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SA-189 俺達も長城を作る事になりそうだ


 夏になるまでには何度か雨が降ったけど、あまり効果は無かったようだ。

 先行して手に入れた穀物と兵糧として備蓄した穀物を合わせて4王国での分配をクレーブル王宮で話し合いが行われるらしい。

 シルバニアからはトーレルさん夫妻がサディから勅命を受けて出掛けて行った。


「バンターが一番なのじゃが、他の者を育てることも必要であろう」

「適任だと思いますよ。それで、トーレルさんには伝えたんですか?」

「伝えはしたが、驚いておったようじゃ。まあ、あの案では無理はない」


 分配比率はシルバニアを抜きにしても構わぬということなんだが、他の3王国も驚くだろうな。

 俺も最初は今年の作柄を聞いて驚いたぐらいだ。

 何と、メイクというジャガイモとソバは豊作らしい。春先の日照りの影響を受けずに、数度の雨が上手く生育時期に合ったみたいだ。

 皆で一生懸命水を運んで掛けていたの良い方向に作用したんだろうな。


「例年並みにパンを食べるわけにはいきませんが、飢えることはありません」

「それが一番じゃ。贅沢に慣れるよりは清貧でいたいぞ」


 サディに頷くと、パイプに火を点けた。

 そういえば、清貧集団である教団の方はどうだろう? 蓄えもあまりないはずだから、ソバを取り入れたら贈ってあげよう。

 いつもは黒パンを食べてるんだけど、ソバで我慢してもらうしか無さそうだな。


「やはり最大の課題はウォーラム王国になりそうですね。飢餓の対策すら満足では無いでしょう。援助するにしても、我等と同盟する王国の方が優先されます」

「とはいっても、500から1000は届けねばなるまい。王宮に届けずに西の関所の外で炊き出しをすれば良かろう」


 トーレスティとクレーブルも北と西で炊き出しをするようだから、飢え死にする者を少しは減らせるだろう。

 本来はウォーラム王国の仕事なんだが、難民を減らすためには仕方のないことだ。


「トルニア王国は活況のようじゃが、例の土塁作りなのじゃな?」

「3個大隊と農民2千人を動員しているようです。工事区間を3つに分けて同時に進めているようだとキューレさんから報告がありました」


 秋に間に合えば良いのだが……。微妙なところだな。

 ザイラスさん達に1個大隊を率いて貰う事になるは避けたいところだ。

 とはいえ、人が動くところには商売が成り立つということで、タルネスさん指揮の下、行商人が何組か向かったとビルダーさんが教えてくれた。

 あまり儲けすぎると恨まれそうだから、村の値段で販売するらしい。それでも大量に荷がさばけるならかなりの儲けになるんじゃないかな。


「ビルダーがクレーブルの交易を通して小麦を買い込むと言っておる。少なくとも飢えることは無い上に、適当にパンも食べられるであろう。余ったソバやメイクは教団経由で飢える者達に分配じゃな」

「ウォーラムに動き事になりますよ」


 俺の指摘もあまり気にはしていないようだ。お茶を飲みながら頷いている。

 いくらあっても足りない気がするんだよな。ウォーラム王国の兵糧備蓄はどうなってるのかと考えてしまうな。


・・・ ◇ ・・・


 秋になって、作物の収穫量が次々と報告されてくる。

 やはりライ麦は凶作に近い数字だな。平年の半分も無さそうだ。ソバとメイクというジャガイモは例年の3割以上も取れたらしい。

 畑を増やしたこともあるんだろうが、シルバニアの領民が飢えることは無さそうだ。


「トルニア王国の東の守りとしてどうにか柵を作りましたが、土塁ができたのは旧トルニア王国だけです。旧マンデールは二重の柵を作っただけになりそうです」

「今でも工事は続けてるんでしょう?」


 俺の質問にハーデリアさんが頷いている。少なくとも直撃は避けられるだろう。柵近くに弓兵を集めれば何とかなりそうだ。

 ガルトネンさんの事だから、3個大隊は待機させているだろう。

 シルバニアとクレーブル王国の国境地帯から兵を移動させているようだから、迎撃態勢は万全に違いない。


「やはり、凶作になりましたな。ですが、本当にシルバニアは購入した6000袋の穀物の分配は必要ないと?」

「別に、購入した分もある。それにソバは畑を増やした分昨年よりも収穫量が多い。バンターの先を読む目には感謝してもしきれぬ」


 サディの言葉に納得しきれない雰囲気だな。

 ひょっとして、他の王国は主食を他の農作物で代用するという考えは無いんだろうか?


