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SA-019 全部頂くには


 1個小隊が守る砦を攻略するには中隊規模を必要とする。それだけ砦という構築物は防御効果が高いのだ。

 本来ならば石作りにしたいところだが、急造するからには木造になってしまう。

 火攻めを受けると簡単に落城しそうだが、現実にはそう簡単ではないのだ。

柵となる丸太を並べただけの塀は、泥をあらかじめ塗っておくことで火に耐性を持たせられる。衝撃で剥がれ落ちてもそれは部分的なものであって全焼させるにはかなりの火を継続的に与えなければならない。

 柵の上から水を流せば簡単に火矢位は効果を無くせる。

 問題はこの世界にある魔法の方だ。魔法で作成した火炎弾の最大飛距離は30m程らしい。つまり石弓の有効射程内という事になる。可能な限り敵兵の接近を阻止出来れば問題は解決するんだけどね。


「重装歩兵に石弓を持たせると?」

「それだけで砦1つを防衛できます。その上での騎士達による側面攻撃を行えば南西に作る砦は難攻不落に近い存在になりますよ」


 砦は周囲の塀とそれを壁にした平屋で構成している。

 方形を基本として、1辺の長さは30mと言ったところだ。余裕があれば広げても良いだろう。


「兵舎の屋根を利用して石弓を撃つのじゃな。この角にはもう1層作って見張り櫓とするのも良さそうじゃな」

「問題は作る場所なんですけどね……」


 簡単な砦の絵を書いて、王女様達と相談する。

 廃村に長屋を作ったらしいが、早めに工事をしておく必要があるだろうな。最低限、冬場に外壁だけでも何とかしたいものだ。


「いずれは必要となるのだ。先行して山麓から木材を切り出させるか」

「場所も決まらずにですか?」

「付近の林を切るわけにもいくまい。それに廃村の近くの森で行えば、来春に開墾も出来よう」


 ある意味、一石二鳥だけどそんなにうまく行くかな?

 ラバは5頭に増えたけど、冬に使えるんだろうか? 待てよ、確か小さな冬用の馬がいるって聞いたことがあるぞ。

 冬の街道襲撃で、その馬とソリを奪えばいいんだな。


 そんな話を夕食に集まって来た面々に話すと、直ぐに始めようとの返事が帰って来た。

「砦には大量の木材が必要です。早速初めるべきでしょう。伐採は私の隊で担当しましょう」

 重装歩兵の30人が砦を出発して廃村に向かう。宿泊所があるか心配だけど、その辺りの事は向こうに行って考えると言ってたぞ。

 王女様が慌てて、ラディさんに同行をお願いしてたから、廃村のリーダーと上手く調整してくれるだろう。


「我々は、あの小さな馬とソリの強奪ですな。荷も一緒という事で何とかしましょう。10組もあれば十分でしょうな」

「多い位だと思うけど、荷はたぶん奴隷だと思うよ。思う存分暴れて荷を強奪しよう!」

「「オオォォ!」」


 酒も入ってるから、ノリも良いな。

 食料は人数が多くなっても十分にある。律儀な行商は俺達の要求した品をキチンと届けてくれるから、何不自由なく暮らせるのも少し考えるものがあるな。

 まあ、悲壮感が全くないのは、それで良いのかもしれないけどね。こんな暮らしに満足してしまいそうで怖くなってしまう。


 街道は少人数の行商人が荷車を引いて往来しているようだ。一応、烽火台からの知らせは届くが、俺達は山賊だけど義賊という事になっているから、そんな商人を襲うようなことはしない。


「あれ以来、やって来ぬのう……」

 王女様が退屈してきたぞ。早めに適当な襲撃目標がやって来る事を祈るばかりだな。


「荷車の隊列です!『東より15台。護衛兵は1個中隊』以上です」

「不思議な隊列じゃな?」


 通信兵の知らせを受けて、王女様が俺を見た。

 確かに、おかしな隊列だな。

 今更、それほど重要な物を占領国に運び入れるとも思えないが……。

 待てよ? ひょっとして、麓の砦の援軍ってことか? となれば、正規兵ではなく傭兵部隊だ。ちょっと面倒な事になるかもしれないな。


「あくまで、俺の考えですが、麓の砦には残り1個中隊規模です。どう考えても冬の奴隷移送に護衛を割くには不足でしょう」

「傭兵ということか? それなら失った部隊の穴埋めにもなりそうだな。表面上は適当にごまかせる。貴族ってのは悪知恵だけは働くらしい」


 出来れば、数を減らしておきたいし、俺達の存在も知らせておきたい。傭兵は危険には敏感らしいから、奴隷輸送の護衛に素直に応じるとは思えないんだけどね。


「少し脅かしてやりましょう。この曲がり角を過ぎた場所に阻止用具を置けば敵の足は止まります。弓がありましたよね。たっぷりと浴びせて、急いでこの角を曲がれば俺達の足を掴まれることはありませんよ」

「弓は15丁程だな。矢はたっぷりあるか。弓を使える奴を至急集めろ。俺と、トーレルの部隊で十分だ。直ぐに出掛けるぞ!」


 ザイラスさんとトーレルさんが広間を出て行くのを、恨めしそうに王女様が見ているぞ。指示を出したのはザイラスさんなんだから、そんな目で俺を睨まないでほしいな。


「まあ、仕方あるまい。いつも、ホイホイと出掛けるようでは、頭領としての権威も保てぬ。ところで、おもしろいものを烽火台で見たのじゃ。あの魔道具はバンターが作らせたと聞いたが?」

