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SA-197 産業の波及効果


 ワインを蒸留して得たアルコールをもう一度蒸留する。

 これでかなりアルコール濃度が上がったはずだ。150ℓ程のタルに入れられたワインが15ℓ程の小さなタル2個になったんだから、かなり濃縮できたんだろうな。

 フラスコに残ったワインの残渣に砂糖水を入れて、別のワインタルからワインを注いで掻き混ぜる。

 新たな発酵が始まって、品質の悪い蒸留酒ができるかも知れない。

 色々とやってみればおもしろそうだ。


「これがバンター殿が作ろうとしていた物ですか?」

「たぶん。1年ぐらいは温度変化の少ない場所で保管しとかないと……。でも、その前に飲んでみるかい?」


 20日間で出来た蒸留酒は1番搾りが4タル。砂糖を入れて再発酵させた2番搾りが3タルだ。

 かなり度数が上がってるはずだから、カップ半分位の蒸留酒を取り出して数個のカップに分けた。

 手伝ってくれたネコ族の男達は皆酒を飲めるようだ。

 ぷ~んと匂う変わった香りに、鼻をひくひくさせている。

 皆がおずおずと手を伸ばしてカップを手に取るのを見て、俺もカップを受け取り上に大きく掲げた。


「ここに、ブランデーの完成を宣言する!」

「「オオォ!」」


 全員でカップの蒸留酒を一息に飲んだんだけど……。途端に咳き込む者や、水を求める声が始まった。


「何ですか、これは!」

「思ってた以上にきつい酒だ。まぁ、1年もすれば少しは柔らかくなるだろう」


「とんでもない酒ですな。あの2番目の酒も同じでしょうが、リーデルさんにはあれを渡すつもりなんですか?」

「道具を作ってくれたからね。来年にはこっちの酒を1タル渡すけど、とりあえず1タル渡しておけば色々と便宜を図ってくれるかもしれない」


 これはこれで上手いという声が少しずつ漏れてくる。

 そのために粗悪品を作ったようなものだから、2番搾りのタルをラディさんに1個進呈する。ラディさんが上手く分配してくれるだろう。

 残ったタルをソリに積み込んでアルデス砦に戻ることにした。

 すでに北の村の周囲には雪が積もり始めた。早く帰らないとカナトルのお腹が雪に着いてしまいそうだな。


 砦に到着すると、機動歩兵に手伝って貰って食料倉庫の奥に横に積みあげ、1個はリーデルさんに届けて貰う事にした。

 2番搾りは適当に分けなければならないだろうから、1タル分を空きビンに取り分けて2本ずつトーレルさんとザイラスさんに届けておく。

 機動歩兵の連中にも1本を渡して、客用に1本を用意しておけば良いだろう。

 

 年が明けるとアルデス砦は厳冬期を迎える。

 砦の周囲は50cm以上の雪に埋もれるから来客もあまりいないんだよな。

 おかげでのんびりと今年の計画を練ることができる。

 サディとミューちゃんは三脚にキャンバスを乗せて最後の手直しをしているようなんだが、今度は何の絵を描いたんだろうな。


 マリアンさんが入れてくれたコーヒーを小さく頭を下げて受け取る。

 そんな俺の仕草にマリアンさんが微笑みながら暖炉の傍に戻ると、編み物の続きをはじめた。


「ザイラスがだいぶ興奮していたが、タルを丸ごと1つ渡しても良かったのか?」

「あれより美味しいのが4つあります。それは次の冬の楽しみで良いでしょう。それにあの酒は俺達には強すぎますからね」

「それじゃ! まるで口から火炎弾を出せるような感じじゃったぞ」


 うんうんと皆が頷いている。確かにそんな感じだな。

 もう少し熟成させてからの方が俺達には良いのだろうが、ザイラスさんは自分で担いで持って行ったからな。きっとウイルさんを呼んで一緒に飲むんだろう。まぁ、旧王都の治安が悪くならなければそれで良いだろう。


「あの酒を欲しがる奴がいるとは思わなんだ……」

「昔、一度頂いたお酒にも似ている気がしました。マデニアム王国からも他rされたお酒でしたが……」


 サディ達には酷評されてるブランデーだけど、マリアンさんは似た酒を飲んだことがあると言ってる。そう言えば、トルニア王国のガルトネンさんがスキットルに入れて持っていたな。

 あれはウイスキーだと思ったけど、あれも蒸留酒だからこれと同じ類と言う事になるんだろう。問題は、どこから手に入れたかと言う事になる。

 クレーブル以外にも東方からの商人が入って来るから、たぶんそちらからの流れと言う事になるんだろう。ハーデリアさんから商品目録が貰えれば良いんだけどな。


「それで、私に尋ねたのですか?」

 翌日の大使達とのお茶の時間に、2番搾りのブランデーを小さなカップで提供したのだが、ハーデリアさん以外の大使達は驚いていた。

 

