表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/209

SA-195 待っていれば良いのかも


 翌日の朝早く、港から船長と商人がやって来た。昨日の商人がぺこぺこと頭を下げてリビングに入ってきたが、御咎めは無かったみたいだな。


「昨日は大変な失礼を、改めてお詫びに参ろうとしたところ、グラフネン殿が今日別荘に向かうと聞きまして、同行させて貰った次第です」

「気にしていませんから、お詫びはいりません。商人でしたら一緒に聞いてください。商売の種があるやも知れませんからね」


 俺の言葉にグラフネン船長が連れに笑いかけている。俺の言った通りだろうという感じだな。


 テーブル越しに3人に座って貰うとレイノルさんがワインのカップを運んで来る。

「航路の安全に!」と俺がカップを上げると、3人が同じくカップを掲げてくれた。


「さて、時間もありませんから、直ぐに本題に入りたいと思います。このような代物を探してください」


 テーブルに簡単なメモを広げた。

 大きさは親指位。色は白く、両端が膨らんでいる。


「何ですかな、これは?」

「原材料になります。このまま使えますが、少し加工しなければなりません」

「かなり小さなものですが、木の実なのでしょうか?」


 2人の商人が俺の描いた絵を眺めて呟いた。


「蛾の繭です。100個で金貨1枚でどうでしょう?」

 

 俺の言葉が終わらない内に、メモから俺の顔に視線が移る。


「これが100個でですか?」

「ええ、必要な数はそれぐらいですから、余ったお金は懐に納めても良いですよ。これをこの箱に入れて来てください。中が仕切られてますから、丁度100個入る筈です」


 テーブルにあらかじめ用意しておいた木箱を乗せる。

 小さな木枠が中に100こあるのだが、箱の蓋までには数cm空いているのがみそだ。


「中に繭を入れたら、こちらを上にして俺のところに運んでください。箱と蓋は紐で結べるようになっています。いれたら最後、絶対に蓋を開けてはいけません。開けた場合は俺には直ぐに分かりますから、2度と貴方達と合う事は無いと思います」

「金貨1枚で蛾の繭を買う意味が分からんが、逆に言えば金貨1枚以上の利益がこれで生まれると言う事になるのか?」


 さすがは船長だけの事はある。洞察力は大したものだ。

 パイプに火を点けると、2人の商人の顔色をうかがう。まだ、驚きの表情が消えていないようだな。


「もし、上手く俺のところに運んでくれたなら、螺鈿の技法を教えますよ。ですが、方法を教えるだけで俺はやったことはありませんけどね」

「あの不思議な彫刻の仕方を教えて頂けるのですか! 私にお任せください。是が非でも探して参ります」


 テーブルに身を乗り出して俺に訴え掛けて来たけど、本当に分からないのかな?


「それなら、もう一つ探して貰いましょう。この紙を東方の商人に見せて、不思議な樹脂を手に入れてください」


 メモに『漆』と書いて渡す。感じだから分らないかもしれないが、もし見付けられなかったら別の方法を探そう。

 漆は殆ど死語に近い漢字ではあるが、日本人なら覚えるべき感じだというお祖父さんに教えられたから今でも覚えている。


「遥か東方の文字に似ていますね……。そこまで行かねばならないのでしょうか?」

「たぶん、向こうからも商船が動いていると思います。そんな商人に頼めば良いでしょう。これは俺も欲しいですから、金貨を2枚渡しておきます」


 俺と商人達のやり取りをワインを飲みながら船長が眺めている。

 話が一段落したところで、俺に向かって話を始めた。


「すでに5隻が運航している。2隻には大型の弓が乗せられているから、海賊も手出しは出来ない。一度返り討ちにしてやったぞ。各王国から10人ずつ交代で乗り込んでくているが、まだまだ半人前だ。だが、5年もすれば一人前だ……」


 うんうんと頷きながら話を聞く。

 商人達も、新型の交易船の設計をしたのが俺だと分かって、驚きを新たにしている。


「……ということで、すでに2隻分の建造費を回収している。先ほどの話を聞くと、新たな交易品とも思えぬのだが?」

「さらに東に向かえば、陶器という焼き物が見つかるはずです。その辺りではたくさんの香辛料も手に入るでしょう。上手く行けば絹も手に入るかも知れません」


 3人の目が見開いた。

 やはり絹の価値を知っているんだろうな。だけど、陶器だってかなりのものだぞ。


「クレーブル王国に別荘を持つわけが分った気がします。バンター殿の考え1つで船が黄金に変わります」

「たぶん、莫大な貿易額になるだろうね。その為に容易に準備出来る銀貨を作ったようなものだ」

「金より銀を知っておられるのですね……」


 硬貨をどちらで作るかによるんだよな。アジアでは金より銀が重要視されていたようだ。


「皆さんの便宜を考えただけです。神皇国がなくなりましたからね」


 俺の言葉を聞いて、ジッと俺を見ている。俺が裏で働いたと思っているのだろうか? だけどそれは知る人が少ないはずだぞ。


「少なくとも、昔の日数で3割以上先に進める。新たな交易港も1つ見付けることができた。バンター殿がシルバニア王国を作られたことはクレーブルの船長全てが知っていることだ。良く王国を再建できたと皆が言っておるが、もしやバンター殿は、その最中に先を見通して行動していたと?」

