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SA-182 トルニア王国との共同事業


 大使達が帰った後で、サディとマリアンさんを交えて今後を検討する。

 ミューちゃんが新しいお茶を持って現れたけど、いつの間にか綺麗な娘さんになったな。さぞや北の村から求婚の話が舞い込んでるんじゃないか?


「それにしてもハーデリアの驚いた顔は初めて見たのう。確かに我等の申し出は破格ではあるが、鉄の女の矜持が見る影も無かったぞ」

「やはり、どの王国でも塩は貴重ですからねぇ……。でも、バンターさんはそれを作る事が出来るのですか?」


 にこにこと思い出し笑いをしているサディを呆れた表情で見ていたマリアンさんが、心配そうに聞いて来た。

 ミューちゃんがキョトンとした表情で俺達を見ているのは、前の話を聞いていなかったためだろう。


「意外と簡単なんですよ。どちらかというと効率的に作るのが難しいんです」

「簡単だと言ったが、我には想像もつかぬ。どうやるのじゃ?」


「海水を煮詰めるんです。海水を舐めたことがあるでしょう? かなりしょっぱかったと思いますが」

「確かにしょっぱかったぞ。あんな水の中に住む魚がしょっぱくないのが不思議だとミューと話しをしたのを覚えておる」


 サディの話にミューちゃんもマイカップを持って頷いているから、一緒に舐めてみたに違いない。


「水に塩を溶かした感じでしょう? だから海水を汲んで鍋で煮詰めれば塩は取れるんです」

 

 俺の言葉を聞いてキツネにつままれたような表情をしているけど、どこにも不思議な話は無いと思うんだけどな。

 

「それではクレーブルやトーレスティでもできるのではないか?」


 早速、質問が飛んで来た。

 確かに海があるならどこでも可能だ。だが、それには大量の焚き木が必要になる。そんな塩作りができるのは背後に大きな森林を持った国家だけになる。


 一通り塩作りの話を終えると、どうにか納得してくれたみたいだ。

 手間と時間、それに大量の燃料がいる。そんな国家は周辺を見渡すとトルニア王国だけだろう。


「中々におもしろそうじゃ。我等の王国からも何人かを派遣するのじゃな? その見返りとして彼らの給与と塩の1割も得られれば色々と使えそうじゃ」

「1割でよろしいのですか?」


「それで十分。シルバニア王国からの見返りとして産業をトルニア王国に起こすのじゃ。トルニア王国としては我等を大国として遇せねばなるまい。弱小国を大国とすることができれば安いもの。そもそも我等は一切の投資もせぬのだからのう……。1割でも上出来じゃと思うぞ」


 マリアンさんにそんな話をしているけど、もっとくれるんじゃないかな?

 とにかく、ハーデリアさんの返事待ちだ。明日はトルニア王宮で一騒動が起こりそうな感じだな。


 冬の最中だから、サディ達の趣味は中断しているのかと思ってたら、ますます磨きが掛かっているようだ。

 アルデス砦の冬景色を描くんだと、朝早くから出掛けて行ったが、風邪などひかないんだろうか?


 2階では2人の子供が乳母達と一緒に遊んでいるようだ。

 そこでパイプは使えないから広間に下りて一服を楽しんでいる。マリアンさんが入れてくれたマグカップのコーヒーも中々良い味だし、久しぶりに暖炉の傍でのんびりしよう。


 ほぼ一年ぶりだからな。シルバニア王国の内政はどうなったんだろう?

 暖炉の傍で編み物をしているマリアンさんに、状況を聞いてみた。


「そうですねぇ……。新硬貨の切り替えは思いのほか上手く運んだようですよ。フィーナとドワーフのリーダスさんが鋳つぶしていましたが、銀塊にしたら旧硬貨の価値が半分だと嘆いてましたが、それは銀山で相殺できたようです」


 他の王国はどうだったのだろうか? 国庫からの供出がかなり出たんじゃないかな? それは長い目でみて補填して貰おう。

 交易船で、そのまま使用できる位に含有率を高めることが目的なんだからね。


「用水工事は東の砦付近まで到達したようです。畑の灌漑にはもう少しですね。測量部隊も形のある物を作れたのが嬉しいのでしょう。両親をわざわざ呼び寄せて見せていましたよ」


 それだけ嬉しかったに違いない。両親も褒めてくれただろうな。


「問題は、屯田兵の作った作物です。ふわふわした感じは綿にそっくりですが、食べるところもありません。あれをどうするかを悩んでいるみたいですね」


 そう言えば、綿花を取り入れたと聞いたな。

 早速始めるか。道具は出来てるから、使い方を教えれば良いだろう。糸紡ぎは試行錯誤だが道具の形は覚えているからな。


「あれは綿花というんです。綿織物の原料になるんです。種があの中に入ってますから取り出すのが少し面倒ではあるんですが……」

「先ずは綿織物、その次は絹と言う事ですね。布も他国からもたらされる物です。高価ですから庶民には古着になっていますが、上手く行けば新しい服が買えるのですね」


 領民が新たな時代を自覚する1つの手段になるだろう。硬貨は変わったが暮らしはあまり変わらないからな。

 新しい服を着て、腹いっぱい食事ができ、酒が飲めれば少しは豊かな暮らしを実感できるかな?


