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SA-192 聖堂騎士団への参入


 春になって暖かな日々が続いている。

 クリス達は乳母のレドニアさん達と一緒に、中庭でサディ達が育てた花で花輪を作っている。

 子供達を見守りながら少し離れたところで、絵を描いている2人はサディとミューちゃんだ。

 だいぶ絵が増えて来たから通路が画廊のようになってきたぞ。

 初期に比べて、この頃は最初から何を描いたかが分かるようになってきた。俺が慣れたのか、サディ達の絵が上達したのかは微妙なところがあるけど、誰の迷惑にもならないからこのままでいいんじゃないかな。

 巡礼の人達からは、サディ達の描いた絵を元にした銅版画が飛ぶように売れているらしい。

 エミルダさんから、新たな絵の要請があったようで、俺に嬉しそうに話してくれた。


 昨年の凶作はどうにかなったが、今年の収穫が心配になるな。

 初夏の段階で、交易船に注文を出せば何とかなるのが分ったが、4王国共にライ麦や小麦の代用作物を、今年は多目に作付するに違いない。

 その辺りは、マクラムさんが町村の代表者と協議して決めるんだろうな。北の村やミクトス村からも出席しているようだから、何となく農協のようにも思える。


 家族の姿を眺めながら、館の軒下のベンチでのんびりとパイプを楽しんでいると、門が開き始めた。

 入って来たのは数騎の騎士だけど、先頭の騎士の鞍には男の子が乗っている。

 どうやら、ザイラスさん一家がやって来たようだ。

 ジルさんと一緒に子供をクリス達のところに向かわせて、サディ挨拶をしている。砦の兵士に馬を預けて、俺のところに歩いてくる。

 西をどうするかを相談に来たに違いないな。


「しばらくだな。元気で何よりだ。少し相談があるのだが……」

「ウォーラムの件ですね。どうぞ中に、サディ達も直ぐにやって来るでしょう」


 ザイラスさんと、騎士の礼を互いに取った後で握手をする。ジルさんとも握手をして広間へと案内した。


「どうぞお掛けください。ウォーラム王国の件となれば、大使達も呼んだ方が良いでしょう。向こうは支度もあるでしょうから、それまでは内密と言う事で」

「そうだな。確かにシルバニアだけでの対処では問題もあるだろう」


 従兵に大使達への連絡を依頼したところで、遠路訪れてくれた2人にお茶を用意する。

 あたたかなお茶を美味しそうに飲み終えると、ザイラスさんが話を始めた。


「バンターの危惧は不発に終わったが、バンターも万が一を考えての事と思う。雪解けを待って工事を再開しているが、レンガの数が足らんぞ。上手く新たに粘土を探して並行して作らねばなるまい」


 万里の長城を作ったおかげで、周辺の山の木々を全て使ったような話を聞いたことがある。短期間で作ろうと考えたが山の荒廃を招きかねないな。

 今までは、西の尾根の東斜面を利用したブドウ畑の開墾で切り倒した木々が出て来たが、これからは少し考えないといけないようだ。

 北の砦の奥にある森や、東の尾根の木々も運ぶことになりそうだ。きちんと植林を考えないと、とんでもないことになるぞ。


「リーダスさんと相談してみます。数を増やすとなれば色々と問題も出てきますね」

「火を作るには薪しかないからな。やはり急がずに進めることになりそうだ」


 いつの間にか、ワインのカップを持っている。相手が俺だと遠慮しないからな。それだけ俺達の間が狭まっているのだと思えばいいか。


「トーレスティの方はどうなっているんでしょうか?」

「レクサスの部隊が国境線を警備しているから何度か会う機会があった。連中の方が進んでいるな。もっとも、木枠で補強した土塁だからなんだろうが、今年中には終えるだろう。街道の関所は石造りにすると言っていたな」


 間にウォーラム王国を挟んでいるから、一気にシルバニア王国への危険性は少ないな。西の尾根自体が堅固な長城にもなり得る。そういう意味では2つ目の長城を作っていることになる。


