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SA-193 連合化への布石


「これが新たな旗なのか?」

 テーブルに乗せた新たな騎士団の装備を眺めながらサディが呟いた。


「俺達の旗が赤地ですから、白を地にしました。我等が大義の為には一切の曇りもないという決意を表したものです」


 そんな俺の言葉を、エミルダさんが頷いて聞いている。

 旗の下には『我等正義の元に集う者なり』との言葉が金糸で刺繍されている。


「我等よりも目立つのう……。ある意味、4王国の象徴でもあるわけじゃから、これで良いのであろう。それと、これが記章じゃな?」

「銀と銅で作りました。騎士団を退団しても記念になるでしょう。後ろに番号を刻んでいます。年号と追番になります」


 ふんふんと言いながら、俺の言葉を聞いている。

 銅板に頭蓋骨と交差した骨が銀とは、ドワーフの細工技術は俺の想像以上だ。形は昔作ったバッチに似ているが、見れば違いは一目瞭然だ。


「機動歩兵に石弓、騎馬隊に長弓はシルバニア軍と共通としました」

「武器に共通性を持たせるのは、管理もしやすいであろう。決定的な武器を渡さねば問題も無い」


 どうにか納得してくれたようだ。

 新たな聖堂騎士団の本拠地はアルテナム村とすることでザイラスさんとマクラムさんとの調整も出来た。200人近い兵士が暮らすことになるのだが、村の活性化にもつながると言ってたな。

 騎馬隊の訓練はトーレルさんに任せられるし、サンドラさんも機動歩兵の訓練を教えることが出来るだろう。

 あまり隊長達に負荷を与えたくはないところだ。


「大使達が言っておったが、誰を送るかで中々決まらんそうじゃ。それだけ我等の騎士団に憧れておるとは、我も驚いておる」

「正義の騎士団ですからね。それを旗印に王国を再建したのですから誰もが憧れるのも理解出来る話です」

「クレーブルでは派遣期間を2年と区切ったようですよ。それでも最初というのが大事なんでしょうね」


 マリアンさんが美味しそうにコーヒーを飲んでいる。

 俺にも大きなマグカップで入れてくれたんだけど、この砦でコーヒーを飲むのは俺とマリアンさんだけなんだよな。


「ところで、旧教団の神官との連絡は?」

「神皇国からいち早く非難した神官が10人以上おります。その話をしたところで全員が志願してくれたのですが、彼等の話し合いで2人を同行させることになりました。若い頃にウォーラム王国で町の神官補佐を行った経験者です」


 土地勘と顔見知りを持つ者が同行してくれるのはありがたい話だ。

 荷馬車は頑丈なものを15台作っている。2台をキッチンカーにして、3台に機動歩兵が乗り、残りの10台が援助物資となる。徒党を組んで隊列を襲おうとしても、1個中隊の騎馬隊と1個小隊の機動歩兵が相手では、2個中隊の騎馬隊でさえはね返すことができるだろう。

 早ければ、夏前に出発できそうな感じだ。


「それで、式典はどうするのじゃ?」

「一応、新たな騎士団員ですから、それなりの式典をすべきでしょう。ザイラスさんの挨拶に、陛下の激励、エミルダさんの祝福は必要でしょうね。その辺りはトーレルさんに頼んであります」


 トーレルさんは元貴族だから、こんな場合には頼りになるな。

 機動歩兵の小隊長は、ライネスさんという俺より少し年上の元軽装歩兵だ。将来を見込んでサンドラさんが推薦してくらたぐらいだから安心できそうだな。


 20後には3王国からの新たな騎士団の仲間がやって来て、エミルダさんからの新任を受ける。その後、騎士団長たるザイラスさんの配下となるのだが、

大使達の随伴でやって来た騎士達が羨ましそうに見ていたのが印象的だったな。

 1か月ほどの訓練を受けた後に、ウォーラム王国の町村を回る旅に出ることになるが、ウォーラム王国として果たして容認できるのだろうか?