「ええそうです。前にガルトネンさんから一杯頂いたので、自分なりに作ってみました。たぶん味は少し違うと思いますが、トルニア王国にはこの種の酒があるんでしょう?」


 俺の言葉に、2人の大使がハーデリアさんに顔を向ける。

「確かに強い酒です。ですが、これを飲みたいという輩も多いでしょうな」

「出来れば我等の王国にも販路を広げて頂きたいものです」


「トルニア王国には北方ルートの商人が荷を運んで来る時があります。その中にこれと良く似た酒があるのですが、それとは少し違いがあるような気がします。私にはこちらの酒の方が飲みやすいと思いますわ。トルニア王国もこの酒の販路に加えて頂くわけにはいきませんか?」


 訴えるような目で俺を見てるけど、掴みは確実というところなんだろうな。


「軌道に乗るまでにはもう少し掛かると思います。当然ながら、タルでの販売は不可能です。このようなガラスビンに入れて販売するのであれば、クレーブルの工房も仕事が増えると思うのですが?」

「ガラス工房なら、我等の王国にもありますぞ。なるほど、酒を売るだけでなく、それにかかわる産業も盛んにするおつもりですな」

「トルニア王国にもございます。そうなると、自国の販路は自国のガラスビンでと言う事になるのでしょうか?」


 すでに、俺がかなりの量を販売できると思っているようだ。

 新たな小屋を作って貯蔵しなければならないのかな? だけど、西の尾根に作ったブドウ畑でワインがたくさんできるのはかなり先の話になるような気がするんだけどね。


「せっかく盛り上がっているところに水を差すようで悪いのじゃが、バンターが作ったこの酒は、このビンに40本というところじゃ。今作っておるらしいから、更に同じ位の数は上積みできようが、各国に15本を今年の最初の雪が降った時に進呈しようぞ。翌年は、材料費と工賃を計算して値段を付けることになろうが……」


 そうなるな。材料費と手間賃、それに儲けを加味しなければならない。そうなると、ワインの10倍から15倍と言う事になるんだろうか?

 2番搾りは、ワインの3倍位でも良いんじゃないかな。


「先ずは飲んでみよ……。と言う事ですかな? 確かにこれは皆が欲しがるでしょうな」

「問題は値段になります。北方ルートの商人はこの酒1ビンに銀貨10枚を要求してきます」


 トーレスティのテノールさんの言葉に、ハーデリアさんが付け加えた。

 そんな値段だったのか……。当然庶民の口に入ることは無いだろうな。


「銀貨2~5枚というところでしょうね。これはもっと安くできましたから銀貨1枚というところでしょうか」

「これよりも上等な酒があると言う事ですかな?」


 ゆっくりと熟成していることを話しておく。

 あまり熟成する意味が無いから直ぐにこれを皆に飲んでもらったのだが、それでも好評なんだよな。


 いくらでも買うと言って、大使達が帰ったけれど、そうなるともっと規模を大きくした方が良いのかもしれないな。

 北の村に新たな建物を作って、熟成用の小屋を併設した方が良いのかもしれない。

 ネコ族の人口も増えているから、新たな産業に丁度良さそうだ。


 ザイラスさん達のブドウ畑は、鼻薬が効きすぎたかのように規模が大きくなっている。

 手間が大変だけど、試験的な葡萄酒作りも始まったようだ。少しは自分達で飲んだり売ったりしているけれど、大半を北の村へと運んで来る。

 全て買い取って翌年のブランデー作りの材料にするのだが、全体の費用とブランデーの売値が均衡してくれれば十分だ。これで王国が儲けることは考えていないからね。


「あの紫の実も試してみようかのう……」

「発酵してお酒にならないとダメですよ」


 やってみてもおもしろいかもしれないな。甘い実なんだから発酵することは確かだろう。


 そんな計画をたくさんしておくのが冬の俺達の仕事だ。

 王国が平和なら、色々とやれるからね。何といっても、大きな無駄飯食いの組織である軍を動かして工事が出来るのが良い。

 鍛える筋肉が少し違うかも知れないけど、足腰は鍛錬されるからな。


「来年中には西の長城が完成するらしいぞ。それが終われば運河作りになるのじゃな?」

「似たような土木工事ですからね。農業にも使えます」

「ザイラスが段々畑の用水路を整備したいと言っておったぞ。さすがにあれだけ上に水を上げるのは難しかろう」


 トルニア王国の用水路は大型水車と風車を組み合わせて低地から高台に水を運んでいる。距離がかなり長く難工事だったらしいが出来上がりは見事なものだったと聞いている。

 国王自ら手を叩いて完成を祝ったというから、それだけ農民の暮らしを重視した政策を取っていたのだろう。

 だが、あの揚水システムを取り入れても、ザイラスさん達が作った段々畑の灌漑用水路は難しそうだ。何といっても高さが半端じゃないからな。

 風車と貯水池を重ね合わせるようにして高さを稼ぐことになるんだろうか?

 これは、下の屯所にいる変人集団に任せた方が良さそうだ。いくつかのアイデアを元に試行錯誤して貰おう。


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