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SA-175 中央突破を阻止するために

 薄明が始まろうとする頃に、レクサスさんの騎馬隊が帰還した。

 土埃に汚れた顔で指揮所に現れたところを見ると、かなり長距離を駆けて来たんだろう。


「ヨーレムへの侵攻部隊は、それほど東西に部隊を伸ばしていません。精々20M(4km)程です。少し西に向けて移動してみましたが別働隊もおりませんでした」

「20Mに6個大隊以上を配置して攻撃してるのですか?」


「そうなりますね。ヨーレムの火炎攻撃は熾烈ですが、あまり飛距離は無さそうです。火炎弾の魔法と同じぐらいではないでしょうか?」


 従兵が運んできたお茶を美味そうにがぶ飲みしている。俺に出されたお茶もレクサスさんに差し出した。

 俺に頭を下げて受け取ったけど、よほど喉が乾いてたんだろうな。


「追って来た者は?」

「精々1M(200m)程です。騎馬隊を追うようなことはせんでしょう。敵の騎馬隊は見かけませんでしたよ」


 ザイラスさん達に備えて後ろの正面に移動しているのだろうか?

 騎馬隊の数では俺達が圧倒的だからどうにでもなりそうだ。早めに潰しとけば後がやりやすいだろう。


「明後日の夜に仕掛けます。十分に休んでください」

 俺の言葉に騎士の礼を取ると足早に指揮所を出て行った。


 部隊数では圧倒的だが、ヨーレムの守りは堅いと言う事になる。

 同じ武装ではいくら塀を高くしても乗り越えてくる兵士が出てきそうだが、ギリシア火薬を使われては形勢が悪そうだな。


 ウォーラムの次の手は無いんだろうか? 

 待てよ……。ウォーラム軍は短期間に兵力を増強している。普通だったら数年の期間を掛けて兵士を鍛えるはずだが、そんな時間はあまりなかったはずだ。

 そんな連中を使って侵攻を謀るとしたら、ギリシア火薬を使い切らせるつもりなのかもしれない。

 ひたすら防壁に押し寄せるだけの部隊という事か?

 リブラム王国の投降兵を使っているのもそれが理由なんだろう。

 空堀を兵士の死体で埋めてその上を渡るぐらいはやりそうだ。それなら攻撃範囲を限定することが有利に運ぶだろうな。

 全く、とんでもない連中だ。

 

 ならば、ザイラスさんの部隊を使って、旧リブラム王都で安穏に戦の結果を待つ連中に戦の恐ろしさを教える必要もありそうだ。

 たっぷり火薬を作って、旧リブラム王都とウォーラム王都、それに政庁に撃ち込んでやるか。


 メモを書いて従兵に渡す。まだ遠距離通信ができるだろう。

 ミクトす村のラドネンさんを呼び寄せてたっぷりと爆弾を作らないとな。


 翌日、俺が起きたのは昼をとうに過ぎた時刻だった。

 軽く食事を取りながら、指揮所の面々を眺める。

 まだ姿を現さないのは駄場で奇襲に出掛けたフィーネさんだけだな。ちょっと心配になってきたけど、今夜までには戻るだろう。

 食事を終えたところで、俺の懸念を皆に話した。


「何だと! 徴兵した農民達を使ってあの火を使い切らせる腹だというのか?」

「ウォーラム軍の分厚い陣を見ればそうなります。一度こちらにやってきましたが、それ以来トーレスティ側の国境線に向かってきませんし、昨夜の夜襲でもレクサスさん達がヨーレム側からの火炎攻撃を目撃しています。いくら優秀な兵器でもいずれは使い切る事になるでしょう。それからが本格的な侵攻だとウォーラム側は考えているはずです」