 翌日は旧関所にある変人の巣窟を訪問する。

 ワインを2本土産に持ってきたから、連中の目の色が変わってるぞ。

 そんな連中に出した課題は揚水装置の製作だ。

 連中が描いた図面を見ると、風車式揚水機だな。風車で回った軸の回転方法を変えるのに苦労したようだ。揚水機自体は水車を利用したバケットに見える。これで汲み上げられるかは、現在制作中らしいから春先には分かるだろう。


「こんな方法もあるんだぞ」


 そう言って、用水路に直接水車を取り付けて水車の頂上付近で樋に落とす方法を教えてあげる。

 目を見開いて俺の描いた略図を見ているから、これも作られるんだろうな。

 今までに作ったのは水門と、貯水池のようだ。

 用水路の水量調整には是非とも必要な物だから、今のところは上手く機能しているな。


 今後の検討を期待して彼らの元を去る。

 雪が深いからあまり遠くに行けないのが問題だ。あの2人はどこまで絵を描きに出掛けたんだろう?

 絵を描くのは良いのだが、風邪をひかないかな? 絵にだって色々あるんだから、暖炉の傍でのんびり描くという選択肢を持っていても良いような気がするな。


 アルデス砦に戻って半月ほど過ぎた時、ハーデリアさんが2人の男を連れて俺を訪ねて来た。

 どことなく商人に思えるな。上品な服を着ているところを見ると、トルニア王国の御用商人辺りかもしれない。


「トルニア国王が、諸手を打ってシルバニア王国を讃えていたと聞きました。貴族達は半信半疑のようですが、ガルトネン殿がバンター殿の意見だと知って貴族の口を閉じさせたそうです。その場でこの両人にバンター殿の話をもっと聞いて来るようにとおっしゃったそうです」


「塩の作り方をキチンと聞いて来いと言う事でしょう。了解です。たぶん商人とお見受けしましたが、間違いは無いでしょうか?」

「トルニア王国の旧家で商いをしております。リドルスでございます。隣は番頭のカリオンです。高齢の学者と思っていたのですが、まさかシルバニアの王でしたとは驚きました」


 マリアンさんがコーヒーを運んでくれた。これも初めての飲みものなんだろうな。

 真っ黒な液体に少し身を引いていたが、俺が砂糖を入れるのを見て同じように口を付けている。

 

「コーヒーという飲み物です。苦いんですが砂糖を入れれば丁度良い。俺がお茶よりもこれを好みますので……」

「始めて頂きます。これは、飲み慣れると癖になるでしょうな……。これの入手もお願いしたいところです」


 少し口を付けては、カップの中のコーヒーを眺めている。


「クレーブルの港に行けば手に入れられますよ。原料は豆なんですが、コーヒーにするには少し手がいるんです。商人と一緒に誰かを遣わした方が良いでしょう。それで、塩についてなんですが……」


 海水を煮詰めれば塩ができる。たぶん漁村では小規模に行っているはずだ。

 だが、それはあくまで自分達で使う分以上に生産することはないだろう。


「その理由が分かりますか?」

「いや分かりません。それよりも、そんな事で塩が取れる事の方に驚いております」


「原因は煮詰める為の燃料の量なんです。あの暖炉に掛かっているポットに海水を詰めて煮詰めても、できる塩の量は手の平に少し乗る程度だからです」

「大鍋で煮詰めるとなれば、焚き木の量だけでも莫大な量になると言う事ですか!」


 相手の驚いた表情に向かってゆっくりと頷いた。

 さて、これでどう出てくるかな?


「ですが、我等に塩の作り方を教えると言った以上、その回避策を教えて頂けると思うのですが……」

「1つはすでにハーデリアさんに伝えてあります。植林をしなさいとね。ですが、植林では間に合わないほどの量が必要でしょう。それに、これから教える方法は面倒ですが、焚き木は使いません」


 自然に蒸発させるという方法を使う。

 天気が良くて気温が上がればそれなりに蒸発するし、海草を浸して吊り下げることで更に蒸発が進むことになる。

 

「こんな方法を何日か続ければ十分に海水の量を減らせます。半分位には直ぐになるでしょうね」

「目から鱗の話ですな。洗濯物と一緒と言う事ですか……。海水が減っても塩の量に変化はない。それだけ海水を煮詰めたことになるわけですから、焚き木の量を減らすことも可能です」


「さて、いつから始めます? 一応、シルバニアから人材を何人か出したいと思っていますが?」

「共同事業と言う事ですか?」


「利益の1割でどうでしょう?」

「それではトルニア王国の矜持が疑われます。半々でも多いくらいです」

「ですが、実行するのはトルニア王国。シルバニアはアイデアを出した位ですから……」


「それなら、生産量の2割とすれば良いでしょう。それでも莫大な利益を得ることができます。それに産業に従事させることができる大勢の民も潤う事ができるでしょう」


 さすがは商人だな。利益でなく生産量ならばそれ程懐が痛むことは無い。最初から無かったことにして利益を計算できる。

 シルバニアにとってもありがたい話だ。ウォーラムとカルメシアの取引に使う事ができる。


 2時間程の会見を終えて、トルニア王国の3人は笑顔で帰って行った。

 さて、誰を送り込むかだが……。あの変人集団から3人を送ることにするか。

 新たな取り組みなら、既存のしがらみにとらわれない発想を持った連中が丁度良い。少し知恵を付けておけば十分だろう。


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