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SA-017 敵兵力が枯渇したのか?


 数日が過ぎて、2組の農民の家族を保護する。

 重税はかなりのものらしい。貧しい農民は冬越しが出来ないから、征服した王国側に逃げているようだ。この王国からの街道は西に2つ、東と南に1つずつあるのだが、西の街道は1個大隊で封鎖しているらしい。

 南の街道は石橋を渡れば隣国なのだが、隣国側と王国側で橋を両端で睨み合っているとのことだ。

 俺達のせいで街道警備がかなりいい加減になって来たから、東への脱出が彼等の希望らしいが、隣国に行っても農奴に近い労働が待っていると話していたな。

 それでも、飢える事はありませんと話してくれた。

 俺達の素性を伝えると、喜んで廃村に向かって行ったから、来年は色んな作物が採れるんじゃないか。


「冬の方が街道が賑やかに思えますな」

「それだけ、圧政を敷いてるのだろうと思います。俺達も次の段階に早めに移らねばなりませんね」


 自分の何気ない一言に俺が応じたので、ザイラスさんが思わず俺の顔を眺めている。

 その言葉に王女様も興味を持ったようだ。


「次の段階じゃと? そう言えば、山賊から始めようとは言っていたな。次の段階となると……、義賊じゃな。ちょっとランクが上がるという事じゃ」


 嬉しそうにマリアンさんと頷き合っているぞ。

 義賊に反応したテーブルの連中が俺の次の言葉を待っているようだ。


「国を興すには山賊からとは言いましたが、山賊が国を作ったなどという事は古来なかったことです。つまり、山賊としての集団から次の集団に俺達が変わる必要があるって事になります……」


 次の襲撃がいつ始まるか分からないから、ここでは簡単に説明しておく。

 山賊から義賊に、義賊から私兵団に、私兵団から自称王国軍に名前を変えていく。

 それによって、俺達の作戦目的が変化するだろうし、何より戦力が大きく変わる。


「次の襲撃結果で、俺達のクラスが変わるのであれば頑張らねばなりませんね。西は任せてください」

 トーレルさんの言葉に皆が頷いている。士気が低下しないのが、この人達の最大の利点だよな。

 

 扉が開いて、まるで狼のような恰好をしたラディさんが入って来た。

「来たぞ。昼過ぎには予定の場所にやって来るはずだ。だが、率いているのは1個中隊だぞ。囚人の数は1個小隊を超えている」

 そう言って、席に座るとお姉さんの渡したカップのお茶を美味しそうに飲んでいる。


 なるほど……、そういう事になってるんだな。

 俺がニヤリと笑うのを、テーブルの連中は見逃さなかった。


「少し予定と違うようだが?」

「俺にだって、計算違いはしますよ。要するに、この街道の警備を任された大隊は、戦力の枯渇状態に入ってしまったんです。俺達が倒した敵の数はどれぐらいです? 少しは東からの増援があったかも知れませんが……」


「そういう事か。この街道は母国へ続く街道じゃ。山賊対策で麓の砦における兵力は精々1個大隊。それでも多いくらいじゃな。すでに2個中隊以上を我らは葬っておる。となれば、確かに街道の工事に派遣できる兵力は1個中隊というところじゃろう」

「連れて来る囚人も、捕えている者達で動けるものを全部という事ですか……」

 

 おそらくと呟きながら頷いた。

 パイプに火を点けて皆の顔色をうかがう。


「そうなると、囚人開放よりも麓の砦を攻略すべきと考えますが?」

 ザイラスさんが王女様に訴える。他の騎士達もそれに追従しているようだ。

 だが、王女様は首を縦に振らずに、横に振ったぞ。


「バンターの計画では、時期尚早という事になるのじゃろう。我も昔であればザイラスに直ぐにでも廃村を迂回して砦攻略を命じたところじゃ。だがのう……。囚人を今解放せねば工事の終了と同時に首を刎ねられるぞ。バンターの計画には戦力がいくらあっても足りぬ。僅かな功を焦ってはなるまい」


