表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/209

SA-176 カルメシア王国の介入


 ヨーレム侵攻部隊の後方を騎馬隊が攻撃し、輜重部隊を機動歩兵が攻撃する日々が続いている。

 すでに秋は終わりを迎えようとしているが、サディ達の様子も気になるな。生まれたら知らせてくれるとは思うんだけどね。


 ラディさんが長い調査を終えて帰って来た。

 鎖国政策の王国を調べるんだから手間も掛かったろうし、リブラム王国の様子も気になるところだ。


「ご苦労さまでした。何とか分かりましたか?」

「ご期待に沿えるかどうか……」


 ラディさんの話によると、ヨーレムはのんびりした農業国に変わりは無いらしい。人口は15万程度らしいからクレーブルの半分、俺達シルバニアと同程度というところだ。

 主な産業は農作物らしいが、その販路は西のカルメシアになるそうだ。

 カルメシアの大商人1人だけを指定して全ての販売を任せているらしい。

 

「凄いな。かなりやり手って事なんだろうけど、それだと財政を握られてるように思えるな」

「カルメシアとのつながりは深そうですね。とはいえ、王族の婚姻は無いそうです。かなり昔に戦に敗れて逃げて来た王族達が作った王国ではないでしょうか?」


 それなら、俺達との接点を持つよりはかつての仲間達と接点を持ちたがるだろうな。

 当時はトーレスティやクレーブルはまだ統一もされてなかったんじゃないか?

 蛮族みたいに見えたかもしれないな。

 それなら、国境に土塁を作って鎖国をする意味も理解出来る。

 

 行商人達は東の情報を伝えてくれる上で、通行制限を免除して貰ったに違いない。


「ヨーレムの産業がもう一つあるそうです。どうやら、宝石らしいですよ」

「やはりね。鉱山を持ってるとは思ってたけど、宝石とは凄いな」


「カルメシアで加工するそうです。そうなると……」

「ヨーレムの滅亡はカルメシアの産業を潰すことになる。それもかなりうま味のある産業をね。動いたのか?」

「国境に集結しつつあるそうです」


 ラディさんがテーブルの上の地図を指差した場所はヨーレム侵攻部隊の西側面だ。

 となると、俺達は東の側面を攻撃すれば良いだろう。下手に背後を攻撃すればカルメシアの騎馬隊に蹂躙されそうだ。


「リブラム王国は圧政に喘いでますよ。これはウォーラム王国内全てになるのでしょうが、2つの大火事に王都がみまわれましたからねえ。貴族の一部は元のウォーラム王都に戻るものもいるようです」

「そうなると、俺達も春前には帰れそうです。カルメシアの砦がこの辺りに作られるでしょう。ヨーレムはこれからも鎖国政策を続けられます」


 旧神皇国政庁とヨーレムの間に駒を1つ置いた。

 ヨーレムの領土が北に数十km増えることになるが、荒地だから誰も入植はしないだろう。

 たまにカルメシアの騎馬隊が訓練を行うくらいじゃないか? 大きな訓練場になるか、それとも牧草を作るかはカルメシアの好き勝手になりそうだ。

 ヨーレムも俺達も、もうちょっとというところだな。


「それで、トーレスティの切り取りは上手く行ったのかな?」

「誰も邪魔する者がおりませんから、柵を土塁に替えていました。我等の方も尾根を全て頂くことで現場の調整が出来ております」

 

 思わず笑い顔になってしまった。

 シルバニア王国の東西2つの尾根を手中に収めれば、王国の守りは固い物となる。これからはのんびりと国造りが出来そうだぞ。

 

 翌日、部隊長達が指揮所に揃ったところで、作戦変更を伝える。

 カルメシア騎馬隊が西からやって来るとなると、今までのようなのんびりした戦は出来なくなるからね。


「ヨーレム侵攻部隊に対して東側面のみを攻撃します。攻撃は騎馬隊のみ。機動歩兵は国境警備を厳重にしてください。西からカルメシア騎馬隊の攻撃が予想されます。ラディさんの話では極めて濃厚だそうです」

「我等も騎馬隊。カルメシア騎馬隊と対峙しても後れを取るとは思えぬが?」


「数だけでも3個大隊を超えるでしょう。それに幼少のころから馬と共に暮らして来た騎馬民族に勝とうとするのは論外です。彼等に勝つ方法はただ一つ。馬から下せば良いんですが……」

「神皇国の西の国境がやたら堅固だと聞いてはいたが、そういうことか。深い空堀と高い土塁は馬では越えられんな」


 驚いたり、納得したりところころ表情が変わってるぞ。

 それでも、俺の意図に少し気が付いたようだ。


「国境を馬では越えられぬようにすれば良いのですな? 浅い空堀でも馬では足を取られるでしょう。柵も補強すれば良い。確かに我等機動歩兵の仕事です」


 クレーブル軽装歩兵2個中隊を率いるレビットさんが頷きながら呟いた。

 フィーナさんやサンドラさんもレビットさんに顔を向けて頷いている。


「そうなると、騎馬隊の出撃場所を限定せねばなるまい。街道傍の砦が一番だが、少し遠くなるぞ」

「確かにそうなります。デリム村の南に作る事になるでしょう。こんな形の門を作ってからでないと出撃は許可できません」


 テーブルの上に広げた門の構造は意外と単純だ。

 土塁を崩して空堀を埋める。横幅9m長さ30mの阻止する物が何も無い区域を作れば、俺達の騎馬隊は易々と出撃し還ることが可能だ。

 だが、普段は山賊時代に使った三角柱を横に置いたような阻止具で道を閉ざして置く。4段に並べれば十分に騎馬隊を止めることができるだろう。

 さらに、土塁を崩した周辺は板で補強して矢狭間を作りクロスボウを並べる。

 2個小隊を守りに着ければ大隊ですら通ることができないんじゃないか?


