒸留所の練習を始めようかな?


「少し練習を早めてはどうでしょうか? ビルダーさんも私のところに困った顔をしてやって来ましたよ」


 マリアンさんのところにもやって来たとなると厄介だな。数タル作れば良いのかもしれない。


「分かりました。古いワインを10タルほどビルダーさんに頼んでください。それをラディさんに渡せば1か月ほどで作ってくれるでしょう。これは北の村の産業として子々孫々に伝えて貰います」

「中々の産業よな。税は2割で良かろう。だが、シルバニア全体の産業を活性化する事にも繋がる。3年間は無税としようぞ」


 それでもネコ族に有利な税に違いない。数千にも膨らんだ人口を養うにはまだまだ仕事が足りないんだよな。

 早くに蚕の繭が届けば良いんだが……。


・・・ ◇ ・・・


 残念な知らせがクレーブルから届いた。

 やはり、繭は見つからなかったらしい。それでも、書状には更に10日、来年は東に向かうと文末を結んでいるから俺の願いをどこまでも遂行してくれるということなんだろう。義理堅い人達で頭が下がる。


「中々見つからぬようじゃな?」

「来季は更に東に向かうと結んでおりました」

「そう簡単に見つかるようでは、別の問題も出てくるであろう。ゆっくり待てば良い。それでも見つからぬ時は我等の出番じゃ!」


 まだあきらめて無いようだ。俺はここに骨を埋めようとまで考えてるんだけどね。

 少なくとも10年はそんな事にはならないだろう。

 俺が40近くにならないと無理なんじゃないかな? ティーゲルが自分の考えを持てるようになってからでないと、周辺の王国にたちまち飲み込まれてしまいそうだ。


「それよりも、今年で2年目じゃ。各国の新たな聖堂騎士団となるべく騎士達の選出が始まったようじゃぞ」

「それ程の人気なんですかね? それにウォーラム王国も今年は豊作らしいですよ」

「それが問題になるのう……。やたら、正義に憧れて来るような輩じゃからな」


 放浪の騎士団となって各国の貧村を巡らしてみようかな? 少なくとも王都周辺は各国ともに治安が良くなっているようだ。

 だけど辺境の貧しい村は、まだまだ戦の影響が残っているかもしれない。そんな村の手助けをするのも正義という事になるんじゃないかな?

 これは、大使達とネゴしといた方が良さそうだ。


 西の尾根の灌漑用の揚水装置はアルキメデスのポンプを多段に使う事で何とかすることになった。原理は教えたけど、それを設計して職人に作らせるのは変人集団の仕事になる。

 20基近い風車が並ぶことになるらしいから、さぞや壮観な眺めになるだろう。


 これで、残ったのは西の長城と運河になるな。

 早いところ、長城だけでも何とかしたいものだ。


「ハーデリアが西の長城を見て驚いておった。予想以上に頑丈と言う事らしい」

「トルニアと違って我等には大規模な兵力がありませんからね。頑丈にしとかねばイザという時に突破されかねません。その後ろに尾根があるのも心強い限りです」


 ある意味、万全と言えるだろう。尾根を横切る街道にはいくつかの関門もあることだから、直ぐに補強することが可能だ。それを超えても、麓には砦があるからな。

 

「いまだに兵力は3個大隊じゃが、屯田兵と民兵組織があればバンターの言う通り十分なのじゃろう。ネコ族の3個小隊があれば周辺諸国の状況は筒抜けに近い。それにアルデンヌ山脈は彼らの庭ともいえる場所じゃ」

「一応、これで完成が見えてきました。長い道のりでしたね……」


 俺の言葉に答えずに、暖炉傍の棚からワインのビンと銀のカップを取りテーブルに乗せた。

 ゆっくりとワインを注ぎ、俺にも1つカップを渡してくれる。


「本当に長い道のりじゃ。だがのう……。まだまだ先があるのではないか。先ずはクリスとティーゲルを育て、王国の民の暮らしを良くするために働くとしようぞ」

「終わりが見えないのが国作りと言う事ですか?」


 俺の言葉にニコリと笑みを浮かべて、俺のカップに自分のカップを合わせてカチンと鳴らした。


「そうじゃ。いつまでも終わらぬ。王国の再建とは何かをこのごろよく考える。考えれば考えるほど終わりが見えて来ぬ」

「それが王国の発展と言う事でしょうね。それでもすべてを行う事は不可能です。やはり、目標は明確にしとく必要がありますよ」


 サディの言うことが本当の事なんだと思う。王国が停滞したら少しずつ力が無くなっていくんじゃないかな?