 本来ならば自分達の矜持のはずなんだけどね。


「後はトーレルに任せよう。積荷は西の関所で良いな?」

「2回は持ちだせるでしょう。残った食料は、頼って来る難民に分けてあげれば十分です」

 

「それにしても、我等の聖堂騎士団の人気は凄いものじゃな。聖堂騎士団ある限りシルバニアは栄えるであろう」


 サディの言葉にマリアンさんも加わり皆で頷いた。同時に笑顔がこぼれる。それだけ周辺諸国に俺達が認められたと言う事にもなるのだろう。

 名付け親の俺は得意になっても良いのかもしれないが、あまり喜べないことも確かだ。

 このままいけば、騎士団が多国籍になる可能性もある。それをどうやってシルバニア王国との政治から切り離すかが将来の問題になるかもしれないな。


「あまり喜んでおらんな?」

「ええ、飲み込まれないための策を考えませんと……」


 俺の言葉にザイラスさんが唸っている。

 やはり危険性に気付いたみたいだな。


「どうするのだ?」

「とりあえずは、人数制限で行きましょう。騎士団の四分の一までならどうにでもなります。それを超えると弊害も出てくるでしょう。さらに騎士団長と中隊長はシルバニア王国から人選すれば今のところは問題が表面化しないはずです」


 だが、それでは騎士団が閉鎖的になってしまう。

 元々騎士団とはそんなものだと聞いたこともあるけど、少しもったいなくも思うな。


「バンターの考えておる事は分かるぞ。将来的には4つの王国を統合するつもりじゃな?」

「戦を始めるのですか!」

「まだ機が熟したとは思えませんが?」


 まったく、そんな事を言うから勘違いする人がたくさん出てくるじゃないか。

 エミルダさんとマリアンさんは驚いてるし、ジルさんは嬉しそうな表情をしている。かなりの戦好きだけど、しばらくは何も無いんじゃないかな?


「前に言ったことがありますよね。他国の領土を自国に組み入れるには戦以外の方法もあると……」


 この場合は価値観の共有と、経済の結びつきが大事になる。互いに密接に王国が結び着いた時には両者の合体も起こりうることだ。

 だが、それには国民レベルでの意思の共有も大切にしなければなるまい。親戚が他国にあり、かなりの頻度で互いに行き来するようになれば、それは一つの国家としても違和感すらないだろう。


「ふ~む。輿入れすることで統一するわけではないのだな? 自然と同一感が生まれ始めた時に、それを行うと言う事か……」

「ですから、まだまだ先の話ですよ。少なくともクリスの子供達の世代より遥かに後の世代になるでしょう。シルバニア王国の建国が昔話になるころだと思っています」


 今すぐという訳ではないが、将来的には4つの王国は1つになるだろう。どんな政治が行われるか楽しみではあるが、俺達の誰もがそれを見ることは無い。

 だが、そんな時代が早くやって来る為の布石は打てるし、予想される課題は今の内から対策を考えておけば良い。

 聖堂騎士団もその中の課題の1つだ。確かに他国からの団員を入れることは将来的には益になるだろうが、現在の王国制を取っている場合には弊害にもなる。

 それが少数受け入れの容認でもあり、騎士団内の方向性を決める団長をシルバニア王国が務めることで対策とすることができる。少なくとも100年以上はこのままで行く事になるんだろうな。


「確かにシルバニアが覇を唱えることにはならんだろうな。相手国の侵入を待つしか無さそうだ」


 がっかりした表情のジルさんの肩を叩いて、ザイラスさんが慰めている。

 

「その時が待ち遠しくも思えます。バンター様が神官に子供達の教育を行わせているのも、遠い将来の布石と言う事ですか?」

「そうですね。やはり教育は必要でしょう。教義の内容を分かり易く子供達に教えているとも聞いています。善悪の判断がきちんとできて、自分の考えをしっかりと相手に伝えることができるようになれば、今の政治体制を批評することもできるでしょう。その時、どんな対応を治政者はするでしょうか? 凶作の民衆蜂起とは異なる蜂起が起きることも考えられます」


 愚民政策を取るのも方法であろうが、それでは王国は停滞してしまう。王国の発展には国民教育が必要不可欠なのだ。だが、それを高度に行えば政権の転覆は覚悟しなければならないだろう。


「任せられる者がおれば、治政を任せることもできるであろう。それはティーゲルにもきつく言っておく。愚王で迷惑をこうむるのは国民じゃからな」


 俺はきつい表情でサディに顔を向けると深く頷いた。正しくそれが問題になるのだ。愚王程に厄介なものは無い。しかも周辺諸国に大迷惑を掛けることになりかねないのだ。


「俺のところの子供達も、長剣や乗馬だけでなく本を読ませよう。兵士の先頭に立てる者も大事だが、バンターのように戦を操れる者も大事になる」

「確かに操っていますね。たぶんトルニア国王がシルバニアに好意を持つのもその力ある由縁だと思います」


 マリアンさんがザイラスさんの言葉に続けたが、俺にはそんな自覚は無いんだよな。陽動を上手く使ってるから、皆にはそう見えるんだろうか? 

 だけど、それは陽動部隊がそれだけうまく立ち回ってくれたからに違いない。単に、戦をし易い状況を作って誘い込むだけなんだけどね。



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