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SA-183 大聖堂巡礼のお土産は?


 3王国の大使と俺達が集まり定例のお茶会が始まる。今日は大聖堂のエミルダさんがトルティさんを伴なって参加している。今ではエミルダさんは大神官の1人だし、トルティさんも神官として活動しているらしい。

 となると、今日の話題は新たな教団に係わることになるのだろうか?


「修道院が2つに巡礼用の宿坊が1つ。いまだに聖堂は作らぬおつもりですか?」

「大聖堂から比べればどんな聖堂も見劣りします。清貧な暮らしには今の修道院で十分ですわ」


 権威付けの為の建築は行わないと言う事なんだろうな。

 宗教が国政や経済活動に触手を伸ばすことは避けなければならない。今のところは上手く行っているが、将来を考えると何らかのくびきを考えた方が良いのかも知れない。


「エミルダさんの次期が問題ですね。3代続けば実績として残りそうですが……」

「それは私達も考えております。バンター様が納得する形を作りたいと思っておりますわ」


 俺の思考を読んでいるように答えが返ってくる。才媛なんだろうな。ハーデリアさんとは少し異なるタイプのようだが。


「旧神皇国の重鎮が新たな村で鍬を振っておりましたぞ。彼等を迎える事は無いのですか?」

「彼らの思惑は俗界への介入です。神と共に暮らす我等とは袂を分かちました。場合によっては旧神皇国の神官達が新たな神殿作りを始めるかも知れません。それは小さな神皇国の始まりとも取れます」


 神皇国の教団の一派が残ったのではなく、分裂した可能性があるのか? それも問題だな。だが、簡単な対処法があるぞ。


「誰がどんな神を信じようと、それは個人の問題ですから禁じることはできません。ですが、自分の信じる神を絶対神として他人にその教義を押し付けることは問題です。信仰の自由と勧誘の禁止を布告すれば事足りるのではないかと……」

「おもしろい考えじゃな。信じる神は自由でも、それを押しつけることはできぬと言う事じゃな。当たり前すぎるが、それを布告することによって旧神皇国の勢力を押さえることは可能であろう」


「陛下のお言葉通りと考えます。王国内の町や村の祠を守る神官達は自分達の信じる神を集まる民衆に押し付けることはありません。あくまで聖書の言葉を伝えるだけですからな。勧誘と判断することはできないでしょう」

「それでもある程度の民衆を集めることはできるでしょうが、大きくなることは無いでしょう。場合によっては小さな村社会を作る程度に思われます」


 その場合には行政側で介入できるはずだ。どこでも村を作って良いわけではない。各国ともに王国の将来計画はもっているのだから。


「ところで、1つ良い案を考えて頂きたいのですが…」


 言い難そうに話してくれたのは、巡礼者へのお土産らしい。教団が渡すという訳ではなく、巡礼者がなにがしかの記念品を欲しがっていると言う事だ。

 分らなくはないな。お守りだとかお札だとかいろいろあったからな。中にはわけのわからないお土産品もあったけどね。

 要するに、巡礼の記念となるお土産ってことだな。

 教団が販売するのではなく、小さな商店を宿坊の近くに建てれば済む事だが……。問題は何をお土産にするかと言う事らしい。


「このような教団のシンボルであれば、町の祠を守る神官も扱っております。大聖堂でなければ手に入らぬ物、そんな物が果たしてあるのでしょうか?」


 教団に帰依して神に祈るためのロザリオのようなものではありふれていてダメだと言う事なんだろうな。

 有名な寺院の間に並ぶお土産物屋さんを思い浮かべてみる。

 お饅頭やせんべいでは何となく違和感がありすぎる。食べ物でないとなれば……。キーホルダーは? 誰も使わないか……。ん! 確か風景画もあったような気がするな。

 シルエット寺院の名前があるだけのようなものでも、それがこの地の外に手に入らぬならば、お土産になるんじゃないか?