 隣で、マリアンさんが「王女様立派です!」と絶賛している。

 少しは先を見ることができるようになってきたな。ありがたい話だ。


「確かに! ザイラス感じ入りました。囚人と言えども元は我らが同胞。1個小隊が編成できればバンターの奇策で1個中隊にもなりましょう。砦攻略はいつでもできます」

「そうなりますと、崖の上に旗印が欲しいですね。あの旗を掲げて頂けると囚人の励みになるでしょう」


 王女の亡き骸を包む予定だったらしいが、今では現存する唯一の国旗だろう。

 トーレルさんの提案に、今度は王女様が力強く頷いている。


 少し早めに昼食を取り、お茶を水筒に入れた俺達は予定より少し早めに砦を出発した。

 崖の上で焚き火を作って暖を取り、敵軍が迫るのを待つ。


 烽火台から敵接近の情報がアジトを経由してもたらせる事を、トーレルさんが驚いてたな。

 崖をハシゴで降りると、騎士達が槍車の部材を抱えて俺達の待ち伏せ地点に足早に向く。

 500m程西側が俺達の隠れ場所だ。森の中に潜んで街道の左右に見張りを配置すれば準備は完了する。

 まだ初冬だから、街道には雪も積もっていない。俺達の足跡は踏み固められた土の上にはほとんど残っていないだろう。


 左手の見張りが先遣隊が来たことを教えてくれた。ヨロイ姿の騎兵だが、あれでは石弓でいちころなんだよな。

 馬を早駆け気味に走らせて、崖崩れの現場の状況を確認に行くみたいだな。あれだけ馬を掛けさせて周囲の状況が見えるのだろうかと、こっちが心配になってくるほどだ。

 

 やがて、右手の見張りが先遣隊の帰還を知らせてきた。

 俺の前を通ってから10分も経っていないぞ。何を見てきたのか、俺の方が知りたくなってきたな。


 しばらくすると、左手の見張りが部隊の接近を教えてくれた。

 ラディさんの言った通り、前に2個小隊だが囚人の後ろは3個小隊だ。重装歩兵が1個小隊おまけに付いている。

 まあ、彼等のヨロイにも石弓のボルトは有効だったから槍車で突撃を阻止すれば良いカモには違いない。


「馬車が一緒じゃ。街道を守る役目を負った貴族が一緒なのじゃろうな」

「重装歩兵は貴族のお守りでしょうが、石弓で射抜けぬ相手ではありません」


 俺の言葉に王女様がニヤリと笑みを浮かべてる。ボルトケースの定数は15本なんだがそれ以上入れてるぞ。はちきれるほどだ。すでに1本はセットされているし、手元に1本持ってくるくる回して遊んでいる。

 それにしても囚人の足取りは重いな。よろよろしながら歩いている姿見ると、直ぐにでも周りの兵隊を攻撃したくなる。


右手の見張りが、街道の次の曲がり角を敵兵が過ぎて行った事を伝えてくれた。

 王女様が藪から立ち上がって、右手を街道に振り下ろす。

 俺達はゆっくりと街道に向かって足を進める。時間はたっぷりある。

 街道で槍車を組み立てて、トーレルさんの第1分隊がそれを押すようだ。その後ろに2本の槍を持った1分隊が並ぶ。長い槍は前列に渡して、短い槍を使うようだが、どう見ても投槍なんだよな。

 弓を持つ魔導士が右手に立ち、王女様達は横一列で石弓を持つ。その前に俺とトーレルさんが並んでいるんだけど、この場合は戦闘が始まればトーレルさんの後ろに移動した方が良さそうだな。手助けは出来ないだろうし、足手まといにはなりたくない。

 魔導士の後ろに槍を持った騎士が2人後方を警戒してくれる。


「さて、準備完了です。バンター殿の剣にも期待してますよ。王女様を頼みます」

「前回の醜態は晒したくないですね。頑張ってみます」


 そんな俺の肩をポンポンと叩いてくれる。少し緊張してたのかな?