 1時間も経たない内に、サディとミューちゃんが広間に入ってきた。

 大使達もそろそろ集まって来るだろう。俺達のカップをミューちゃんが回収してくれる。皆が揃ったところで新しく入れ直してくれるはずだ。


「たぶんウォーラム王国の話であろう。すでに兵力すら枯渇した王国であるが、援助でも申し込んで来たのではないか?」


 サディの言葉にザイラスさん達が顔を上げてサディをジッと見つめる。


「分かりましたか? 一応書状を預かってきました」


 ジルさんがバッグの中から書状を取り出して席を立つと、サディのところまで歩いて来る。頭を下げて両手で書状を差し出したところを見ると、あれが正式な渡しかたなんだろうか? あまりシルバニアで同じ行為を見る機会は無いだろうな。

 一応、敬ってはくれてるんだろうけど、ザイラスさんなんかいまだにため口で俺と話してるぐらいだ。


「なるほどのう……。国交を希望しておるようじゃ。裏は食料援助じゃろう。我等も心許ない事ではあるが、冬越しの食料に余裕があるなら送るにやぶさかではない」

「失礼ですが、署名はどなたのお名前に?」


 ハーデリアさんがサディに問いかけたけど、それが一番大事な事なんじゃないか?


「うむ……。第14代ウォーラム国王。署名はディートリム・ドラコ・ウォーラムとあるぞ。聞かぬ名じゃな」

「中々おもしろい署名ですな。ドラコとは神皇国の上位神官の肩書でもあります。ディートリム殿は先代国王の4男ですぞ。確か、先代の退位では長男に王位が譲られたはずですが……」


 殺されたか? 確か執政は将軍職の貴族が執っていたはずだ。

 ミューちゃん達が、配ってくれたお茶を飲みながらパイプに火を点ける。

 テーブルの上の地図を眺めながら、状況を整理していく。


「新たな政権ということになるのじゃろうか?」

 サディが不安げな表情で俺に顔を向ける。確かに新たな政権には違いない。


「そうなるでしょうね。ウォーラム王国はヨーレム侵攻の失敗で、カルメシアに神皇国領土の南を奪われましたが、旧来のウォーラム、リブラムそれに神皇国の北部を押さえてはいます」


 地図で示せばシルバニア王国の3倍近い国土になる。


「度重なる戦で国力が低下した状態で昨年の凶作です。民衆の蜂起は2度起こりましたが、年明けの蜂起はかなりの規模に拡大し、多くの町や村が焼かれています。蜂起した民衆の流れはウォーラム南部から街道沿いにリブラムに向かい神皇国の守備隊が鎮圧した模様です……」


 ここまでは確実な状況になる。

 これを踏まえて、ウォーラム王国の内情を考えると……。


「たぶん、旧来のウォーラム王国と神皇国の2つに分裂したのではと推測します。

ディートリムと名乗る4男が旧ウォーラムの王都に、旧神皇国には誰が即位したかはまだ分かりません」

「分かれた上で、神皇国の上位神官たる職名を入れているのか! とんでもない連中だな」


 国を分けたなら相手を敬って、この称号だけは取るべきだろうな。これは内乱の原因を作っているようなものだ。いや、最終的には相手を飲み込むつもりで決意表明を出しているのかもしれない。その辺りが問題になりそうだな。


「それを知った上で、シルバニア王国はどうなされます?」

「戦が続いているなら商人達も安心して商売は出来ないでしょう。断ることになろうかと思います」


 テノールさんの質問に即答で答える。たぶん、トーレスティの国境の砦にも同じような書状が届いているはずだ。

 俺の言葉を聞いてほっとした表情をしてるところをみると、その知らせを受けてたのかもしれないな。


「国交はせぬとも援助は構わぬであろう。かつての神官達が町や村におるであろう。神官を通して援助をするのは我等聖堂騎士団の務めでもありそうじゃが?」

「そうですね。仮にもその名に助けられたことを神に感謝して恩を返すことも大事でしょう。各国の大使殿もそれならお許し願えると思います」


「いやいや、許しを願う等とんでもない。我等も教団の神官を町や村の教育に従事して貰っておるのが現状、教団に寄付することはやぶさかではありません。それをアルデンヌ聖堂騎士団に委ねればウォーラム王国の救済も広く行えるのではないですか?」


