表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/209

SA-181 次年度計画 -2


 絹織物を始めるには準備が必要だ。

 桑畑を隠ぺいするには、桑の実を使った産業を細々とでも良いから行う必要がある。北の村に最初に取り入れた苗はそれなりに育っているようだ。

 あれを使って、染物やジャムを作るのが良いかもしれない。実は漢方薬にもなると聞いたが、何に効くのかが分らないんだよな。その辺りも交易船で情報を仕入れてきてくれればありがたいんだが……。


「絹糸を作るのはかなり面倒です。これはネコ族の集落に託したいと考えています。だいぶ人口も増えたようですから、将来とも羊やヤギの放牧で住民を養うのは困難でしょう。ソバの生産で飢えることは無いとは思いますが、旧王都や町の暮らしと同じレベルにするのは難しいと思います」

「バンターは、シルバニア王国の民を同じように暮らさせたいと考えておるのか?」


 サディが顔を俺に向けて質問して来たので、頷く事で答えた。

 国民の貧富の差が大きいと不満が募ってしまう。ある程度は仕方がないが、年収の10倍以上の開きがあるのは問題だろうな。

 精々数倍以内に持って行きたいものだが、どうしても例外が出来てしまう。

 俺達王族は国庫の管理という観点から莫大な富を持つ事になるのだ。

 だけど、ある程度は区分けできると考えている。俺達の体面を維持するために必要な経費と俺達の暮らしに区分するなら、俺達の日々の暮らしの費用が国民と大きくかい離しない限り、不平不満が出て来る事も無いだろう。これは長官達の暮らしにも言える事だ。

 

「俺達の普段の暮らしに必要な金額が、国民の平均的な収入の3倍以内に押さえられれば良いでしょう。これにはシルバニア王国の国家体面の維持に必要な金額は含みません。別勘定にすれば比較が容易です」

「我等だけが良いものを着て、良いものを食べることに制約を加えると言うになろう。我は賛成じゃ。山賊時代の鍋料理をたまには皆で囲むのも良かろう」


 あれはあれで美味しかったな。サディの提案に、ザイラスさん達が頷いている。あの鍋の簡易版を村の宿で提供しても良さそうだ。『山賊鍋あります!』なんて看板を出したら名物になりそうだぞ。


「将来計画はシルバニアの領内だけではないはずだ。例の新たな交易路の探索も含めるべきではないか?」

「すでに始まっています。現在は5隻で運用しているようですが、中々便利に使えるとクレーブル国王が言っておりました。トーレスティとシルバニアもそろそろ船乗りと海軍兵士の育成を始めなければなりません。先ずは機動歩兵から1個小隊をクレーブルに派遣するつもりです」


「待て! それでは我等騎士達の出番はないと言う事か?」

「先ずは若者を育てましょう。10年後には彼らが船を操れます。そうなって初めて、俺達だけで出掛けられますからね」


 驚いて立ち上がったザイラスさんだったが、納得した表情で席に腰を下ろす。

 いくらなんでも幼児を置いて行こうなんて考えはもってのほかだと思うな。隣のジルさんも同じように俺を睨んでいたけど、今は穏やかな表情に変わっている。

 子育てを終えた後なら、少し無茶をしてもシルバニア王国は安泰だろうから、もう少しの辛抱だと思うんだけどね。


 シルバニア領内で行う絹作りとシルバニア領外で行う新たな交易路の探索。

 これを長期計画にして各部署ができる範囲での協力を行う事で打ち合わせが終わったけど、元々は俺の歓迎会じゃなかったのか?

 

 会議が終わったところで次々と料理が出て来る。

 かなり肉料理が多いけど、クレーブルで水揚げされた海産物も並んでいるから、ネコ族の連中が舌を出してぺろりと唇を舐めている。

 山に暮らす民だから、中々魚料理を味わうチャンスは無いんだろうな。


「海山の幸が味わえるのも、3王国の間が上手くいっている明かしであろうな」

「そうだ! ビルダーさん。これを手に入れたんですが……」


 サディの言葉に、平原の幸もあるんじゃないかと思い出したのは例のパラルだった。3枚でも何かの役には立つだろう。


「これは……。確か、西の王国よりさらに西にも通用する商人の証ですぞ! よくも手に出来ましたな」

「トーレスティやクレーブルにも渡して来たけど、俺達は山の民だからね。3枚もあれば十分だと思ってたんだけど、役に立つかな?」


 そんな俺の話をあきれた顔で聞いていたが、しっかりとパラルのメダルを受け取って眺めている。


「確かに、我等商人仲間でそれ程遠くまで足を延ばす行商人もおらぬでしょう。ですが、皆無という訳でもありませんから、そんな行商人に期間限定で貸与いたしましょう。向こうは何を望みますかな?」

