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SA-185 ネコ族の村


 北の村から北の砦を結ぶ道は無い。

 50km以上の広大な荒地が南に傾斜して続いているのだが、麓の森までは10km以上あるから、見る限りにおいては傾斜が気になることは無い。

 

 荒地は少しずつ緑を芽吹いている。

 それを羊や牛がのんびりと食べているのだが、これだけ広いから食べ尽すことは無いだろう。それにネコ族の人達が荒地に牧草の種を撒いている。

 緑の草原に変わるのもそれ程先の話では無さそうだ。


 カナトルに乗って西に向かって荒地を進んでいくと、尾根が伸びているように林が南に突き出している場所が見えて来た。

 まだ植林したばかりだし、見通しを悪くするために繁みを作る雑木が主体だからちょっと周辺から浮いて見える。

 それでも10年したら立派な林になるんじゃないかな? 生育が悪いのは荒地のせいだと誰もが思うだろうな。

 

 その林に向かってカナトルを進める。林の中に、ネコ族の隠匿村があるのだ。

 いく筋かの煙が上っているが、生活の場があの中にある以上仕方がない。なるべく焚き木を乾燥させて煙が出ないようにするぐらいしかできないしね。炭火という手もあるが、2千人以上の人達が生活してるから相当な量になるだろう。簡易な暖房器具には使用できても、煮炊き用には使えないだろうな。


「隠匿村には北東方向から入るにゃ」

「入口自体を隠してるの?」

「山の中に道が作ってあるにゃ。馬では入り難いけど、カナトルなら問題ないにゃ」


 カナトルというポニーみたいな小柄な馬も、中々役立つんだよね。人を乗せて移動することもできるし、小さな荷車を引くこともできる。ラバも良いんだけど、カナトルの方が遥かに言う事を利くらしい。

 機動歩兵の部隊でも、1小隊をカナトルで編成しようかと、サンドラさんが言ってたくらいだ。この間のヨーレム侵攻部隊との戦で機動歩兵の更なる機動を考えたんだろうな。

 

「北の村との連絡は山道ってこと?」

「カナトル5頭を使って少年達が荷を運んでるにゃ。運ぶ量が多ければカナトルを増やせば良いにゃ」


 1日1往復してるって事かな? 1頭に100kg以上の荷が積めるから、それでも十分なんだろうな。

 放牧用の監視と言う事で、ネコ族には50頭以上のカナトルが渡されているからそれを使ってるんだろう。

 

 俺達は林から少し離れた場所で山麓にカナトルを進めると、踏み固められた小道を見付けて、道伝いに西に向かう。

 やがて、丸太作りの柵と門が見えて来た。あれが隠匿村と言う事になるんだろう。


 ミューちゃんの姿を見たのだろう。門の扉が開いたので、俺達は村にカナトルを進めていく。

 門を抜けると、20m四方の小さな広場があった。ここでカナトルを下りると、直ぐに門番がやって来る。


「ミュー様じゃないですか。今日はどうしたのです?」

「シルバニア王国のバンターさんを連れて来たにゃ。長老と面会して、桑を見て帰るにゃ」


 直ぐに門番が番所にとってかえし、1人の若者を連れて来た。


「この者に案内させます。護衛の方は、こちらにどうぞ。この村ではバンター殿に危害を加えようとする者はおりません。ゆっくり休んでください」


 門番にカナトルと護衛を預けて、俺達は若者の案内で長老の住む館を目指す。

 うねった村の道は地形に合わせたんだろうな。あまり見通しが良いとは言えない。それでも道の両側には頑丈なログハウスが立ち並んでいる。2千人以上暮らしていると言う事だから、かなりの数のログハウスがあるって事なんだろう。


「この家に長老がおいでです。少しお待ちください」

 アポなしでやって来たからね。向こうにだって予定があるだろうからな。

 家の前で立ち止ったところで、改めて周囲を眺めてみる。

 村への客人が珍しいのだろう。少し離れたところで子供達がこっちを眺めている。

 ミューちゃんが俺達と一緒に行動するようになったのは、あの子達より少し大きくなった頃からだったな。今では思い出になってしまった。

 扉が開き、先ほどの若者が出てくる。


「会ってくださるそうです。付いて来てください」


 その言葉に、長老の家の扉を若者と一緒にくぐる。

 その中は、大きな1部屋になっていた。

 大きさは、教室位はありそうだ。床は土間だし、中央に炉が切ってある。炉の周囲にスノコを敷いてその上に分厚い毛皮を置いて3人の長老が座っていた。


「バンター殿が直々にこの地を訪れるとは……」

「先ずは、座って欲しい。話はそれからじゃ」


「ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして……」


 ミューちゃんと焚き火越しに長老の前に座る。

 直ぐに、長老をの世話をしているおばさんが、俺達にお茶を運んでくれた。

 早速頂いたが、ハーブティーみたいだな。ミントの香りが良い感じだ。これも商売になるかも知れない。


「俺達の要望を聞いていただき感謝に堪えません。不自由な点があれば善処いたしますが?」

「我等の方こそ感謝しておる。我等の永住に地をあたえてくれたのじゃからのう。冬に飢える子も無く、ワシ等を含めて年寄り共も温かく過ごすことができる」


 そう言って俺を見る長老の目には安堵の表情が浮かんでいる。毎年のように悲惨な光景を目にしたのだろう。

 それが、無くなっただけでも嬉しいのだろう。


「ラディさん、キューレさんの手を借りてどうにか大戦を無難に乗り切ることができました。この先、長く戦は起こらんでしょう。これからはシルバニア王国内の領民の暮らしを良くするために働くつもりですが、ラディさん達はもうしばらく俺達に協力してくださると助かります」