 とはいえ、どこまでも発展することはできないだろう。おのずと、どこかに限界点があるんだと思う。

 それを打破するために、クリス達に勉強させることも必要だろう。

 そうなると、将来の王国を担う人材育成を行う学校が必要なのかもしれないな。

 上手い具合に、シルバニア王国の財政は十分に富んでいる。


「どうでしょう。将来の王国の担い手を育てませんか?」

「ん? ザイラスやトーレル達の子供達もおるし、ミューも来年には母親になるであろうに」


「そこが問題です。子供達を助けてくれる人材を育てねばなりません。現在でも人材不足なんですから、将来はかなり深刻になりますよ」


 本来ならば、貴族達が役職を争う事になるんだろうが、シルバニアには貴族がいないんだよな。既得権益を傘にする輩がいないと言う事はありがたい話だが、その役目を任せることが出来る人材を見付けるにも事欠くありさまだ。


「確かに、建国の時には一騒ぎがあったのう。それも良い思い出じゃ。バンターの言うことは、次の世代の人材を早めに確保しておくという考えじゃな。貴族でないとなれば……、学府を作るということか?」

「兵士達の養成はザイラスさん達に任せることができますから、これからの世代交代に対処することは容易でしょう。ですが、治政となるとそうもいきません」


 法律、財政、政治と色々考えなければならない。政治はサディがクリスとそのブレーンとなる連中に教えれば良いだろうが、法律と財政それに民生については別の連中に対応させることも可能なはずだ。

 工学を学ばせれば、変人集団の世代交代も可能に思えるな。


「旧王都という訳には行くまい。将来は裁判権の一部をその者達に委ねることも考えられるのう……」

「民衆の諍いを裁くにはその方が良いのかも知れません。ザイラスさんも夫婦喧嘩や近所の争い事が多くて困っていると言ってましたからね」


 そんな役職は1代限りだ。能力主義で任官させている場合ならば、横槍を入れることも難しいだろう。

 そうなると、裁判の階梯ができそうだ。これはザイラスさんに一度相談しといた方が良いだろうな。


「それで、どこに作るのですか?」

「ヨーテルン辺りではどうかのう……。ある程度の規模は必要であろう。それに、マクラムを上手く使えそうじゃ」


 マクラムさんは町長で、農業と林業の長官もやってるんだよな。それに学園長を兼任させるのか?

 夜逃げしないか心配になってくるな。人物的には問題が無いとしても、彼の手助けができる人物を探しておかないといけないだろう。


「となれば、マリアンさんと相談した方が良いと思いますよ」


「そうじゃな……」なんて言いながら、カップのお茶を飲み終えると広間を出て行った。

 ミューちゃんと絵を描きに行くのかな?

 だいぶ溜まって来たらしく、2階の通路にも並び始めた。古いのはそろそろ処分した方が良いんじゃないかと思うんだけどね。


 問題は、教師陣だな。

 町や村の子供達相手に神官が文字と算数を教えてくれているが、それよりも高度になるし、いつまで教えるのかも問題だろう。

 とりあえず5年を目標としても、20歳前の連中が大量に出て来る事になる。当然、周囲から信頼されるには早そうだから、誰かに付いてさらに高度な教えを受けることになるだろうな。

 確か、インターンというのがそんな感じじゃなかったか?

 学府で5年、インターンで3年とすればそれなりの人材が育つかもしれないな。

 教える科目とそれを教える教師は各国に頼んでみるか。


「各国の学府より教師を派遣して欲しいと?」

「法律、財政、施政それに司法辺りで何とかならないでしょうか?」

 

 俺の言葉に各国の大使が、う~ん……と悩みだした。

 分らなくもない。王国毎に統治の方法が異なることもあるのだ。極端な話では、盗人の刑にしても鞭打ちから手首の切断まであるらしい。


「法律の整合性を、シルバニアで図ろうなどとは考えておりませんよね?」


 念を押すようにハーデリアさんが訊ねてきたけど、それも考えられるな。だけど今はそんな考えは毛頭ない。

「まさかですよ。皆さんもシルバニアの貴族階層が無くなったことは御存じのはず。それで困ったのが人材不足なんです。今は試行錯誤で行っていますが、このままでは将来が心配です」

「少し分かってきましたぞ。早い段階で使える人材を育て上げようと言う事ですな。貴族であれば世襲制である程度は将来に備えた教育も行われますが、確かに問題でしょうな」


 カリバンさんがおもしろそうな顔をして左右の大使に頷いている。

 少しはシルバニアの内情を理解しているようだから、トルニアとトーレスティの大使も頷いている。


「でも、優秀な教師をシルバニアに送るのは各国の損失に繋がるのでは?」

「前に、変わり者を送って欲しいとお願いしたことがあります。今回も、各国の学府で不満を持った人材が欲しいところですね」


 ハーデリアさんの疑問に答えた俺の答えがおもしろかったのか、ハーデリアさんはついに笑い出した。


「ホホホ……。自分なりの考えを持ってはいるが、下地ができた王国ではどうにもならない……。と嘆いている教師がいないわけではありません。そういうことですね」


 既存の王国ではいかんともしがたい考えをシルバニアでは実現させることも可能だと知ったら、自分達から名乗り出てくれるかもしれないな。

 周辺の王国でも斬新すぎる考えが有効であるとの実績があるなら自国に取り入れることも可能だろう。そんな教師なら、王国に帰ってから優遇することも可能なはずだ。

 ハーデリアさんの話だと、やはりある程度は確保できそうな感じだな。


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