「俺は好きですけど、ソバを毎日ともいかないでしょう。メイクを蒸かして食べても良さそうですし、たまにはパンを食べることも出来ます。そんな食事が来年の秋まで続くでしょう。用水工事が捗っていますから、今年のような天候でも、それなりの収穫は期待できます」

「ひょっとして、バンター殿は民と同じ食事を取ろうとしておいでなのですか?」


 俺の話に驚いたような表情で、テノールさんの奥さんが声をだした。


「当然じゃ。一度どん底まで落ちておる。仲間は皆同じ食事であったぞ。今では来客との食事以外は、村の食事とさして変わらぬ」


 だけど、あの時の食事は美味しかったな。皆でわいわい騒ぎながら食べたのと、いつもお腹を減らしていたせいなんだと思ってるけどね。


「なるほど、贅沢ができる身でありながら清貧を心掛ける。中々出来る事ではありません。トルニア国王にも是非ともお話したいと思います」


 ハーデリアさんの言葉に皆だまってうなずいている。自分はどうかと考えてるんだろうな。

 一度贅沢を味わうと、中々抜け出せないらしいからね。


「ありがたく使わせて貰います。まさか収穫量が半減以下とは思いませんでした」

「我等もシルバニアを見習うべきでしょうな。トルニア国王だけとは行きますまい。民の苦しみは王侯貴族共に味わうべきなのかも知れません」


 不作もあれば豊作もあるだろう。その時は民と一緒に喜べば良い。徴税の大小だけで見ていると国策を誤りそうだ。


「キッチンカーという物を見せて貰いました。あれもバンター殿が作らせたと聞いておりますが、炊き出し用に改造しているようです」


 テノールさんがおもしろそうな表情をしているから、見たことがあるんだろうな。確かにあれなら移動しながら食事を提供できる。

 機動歩兵の中隊ごとに1台を持っているから、既存を更新することで古いキッチンカーを西の尾根を通る街道の出口に持ち出しても良さそうだ。

 数台あればそれなりに施しを与えられるだろう。


 具体的なウォーラム王国の飢餓対策を話し合ったその夜。

 1人で地図を眺めていると、ラディさんが広間に入って来た。すでにアルデス砦の夜は少し寒いぐらいになっている。

 暖炉近くにラディさんを呼んで、カップを取り出してワインを2人でちびちびと飲み始めた。


「やはり……、ということなんでしょうか?」

「ええ。始まったようです。あれでは、来年の穀物生産は更に低くなるでしょう」


 カップをテーブルに置いて、ラディさんがパイプを取り出す。

 全く、周辺の王国の迷惑何て考えないから困ってしまう。


「やはり、リブラムというところでしょうか?」

「リブラム王都に火の手が上がりました。ウォーラム王侯貴族はどこに向かうかを確認中です」

 

 神皇国は最前線都市だ。かといってかつてのウォーラム王都は一度遷都しているからな……。と言っても、一番安全な都市でもある。リブラム王都の再建よりは修理するだけで使えそうだ。

 

「たぶん元に戻ってウォーラム王都じゃないでしょうか? 神皇国という線は薪を背負って火事場に行くようなものです」


 俺もパイプを取り出すと暖炉の焚き木を使って火を点ける。

 さて、問題が大きくなってきたな。シルバニアとトーレスティの国境線を強化して難民を追い返すことになるだろうが、騎士団としてそれは正義とは言えないんだよな。

 食料援助で自分達を納得させることになるんだが、来年はどうなるんだろう……。場合によっては西の国境線をトーレスティ並みに強化しなければいけないかもしれないな。

 やっておけば、後々に課題を残すこともあるまい。西の尾根は峠と街道の東にも砦がある。尾根と街道沿いを強化すればカルメシア王国に飲み込まれたとしても、シルバニアの安全は図れそうだ。

 何となくヨーレムと同じようになってしまうが、4つの王国が協力すればそれなりに発展も期待できそうだ。やはり、遠洋交易がこれからの発展に寄与してくれるに違いない。


「隠匿村の長老が、今年の税を心配しています」

「まだ早いと思っています。牧畜や酪農も少しずつ軌道にはのっているが、それはネコ族の努力の賜物です。税は取らずに商人に売ってあげてください」

「とはいっても、今年は約束の年ですぞ。我等の矜持が許しません」


 いつになくまじめな表情だ。ネコ族は正直者だからな。


「なら、荷馬車2台分の羊毛ということでどうですか? 教団の経営も苦しそうです。本来ならお金を出して買うのでしょうが、それほどの財力も無さそうです」

「荷馬車3台分を送りましょう。十分に納得できる税となります」


 エミルダさんが一番喜びそうだな。ミューちゃんからフィーネさんに伝えて貰えば良い。

 俺達への税を、俺の依頼で教団に寄付すると言えばいいか……。

 

 ラディさんが帰ったところで再び地図を眺める。

 地図が正確だから、西に作る長城の長さがおおよそ分かるな。街道の出口の関所を強化したところで南北に工事を進めれば良いだろう。

 西の端は、トーレスティ王国の土塁と結合させて確実に遮断することになりそうだな。頂上の長さはおよそ80kmというところだ。さすがに山麓まで土塁を延ばす必要はない。


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