「騎士の風上にも置けん連中だ」

 吐き捨てるようにウイルさんが呟いている。

「そんな連中を、いつまでもここで見ているのか?」


 ザイラスさんもかなり怒ってるんだろうな。


「ラドネンさんを呼ぶことにしました。爆弾を50個作ります。ヨーレム侵攻部隊の背後に20個、政庁と2つの王都に10個ずつ撃ち込みましょう。それでどう動くかです」

「場合によっては更に撃ち込むってことか? 離れた場所で酒を飲みながら結果を待ってる連中には丁度良い土産かもしれんな」


 ザイラスさんが同意してくれたところで、当座の攻撃をどうするかについて地図を前に説明する。

 明日から攻撃は昼と夜の2回行う事にする。昼は背後を狙って、夜は側面を狙う。

 政庁への攻撃も継続する。爆弾が明日の夜で使い切るから、それからは火矢を使えば良い。


「ヨーレム侵攻部隊は背後に部隊を回さねばならないし、政庁の駐留部隊も侵攻部隊に補充兵を送れなくするんだな?」

 いつの間にかワインを飲み始めたザイラスさんが呟いた。


「そんなところです。ラドネンさんが来ればもう少し作戦を考えねばなりませんが、俺達が現在可能な作戦はそんなところでしょう」

「今日はのんびりできそうだが明日からはそうもいかんか……」


 何もしないと文句が出るんだけどね。

 皆が納得してるところを見ると、明日の襲撃を楽しみにしてるのかも知れないな。

 従兵が、たっぷりと矢を積んだ荷馬車が到着したことを教えてくれたから、矢を惜しむなという事も無くなった。


 世間話をしながら、指揮所でワインを飲んでいると、フィーネさんが夕暮れ間際に指揮所に顔を出した。


「遅くなりました。ウォーラムの輜重部隊を襲撃して荷馬車を3台運んできました」

 荷馬車3台を聞いて騎馬隊の部隊長達が感心しているようだ。

 サンドラさんは、自分達の部隊の目標を4台にしたんだろうか? 対抗心に目が燃えているようだ。


「ご苦労様でした。となると、補充兵はいなかったようですね」

「老人達ばかりでしたわ。矢を射かけると転びながら逃げ出して行きました」


「どういう事だ?」

「ウォーラム王国の国情ですよ。兵のなり手さえ枯渇しているんです。そこまでして、ヨーレムを手に入れたいんでしょうか? あの不思議な火炎攻撃を行う兵器だけではヨーレムにこだわる理由にはなりません」


「他にも何かあると睨んでるんだな?」

 ウイルさんの問いに頷くことで答える。


 それが何か分かれば良いのだが、今のところはラディさん任せだからな。

 20日もすれば少しは分るかも知れないが、俺達にも関係するものだとしたら、少し厄介なことになりそうだ。


 翌日。朝早くに騎馬隊の連中が屯所を出発していった。

 夜間攻撃の前に、少し脅かしてやると言っていたが、2個大隊の攻撃では脅かしとしては大げさだな。2千本以上の矢を降らせて帰って来るに違いない。

 相手は小隊規模の負傷者を出すんじゃないか?


 サンドラ達も襲撃の準備を朝から始めている。地図で襲撃地点を大まかに教えてくれたので、夜間に出発するザイラスさん達に教えておくことになるだろう。

 50kmは離れているから、同士撃ちをする事は無いだろうが念の為だ。


 現在の状況と今後の見通しを簡単にまとめたメモを3通作って従者に、砦から伝令を出して貰う事にした。サディ達だって俺達の様子が気になっているだろう。光通信で2行程の文章は送っているのだが、やはりもっと詳しく知りたいに違いない。

 

 そんな事を終えたところでパイプを片手に地図を眺める。

 地形もあまり書かれていないから、ヨーレムがどんな王国だかまるでわからないが、岩場の海岸が続いていると聞いたことがある。

 となると、ウォーラム王国の真の狙いは、やはり鉱山と言う事になるんだろうな……。


 機動歩兵達が1個小隊程度の駄場部隊で輜重部隊を襲い、連日のようにヨーレム侵攻部隊と政庁に攻撃を行っている。

 すでに侵攻部隊は5個大隊以下に数を減らしているようだが、依然として国境の土塁を乗り越えようと攻撃を加えているようだ。


 そんなある日、ラドネンさんが荷馬車2台を引いて屯所にやって来た。

 急いで火薬の材料を計量してラドネンさんに引き渡すと、残った材料を適当にタルに詰め込んで荷馬車に積み込んだ。どこかで転がして火を点けたいところだが、坂なんてないからな。峠の守りにでも使おうかな。


 翌日、60個の爆弾が届けられた。10個多いから、これは俺が貰っておこう。後でラディさんに渡せば良いだろう。


「これを使うのは考えものだが、バンター殿が使うというならそれなりの訳があるんだろう。あのタルはウォーラムとの峠にある守備隊に渡すんじゃな? 威力は無いだろうが、火炎が広がることは確かじゃろうて」

「わざわざ来ていただいて済みませんでした。女王陛下によろしくお伝えください」


 俺の言葉に頷いて、ラドネンさんは東に去って行った。

 さて、これからが見ものだぞ。

 夜間襲撃に出ようとした騎馬隊の部隊長を集めて、爆弾を配布する。

 ウイルさんに20個、ザイラスさんに30個だ。


「3つの王都に10個ずつ撃ち込んでくるのだな? ついでに火矢も撃ち込んでこよう」

「俺は、これを敵の後方に撃てば良いのだな。5個ずつ4夜で良いだろう。使い方はまだ覚えている」


「それではお願いします。たぶん爆弾はしばらく使わないでしょう。少ないですが有効に使ってください」


 頷いて指揮所を出て行ったが、この結果がどうなるかだな。

 今までと一緒という事は無いだろうが、厭戦気分が高まるとも思えない。


 爆弾を使った夜間攻撃が4夜続き、5日目にはザイラスさんも王都攻撃から帰って来た。

 皆が集まって、状況報告が始まる。


「先ずはヨーレムの侵攻部隊への攻撃からだ。部隊の後方から2回、東西から1回ずつ攻撃したぞ。かなり動揺していたようだな。だが、依然として攻撃は続いている」


「俺の方は、政庁に10個、ウォーラム王都に5個、リブラム王都に15個をはなって来た。その後の火矢の攻撃と併せればかなりの被害を出した筈だ。特に、リブラム王都は大規模な火災になったようだな」


 これでウォーラム王国の冬越しはかなり難しくなったぞ。

 後は、ヨーレム侵攻部隊の疲弊がどれぐらいかを測れば良い。2個大隊の騎馬隊で側面攻撃をすれば分るだろう。これは明日作戦になりそうだな。



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