 クレーブルのカリバンさんの言葉に大使達も頷いているから賛成してくれたと言う事だな。


「私からの提案なのですが、シルバニア王国のアルデンヌ聖堂騎士団に我等が王国の騎士団を編入できないでしょうか? シルバニア王国だけにウォーラム王国の隅々まで騎士を派遣する危険性は皆で分かち合うべきではないかと思うのですが?」


 ハーデリアさんの言葉に大使達は諸手を上げて賛同している。反対にザイラスさんが渋い顔をしているのは理解できるな。

 何といっても、聖堂騎士団はシルバニア王国を立ち上げる為の俺達の象徴的な存在だったのだ。それを共有するというのもちょっと考えものだぞ。


「おもしろい話ではある。じゃが、アルデンヌ聖堂騎士団はすなわちシルバニア王国の要でもあるのじゃ。我等の親衛隊なのじゃぞ」

「それを承知でお話しております。すでにシルバニア王国の建国がなされており、バンター殿のおる限り、いかな王国といえどもシルバニアを相手に勝利できるとは思いません。各国の騎馬隊達も聖堂騎士団に憧れる者がおることも確かでしょう……」


 ハーデリアさんの熱弁が続いているけど、少し事情が分かってきた。要するに各国の騎士達の憧れの的になっているということだ。

 それなら、一時的に聖堂騎士団に入団して何らかの活動を行えば満足させることができると言う事になるな。


「各国から1個小隊。これならザイラスさんも統率できるのでは?」

「まぁ、それ位なら各地を回る荷車の護衛にも丁度良さそうだ」

「よし、各国で1個小隊じゃな。丁度1個中隊になる。荷車の御者と直営に軽装歩兵を1個分隊増やすには構わぬであろう」


 サディの言葉が終わると同時に、広間の入り口近くで待機していた騎士達が広間を飛び出して行った。

 ジルさんが呆気にとられて見ているのを、おもしろそうにサディが眺めている。

 

「お見苦しいことをお詫びいたします。ですが、それ位の知らせであるとご理解頂きたい。例え短期間であっても、正義の味方として働けるのですからね」

「それなりの苦労があるのだが……。そうなると、任命式や衣装等やることが色々と出てくるぞ。それはバンターに任せるからな!」


 ここは頷くしかあるまい。

 言い出したのはハーデリアさんなんだから、少しは手伝って貰おう。それと、エミルダさんとも調整しなければなるまい。ウォーラム王国は、言わば旧教にあたる。その神官との調整は面倒な気もするが、色々と便宜を図ってるから少しは協力してくれるだろう。


 笑顔で広間を退席していった大使達だが、広間に残った俺達はサディ以外は厳しい表情でテーブルを囲んでいる。

 ミューちゃん達が運んで来たワインをザイラスさんは一気飲みしてお代わりを頼んでいる始末だ。


「問題は、誰に指導させるかです。我等は旧王都と西の備えで何とも出来ませんぞ!」

「バルツさんではどうでしょうか? 山賊時代からの仲間ですし……」


「バルツか……。悪くは無いな。副官はバルツに選ばせれば良い」

「機動歩兵はサンドラに人選を任せようぞ。後は衣装と武器じゃが、リーダスに明日知らせれば良いじゃろう。これはミューに任せたのじゃ」


 サディが楽しそうに役割を決めていく。俺は新たな中隊と小隊を納得させるための目印とエミルダさんとの調整を仰せつかってしまった。

 目印と言えばバッチで良いだろうけど、図案も問題だな。やってくる連中を納得させなければならないし、あまり上手く作ると本来の騎士団の連中が欲しがりそうだ。

 これを機会に全員に配ることも考えないといけないかもしれない。

 旗も作る事になるんだろうな。あの海賊旗があれだけの人気が出るとは思わなかったけど、少し色を変えてみるか……。


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