 ましてや、大聖堂の絵が描かれているなら、それを見ながら巡礼の苦労を思い浮かべることができるだろう。


「良い物がありますよ。銅で絵を描きましょう。王都から画家を呼んで廉価な絵を描いて貰い、それを元に銅の鋳型を作れば同じ物が大量に作れます」


「絵を元に銅像を作るようなものか? 果たしてうまく行くのであろうか」

「やってみないと分かりませんね。陛下やミューちゃんが描いた大聖堂の絵もあるんでしょう?」


 俺の言葉に、2人がにこりと表情を崩したから、たくさん描いたに違いない。ちょっと持ってきてもらい、エミルダさんと絵を見比べてみた。


 印象派と写実主義の絵だから、違いがありすぎるのも問題だな。一面の緑に大聖堂が浮き出してるのや、聖堂の後ろにアルデス砦が描かれているのまであるぞ。


「これがおもしろそうですね。これも良い構図です」

 エミルダさんが選び出した絵は5枚だが、絵ハガキにしても良さそうな感じだ。

 これを精々ハガキサイズの銅版に仕上げたいんだが、果たしてドワーフの職人技に期待できるんだろうか?


「ほう、それを選んだか……。ミューの方が1つ多いが、仕方あるまい。この絵に聖句の1つも付ければ十分ではないか?」

「聖句ですか……。『誰も見なければ神が見てる』、『心の大きさは体では分からぬ』等の言葉ですね」


 いつの間にか、マリアンさんまでテーブルに着いていた。

 確かに、そんな言葉があればそれらしくなってくるな。


「とりあえず2種類作れば良かろう。これと、これで良い。ミュー、出掛けるぞ!」


 サディがミューちゃんを連れて、絵を2枚持って広間を飛び出して行った。

 行先はミクトス村のリーダスさんの工房に違いない。

 そうなると10日もすれば形になるんじゃないか?

 

 しばらく言葉も無く広間の扉を見ていたが、マリアンさんが改めて入れてくれたお茶を飲みながら話を続ける。


「神皇国が滅びてもどうにか心の安らぎを求める場所ができましたわ。バンター殿の大聖堂計画は御見事でした」

「たまたまですよ。元は俺達反乱分子の権威付けでしたからね。まさか、昔の詩人がアルデンヌ山脈を大聖堂に例えていたとは思いませんでした」


 そんな俺の話を2人の御夫人が笑顔で聞いている。

 

「バンター殿にも、同じ詩人の心があったのでしょうね。私は心が踊りましたから」


 そんなに褒めても、何も出ないぞ。

 お世辞なんだろうけど、嬉しくなるな。


「とはいえ、修道院を訪ねる神官が多い事も確かです。そんな神官に聖典の写本を任せたいのですが、静かな暮らしができる場所は無いでしょうか?」


 エミルダさんの言葉に、直ぐに思い浮かべたのは峠の砦狼の巣穴なんだが、あの砦は尾根の東の砦との重要な通信中継地点なんだよな。


「今すぐ、ということはできないでしょうが、山奥に1つ砦を持っています。全てを明け渡すことは、軍事上の問題もありますから調整が必要です」

「大きいのですか?」

「1個中隊近い駐屯が可能です。俺達が山賊をしていた時代の本拠地ですから」


「確かにあの砦なら、だれにも邪魔をされずに神に祈りを捧げられるでしょう。ですが、シルバニア王国発祥の地でもあります。他の場所を探す方が良いと思いますが……」


 マリアンさんは反対らしいが、それならなおの事その砦を彼等に守って貰う事で保存ができそうな気もするな。

 これは皆と一度よく相談した方が良さそうだ。

 

 それにしても写本とはね。修道院の生活に必要な資金はそれを売ることで得られているのかもしれないな。

 それなら、もう一つぐらい収入源を作っても良さそうだ。お土産の売り上げの一部は上納されるのだろうがたかが知れているだろう。

 旧神皇国のように多大な上納金で国を維持しているわけではない。神皇国から持ち出した資金もあるだろうが、夜逃げ同然に逃げだしてるわけだからそれ程多くは無いはずだ。枯渇しようとしているからこそ、写本を始めようとしているんだろう。

 

「修道院の生活は祈りと奉仕活動なのでしょうが、そこに修道院を維持するための仕事の時間を作る事ができますか?」

「バンター様のおっしゃる仕事の時間は、修道院への奉仕活動の一環として見ることができるでしょう。写本もその時間を利用して行うのです」


「ならば、毛糸を紡ぎませんか? 北の村で羊を育てています。初夏には羊毛が取れますから村中総出で羊毛を刈り取ることになるのですが、その後は手間の掛かる仕事になります」

「紹介して頂けると助かります。自分達で使う物も買う必要が無くなるでしょう」


 今度はマリアンさんも頷いているから、賛成してくれてるんだろうな。

 一度、トルティさんを連れて北の村を訪ねてみましょうとまで言ってくれた。サディ達も一緒に行くんだろうな。ついでに桑の生育状態も見て来て欲しいものだ。



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