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SA-179 戦役の終わり


 レイデム達が席を立って帰っていく。

 俺達はそれを座って見送るだけだった。やはり、俺達にヨーレムの危機に対して横槍を入れたことへの礼なんだろうな。

 武骨な連中だけど、敵意が無い事とこれからの商売を約して帰って行った。

 ある意味、一方通行な礼になりそうだが、塩の商売はうま味がありそうだな。

 

「土塁については何も言ってなかったが?」

「越えることは無いと思いますよ。カイラム王国をはじめ遊牧民の数は少ないんです。意外と厳しい生活を送ってる筈ですからね」


「それでも塩を買いたいというんだな。その見返りは何なんだろう?」

「それを見極められる商人にこのメダルを託したいですね。大商人でなくとも、利き目がしっかりした行商人が良いのかもしれません」


 カイラム王国の馬なら良い軍馬に出来るんじゃないかな? トルニア王国を経てもたらされる東方の馬と比べてみるのもおもしろそうだ。


「嬉しそうだな?」


 ザイラスさんがジト目で俺を見てるけど、連合王国軍とカイラム騎馬部隊の一戦が出来ないのが残念でたまらないと顔に出ている。


「戦を避けられましたからね。戦は最後の手段です。戦を前提に他国に交渉を迫るのは問題だと思いますよ」

「それで、俺達はどうなるんだ?」


 ウイルさんの言葉が全員の思いなんだろうな。


「少しずつ、軍を下げることにします。とは言っても、ある程度国境の守りに目途が立ってからで良いでしょう。春前には帰ることにしましょう」


 大軍を国境に置くのは相手に別の疑いを抱かせる可能性もある。

 当初の目的が達成されたなら早々に引き揚げるに越したことはないのだが、国境線の整備に時間が掛かるのも確かだ。

 早めに工事を進めて、トーレスティの軍隊に後を任せるのが一番だろうな。


 カルメシアの使者が置いて行った革袋の中身をテーブルの上に落としてみた。

 驚いたことに、予想していた金貨では無くて宝石だ。

 皆も驚いたように俺の手元を眺めている。


「俺達への礼と言っていたな」

「ヨーレムでは宝石が採掘されるそうです。その原石はカルメシア王国で加工されると聞きましたが、これは加工されていますから、正しくカイラム王国ヨリ、ヨーレム王国の危機を救った褒賞と言う事になるんでしょうね。帰りにクレーブル王宮に寄って分配をして貰いましょう」


「だいぶ上手に出ていたな。我等をなめていたようにも思えるのだが?」


 ウイルさんの言葉に部隊長達が頷いているから、皆もそう思ってたに違いない。とはいえ、あの場で何も言葉を出さなかったのだから、かなり自制したんだろう。


「良いじゃないですか。優劣はやってみないと分かりません。俺としてはカルメシア軍の東征が行われようとは思いませんし、もしそんな事態が生じたら、今作っている土塁で止める自信はありますよ。それに、褒美にしては過ぎた物を置いて行ったと言う事は、俺達をそれなりに評価してるんでしょうね」


 ウォーラム王国の真意はこれだったんだな。

 銀山よりも遥かに国が潤うだろう。だが、失敗した今後はどうなるのか……。

 ウォーラム本国は領土の2割をトーレスティに奪われ、3つの王都も大きな火災を起こしている。食料は遠征軍に使っているから来年の取入れまではひもじい思いをするだろうな。飢餓が訪れるんじゃないか?

 治安も悪くなるだろうし、取り締まるべき軍隊も遠征軍に組み入れてしまったようだ。その遠征軍も帰還できるのは半分を切るんじゃないか?

 国王の退位ぐらいでは済みそうにも無さそうだぞ。


「一か月は工事も良かろうが、それ以上では部下の不満が募ることになるぞ。バンターもそのつもりで、後始末を考える事だ」

 

 ザイラスさんの言葉に皆が頷いている。

 俺達は工事人夫じゃない! って事なんだろうが、せっかく数が揃ってるんだ。もう少し頑張ってほしいな。


 皆が指揮所を出て行った後で、1人クレーブル国王に手紙をしたためる。

 それを従兵に2通清書して貰い、3王国へ状況を報告する。

 一応の決着を見た以上、いつまでもこの地にいるの問題があるし、俺にだってやることは色々とあるからな。


 1か月を過ぎたところで、少しずつ部隊を解散させることにした。

 トーレスティ軍からやって来た、レクサスさんとサフィーさん達が最後まで残ってくれるそうだ。あまり残っていると、そのまま砦の指揮官に任命されそうな気もしないではないが、それはトーレスティ王国の話で俺がとやかく言う話ではない。