「塩が欲しいと言ってたぞ。内陸では塩は取れないからね」


「ん? バンターのところは塩をどこで取るのだ? 塩は地下深くの鉱山から得られるのだぞ」


 鉱山で取るのか……。海の塩は取らないんだな。

 テーブルの塩の入った容器を見ると、確かに結晶が大きい。何かで砕いたものをこれに入れてるんだな。


「塩を作りますか? クレーブルというよりは、トルニア辺りなら丁度良さそうにも思えますが」

「塩でトルニアを懐柔するのか? それもおもしろそうじゃ。トルニアの産業は農産物とわずかな畜産だからのう。塩が得られるなら莫大な富を手に入れるであろう。共同経営なら我等の計画に新たな軍資金が入るであろうぞ」


 新たな産業が出来そうだと、皆がにこやかなのは酒が入っているせいもあるのだろう。

 その酒だが、うまく行けば蒸留酒を作りたいところだ。

 ただのワインならばトーレスティやクレーブルの方が良いものができるだろうからな。一工夫することで商品価値を上げることが出来るんじゃないかな。

 それを考えると、商業と農林業は忙しくなりそうだ。人材の育成も図っていかねばならないだろうな。


 翌日、午後に3王国の大使が広間に集まって来た。

 ヨーレム侵攻部隊との戦の概要を伝えると、皆が感心して聞いていた。

 一段落したところで、お茶を飲みながらトルニアの大使であるハーデリアさんに尋ねてみる。


「トルニア王国はどこから塩を入手しておられるのですか?」

「塩ですか? 2つの交易路を持っています。1つは東から運ばれてきますし、もう1つはクレーブルからもたらされる物ですわ。微妙に味が異なりますから料理人はそれを上手く使い分けて初めて一流と呼ばれると聞いております」


「似た話を聞いたことがありますぞ。クレーブルも交易で手に入れる岩塩はいくつかの産地があるようです。極上品は紫に透き通ると聞きましたな」


 そう言って言葉を繋いだのは、トーレスティの大使であるテノールさんだ。

 クレーブルのカリバンさんも頷いているところを見ると、そんな話が一般的なんだろう。


「トルニア王国には、依然良い軍馬を頂きました。その見返りがまだでしたね。塩ではいかがでしょうか?」


 俺の言葉にサディ以外の連中が俺の顔を厳しい表情で見つめている。


「まさか、シルバニアで塩の鉱脈が見つかったと!」

「それはありません。銀山だけですよ。塩は作る事で手に入れます。やり方を教えれば出来ると思っているのですが?」


「それを教えて頂けると!」

「良き隣人には、それなりの見返りも必要だと思っています。ですが、簡単ではありませんよ」


「我等には、ご教授願えないと?」

「別な計画に参加して頂けるのですから、ご辞退いただきたい。これも4つの王国の将来には必要だと思っています」


 このままではトルニア王国が仲間外れになってしまう。産業を1つ起こすことで、俺達の輸入品目が減り、富の一部がトルニアに流れるのだ。

 トルニア王国の生産物を俺達が消費するという流れが、戦を未然に防ぐことにも繋がる。


「なるほど、トルニア王国に産業を起こすことで、我等はその恩恵を受けられますな。トルニア王国としても消費国を無下には出来なくなると言う事ですか」

「値段を釣り上げると言う事はしませんわ。我がトルニアだけでも大きな恩恵を受けるでしょう。ですが、バンター殿の話では今までの取引量よりも遥かに多くの塩を手に入れられるように聞こえるのですが?」


「莫大な量です。ですが、少し問題もあるんです。植林をキチンとしませんと、たちまち王国自体が疲弊することになりますよ。その辺りの話は別途しましょう。トルニア王国より塩作りを監督できる人物を送ってください。その人物に詳細な話をしたいと思います」


 俺の言葉に、簡単なメモを書き留めて傍らの侍女に手渡した。

 直ぐに、侍女が俺達に頭を下げて広間を出ていく。

 騎士が東に向かうのだろう。夜通し雪の峠道を行くのだろうか? そんな騎士に少し同情してしまうな。


「しかしながら、見識の深さは王宮の博士を凌ぎますな。我が王国で始めた測量もだいぶ進んでおるようです。再来年には用水工事も始められそうですが、そこに大きな課題ができたとも聞いております」


 トーレスティの大使が話し始めた課題は、土地の落差をどう回避するかということだった。

 サイホンとポンプで何とかなりそうだな。

 その辺りは、あの変人集団が少しは答えを見つけてるんじゃないだろうか?

 明日にでも、出掛けて様子を見て来よう。

 役立たねば人材を入れ替えるのも視野の内だ。新たな国造りに役立つ連中でないならただの変人に過ぎないからね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