「あれは騎士達には評判ですが、悪いうわさではありません。騎士ではないが騎士の素質が最初から備わっているとね」

 そんな事を俺に言って、部下のところに向かって何やら打ち合わせをしている。

 まあ、醜態だったことは確かだ。王女様の合図で身体強化の魔法を各自自分に掛ける。これは他人に対して用いることができないらしい。

 魔法の種類は一度教えて貰ったけど、種類が多すぎて俺には理解しきれないな。今度きちんとメモを取っておこう。

 

 火の点いていないパイプを咥えて時間を潰していると、右手の見張りが街道を駆け下りてきた。どうやら偵察に行っていたらしい。


「始まりました。崖崩れの当たりで盛んに火炎弾が炸裂しています!」

「さて、同胞の開放じゃ! 早く行かぬと我らの相手が残っていないかも知れぬ。行くぞ!!」

「「「オオォォォ!!」」


 街道に雄叫びがこだまするけど、向こうだって戦闘の最中だからな。後方からも襲撃部隊が来るとは思っても見ないだろう。

 ガラガラと槍車を押して俺達は街道を東に走っていく。

 街道の角を2つ曲がると俺にも戦闘の様子が見えてきたぞ。

 まだ崖の上から火炎弾が落されているようだ。ラディさんの部隊に火炎弾が使える者を増やしたのかな?


 そんな事を考える間もなく、槍車が敵の後方にぶつかって素早く後方に下がる。 

 一旦下がって勢いを付けるためだが、そのわずかな隙を突いて、後方から魔導士の火炎弾が数個まとめて飛んで行って敵兵の中で炸裂した。


「ウオオォォ!」

 叫び声とともに再度槍車が敵兵にぶつかり、彼等の退路を完全に閉ざした。

 直ぐに長めの槍が突き出され、敵兵の突撃をけん制する。相手の槍衾は、投槍と石弓で放たれたボルトが削り始めた。それでも突撃して来る者達は2段目の分隊が長剣で確実にし止めていく。

 数人の弓兵が馬車の影から姿を現すと、引き絞る時間も与えずに火炎弾がまとめて炸裂した。

馬車に火が回って、たいそうな金属鎧を着た男が転がり出たが馬車の下に逃げ込んだぞ。あれで指揮官なのか?


 勢いというのは怖いものだ。俺達の戦力を何倍にも上げてくれる。

 それに引き換え、劣勢を意識した部隊は格段に弱くなる。

 段々と兵力を削がれて、武器を放り投げて南の森に遁走する連中が出て来るまでに、それ程時間は掛からなかったように思える。


「もう一息じゃ。ザイラスの部隊が見えてきたぞ!」

「「オオォォ!!」

 王女様が部隊を鼓舞する。鼓舞のタイミングが中々良くなってきた。

 そう思っているのは俺だけじゃ無さそうだ。マリアンさんやトーレルさんが微笑みながら見ていた。


 だが、その一瞬を逃さなかったものがいた。

 突然倒れた兵士の間から、長剣を振りかぶった男達が王女様目がけて走り込む。

 慌てて駆け寄り、腰の刀を抜き放ちながら一人を斬った。もう一人の男に返す刀で上段から振り下ろす……。そこまでは良かったのだが、身体強化を施された体だったから、その勢いを抑えきれずに街道を飛び出して崖下に転落してしまった。

 街道の方から、バカン! と良い音が聞こえてきた。3人目の男はマリアンさんに倒されたのだろう。


「お~い。生きてるか?」

「何とかです。でも足を挫いたらしく動けません!」

「しばらくじっとしてるんだぞ。もうすぐ、こっちも終わるからな」


 トーレルさんの呆れるような声に答えると、自分の状況を確かめる。足から着地したようだが、上手い具合に藪がクッション代わりになってくれたらしい。

 足がズキズキ痛むのはやはり藪の枝に足を挟んでしまったのだろう。運が良いのか悪いのか微妙なところだが、命に別状が無かったことには間違いない。

 これで、また一つ、変な噂が立ってしまいそうだ。


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