 第1陣が部隊を引き上げる前夜にささやかな酒宴を開く。

 どうにか俺達の王国に類が及ばなかったことに、アルデンヌ山脈の神々に礼を言って杯を干した。


「結果的には我等の領土が少し増えたと言う事ですか?」

「それもありますし、カルメシア王国を経てさらに西への商売の足掛かりができたと言う事にもなるでしょう。最後に一番大事な事ですが、ウォーラム王国の他国への侵略は当分は考えられないと言う事です」

「いよいよ交易船を出すことになるのか? ジルと相談せねばならんな」


 ザイラスさんの言葉に皆が詰め寄っているぞ。行きたいのは分かるけど、ザイラスさんのところもおめでたじゃなかったのか? 俺のところは男子だったけど、ザイラスさんのところはまだ聞いてないんだよな。


「海ともなれば馬よりは私達歩兵の領分でしょう。ザイラス殿はシルバニアの守りの要ですから……」

「他国にほいほい出掛ける守りの要等いるものか。バンター、俺達夫婦は参加するぞ」


 頷くのは止めておこう。にこにこと笑顔を振りまいて誤魔化しておく。帰ったところでサディやマリアンさん達に説得して貰えば良い。

 それに、俺達だって行きたいんだからな。

 だけどその前に、いくつかの条件があるのもサディとの話し合いで分っている。

 ザイラスさん達も、直ぐに出掛けるんじゃなくてシルバニアでの役割をキチンと終えてからにしてほしいな。


「我等は商船を使ってウォーラム王国と同じ事をしようとしているわけではないでしょうね?」

「全く違うと思ってます。ウォーラム王国は武力を持って自分達の勢力圏を拡大しようとしてましたが、俺達は互いの国が算出するものを交換する事を考えています。相手が売り渋る物を無理に買う事はできません。護衛船に兵士は乗せますが、相手国を威嚇するわけでは無く、海賊に対する備えです」


 レクサスさんの答えになったかどうか。だが、交易のやり方によっては経済的な属国を作る事もできるんだよな。

 戦をせずに他国を経済力で侵略することも出来るのだが、レクサスさんの問いはそこまで考えたものではないだろう。


 翌日。騎馬隊が屯所を去って行った。

 俺達は、屯所を整理して3日後に東に向かうつもりだ。サンドラさん達が荷馬車の荷づくりを頑張っているけど、残して邪魔にならないものは残して置くことでクレーブルの機動歩兵との調整もできている。


「寂しくなりましたな。ところで、この望遠鏡は残して行ってもよろしいのですか?」

「作るのが少し面倒ですけど、監視には役立ちますよ。国境線が長いですから、数個では不足でしょう。シルバニアに戻って送ることにします」


 砦の指揮官が指揮所に訪れた時に望遠鏡を渡したのだが、予想以上に気に入ってくれたようだ。

 望遠鏡と光通信器が俺達の軍の特徴だからな。

 危機を素早く知って、迅速に部隊を集結させる。それが出来れば大規模な軍を維持する必要はない。

 そんな人材がいるなら、王国の開発に力を注ぎたいのも各国の思いだと思う。


 ようやく、引き払う準備が終わった翌日に、俺達は屯所を後にした。

 国境の土塁工事を一時中断して俺達の出発を大勢の兵士や農民が見送ってくれる。屯所付近で見送る姿が見えなくなるまで、俺達も手を振り続けた。


「サンドラさん。クレーブル王都に向かってくれ。最終報告をしてから帰ることになる」

「了解です。王都もしばらくぶりですから、皆も喜ぶでしょう」


 ある意味、ちょっとした休養と土産を漁ることになるのかな?

 そうだとしたら、懐が寂しい者だっているに違いない。サンドラさんに金貨を渡して、全員に銀貨2枚を渡すように指示しておいた。

 

 前の戦役で俺達が作った屯所に差し掛かると、大勢の農夫が荒地を開墾しているのが遠目に見えた。

 ちゃんと役立っているようだな。大きな井戸を作ったからちょっとした村に発展するのもそれ程時間が掛からないんじゃないかな。

 軍事基地として作った物が、きちんと民生用に使われているのを見るとうれしくなる。

 これで、トーレスティの穀物生産量が更に増えるのだろう。シルバニアへ安く供給して貰えるかもしれないな。


 もうすぐ新しい年が始まる。

 何とか新年前にシルバニアに戻りたいものだ。


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