「それは買い被りですよ。あの頃は日々を過ごすのに懸命でした。余裕ができたからこそ、あのような船を考え、船長と懇意な商人に品物を探すことが託せるんです」


 ジッと船長は俺を見ている。2人の商人は笑顔で何やら相談をしているのは、俺の話に興味を持ったからだろう。

 船長がパイプを口から離すと、深いため息をついた。


「良いでしょう。我等船長仲間にも自慢できそうな話だ。金貨で蛾のサナギを買い込む等と、バンター殿以外の者が言えば正気を疑いもするが、あの船を考案してくれた恩人でもある。我等の知らぬことをまだまだ知っているのだろう……」


 船長に深く頭を下げて、その答えとした。

 後はたわいもない話が続く。

 そんな中で、綿織物の輸出が好調だと教えてくれたのが、自分の事のように嬉しくなった。

 役割分担があるから、シルバニア王国では糸までの生産になる。100台を超える織機が作り出す綿織物は年間300反を越えるらしい。半数は各国の商人達が引きとり、残りを輸出しているらしいがかなりの値段で取引されているらしい。


「その分、4王国へ供給する綿織物の値段を安くできます。10年前から比べると3割近く安い値段ですよ」

 

 商人が得意そうな表情で教えてくれたが、アブリートさん達が上手く生産システムを構築してくれたようだ。

 安定した供給は、被服にするための仕事を生み出し、更に消費が増えるだろう。貧しくとも、新しい木綿の服を1年に1着位買う事が出来れば良いんだけどね。


・・・ ◇ ・・・


 港での行動に制限が掛かったのがサディ達には気に入ら無いようで、早々にアルデス砦に帰ることになった。

 遊びに来ていたクレーブル王国の御后様は残念そうだったけど、シルバニア王国に招待できれば良いんだけどね。

 帰ったらエミルダさんに相談してみようか。何か面倒な手続きが必要な気もしないではない。4王国の中で、他の王国にホイホイと出掛けているのは俺達だけなようにも思えるからね。


 途中で旧王都に2日ほど滞在し、西の尾根のブドウ畑を視察する。段々畑のような畑の作りで、たくさんの苗が枝を伸ばしていた。


「まだ小さいのう……。ワインはしばらくは無理なようじゃ」

「実を収穫できれば試験的に始められるでしょうね。ザイラスさんが楽しみにしてますよ」

「ザイラス達に全て飲まれてしまいそうじゃ。その対策も考えないとダメじゃろうな」


 それは言える。うわばみみたいに飲んでるからね。リーデルさん達もたまに様子を見にやって来ているらしいから、対策は急務かもしれないな。

 早めに、新たな酒作りをやらせてみるか……。

 ワインが1タルあればブランデー作りが出来そうだ。親父が、ワインを蒸留したものだと言って飲んでいたが、美味しいのかな?

 原理は水とアルコールの蒸発温度の違いを利用すると聞いたことがあるから、沸騰させない状態でワインを蒸留することになる。ちょっとした頭の体操になりそうだ。


 アルデス砦に帰ると直ぐに紙を取り出して絵を描いて行く。

 蒸留機の実物は見たことが無いけど、実験室での蒸留試験は色々とやったからな。実験室ではガラス製だったが、この世界にはそんな器具はない。

 加工が容易な金属で作って貰わねばなるまい。


「変わった品じゃな。新型兵器なのか?」

「新たな産業を思いついたんです。俺達が作れるブドウで果たして美味しいワインが作れるかどうか……。それなら、全く新しいお酒を造ってみようと」


 どうやって作るかは聞いて来なかったから、さっぱりわからないというのが本音なんだろう。

 俺だって上手く行くかどうか疑わしく思ってるからね。


 5日ほど頭を捻ってリーダスさんに渡したんだけど、彼も頭を傾げて絵を眺めていた。

 それでも美味しい酒を後でご馳走すると言ったら、最優先で制作を請け負ってくれた。やはり、ドワーフと酒は切っても切れない関係にあるみたいだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