「それは約定通りに2個小隊をバンター殿に預けるつもりじゃ。我等にできる数少ないみかえりでもある。我等の仲間もだいぶ増えておる。次の冬からは3個小隊をバンター殿の下で働かせるぞ」


 偵察要員は俺も欲しいところだ。ありがたく頭を下げて感謝を伝えた。


「今回訪れたのは、皆さんの暮らしぶりと依頼した桑の生育状況を確認するためです」

「あの貧相な植物か? 言われた通りに育ててはいるのだが、実は保存に適さぬし、酒を作れるわけでもない。バンター殿の考えを我等が知るのは無理であろうが、あれを役立てることなどできるのだろうか?」


 確かに、貧相だよな。だけど、あれでないとダメな事も事実なんだ。


「あの植物が畑を緑にする日を待ってるんです。もう数年は掛かるでしょうが、俺を信じて世話をお願いします。それと、長屋は出来ているでしょうか?」

「出来ておるとも。今はたまに帰って来る狩りを生業にしているネコ族や、北の村からやって来た者達の宿舎にしておるが、あれを作ってくれと言ったのはバンターどのじゃ。使う時にはそのままお返しする」


 大きな長屋だから、多目的に使ってるということだろう。そうなるともう1棟建てた方が良いんじゃないか? これはラディさんを通して伝えて貰おう。

 お土産のタバコの袋を長老に渡したところで、本来の目的である桑畑に向かった。


 家並みが尽きたところから畑が始まっている。手前は野菜、その次がソバ畑のようだな。桑畑は……、あれだな。

 ミューちゃんの身長ほどの長い棒が横一列に並んでいる。長さは100mを超える位だから、十分に葉を取ることができそうだ。


 南側に俺の身長位の距離を置いて大勢の人が畝を作っていた。今年生えてくる新しい枝を使って挿し木にするんだろう。

 最低でも数畝が欲しいところだから、このまま進めれば良いだろう。出来れば離れた場所にもう一つ作って貰いたいところだ。万が一にも畑に虫でも付いたら大ごとだからな。だけど、桑畑で害虫を見たことが無い事も確かなんだ。意外と病虫害に強い植物なのかもしれない。


「こんなに作って大丈夫なのかにゃ?」

「足りないくらいだよ。出来ればもう1つ合った方が良いね。だけど最悪の場合は北の村から桑を運ぶことも出来そうだ」


 今のところは順調と言って良いだろう。

 案内してくれた若者に礼を言って、アルデス砦に引き揚げることにした。


「皆、元気に暮らしておったか?」

「頑張って畑を作っていたよ。ネコ族の人達の定住も上手く言っているようで安心だな」


 サディが笑顔を見せているのは、そんな暮らしを作ってあげられたと言う事が嬉しいのだろう。

 一時は覚悟を決めてたからな。あれからだいぶ時が過ぎたけど、皆初心は忘れていないだろう。

 俺達が民衆の暮らしに力を入れられるのも、上下の隔てなく鍋を囲んで食事をした経験があればこそだ。

 

 その夜、広間で一人シルバニア王国の地図を眺めていたところに、ラディさんが訪れた。


「ウォーラムの国王が退位しました。新国王は長男ではなく、3男と言う事です」

「ご苦労さま。やはりそうなってしまうよね。軍の半数を失って、領土まで失ったんだから」


「急な病死と言われていますが、どうやら暗殺ではないかと……」

「筆頭貴族は?」

「本来の筆頭貴族は、同日所領に引きこもったようです。現在の筆頭は、神皇国侵攻の手柄を立てた老将軍のようです」


 軍と政治を束ねる立場になるのか……。となると、国王は傀儡と言う事になる。老将軍に娘でもいるなら国王に嫁がせれば実質上のウォーラム王国の支配者にもなれそうだ。


「引き続きウォーラムを探ってくれませんか。ヨーレム侵攻に組しなかったことで現在の地位を手に入れたんでしょう。上手く運べば、ウォーラム王国との国境に展開している俺達の兵力を削減できそうです」


 たぶん、ジッと作戦を練るタイプなんだろう。

 それが出来たところで行動に移ったから、神皇国侵攻が成功したのに違いない。となると、ヨーレム侵攻の指揮を執ったのは誰なんだろうな。



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