「ああ、望遠鏡ですね。それ程倍率は高くありませんが、ただ眺めるよりは、詳しく分かると思って2個作って貰いました」

「我にも、1つ欲しいのじゃ!」

 

 まあ、分からなくもない。この世界では無かったようだからな。

 次に商人が来る時に材料を頼んでおきますと答えておいたら、嬉しそうな表情に変わったぞ。

 喜怒哀楽が直ぐに表情に出るのもどうかと思うけど、俺はそんな性格が気に入ってる。


 夕暮れ前に帰って来たザイラスさんの報告では十数人を倒してきたらしい。1割にも満たぬ数字ではあるが、傭兵達に俺達の手強さが伝われば良いはずだ。

 奴隷用の捕虜を移送する時にどのような護衛をしてくるか楽しみだな。


「だが、返って敵が用心するのではないか?」

「用心するでしょうね。それが狙いです。常に用心をし続けるなんてことは出来ませんよ。気疲れしてしまいます。まして、この山道です。精神的、肉体的に疲れが出ますから、普段の半分の働きが出来れば良い方だと思いますけど?」


「そんな事まで考えてたのか? 俺には軍師は無理だな……」

「さすがという事でしょうね。それに私達がいつ襲撃するかも、敵には分からないのです。かなり厳しい護衛任務になるでしょうね」

「そこが我等山賊の良いところじゃな。神出鬼没……それが我らの売りじゃからな」


 ニコニコしながらワインを飲んでいるぞ。

 まあ、それが狙いでもあり、問題でもあるところなんだけど。


「明日には麓の砦に到着するでしょう。早ければ数日中に搬送が始まりますよ」

「で、俺達の計画は?」


 作戦地図をテーブルに広げて敵部隊の編成を考えてみる。

「1個中隊を使うとは考えられんな。俺達のやり方が、通常の輸送部隊であれば後ろを襲う事は奴らも知っている。長く伸びた隊列を作り、後ろの荷車には艤装した兵士を乗せるやも知れん」

「今度は全部を頂きます。俺達を出し抜くつもりでも、奴隷を全て頂くとは思っていないでしょう?」


 車列を止めるのは簡単だ。阻止用具を2つも並べれば動きが取れなくなる。先導する兵士達と戦闘になるだろうが、槍衾と火炎弾攻撃で撃退できるだろう。そんな戦闘が続けば後列の兵士達も前に移動する。最後尾の兵士達が前に移動してくれるなら楽なんだけど、動かない場合も想定される。この部隊に対して後ろから槍車で攻撃する。崖の上には石弓部隊を置いて側面から攻撃すれば意外と簡単に敵兵を壊滅できるだろう。


「だけど、注意すべき点が2つあります。傭兵ですから正規兵よりも腕が立つでしょうし、森に逃げ込まれてしまう事もあるでしょう。その場合に、奴隷運送失敗を帳消しにする方法が彼等には1つ残っています。この砦の存在と場所を雇い主に知らせることでね」


「となると、襲撃後の崖の上の見張りが重要になりそうだな。ラディだけに押し付けて良いものか……」

「騎士を1個分隊残しましょう。崖の下ならラディ殿でも対処できるでしょうが、一旦上られると我らの方が対応し易いかと」


 今度は、配置を考える。王女様が名乗りを上げたから、俺も先頭部隊の阻止に回らねばならないな。

 東をザイラスさん達で、西はトーレルさん。レドニアさん達魔導士部隊とモーリスさんも西で良いだろう。

 作戦地図に駒を並べると、テーブルの連中が覗き込んで頷いている。


「役目は分かっておろう。今回は荷車を全て頂くぞ!」

「「オオォォ!!」」


 王女様の甲高い声に俺達の太い声が広間を震わせた。

 一斉に椅子を蹴飛ばして外に飛び出して行く。

 砦を出ると崖まで足早に移動すると、崖の上にラディさん達の部隊を残して、俺達はハシゴで街道に下りる。

 今回の襲撃地点は少し東寄りだ。全員で街道を走ると、装備が装備だからどう見ても盗賊団だな。

 トーレルさん達が街道から外れて南の森に向かうのを見ながら、更に先を目指す。崖の上ではラディさん達が同じように動いているはずだ。


 2つ目の曲がり角を過ぎたところで、俺達の歩みが止まる。

 森に10人程が向かって丸太を切り出してくると、用意したロープで阻止用具を2つ作り街道に並べる。阻止用具の高さは1mにも満たないが、飛び越えるのは難しいだろうな。

 2m程の距離をおいてもう一つの阻止用具がある。

 例え飛び越えても次の阻止用具を越えようとした時には槍で突かれてしまうだろう。


「ここなら、焚き火をしてもだいじょうぶですよ」

「相手に気付かれないか?」

「まさか、盗賊が焚き火をして待ってるなんて思いませんよ。トーレルさん達には気の毒ですが、こっちはだいじょうぶです」


 俺の言葉に、焚き火を作ってお茶のポットを乗せているけど、誰がそんなのを持ってきたんだろう?

 魔導士のお姉さん達が、ナップザックのように担いでいる革袋に入ってたんだろうけど、結構膨れているから他にも色々入っていそうだ。


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