「山賊時代のやり方だな。俺達で何とか作れるだろうが、守備隊は?」

「私の部隊を出します。全てクロスボウですから十分でしょう」

「私の部隊も出しますぞ! 短弓ですが、槍も使えます。正面は我等が守れば良いでしょう。デリム村の民兵と協力すればヨーレム国境からデリム村の北までは首尾範囲に出来るでしょう。デリム村の北から砦までをサンドラ殿に任せれば、砦の北はフィーネ殿の所要になります」


 薄い陣だが、それで十分だろう。砦の1個大隊も2個中隊を出して貰おうか。それならフィーネさんの部隊もサンドラさんの部隊に会わせることが可能だ。

 ウイルさんに砦の部隊長と交渉して貰おう。

 それで、トーレスティの西の守りは十分となりそうだ。


「ザイラス殿、山賊時代の阻止具とやらを教えてほしいのですが?」

「ウイル殿は知らなかったな。明日にでも1つ一緒に作れば直ぐに分かるはずだ。簡単で持ち運びも容易だが、荷馬車や馬を止めるには十分だったぞ」


 翌日から、各部隊が柵の補強を始める。

 サンドラさん達は、朝早くに材料を荷車に積み込んでデリル村へと向かったようだ。

 また指揮所が寂しくなりそうだな。

 とはいえ、東西から攻撃する騎馬隊は5個師団近い数になる。

 2個中隊程に減った騎馬隊など直ぐに壊滅してしまいそうだ。残った軽装歩兵達では騎馬隊に太刀打ちできないだろう。

 

 騎馬隊の隊長だけが指揮所に残っている。

 昼間からワインを飲んでいるのは、すでに注意するのもバカらしくなってきた。

 戦の結果が見えて来たから、それでも良いのだろうが、俺にまで勧めるのはどうかと思うな。


「俺達の出撃は、門を整備してからと言う事か?」

「ええ、安全策と考えてください。カルメシア騎馬隊を侮ってはなりません」


 ジンギスカンの例もあるしね。荒野で戦ったら全く歯が立たないんじゃないかな。俺達も故事にならって阻止することを前提にしよう。

 柵と空堀、それに土塁の複合体で馬を止めれば、俺達にも勝ち目はあると思う。


「だが、バンターはそこまでカルメシア騎馬隊を恐れる理由は何なのだ?」

「機動力と短弓の腕ですね。俺の住んでいた地方で一番大きな王国を作ったのは、騎馬民族でした。周囲の王国を次々に落として行ったんです」


 カルメシアが必ずしもジンギスカンのような統率力を持った国王では無いんだろうけど、騎馬を使った戦のやり方は同じだろう。

 

「俺達の比ではないと言う事か?」

「育ちからして違いますからね。暮らしそのものが戦に有効に作用するんです」


 どう教えようと理解できないんじゃないかな。

 文化すら異なるんじゃないか? 暮らしを通してつちかう技量は、訓練を超えるだろう。


 絶対に、カルメシア騎馬隊と事を構えるなと改めて指示したところで、ザイラスさん達は南のデリム村へと向かっていった。

 機動歩兵達は改めて空堀を深くし、土塁の高さを増す作業を継続中だ。

 明日にはザイラスさん達の攻撃が始まるに違いない。

 

 翌日の昼過ぎに、ザイラスさん達の出陣を告げる知らせが届いた。

 東からの攻撃を続けて行けば良い。少なくともヨーレム侵攻部隊は南と東の2方向に対して部隊を展開しなければならないだろう。

 サンドラさん達の行っていた輜重部隊襲撃は途中で中断してしまったが、ザイラスさん達の政庁攻撃で、補給物資にも余裕が無くなったはずだ。

 北のリブラムとウォーラム王都への攻撃で、旧神皇国へ派遣する部隊も防衛と治安維持で派遣は困難になったに違いない。

 

 騎馬隊による側面攻撃を初めて4日目の事だ。

 夕刻に慌てて通信兵が飛び込んで来た。


「大変です。ヨーレム侵攻部隊の西をカルメシア王国軍が攻撃しているとの事です!」

「慌てなくても良いよ。想定の範囲内だ。むしろ遅かったと思うくらいだからね。それで、規模については連絡が無かったのかい?」

「およそ2個大隊との事です」


 予想よりも少ないな。二手に分けたんだろうか? となれば、その矛先は旧神皇国の政庁と言う事になるんだが……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